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どうやって着飾れと?

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“領地に引きこもって” “地味な女だし”


誰も領地のことに手を付けないからじゃない。
お金が無くて節約しなきゃならないからじゃない。
不満を募らす領民達の前にも出なきゃならないのに着飾れと?


“萎れた花”  “義理で抱いてやる”


愛し合っていると思っていたのは私だけ。


“キャサリン”  “屋敷で待たせてそのまま泊まらせて” “若くて可愛いって癒される” “欲しいネックレスをお強請り”


妻が貴方の子を妊娠して悪阻などで辛かった時も。


“エステルはいてもいなくてもいい存在”

“ケヴィンはエステルが嫌い” “寧ろ若くて綺麗な女が継母になってくれたら喜ぶ”


そっか。 私、要らなかったんだ。


執務室で仕事をしていた。

「奥様、大奥様がお呼びです」

「…要件は何かしら」

「お伺いしておりません」

「聞いて対処してくれるかしら」

「え?」

「私じゃなくたって構わないじゃない」

「ですが、」

「私は義母のメイドになったということかしら。
介護メイドの役割のこと以外は呼ばないでちょうだい」

「し、失礼いたしました」



翌日は私物の整理をしてたくさんの荷物を馬車に積んだ。

「お、奥様!?」

「チャリティーや資金化にね。行ってくるわ」

「お供は」

「要らないわ」


領内の大きな町に来て売れそうなものは売ってお金に変えて、他のものは寄付をした。
そして平民向けの少しいい服を置いている店へ入った。

3着程選び馬車に積む。

服を買うのは何年振りかしら。


次は銀行へやって来た。

「え?手放すのですか!?」

「はい。買い手がいますでしょうか」

「勿論でございます。どの店でしょう」

「全部ですわ」

「失礼ですが、」

「現金化して違うことを始めようと思いまして」

「なるほど」

「業務はマニュアル化してありますから逸脱せず、問題が起きた時も速やかに正しく対処するだけです。起こりがちな問題もマニュアルに載せています」

「それでは当行が買取をさせていただきます」

「あと、買取額と個人預金を全て王都の口座に移してくださるかしら。だけどこの小切手を落とす額だけは残しておいて欲しいの」

「あちらで事業をなさるのですね」

「ええ。もうひと勝負しようかと思いましたの」

「直ぐにお手続きいたします」


屋敷に戻ると執事が慌てて寄ってきた。

「大奥様がお呼びです」

「要件は?」

「私共にはお話にならなくて」

「分かったわ」


一階の一番いい部屋に住む義母は昨年義父が逝去すると さらに癇癪が激しくなった。

婚約前から私をいびり、私から息子を取り上げて他人に変えてしまった女。
今やベッドに寝ているか、機嫌のマシな日はソファに座る。

医師の診断は認知症。
まだ義母はそうなるには早いと思ったけど早めになる人もいるらしい。

悪い意味で執着は私に向けられた。
今までは対応してきた。まだ少し忘れやすい状態なので他の人たちには普通に話す。
だが、トイレの失敗が増えてきた。特に夜。


「エステル、足が冷えるの。揉んでちょうだい」

「嫌です。メイドに申し付けてください」

「は?」

「私はお義父様やお義母様 フィリップの尻拭いをしていて、雑用を聞いている時間は無いのです」

「なっ!」

「貴女がそうやっていられるのも私のおかげ。
感謝してください」

ギャーギャー喚いてるがもう知ったことではない。

「シモーヌ。木曜に王都の屋敷にお義母様をお連れするから旅支度をお願い」

「かしこまりました」


水曜の夕方に息子の部屋へ来た。

ノックをするとメイドが応対した。

「何のご用意でしょうか」

「息子に会いに来てはダメかしら」

「坊っちゃまは読書をなさって、」

「だから何」

「え?」

「子供が読書をしていたら母親であり子爵夫人の私は話しかけることは許されないと?」

「い、いえ。そういうわけでは」

息子はチラリと私を見たが目線を本に戻した。

「では、貴女に伝えるわね。
当面他の場所で暮らせるような荷造りをしなさい。
明日出発します」

「え!? 奥様!?」

「貴女が取り継がなかったのだから貴女が責任を持って用意してね」

それだけ言って立ち去った。

本に視線を戻した息子は驚いた顔をしていた。

義母に仕えるメイドにも荷造りを命じた。






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