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恋に落ちた王太子

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【 王太子リオナードの視点 】

叔父上が不在の隙に 母上も交えてクリステルと交流し 少しずつ距離を縮めてきた。
いつも遠慮がちで大人しいクリステルもゲームとなると気を許していた。

私と母上はものすごくチェスが強い。私が幼い頃から母上に鍛えられてきた。それを知らずにクリステルはいつも勝つ気で挑む。確かに彼女は強い方だ。

『手加減してあげないの?勝たせてあげたら?』

母上は、クリステルの機嫌を損ねるのではないかと心配して私に言うが、いつも通り、最初のうちは押したり押されたりを繰り返して時間をかける。じゃないとクリステルが紅鷲の宮に戻ってしまう。

『負けまいと真剣な顔や 負けたときの顔が可愛いんですよ。勝たせろと文句を言うあの唇はなんとも言えないですし、瞳がキラキラと輝いて私だけを見つめてくれる、あの瞬間はあの子を独り占めにできた気がするのです』

『リオナードったら』

女の子の成長は早い。どんどん大人の体付きになっていく。裏の別棟に女達を囲っている叔父上の興味がクリステルに向く日が来る気がしていた。

クリステルは妖艶という言葉は似合わない。清らかさの中に時々見せる女の部分が私の雄を刺激するのだ。
ふわりと揺れる柔らかい髪、睫毛の動き、舐めたら溶けるのではと思えるような耳朶、つまみたくなる小さな鼻、手で包みたくなる薄桃色に染まる頬、チェリーのような唇、菓子を食べるときに開いた口から見える小さな舌、手を乗せるとよくわかる細くて小さな肩、彼女が立ち上がり目の前に細い腰が通り過ぎるとき、胸の膨らみが少しずつ育っているのを視覚で捉えるとき。
もう全てが刺激物だと言いたくなるほどに。

最近はクリステルに欲情しながらエリーズを使う。
鈍感なエリーズは激しく求めてもらえたと勘違いをして甘えてくる。冗談じゃない。

昂りを鎮めるとさっさと部屋を出るが、翌朝に気持ち悪い視線を送って来て食欲が失せる。

他の女に手を出すことも考えたが、クリステルの耳に入ったらと思うと妻であるエリーズを使うしかない。

母上や私から何度叱責されてもクリステルに敵意を向けるエリーズに我慢ができなくて先日ははっきり指摘した。

『いつになったら孕むんだ?見苦しい嫉妬など分不相応だろう。我々は政略結婚なのだから君は子を産むことをもっと真剣に考えろ。王子を産めない王太子妃など要らない。せめて公務で貢献していたら産めなくても王太子妃としての威厳を守ってやったが、どちらも駄目では離縁も考えなければならない。他人を気にしているとは余裕だな。妊娠の兆候でもあるのか?』

エリーズは青褪めて大人しくなった。

わざと医師に診せて妊娠していないと診断させた後に、クリステルの成人パーティで彼女をエスコートするから 出席したいのなら父親のデリー公爵にでもエスコートを頼めと告げた。


叔父上はまだ帰っていない。
目の前で身支度をするクリステルを眺めることができて胸がいっぱいだ。可愛さと美しさをあわせ持つ開き出した蕾を奪いたい。

『念のために準備をしてくれないか』

『何をでしょう』

『初夜の必需品だ』

『殿下!?』

侍従は廊下に呼び出されて、ヒソヒソと話し出す私に驚いた。

『無理にはしない』

『王弟殿下の正妃ですよ!?』

『分かっている。だが、今は姫を預かっている状態だ。成人した今日からクリステルの意志も反映される。チャンスなんだ。無理強いはしない。
痛みを感じないように秘薬を分けてもらってくれ』

『…かしこまりました』

部屋に戻り、クリステルの髪結に興奮する。
今夜、クリステルを口説こう。
クリステルを王太子妃に据えて君だけを可愛がると誓おう。

なのに、エリーズがまたクリステルに絡んだ。クリステルの成人を祝う公の場で。

クリステルが私に…ましてやお前の父親に!?

