8 / 19
2年1ヶ月ぶりの一時帰還
しおりを挟む
【 イザークの視点 】
サボデュール王国はうちに次ぐ領土があり、統治に苦労していた。特に俺はプリュム王国の警備に尽力した。プリュムには移住希望者も多くいるために選別に時間がかかる。それでも通したサボデュール民の一部がプリュム王国の町で騒ぎを起こしたり事件を起こす。
だから独断でサボデュール民の立ち入りを禁じ、商人は荷物や装備を確認し、武器になるものは没収し、いくつか一纏めにして見張りとして兵士を付き添わせた。商人には指示に従わなかったり失踪者が出れば全員躊躇いなく殺すと告げておいた。
こちらやプリュム兵の安全が最優先だ。少人数の兵士しか付けられないのだから、様子見などする余裕はない。
そんな中の2年1ヶ月ぶりの一時帰還だった。
また戻らねばならない。
陛下と宰相に報告を上げ、軍部に情報を共有させてやっと紅鷲の宮に帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「疲れた。湯浴みをして食事をしたい」
「かしこまりました」
汚れを落として食事をした後、紅鷲の宮の報告を聞いた。
「で、別棟の女達は?」
「エマ様は待機なさっています。カリマ様はお辞めになりました」
「妻の座を狙っていた女か。新しいのを用意してくれ。また任務に戻らねばならないから、臨時採用で構わない」
「かしこまりました」
「離れのポールを呼んで報告をさせてくれ」
「直ぐお呼びします」
現れたポールは目が泳いでいた。
「お帰りなさいませ、イザーク殿下」
「問題があるのだな?」
「見方によります」
「不在中の事を教えてくれ」
ポールは目を逸らしながら淡々と説明を続けた。
カリマが騒いだのをきっかけに、クリステルがカリマを住まわせて、一緒に俺の敷地を出て兵士達の手当ての手伝いをしていると。
夕方、戻って来たクリステルとカリマをつかまえさせて連れて来させた。
クリステルは随分と成長していて幼さが少しずつ変化していた。体付きも大分女らしくなった。
カリマは初めて入った紅鷲の宮の応接間を見渡していた。
「クリステル。約束を破ったな」
「破っていません」
「女達のいる別棟の敷地に入ってはいけないと言っただろう」
「入っていません」
「だってカリマを、」
「イザーク殿下、クリステル様は一歩も入っておりません。柵越しに話しました」
「……散歩は紅鷲の宮だけにしろと言ったはずだ」
「そうですね」
「西の病棟に外出してるだろう」
「散歩は紅鷲の宮の敷地内です。西側には仕事をしに行っています。怪我人の処置は花見とは違います。それに城壁内の移動は“外出”とは呼びません。皆様、外出届を出しているのですか?」
「っ!」
「長期不在時についてカリマ達に事前説明をなさらないから妻である私が対応しました。感謝されることはあっても責め立てられる覚えはありません」
「離れへの来客は許可がいると言ったぞ」
「カリマは私が使用人として雇いました。お客様ではありません」
ガシャン!
ついカッとなってティーカップを払い床に落としてしまった。
カリマは怯えた顔をしたがクリステルは無表情だった。
「帰還したばかりでお疲れのようですね。
落ち着いたらお呼びください。
私達は失礼します」
「カリマは別棟に戻れ」
「将軍。カリマは愛人を辞めました。
もう私が雇っている医療助手です。
それにカリマは婚約しました。これからはカリマ嬢と呼んでください」
「は!?」
「失礼します」
クリステルはカリマの手を引いて出て行ってしまった。
何が起きているんだ!?
