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解れた心
継がれる未来【終】
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【クリストファーの視点】
そんな時に見つけたのは氷の魔法を使う女騎士だった。
アンジェルに付き添う任務についていた彼女は整った顔をしているが華やかさは無い。
「父上、アンジェルにつけた女性の騎士の素性をご存知ですか」
「王宮騎士団のボワイエ団長の孫娘でメレディス・ボワイエだ」
「彼女はどうでしょう」
「メレディス嬢を嫁に?」
「アンジェルへの接し方を見ていて、見合いをしてみたいなと。
不安定な炎の魔法使いを恐れていません」
「団長に申し入れてみよう」
「正式な縁談ではなく、確認ということにしていただけると助かります」
そうお願いしたのだが。
翌日、南の塔にボワイエ団長とメレディス嬢がやってきた。
「クリストファー・グローリーと申します」
「メレディス・ボワイエと申します」
「クリストファー殿、何故うちの孫娘を?」
団長、部下の取り調べじゃないんですよ?
「妹への接し方を見て、話をしてみたと父にお願いしました」
「条件は」
「お祖父様!」
「ボワイエ団長、話がしたいのです。下働きの採用面接ではありません」
「……失礼した」
「あ、メディ!」
そこにアンジェルがやって来てしまった。
「アンジェル、お客様にご挨拶は?」
「ようこそ……仮住まいへ?
アンジェル・グローリーと申します。
……えっと」
「アンジェル様、こちらは私のお祖父様で、王宮騎士団長ですのよ」
「グローリー侯爵令嬢にご挨拶を申し上げます」
「アンジェル、大事な話をしているから、別のお部屋に行ってくれるか?」
「はい、お兄さま」
アンジェルが走り去ったが、戻って来てカーテシーをした。
「失礼いたします」
今度こそ退室した。
「可愛いな」
「可愛いのです」
「外見はノアそっくりだ」
そんな祖父と孫の会話が終わるのをじっと待っていた。
「私は席を外そう」
そう言ってアンジェルの去った方へ歩いて行った。
「メレディス嬢は恋人か婚約者はおられますか」
「おりません。いたこともございません」
「私は魔力がありませんがどう思いますか」
「どうと仰られても」
「この国には魔力無しを無価値と思う者もいます」
「そんなことは思いません。私の叔母も魔力はありませんが素敵な方です」
「今の侯爵夫人は元は平民です。カイルスとアンジェルは生粋の貴族ではありません」
「ずっと貴族の血のみで繋がれた家門は少数では?」
「抵抗は無いということでしょうか」
「はい 」
「メレディス嬢から質問はありませんか」
「これは縁談ですか」
「正式なものではありません。貴女の考え方を知りたかったのです」
「知ってどうなさるのですか」
「炎の魔法使いは希少です。
私は妹を守る責務があります。
勿論、可愛くて仕方がないのですが。
弟は氷魔法を使っていますが覚醒しないとも言い切れませんし、カイルスの子が発現するかもしれません。
ノエリア様もアンジェルも危険と怒りで覚醒しました。
私の妻になった者が、弟達の怒りに触れたり危害を加えようとすれば惨事になります。
アンジェルは覚醒後ですがご存知の通り、制御できていません。
私の妻には差別意識が無く、アンジェルの魔法を怖がらず、二人を大事にしてくれる女性を望みます。
それは貴女ではないかと思って話をする機会を作っていただきました」
「私は合格ですか?」
「気分を害されましたか。
ですが、私は貴女の家柄でも財産でも、職業でも魔力でも、見かけでも子を産むか否かでも見ておりません。
人柄を見て、さらに確認したくてお会いしました。
お気に召さなければ二度と私的に話しかけません。私は必ず結婚しなくてはならないわけでも、子を残さねばならないわけでもありません。
私が継がなくても弟達が継ぐという選択肢もあります。成長するまでサポートすればいいだけです」
そこにアンジェルを抱っこした団長が戻って来た。
「ラズちゃんと仲良くなったの!」
ラズロ・ボワイエ団長をラズちゃん!?
