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訳ありの王弟

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【 イザークの視点 】


客室に案内され、装備を解き 椅子に座った。

「お食事の準備をいたします」

「頼む」

食事が運ばれ毒味後に食べた。

そして湯浴みを済ませてベッドに横になった。


14歳か…参ったな。

我がグリフ王国 アーサー王の代理でプリュム王国へ謝罪と今後の話し合いに来た。
姫を輿入れさせろと言われていた。確か19歳の未婚の姫がいると聞いていたのに14歳だという。
資料の生まれ年の下一桁の3が、本当は8だったということだろう。

グリフ王国は成人は17歳だが貴族以上の婚姻は0歳から可能だ。ただし17歳以上に達した女でないと初夜は迎えられない。
プリュム王国の成人は19歳。平民も貴族も19歳にならないと婚姻できない。

アーサー王に嫁ぐには歳が離れているので 王太子リオナードの側妃に収まるのが一番良いだろう。歳も近いし、リオナードは王妃似で美男子だしな。



翌朝、ガルム王に呼ばれ案内について行くと、王の他に王妃もいた。少し目が赤い。まだ子供の姫を他国へ出さなくてはならない悲しみから泣いていたのだろう。

「イザーク将軍。こちらの婚姻契約書に署名をして欲しい。この条件ならば応じよう」

渡された婚姻契約書にはクリステルと書いてあり、夫の名前は“”と書いてあった。

は? 俺?

昨日の話を聞いていなかったのか?
先王のお手付きで生まれた疎ましい存在で、妻を娶らずに愛してもいない女達を囲い、夜伽の相手をさせている男だぞ!?

“イザークの正妻とする
身体的な関係を持たない
学園卒業相当の知識をつけさせる
心身ともに健康にすごさせる
心身への暴力を禁ずる
予算を与え不自由をさせない
離縁可能な日が来たら速やかにプリュムへ返す”

なるほど…白い結婚を狙ったのか。

「リオナード王太子の側妃の方が良いのでは? 
俺はお手付きの子だし、女も囲っているのだが?」

「王太子では初夜は必ず迎えることになるし、男児が産まれてしまえば正妃と、もしくは異母兄弟で争うことになるかもしれない。危険が伴うはずだ。
イザーク将軍が責任を持ってクリステルを守って欲しい」

「しかし、」

「クリステルは承諾したが?」

「……失礼した。署名しよう」

14歳の少女に決断させたら、俺は腹を括らねばならない。

署名をすると、国王は合図を送った。

ドアが開くとドレスを着た少女が入室した。

「お初にお目にかかります。グリフ王国の紅き鷲 イザーク将軍にクリステルがご挨拶を申し上げます」

小さいな…14歳の少女はこんなに小さかったか?

「イザークだ。姫の夫となった。顔を上げてくれ」

顔を上げた姫の容姿に驚いた。
艶やかな栗色の髪はフワリと揺れ、手付かずの美しい泉のような瞳は光が当たらなくとも宝石のようにキラキラと輝く。虹彩は外側は青、内側に向かって水色をしている。

ああ、目を伏せないでくれ。長い睫毛が瞳を隠してしまう。

少女の前に立ち 跪き、手の甲に唇を付けた。

柔らかくて小さな手だ。こんなに可愛い爪が付いてるものなのか。

白い肌から仄かに香る甘い匂いが鼻腔を捉え思考が薄れる。

「将軍?」

急いで立ち上がり、姫を椅子に座らせた。

「姫には好きな男はいなかったのだろうか」

「おりません」

「成長していつか恋に落ちるのだと思っていましたわ。長女は政略結婚でしたが、クリステルは恋愛結婚でもいいと思っておりましたの」

「……今から我々だけで式をあげないか」

「式ですか?」

「両親の前で花嫁にしたい。白いドレスはないだろうか」


3時間後、城内の祭壇の前で夫婦の誓いを立てた。
王妃と第三王女は泣いていて、王太子は険しい顔をしていた。

身を屈め 誓いの口付けをした。
小さな唇はゼリーのように柔らかかった。

「お気遣いいただきありがとうございます」

式を挙げたことに礼を言われた。

「家族から離してしまい申し訳ない」

「これも王女の務めです。どうかプリュムをお願いいたします」



翌日、姫を馬車に乗せてプリュムを出発した。
念のため、王太子の子供の頃の服を着せた。髪をボサボサにしてもらい、長い髪はひとつに結い、瞳は隠れるようにした。
まだ戦後間もない。サボデュールの残党や刺客、野盗の襲撃に備えてのことだ。

途中、ガルム王が手配した宿に泊まり、そこで姫は専属メイドを帰した。
数人連れて行って良いと言ったが、1人だけ国内の宿泊のために連れてきて、翌日の身支度をさせると解放した。


もうすぐ国境というところで襲撃を受けた。かなりの数で少し手間取った。サボデュールの兵士が野盗に転職したようだ。

「将軍!姫が!」

馬車を守らせていた兵士1人が刺され、もう1人は応戦中。敵兵が馬車の窓を破り内鍵を外しドアを開けた。

ザシュッ

ナイフに持ち替え 後ろから敵兵の喉を掻き切って車外に捨てた。
またドアを閉めて剣を握り討伐した。

「全部か」

「はい、逃げた者もいますが全部です」

「負傷者は」

「1名死亡、軽症多数、重症3名です」

「国境はもうすぐだ。死者も移動させよう。先ずは重症者の応急処置をしなくては」

「将軍…」

側近のバジルが指差す方を見た。

その先は馬車で、姫が馬車から出て負傷者に寄り添っていた。

「うぐぁっ!」

姫は 傷口に手を入れた後、馬車の荷物から鞄を取り出し、酒瓶を手にした。
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