「レイを呼び止めて連れて来てくれ」
クリステルの専属護衛騎士レイを呼び止めさせて事情を聞いた。
「報告の前に殿下に確認させてください。イザーク殿下はクリステル様のことをどうなさるおつもりですか」
「どうって、陛下の命令だぞ」
「例えば心を通わせて、成人したら改めて求婚するおつもりは」
「無いな」
言葉足らずだった…
「では、このまま放っておくのですね?」
「不自由させてないだろう」
婚姻したときの契約の話をすればよかった…
「かしこまりました。大して先程の話とは違う部分はございません。カリマ様が別棟どころか紅鷲の宮を出て、イザーク殿下がいつ帰るのか聞いて回ろうとしていたのです。柵の出入口でメイドが止めているところに、庭を散歩していたクリステル様が鉢合わせしてしまいました。
主人が不在のため、妻であるクリステル様が対応なさったのです。
事情を聞いたクリステル様は、別棟の部屋で閉じ込められるように殿下を待つのではなく、過去に裏切ったり見下した者達のことを引き摺るのではなく、本当の幸せをみつけろと言って、医療助手の仕事を教えたのです。
カリマ様は見事に仕事を覚えて信頼を勝ち取り、そんな姿を見た1人の騎士が彼女に求婚しました。
もちろん紅鷲の宮から出る前に国王陛下に承認をいただいてから行動なさいました。つまりイザーク殿下では止めることは叶いません」
疲れていて、夜伽の女がクリステルと親しくなっていて、彼女が俺の腕の中にいないのが腹立たしくて…
「陛下が許可した事を俺がどうこう言えないということか……どうせまた向こうに戻らねばならない。好きにするといい」
「仰せのままに」
クリステルの専属護衛騎士レイが冷たい目をしていたことも気付かず…。
何事もなかったかのように夕食の席に現れるクリステルにどこか安堵し…
裏の別棟でエマを抱いて不要な感情を吐き出し、湯浴みで洗い流し…
深夜にクリステルのベッドで彼女を抱きしめても抵抗しないことに安心してしまった。
そして直ぐに女が2人、臨時採用されて別棟に迎え入れられた。
また不在にするまでの1ヶ月弱で十分に使った後、出発翌日の日付けで臨時契約の満了をさせた。
サボデュール王国はうちに次ぐ領土があり、統治に苦労していた。特に俺はプリュム王国の警備に尽力した。プリュムには移住希望者も多くいるために選別に時間がかかる。それでも通したサボデュール民の一部がプリュム王国の町で騒ぎを起こしたり事件を起こす。
だから独断でサボデュール民の立ち入りを禁じ、商人は荷物や装備を確認し、武器になるものは没収し、いくつか一纏めにして見張りとして兵士を付き添わせた。商人には指示に従わなかったり失踪者が出れば全員躊躇いなく殺すと告げておいた。
こちらやプリュム兵の安全が最優先だ。少人数の兵士しか付けられないのだから、様子見などする余裕はない。
そんな中の2年1ヶ月ぶりの一時帰還だった。
また戻らねばならない。
陛下と宰相に報告を上げ、軍部に情報を共有させてやっと紅鷲の宮に帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「疲れた。湯浴みをして食事をしたい」
「かしこまりました」
汚れを落として食事をした後、紅鷲の宮の報告を聞いた。
「で、別棟の女達は?」
「エマ様は待機なさっています。カリマ様はお辞めになりました」
「妻の座を狙っていた女か。新しいのを用意してくれ。また任務に戻らねばならないから、臨時採用で構わない」
「かしこまりました」
「離れのポールを呼んで報告をさせてくれ」
「直ぐお呼びします」
現れたポールは目が泳いでいた。
「お帰りなさいませ、イザーク殿下」
「問題があるのだな?」
「見方によります」
「不在中の事を教えてくれ」
ポールは目を逸らしながら淡々と説明を続けた。
カリマが騒いだのをきっかけに、クリステルがカリマを住まわせて、一緒に俺の敷地を出て兵士達の手当ての手伝いをしていると。
夕方、戻って来たクリステルとカリマをつかまえさせて連れて来させた。
クリステルは随分と成長していて幼さが少しずつ変化していた。体付きも大分女らしくなった。
カリマは初めて入った紅鷲の宮の応接間を見渡していた。
「クリステル。約束を破ったな」
「破っていません」
「女達のいる別棟の敷地に入ってはいけないと言っただろう」
「入っていません」
「だってカリマを、」
「イザーク殿下、クリステル様は一歩も入っておりません。柵越しに話しました」
「……散歩は紅鷲の宮だけにしろと言ったはずだ」
「そうですね」
「西の病棟に外出してるだろう」
「散歩は紅鷲の宮の敷地内です。西側には仕事をしに行っています。怪我人の処置は花見とは違います。それに城壁内の移動は“外出”とは呼びません。皆様、外出届を出しているのですか?」
「っ!」
「長期不在時についてカリマ達に事前説明をなさらないから妻である私が対応しました。感謝されることはあっても責め立てられる覚えはありません」
「離れへの来客は許可がいると言ったぞ」
「カリマは私が使用人として雇いました。お客様ではありません」
ガシャン!