「こら、アン!」
「ハハッ、構いません。
ノアの時は殺気立っていて可愛がるどころではありませんでしたから。
このおチビは本当に可愛い」
「ラズちゃん、お散歩に連れて行って」
「アン、駄目だ。団長もメレディス嬢も仕事中だ。話は終わったからお戻りいただくところなんだ」
アンジェルを団長から引き離し、抱っこした。
「本日はありがとうございました。
我儘を申しました。お見送りいたします」
「いや、大丈夫です。メレディス、戻ろう」
「……はい、失礼します」
父上にはそのまま報告をして、別の女性を探そうと夜会に出ていた。
だが、どの令嬢も顔から欲と意地の悪さが滲み出ているように思えた。
一杯飲んで帰ろうとした時、声をかけられた。
「グローリー侯爵令息」
「……ボワイエ伯爵令嬢?」
「まあ、もう私の顔などお忘れですか」
「失礼した。雰囲気がまるで違うので戸惑いました」
「今夜は?」
「招待状が来たので参加したまでです。
帰るところですので失礼します」
「グローリー侯爵令息。失礼過ぎではありませんか?
会うだけあって一方的に話をして音沙汰無しで、挙句は家名呼びで立ち去ろうだなんて」
「あの日、貴女は私を拒否したように感じましたので、私的に話しかけることなく過ごしているだけです。
不愉快と顔に書いてありましたから」
「それで、妻を探しに?」
「そうですね。数年探して駄目なら諦める予定です」
「……」
何が言いたいのか分からないが、無駄に夜会に留まるつもりはない。
「いい夜を。失礼します」
二日後、カイルスとアンジェルを連れて馬を見に来ていた。
「ラズちゃん!」
「おお!おチビ!」
「団長にご挨拶申し上げます。
この子は弟のカイルスです」
「初めまして。カイルス・グローリーと申します」
「ラズロ・ボワイエと申します」
「ラズちゃんは何してるの?」
「馬を戻しに来たのだよ」
「お馬さんに乗れるの?」
「乗るか?」
「乗る!」
「アンジェル」
「良いではないか。さあ、おいで」
団長はアンジェルを乗せた後、カイルスも乗せてくれた。
別れ際に “今夜、南の塔を訪ねる” と言い残した。
クリストファーは話したいなどと言わなければ良かったと溜息をついた。
こんな感じで面倒なことになるなら嫁探しは止めておこうと思ってしまった。
夜。
「あ、団長、久しぶり」
「……何故其方が」
「幼い娘がいるのに?」
「愚問だった」
「どうしたの?」
「孫娘のことで」
「メレディス様が拒絶をなさったと聞いたけど」
「……」
「同席するから」
「いや、」
「クリスの義母だから」
「……」
あの強面の団長がノエリア様にタジタジだ。
「ご子息がどうお考えなのか知りたい」
「クリスはメレディス様がいいと思ったけど、拒絶を示したご令嬢に付き纏う子ではないの。つまり縁が無かったのね」
「つまり破談ということですか」
「破談も何も、話しをしただけの段階で拒絶なら何も始まらないと思わない?」
「クリストファー殿」
「ノエリア様の仰る通りです。
人柄を見て、話す機会をいただいただけです。ですがご令嬢には不愉快だった様ですから関わらないようにしました。
何か問題がありますか」
「いや、」
「何で言わないの?」
そこに現れたのはアンジェルだ。
「アンジェル、大人の話だ。口を挟むな」
「お兄さまはメディが気になって、メディもお兄さまを気にしてるのに?」
は?
「メディ、言ってたよ。
お兄さまのこと素敵って」
は!?
「お顔、赤かった」
……。
「だから、この前のお出掛けの予定、教えたの」
「夜会のか」
「うん」
「団長、どういうことですか」
「その、メレディスは緊張していただけなのです。呼ばれた時も、大喜びで。
なのに上手く話せず落ち込んで、夜会に出掛けると知って慌てて招待を受けた友人に伴って参加したのです」
「……とんでもない人見知りですか」
「相手によります」
「では、その気があるのなら次の休みにここへ来るように伝えてください」
「お邪魔しました」
団長が帰るとアンジェルが膝の上に乗った。
「メディ、可愛いよ?」
「そうか?」
「だってね、こうやってしゃがんで、顔をおててで隠して、お顔真っ赤なの」
アンジェルは膝から降りてしゃがみ、顔を覆って首をフリフリした。
そしてまた膝の上に乗った。
「だけどお兄さまの夜の予定を伝えたら、悲しそうな顔をしたの。泣きそうだった」
「……そうか」
「ふふっ。クリスはモテるわね」
「揶揄わないでください」
「明日、ライダー公爵がくるからアドバイスを貰ったら?