沸々というよりボコボコと煮えたぎる怒りに我を忘れそうになる。だが大勢の貴族達が集まっているのだから何とか抑えなければ。それにクリステルに怯えられたくない。

拳を握りしめてエリーズに言った。

『エリーズ、だからお前を表に出したくないのだ』

このやり取りで公爵は確実にエリーズのことを理解したのだろう。エリーズを引っ張って行った。


挨拶も終わり、やっとクリステルとファーストダンスを踊れると思ったのに、

『クリステル!』

叔父上の声に悔しさが込み上げる。

あと1分…いや十数秒でも叔父上が後に来たら…違う、そうじゃない。エリーズのせいだ。あいつの余計な言葉が時間を奪っていた。数分…あいつが。

殺してやりたいと思った。

叔父上と踊るクリステルは様々な表情を見せていた。驚き 喜び そして硬い表情。一体何を話しているのか。

どうしてプリュムの国王は婚姻相手に私を選んでくれなかったのだろう。
何が叔父上に劣るというのだ。
強さか?
会ってはいないのだから容姿ではない。年齢的には私の方が相応しいはずなのに。


叔父上とのダンスを終えるや否や 半ば強引ともいえそうな勢いでクリステルの手を掴んだ。

『エスコートはダンスもセットだからね』

『はい』

クリステルを引き寄せて優しくリードする。
二度と踊りたくないなどと思わせてはならない。
今までの中で一番緊張し、一番喜びのあるダンスとなった。これがファーストダンスだったら…。

軽い。こんなに軽かったらずっと膝の上に乗せても苦じゃない。それに…いろいろな体位を試せるだろう。持ち上げて立ったまま突き上げてもいい。
その宝石のようにキラキラと輝く瞳が 薄明かりの情交にどう変化するのか。誰も受け入れたことのない身体が私を受け入れるときのクリステルを、目に焼き付け陽茎で感じ取りたい。

『クリステル、聞きたいことがある』

『何でしょうか』

『婚姻相手に叔父上を選んだ理由が知りたい』

『正直に?』

『怒らないから教えて欲しい』

『国王陛下とは歳が離れ過ぎております。側妃が2人もいらっしゃるのにもう一人増やす必要はありません。
王太子殿下は前年に王太子妃殿下と婚姻なさったばかりでした。余計な揉め事に発展すると思ったのです。いくら子供とはいえ新婚夫婦のところへはちょっと…それにもし私が成人して閨事に進んだ場合、正妃の子供との継承争いに巻き込まれます。
その点 将軍は独身で複数の愛人を囲っていて 白い結婚を維持できそうだなと思いました』

……そうか。

エリーズの存在が 選ばれなかった要因なのだな。

『不安だっただろう。申し訳ない』

『将軍が何年もかけてプリュムのために尽力してくださっているようで、将軍との関係を私に一存すると書かれた父からの手紙を受け取りました。将軍は父や兄の心を掴んだようです。あれほど怒っていらしたのに…。
今度 将軍がプリュムへ連れて行ってくださると約束してくださいましたの。とても楽しみですわ』

『もしも私が独身だったら 私を選んでくれたのだろうか』

『年齢的に婚姻していなくても婚約者はいらしたはずです。だとしたらやはり将軍を指名したと思います』

『婚約者もいなかったら?』

『私がリオナード王太子殿下の正妃ということですか?』

『そう。私の正妃だ』

『次期国王となる方の正妃は覚悟が必要です。14歳のときの私は避けたと思います。
ですがリオナード様を知ってからなら頑張ってみようと思ったはずです』

『クリステル…』

『失礼でしたね』

『そんなことない。嬉しいよ』

クリステルは次期王妃の座とか そんなことではなく、交流してきた数年間で私個人を評価して選んでくれると言ってくれた。

胸が締め付けられる。

私は間違いなくクリステルに恋に落ちたのだ。



その夜は 初めてエリーズの頬を打った。
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