ついカッとなってティーカップを払い床に落としてしまった。
カリマは怯えた顔をしたがクリステルは無表情だった。
「帰還したばかりでお疲れのようですね。
落ち着いたらお呼びください。
私達は失礼します」
「カリマは別棟に戻れ」
「将軍。カリマは愛人を辞めました。
もう私が雇っている医療助手です。
それにカリマは婚約しました。これからはカリマ嬢と呼んでください」
「は!?」
「失礼します」
クリステルはカリマの手を引いて出て行ってしまった。
何が起きているんだ!?
「レイを呼び止めて連れて来てくれ」
クリステルの専属護衛騎士レイを呼び止めさせて事情を聞いた。
「報告の前に殿下に確認させてください。イザーク殿下はクリステル様のことをどうなさるおつもりですか」
「どうって、陛下の命令だぞ」
「例えば心を通わせて、成人したら改めて求婚するおつもりは」
「無いな」
言葉足らずだった…
「では、このまま放っておくのですね?」
「不自由させてないだろう」
婚姻したときの契約の話をすればよかった…
「かしこまりました。大して先程の話とは違う部分はございません。カリマ様が別棟どころか紅鷲の宮を出て、イザーク殿下がいつ帰るのか聞いて回ろうとしていたのです。柵の出入口でメイドが止めているところに、庭を散歩していたクリステル様が鉢合わせしてしまいました。
主人が不在のため、妻であるクリステル様が対応なさったのです。
事情を聞いたクリステル様は、別棟の部屋で閉じ込められるように殿下を待つのではなく、過去に裏切ったり見下した者達のことを引き摺るのではなく、本当の幸せをみつけろと言って、医療助手の仕事を教えたのです。
カリマ様は見事に仕事を覚えて信頼を勝ち取り、そんな姿を見た1人の騎士が彼女に求婚しました。
もちろん紅鷲の宮から出る前に国王陛下に承認をいただいてから行動なさいました。つまりイザーク殿下では止めることは叶いません」
疲れていて、夜伽の女がクリステルと親しくなっていて、彼女が俺の腕の中にいないのが腹立たしくて…
「陛下が許可した事を俺がどうこう言えないということか……どうせまた向こうに戻らねばならない。好きにするといい」
「仰せのままに」
クリステルの専属護衛騎士レイが冷たい目をしていたことも気付かず…。
何事もなかったかのように夕食の席に現れるクリステルにどこか安堵し…
裏の別棟でエマを抱いて不要な感情を吐き出し、湯浴みで洗い流し…
深夜にクリステルのベッドで彼女を抱きしめても抵抗しないことに安心してしまった。
そして直ぐに女が2人、臨時採用されて別棟に迎え入れられた。
また不在にするまでの1ヶ月弱で十分に使った後、出発翌日の日付けで臨時契約の満了をさせた。
1,220
お気に入りに追加
1,477
あなたにおすすめの小説
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?
青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」
婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。
私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。
けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・
※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。
※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
(完)妹が全てを奪う時、私は声を失った。
青空一夏
恋愛
継母は私(エイヴリー・オマリ伯爵令嬢)から母親を奪い(私の実の母は父と継母の浮気を苦にして病気になり亡くなった)
妹は私から父親の愛を奪い、婚約者も奪った。
そればかりか、妹は私が描いた絵さえも自分が描いたと言い張った。
その絵は国王陛下に評価され、賞をいただいたものだった。
私は嘘つきよばわりされ、ショックのあまり声を失った。
誰か助けて・・・・・・そこへ私の初恋の人が現れて・・・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる