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父からの手紙

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成人1ヶ月前、プリュム王国のお父様から手紙と包みが送られて来た。中身は真珠でできた可愛らしい妃用のティアラだった。

“愛するクリステル

成人おめでとう。

この目で見届けられないことは残念だが、元気にしていると聞いて安心した。
こちらは皆元気だ。

イザーク将軍が我が国の境からサボデュール王国に向かって統治してくれている。こんなに何年もかけて徹底するのはクリステルのためだろう。
クリステルの家族を奪われないように、クリステルの故郷を血で染めさせないように、クリステルが自身と引き換えにして守ろうとしたプリュムの民が困らないように、クリステルが報われるように。

時々将軍が城に報告に来てくれるが、クリステルとどう接したら良いのかと聞き回ったり、好きな食べ物や病歴、産まれた時から14歳のあの日まで全部聞き出そうとしている。

あんな別れ方だったが、こちらではイザーク将軍の寵愛を受けていると噂になっている。

だからクリステルが望むなら本当の夫婦になっても構わないのだぞ。

すれ違いがあるのならば、向き合って手を握り、後悔しない言葉で気持ちを伝えなさい。

落ち着いたら会おう。

愛しているよ。

父 ガルム” 



……。


その日から考え込んでいる。

「クリステル様!具合が悪いのですか!?」

カリマが熱をはかり、

「まさか、私の刺繍では不安なのですね」

サラが涙を浮かべ、

「私のパンは飽きましたか?」

エマが青褪める。

仕方なく悩みを吐き出すことにした。

「実はね…」


サ「将軍はカッコいい方ですし、いいと思います」

エ「でも 本物の夫婦になっても別棟の存在を許容できますか?」

カ「私は王太子殿下がいいと思います」

サ「ええ~ 正妃はあの王太子妃ですよ?虐め倒されますよ」

カ「だって、イザーク将軍はあんな感じで複数の女を囲うし、怒鳴ったこともあるのよ。
それに比べて王太子殿下のお優しいこと。あの目を見れば分かるわよ。絶対にクリステル様に心を奪われているわ。サラも見ればそう思うわよ。

クリステル様、王太子殿下の側妃になっても 王太子妃から守ってくださいますわ」

サ「カリマ様、そうなると私達3人はこの離れから立ち退かなくてはなりませんよ?こうしてクリステル様のお側にいてお話したり触れたりできなくなりますよ?」

カ「あ…」

エ「クリステル様は将軍と王太子殿下のことをどう思われますか?」

私「王太子殿下は優しいお兄様という感じかしら。
私は一応人妻だし、変な目で見たことはないの。
イザーク将軍は…よく分からない方だなと思っているわ。不自由はしていないけどそれだけって感じだし、子供だからかもしれないけど、せいぜい一緒に夕食を食べるくらいじゃない?
時々抱き枕にされるけど」

「「「はい??」」」

私「たまに、別棟で過ごした後、夜遅くに私のベッドに忍び込んで寝ているの。抱き枕みたいにされているわ」

カ「それだけですか?」

私「そうよ」

サ「先触れとか何も無く 忍び込んで?」

私「そうよ」

エ「将軍が抱き締めて?」

私「そうなの。全く身動きが取れないのよ」

「「「………」」」

3人はヒソヒソと内緒話を始めると、真剣な顔で私の前に座り込んだ。

エ「クリステル様、将軍が初夜を望んだら応じますか?」

私「契約があるのよ?」

エ「ガルム国王陛下がお許しになったと見た方がいいです」

サ「閨教育は受けていらっしゃいますか?」

私「一応プリュムで受けたわ」

サ「大丈夫でしょうか…不安です。赤ちゃんは天から光が差し込んで神様が置いていってくれる、というのは幼子向けのお伽話ですからね?」

私「分かってるわ」

カ「私、男に生まれていたら求婚しましたのに…大事に優しくしますわ」

サ「私も男に生まれていたら尽くします」

エ「私はマッサージもしますわ」

私「ふふっ ありがとう。成人したら4人でお買い物に行きましょう? 私 ここに連れて来られる時に素通りしただけだから案内して欲しいわ」

「「「もちろんですわ!」」」


結局 何の解決もしないまま、成人を迎えることになる。




当日。支度はロザリーナ王妃の部屋で行うことになった。

「だって、私達が紅鷲の宮に入れないから来てもらうしかないもの」

しかも自称私の愛人達も一緒に支度を口で手伝っている。誉め殺し親衛隊と命名したい。

「はわわわわっ なんて美しい。お体のラインを引き立てるデザインに素敵な刺繍、素敵ですわ」

「滅多にお目にかかれないフルアップ。クラクラします~」

「危険なうなじとお背中ですわ。招待された令息方が鼻血を出してしまうのではないでしょうか。変な害虫がクリステル様に近寄ると思うと心配で、やはり離れに戻って私達とお祝いしませんか」

「大丈夫だよ。私が側にいるから」

着替えは隣の身支度部屋だったけど、髪結と化粧は皆の前で進められていた。リオナード王太子も溶け込んで自然に会話に加わっている。

普通はレディの身支度は見ないものでは?

「リオナード様は王太子妃殿下がいらっしゃるではありませんか」

「エリーズはデリー公爵にエスコートしてもらうよ」

「そんな」

「いいのよ クリステル。 あの愚か者は未だに再教育が終わっていないから本来なら出席できないの。だけど煩いから“デリー公爵のエスコートで参加するなら許可するわ”と言ったら、本当にそうするらしいわ」

「公爵夫人はどうなさるのですか?」

「脚を傷めていて出席できないのよ」

「……」

「私じゃ 嫌か?」

悲しそうなリオナード王太子の声に間髪入れずに答えた。

「違います。いくらなんでも王太子妃殿下を差し置いてリオナード様にエスコートしていただくなんて申し訳ないのです」

「私がしたくてするんだ」

「そうよ。家族じゃないの」

家族…
 
「よろしくお願いします」

「良かった!」

「クリステル、私からのお祝いよ。19歳おめでとう」

王妃が私に渡したのは、仕込み扇子だった。太い針が出て武器になる怖い物だ。

「ありがとうございます。いつもしていただいてばかりで、どうお返しすべきなのか…」

「子供だったのだから そんなことは気にしなくていいの」

「私からのお祝いだよ」

「リオナード様?」

手の上に置かれたのはリボンのついた鍵だった。

「それはクリステル専用の馬車のドアの鍵だよ。今頃届いているはずだ。もう出かけられるんだろう?」

「はい。ありがとうございます。感謝いたします」

「本当に可愛いな。今日は私から離れてはいけないよ」

「はい」

王太子は私の手の甲に唇を付けた。














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