マクセルとロイクは参考にしちゃダメよ」
翌日、ドミニク・ライダー公爵が昼食を食べに来た。
「ああ、確かに侯爵とロイクは参考にしちゃ駄目だな。
そういう娘には、イエスかノーだけで答えさせるんだ。
そして“私が好きなのか”と聞けばいい。
イエスと言えば手を繋いでデートしろ」
「流石ドミニク様ね」
「ノエリア、今からでも遅くないぞ」
この人は父とは恋敵のはずで、父がノエリア様と結婚した後もグローリー邸や南の塔にやって来ては食事をして帰る。
隙を見つけてはノエリア様を口説こうとする。
最近は、自分の息子とアンジェルを結婚させようとしている気がする。
「アンジェルは駄目ですよ」
「じゃあ、ノエリアを返してくれ」
「返すっておかしい言葉選びよね」
「ノエリア、デートしよう」
「母上は駄目です!」
「お、カイルス」
「こんにちは、ライダー公爵様」
「また背が伸びたか?」
「昨日会ったばかりじゃないですか」
「ハハハッ」
そしてメレディス嬢の次の休日がやってきた。
彼女はまた無表情だった。
「イエスかノーで答えてくれますか」
「……はい」
「私のことが好きですか」
「っ!」
「イエスかノーで」
「…………(イ、イエス)」
小さな声だったが、確かに聞こえた。
私は彼女の手を握り、真っ赤になって俯くメレディス嬢を見つめた。
「メレディス」
「っ! はい」
「結婚するぞ」
「……(イエス)」
「クククッ」
「ううっ」
まずい!泣き出した!
「嫌か!嫌なのか!?」
「手なんて剣蛸できて硬いし、肌は日に焼けちゃってるし、髪のお手入れだって……」
両手でメレディスの頬を挟むと口付けをした。
「ん!」
何度も何度も口付けをした。
メレディスは放心して帰っていった。
そして婚約した。
次の日はお妃様達やライダー公爵まで集まってお祝いしてくれた。
昔は屋敷で一人食事をしていたのに、ノエリア様が現れてグローリー邸に滞在し始めてからいつも賑やかだ。
旅に出た時も、せっかく結婚したのに家出された時も不安で仕方なかった。また一人になるのではないかと。
今はカイルスもアンジェルもいる。
そしてもう一人家族が増える。
もしかしたらもっと増えるかもしれない。
この縁を大事にしたい。
だから父上、ノエリア様を家出させないようにしてくださいね。
終
そんな時に見つけたのは氷の魔法を使う女騎士だった。
アンジェルに付き添う任務についていた彼女は整った顔をしているが華やかさは無い。
「父上、アンジェルにつけた女性の騎士の素性をご存知ですか」
「王宮騎士団のボワイエ団長の孫娘でメレディス・ボワイエだ」
「彼女はどうでしょう」
「メレディス嬢を嫁に?」
「アンジェルへの接し方を見ていて、見合いをしてみたいなと。
不安定な炎の魔法使いを恐れていません」
「団長に申し入れてみよう」
「正式な縁談ではなく、確認ということにしていただけると助かります」
そうお願いしたのだが。
翌日、南の塔にボワイエ団長とメレディス嬢がやってきた。
「クリストファー・グローリーと申します」
「メレディス・ボワイエと申します」
「クリストファー殿、何故うちの孫娘を?」
団長、部下の取り調べじゃないんですよ?
「妹への接し方を見て、話をしてみたと父にお願いしました」
「条件は」
「お祖父様!」
「ボワイエ団長、話がしたいのです。下働きの採用面接ではありません」
「……失礼した」
「あ、メディ!」
そこにアンジェルがやって来てしまった。
「アンジェル、お客様にご挨拶は?」
「ようこそ……仮住まいへ?
