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【ジーン】賭け
しおりを挟む【 ジーン第四王子の視点 】
トン トン トン トン
肘置きを爪で叩く音が響く。
「ち、父上…」
「常日頃、お前の軽率な振る舞いを嗜めてきたが、未だに成長せんとはな」
「……」
「他国の令嬢相手に?」
「っ!」
「わざわざ軍部の上層部が頼み込んで、なんとか引き受けてくれた令嬢に?」
「父上、」
「お前より歳下なのに?」
「それは…」
「病み上がり中の令嬢に?」
「知らなくて…」
「食事中に面識もないのに?」
「…すみません」
「幹部達が食事をする食堂で、負けたら裸で王都一周すると大声で宣言したのだな?」
「…はい」
「仕方ない。やるしかないだろう」
「父上!?」
「無かったことに出来るわけないじゃないか。お前が言い出したことなんだろう?ジーン」
「……」
「全身見られるのだから手入れはしておけよ。間違って勃ったら最悪だ。変態王子と呼ばれるからな。血が出るくらい絞ってからにしろよ」
「助けてください、父上」
「助けようが無いだろう。公にし過ぎたんだよ。
まあ、先方が賢かったようだな」
「っ!」
「会いたいな。セドリック、イオス副団長に断りを入れて連れて来てくれ。応接間にしよう。
高級茶葉で もてなしてやれ」
「かしこまりました」
すれ違いざまに第三王子セドリックが肩に手を置いて囁いた。
「心配するな。どうせ勃っていても気付かれないだろう?それよりまた漏らすなよ」
「セドリック!!」
セドリックは手をヒラヒラとさせながら出て行った。
俺とセドリックは生まれた時から比べられてきた。
セドリックは側妃から産まれ、俺は2週間後に正妃から産まれた。
何でもセドリックは器用にこなし、俺は頑張ってもダメなタイプだった。
学園は最悪だった。警備の都合上 4年間あいつと同じクラスだった。セドリックは何をしても優秀で学生からも教師からも人気だった。
城に戻れば戻ったで比べられて…俺だってこんな風になりたかったわけじゃない。俺だけの友人や恋人が欲しかった。セドリックになんか目もくれない俺だけの……。
父上と一緒に応接間で待つと小娘が来た。
セドリックも一緒だ。俺の失態を最後まで見届けるつもりなのだろう。
父「そなたがリシュー嬢か」
ユ「ユリナ・リシューが国王陛下にご挨拶を申し上げます」
父「座ってくれ」
ユ「失礼いたします」
父「せっかく仕事を引き受けてくれたというのに愚息が失礼をした」
ユ「はい」
父「……賭けの話だが、ちょっと大袈裟な勝負ではないか?」
ユ「全くそうは思いません」
父「王都を裸で一周だぞ?」
ユ「はい」
父「リシュー嬢に有利な賭けだったであろう」
ユ「仰る通りです」
父「なら、もっと違う内容にしても構わんだろう」
ユ「……ジーン第四王子殿下はどうお考えですか」
俺「……ずるいと思う」
ユ「では、全てを白紙に戻しましょう」
父「そうかそうか。リシュー嬢には迷惑をかけたな」
ユ「はい」
父「……そうだ、研いでもらいたいナイフがあるのだが、職場に届けさせればよいか」
ユ「アルバートさんにお伝えしておきます」
父「ん?そなたに頼んでいるのだが?」
ユ「白紙に戻しましたので、このお時間を終えれば直ぐに退城いたします。だとすれば、これから仕上げを行うのはアルバートさんです」
父「そなたの言う白紙に戻すというのは、仕事も白紙ということか」
ユ「はい」
父「何故だ」
ユ「非難を受けたからですわ」
父「非難などしていないではないか」
ユ「陛下は遠回しに私を卑怯だと仰いました。第四王子殿下は私を狡い小娘だと仰いました。
正直、私は自分に非があるとは思えません。
ですが国王陛下と第四王子殿下がそう仰るので、卑怯で狡い小娘の私は王城で仕事を請け負うことはできません」
父「リシュー嬢、少し賭けの内容を簡単なものにしてくれたらいいだけだ」
ユ「私が裸で一周しろと申したわけではございません」
父「そうだが、王子が裸で一周するわけにはいかんだろう」
ユ「第四王子殿下はご自身が出来ることだから口にしたのではありませんか?
もし私が負けていたら下女をさせたはずです。
裸で一周はその場限りですが、下女となると期限が分かりません。第四王子殿下の気の済むまで働かされる可能性もあります。下女の仕事は危険も伴います。何かの陰謀に巻き込まれたりすることもあるのです。うっかり毒殺犯にされたら極刑になります。
それに下女という理由で、こき使うつもりだったかもしれません。私の方が狡いと言いたいです」
父「譲らないのだな?」
ユ「賭けは無かったことにしたのですから、譲歩です」
父「なかなか頑固な娘だ」
ユ「私が全て悪かったのです。
ジーン第四王子殿下の言葉を信じたことも、城の者は皆いい人達ばかりだと仰ったイオス副団長を信じたことも、全て私の判断ミスです」
父「リシュー嬢、」
俺「父上、もういいです」
父「ジーン」
俺「悪かった。約束は守る」
ユ「本当ですか?」
俺「本当だ。その代わり、一緒に歩いて見届けろよ」
ユ「それは嫌ですね」
俺「仕方ないだろう」
ユ「う~ん…」
俺「俺の身体を一番近くで拝めるのだから有難いだろう?」
ユ「いえ、全く」
俺「何でだよ。俺の裸 見たことないだろう」
ユ「当然です」
俺「いつ歩く?もう少し筋肉付けとくか」
ユ「ふふっ」
俺「何だよ」
ユ「王都の女性方が殿下に夢中になりますね」
俺「バカ。変態扱いされるだけだ」
ユ「そんなことはありませんよ。若いお嬢さんは顔を手で覆いながら 指の隙間からしっかりと見るでしょうし、ご夫人は心の中で“眼福眼福”と唱えているはずですし、高齢の女性は若返ります」
俺「そうか、それは楽しみだ」
ユ「あ、その代わり痴話喧嘩が多く起こるかもしれません。“浮気だ!別れる!”“違うわ!確かに素敵だったけど、私にはあなたしかいないの!”とか、“お前、俺より王子の身体の方がいいのか!”“当たり前じゃない!”とか。
急に離婚率や破局率を上げてしまいそうですね。
試験問題にできそうですよ。“10年前に突如起きた離婚件数の増加の理由を答えなさい”“王都の女性達が 第四王子殿下の全裸に魅了されてしまったため 痴話喧嘩が多発したから”とか」
俺「なるほどな。今夜から鍛えなくてはな。
マッサージも受けよう。美容液とかいうものを全身に塗るか」
父「だとしたら、リシュー嬢の名前も出てくるな。
“ジーン第四王子を脱がせたのは誰か”“ユリナ・リシュー”」
ユ「……賭けの内容を変えましょうか」
俺「もう俺は脱ぐ気満々だからな」
ユ「いえ、まだ間に合います」
俺「宝石は着けてもいいのか?腰飾りを特注しよう」
ユ「ジーン殿下、お美しいのはわかりましたから」
俺「お前、俺の服を透かして見たのか」
ユ「出来るわけないじゃないですか」
俺「よし、先にお前に見せてやろう」
ユ「結構ですよ」
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