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【リリー】一目惚れ

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【 リリー・フォンヌの視点 】


姉のシルヴィアと私は美しく生まれた。
兄は父似、私達は母似。
教育は厳しかったが、大抵のものは何でも手に入れてきた。
高価な物や珍しい物も手に入ったし、人も従えさせることができた。

10歳の時に王子様や王女様との交流のため、王宮茶会に出席した。そこには私の王子様がいた。

『あっ』

うっかり階段から落ちそうになり、後ろにいた誰かが私の腕を掴んだ。

『そんなドレスにするからだ。子供には長過ぎる』

美しい男の子だった。

『あ、ありがとう』

確かに他の令嬢達より丈が長かった。
デザイナーももう少し短い丈にした方がいいと言っていたけど、譲らなかった。失敗だった。
庭園で行うお茶会は 朝から弱い雨が降ってしまい、急遽室内に変更された。
登るはずのない階段を考慮しなかった。


席に着いた後は、ただ1人を見つめていた。
別の席に座る彼を。

『リリー様?』

『え?』

『どこか具合でも悪いのですか?』

『いえ…実は先程、助けてくれた令息にお礼を言い忘れてしまったの。
今、王女殿下にご挨拶をしている令息よ』

『私も分かりません』

『彼はエンヴェル侯爵家の次男ロジェ様ですよ』

侯爵家…長男じゃないのね。


その後も話しかけても直ぐ邪魔が入って話が出来なかった。

『お母様、エンヴェル侯爵家との接点はありませんか』

『どうしたの?急に』

『お茶会でエンヴェル侯爵家の次男ロジェ様に助けていただいて、お礼も言えなかったのです』

『そうなの。招待してみる?』

『はいっ』


だけど、

『断られてしまったわ。お礼をしてもらうほどのことはしてないって』

『……』

『うちはエンヴェル家と繋がりはないの。何かの機会を待つしか無さそうね』

『どうしてですか? 何故断れるのです』

『エンヴェル侯爵家も力を持つ家門なのよ』

納得がいかない。公爵家の方が偉いに決まっているじゃない!


どのお茶会に参加してもロジェ様に会うことは叶わず、唯一私が行かなかったアベルツ公爵家の茶会に現れたと伝え聞いた。

『お母様、何故 フォンヌ家の子はアベルツ公爵家の催しに出席してはならないのですか!』

母は話辛そうに話してくれた。

『私は元々、今のアベルツ公爵の婚約者だったの。だけど貴女のお父様であるサミュエル様と恋に落ちてしまって。
挙式まで数日というときに どうしても心を偽ることができず、屋敷を抜け出して彼の元へ飛び込んだの。
結果的に不貞の罪で破棄になって、サミュエル様の妻となり、莫大な慰謝料を支払わなくてはならなくなった実家とは縁を切られてしまったわ。
だから参加できないというよりは、招待状自体が届かないのよ』

王宮のお茶会でも一番離れた席だったわ。

『エンヴェル侯爵家とはお近付きになれないのですか?』

『うちが出しても断られるし、そもそも侯爵令息が出席することが稀なの。エンヴェル家主催でも誕生日の祝いくらいしか顔を出さないし、それにはフォンヌ家は呼ばれないもの』