アンジェル・グローリーと申します。
……えっと」
「アンジェル様、こちらは私のお祖父様で、王宮騎士団長ですのよ」
「グローリー侯爵令嬢にご挨拶を申し上げます」
「アンジェル、大事な話をしているから、別のお部屋に行ってくれるか?」
「はい、お兄さま」
アンジェルが走り去ったが、戻って来てカーテシーをした。
「失礼いたします」
今度こそ退室した。
「可愛いな」
「可愛いのです」
「外見はノアそっくりだ」
そんな祖父と孫の会話が終わるのをじっと待っていた。
「私は席を外そう」
そう言ってアンジェルの去った方へ歩いて行った。
「メレディス嬢は恋人か婚約者はおられますか」
「おりません。いたこともございません」
「私は魔力がありませんがどう思いますか」
「どうと仰られても」
「この国には魔力無しを無価値と思う者もいます」
「そんなことは思いません。私の叔母も魔力はありませんが素敵な方です」
「今の侯爵夫人は元は平民です。カイルスとアンジェルは生粋の貴族ではありません」
「ずっと貴族の血のみで繋がれた家門は少数では?」
「抵抗は無いということでしょうか」
「はい 」
「メレディス嬢から質問はありませんか」
「これは縁談ですか」
「正式なものではありません。貴女の考え方を知りたかったのです」
「知ってどうなさるのですか」
「炎の魔法使いは希少です。
私は妹を守る責務があります。
勿論、可愛くて仕方がないのですが。
弟は氷魔法を使っていますが覚醒しないとも言い切れませんし、カイルスの子が発現するかもしれません。
ノエリア様もアンジェルも危険と怒りで覚醒しました。
私の妻になった者が、弟達の怒りに触れたり危害を加えようとすれば惨事になります。
アンジェルは覚醒後ですがご存知の通り、制御できていません。
私の妻には差別意識が無く、アンジェルの魔法を怖がらず、二人を大事にしてくれる女性を望みます。
それは貴女ではないかと思って話をする機会を作っていただきました」
「私は合格ですか?」
「気分を害されましたか。
ですが、私は貴女の家柄でも財産でも、職業でも魔力でも、見かけでも子を産むか否かでも見ておりません。
人柄を見て、さらに確認したくてお会いしました。
お気に召さなければ二度と私的に話しかけません。私は必ず結婚しなくてはならないわけでも、子を残さねばならないわけでもありません。
私が継がなくても弟達が継ぐという選択肢もあります。成長するまでサポートすればいいだけです」
そこにアンジェルを抱っこした団長が戻って来た。
「ラズちゃんと仲良くなったの!」
ラズロ・ボワイエ団長をラズちゃん!?
「こら、アン!」
「ハハッ、構いません。
ノアの時は殺気立っていて可愛がるどころではありませんでしたから。
このおチビは本当に可愛い」
「ラズちゃん、お散歩に連れて行って」
「アン、駄目だ。団長もメレディス嬢も仕事中だ。話は終わったからお戻りいただくところなんだ」
アンジェルを団長から引き離し、抱っこした。
「本日はありがとうございました。
我儘を申しました。お見送りいたします」
「いや、大丈夫です。メレディス、戻ろう」
「……はい、失礼します」
父上にはそのまま報告をして、別の女性を探そうと夜会に出ていた。
だが、どの令嬢も顔から欲と意地の悪さが滲み出ているように思えた。
一杯飲んで帰ろうとした時、声をかけられた。
「グローリー侯爵令息」
「……ボワイエ伯爵令嬢?」
「まあ、もう私の顔などお忘れですか」
「失礼した。雰囲気がまるで違うので戸惑いました」
「今夜は?」
「招待状が来たので参加したまでです。
帰るところですので失礼します」
「グローリー侯爵令息。失礼過ぎではありませんか?
会うだけあって一方的に話をして音沙汰無しで、挙句は家名呼びで立ち去ろうだなんて」
「あの日、貴女は私を拒否したように感じましたので、私的に話しかけることなく過ごしているだけです。
不愉快と顔に書いてありましたから」
「それで、妻を探しに?」
「そうですね。数年探して駄目なら諦める予定です」
「……」
何が言いたいのか分からないが、無駄に夜会に留まるつもりはない。
「いい夜を。失礼します」
二日後、カイルスとアンジェルを連れて馬を見に来ていた。
「ラズちゃん!」
「おお!おチビ!」
「団長にご挨拶申し上げます。
この子は弟のカイルスです」
「初めまして。カイルス・グローリーと申します」
「ラズロ・ボワイエと申します」
「ラズちゃんは何してるの?」
「馬を戻しに来たのだよ」
「お馬さんに乗れるの?」
「乗るか?」
「乗る!」
「アンジェル」
「良いではないか。さあ、おいで」
団長はアンジェルを乗せた後、カイルスも乗せてくれた。
別れ際に “今夜、南の塔を訪ねる” と言い残した。
クリストファーは話したいなどと言わなければ良かったと溜息をついた。
こんな感じで面倒なことになるなら嫁探しは止めておこうと思ってしまった。
夜。
「あ、団長、久しぶり」
「……何故其方が」
「幼い娘がいるのに?」
「愚問だった」
「どうしたの?」
「孫娘のことで」
「メレディス様が拒絶をなさったと聞いたけど」
「……」
「同席するから」
「いや、」
「クリスの義母だから」
「……」
あの強面の団長がノエリア様にタジタジだ。
「ご子息がどうお考えなのか知りたい」
「クリスはメレディス様がいいと思ったけど、拒絶を示したご令嬢に付き纏う子ではないの。つまり縁が無かったのね」
「つまり破談ということですか」
「破談も何も、話しをしただけの段階で拒絶なら何も始まらないと思わない?」
「クリストファー殿」
「ノエリア様の仰る通りです。
人柄を見て、話す機会をいただいただけです。ですがご令嬢には不愉快だった様ですから関わらないようにしました。
何か問題がありますか」
「いや、」
「何で言わないの?」
そこに現れたのはアンジェルだ。
「アンジェル、大人の話だ。口を挟むな」
「お兄さまはメディが気になって、メディもお兄さまを気にしてるのに?」
は?
「メディ、言ってたよ。
お兄さまのこと素敵って」
は!?
「お顔、赤かった」
……。
「だから、この前のお出掛けの予定、教えたの」
「夜会のか」
「うん」
「団長、どういうことですか」
「その、メレディスは緊張していただけなのです。呼ばれた時も、大喜びで。
なのに上手く話せず落ち込んで、夜会に出掛けると知って慌てて招待を受けた友人に伴って参加したのです」
「……とんでもない人見知りですか」
「相手によります」
「では、その気があるのなら次の休みにここへ来るように伝えてください」
「お邪魔しました」
団長が帰るとアンジェルが膝の上に乗った。
「メディ、可愛いよ?」
「そうか?」
「だってね、こうやってしゃがんで、顔をおててで隠して、お顔真っ赤なの」
アンジェルは膝から降りてしゃがみ、顔を覆って首をフリフリした。
そしてまた膝の上に乗った。
「だけどお兄さまの夜の予定を伝えたら、悲しそうな顔をしたの。泣きそうだった」
「……そうか」
「ふふっ。クリスはモテるわね」
「揶揄わないでください」
「明日、ライダー公爵がくるからアドバイスを貰ったら?
マクセルとロイクは参考にしちゃダメよ」
翌日、ドミニク・ライダー公爵が昼食を食べに来た。
「ああ、確かに侯爵とロイクは参考にしちゃ駄目だな。
そういう娘には、イエスかノーだけで答えさせるんだ。
そして“私が好きなのか”と聞けばいい。
イエスと言えば手を繋いでデートしろ」
「流石ドミニク様ね」
「ノエリア、今からでも遅くないぞ」
この人は父とは恋敵のはずで、父がノエリア様と結婚した後もグローリー邸や南の塔にやって来ては食事をして帰る。
隙を見つけてはノエリア様を口説こうとする。
最近は、自分の息子とアンジェルを結婚させようとしている気がする。
「アンジェルは駄目ですよ」
「じゃあ、ノエリアを返してくれ」
「返すっておかしい言葉選びよね」
「ノエリア、デートしよう」
「母上は駄目です!」
「お、カイルス」
「こんにちは、ライダー公爵様」
「また背が伸びたか?」
「昨日会ったばかりじゃないですか」
「ハハハッ」
そしてメレディス嬢の次の休日がやってきた。
彼女はまた無表情だった。
「イエスかノーで答えてくれますか」
「……はい」
「私のことが好きですか」
「っ!」
「イエスかノーで」
「…………(イ、イエス)」
小さな声だったが、確かに聞こえた。
私は彼女の手を握り、真っ赤になって俯くメレディス嬢を見つめた。
「メレディス」
「っ! はい」
「結婚するぞ」
「……(イエス)」
「クククッ」
「ううっ」
まずい!泣き出した!
「嫌か!嫌なのか!?」
「手なんて剣蛸できて硬いし、肌は日に焼けちゃってるし、髪のお手入れだって……」
両手でメレディスの頬を挟むと口付けをした。
「ん!」
何度も何度も口付けをした。
メレディスは放心して帰っていった。
そして婚約した。
次の日はお妃様達やライダー公爵まで集まってお祝いしてくれた。
昔は屋敷で一人食事をしていたのに、ノエリア様が現れてグローリー邸に滞在し始めてからいつも賑やかだ。
旅に出た時も、せっかく結婚したのに家出された時も不安で仕方なかった。また一人になるのではないかと。
今はカイルスもアンジェルもいる。
そしてもう一人家族が増える。
もしかしたらもっと増えるかもしれない。
この縁を大事にしたい。
だから父上、ノエリア様を家出させないようにしてくださいね。
終
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