『どうして呼ばれないのですか』

『私とサミュエル様のことをよく思わない貴族が多いからよ。私達には恋愛だったけど、他の人にとっては 長く婚約していた人を式間際に裏切った最悪の女だからよ』

知らなかった。
だけど私と交流すればロジェ様は私に恋してくれるはず。だって私は美しいもの。

『お母様、ロジェ様と婚約したいです』

『どうかしら。彼は次男よ?』

『私、ロジェ様じゃないと嫌なのです!』

『お父様が許可なさったらね』


そして1ヶ月後

『お父様、お話って何ですか』

『リリー。この釣書の中から未来の夫を選びなさい』

全員分の釣書を見たけどロジェ様がいなかった。

『ロジェ・エンヴェル様がおりません』

『エンヴェル家からは断りの返事が届いた。諦めなさい』

『嫌!絶対に嫌です!』

私はずっと拒み続けた。

王宮主催のお茶会の時にだけ彼と会えた。私のことを見て欲しくて側に寄っても眉一つ動かさず、話しかけても会話にならず。だけどそれはどの令嬢に対しても同じだった。

令息達と会話をしているときの笑顔を見たら、いつかそれが私に向けられるだろうと信じて疑わなかった。

学園に入ると神が味方をしているのが分かった。
同じクラスだったのだ。
だけど多くのきっかけを作り話しかけても、最小限の返事しかしてもらえない。このままでは2年生のクラス替えで別れてしまう。

『あの、誕生日パーティーに来て欲しいの』

招待状を彼に渡した。

『学園に持って来ないでくれ』

そう言って受け取ってくれない。

『でも、侯爵を通すと断られるし』

『はぁ。断りの指示を出しているのは俺だ。
ずっと続く誘いも縁談も。
皆の前で恥をかかせたくないから学園ここに持って来るなと言ったんだ。
いい加減に理解してくれないか。他の令息に目を向けてくれ』

『っ!!』

クラスの生徒達の前でフラれた。
この美しい私が…公爵令嬢の私が。


その後は話しかけることも出来ず、進級するとクラスが離れてしまった。

だけど少しして噂を耳にした。

“エンヴェル家のご令息を射止めた方がいらっしゃるわ”

は!?

“それがね、平凡な子爵令嬢ですのよ”

……

彼のクラスを覗きに行くと、隣の席の令嬢と仲良く話していた。
1年生のとき 昼食はいつも学生食堂で食べていたが、2年生になったロジェ様は彼らと裏庭で食べていた。

ロジェ様が令嬢の食べている料理を摘み食べると令嬢が怒り出し、代わりに自分の料理を摘んで食べさせた。とても近いし、ロジェ様が何かと彼女に触れている。
相手の女は容姿も平凡。何故そんな女に構うの!?
しかも楽しそうに声を上げて笑ったり、令嬢を見つめて微笑んでいた。

ユリナ・リシュー。領地を持たない子爵家の令嬢。
一体何故 無価値の令嬢に心を許すの!?

次第に令嬢がエンヴェル家の茶会やパーティに招待されていることや、ロジェ様が出席する催しにリシュー嬢をパートナーにして参加していることが耳に入るようになった。

『昨日のアベルツ公爵家のパーティで見ちゃったの』

『何を?』

『エンヴェル侯爵令息がリシュー子爵令嬢をパートナーにしてエスコートしていたのだけど、お揃いの衣装で、令息の瞳の色を纏わせていたのよ。宝石も令息の瞳の色だったわ。
ダンスも義務という感じではなくて、特にエンヴェル侯爵令息の方が令嬢を側に寄せて終始微笑んでいるの。
他の令息が彼女に話しかけると睨んでいるし、他の令嬢が話しかけようにも侯爵令息が冷たく遇らうし。とにかくピッタリと寄せて、もう熱々の2人って感じだったわ』

『リシュー子爵令嬢?よく分からないわ』

『そうよね。パッとしない子だもの』

『ああ、婚姻までの愛人ってところじゃないの?』

『別れやすい子を選んで付き合ってるってこと?』

『だとしたら納得よね』

『確かに』

暴れたいほど頭に血がのぼったけど、遊び相手か…。嫌だけど大目に見ないと駄目よね。歳頃だもの。


3年生ではロジェ様とリシュー嬢は別のクラスになり少しホッとした。
ロジェ様とリシュー嬢の噂は皆が慣れ過ぎて耳にしなくなった。
卒業パーティにはロジェ様と出たかったのに、彼から断られた。そろそろ捨てられていいはずのリシュー嬢をパートナーにしていた。
揃いの高価な衣装と、新しいカットを施した宝石を身に付けてキラキラと輝いていた。




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