【完結】もう愛しくないです

１回目 ２

「エマはどこまで覚えている？」

「私、デニス様が私には家名呼びしろと命じて、レジュール侯爵令嬢にはデニスと呼び捨てにさせていたのでカッとなったのです。

とても高価なネックレスを贈っていて…デニス様の瞳の色によく似ていて…。
私はアクセサリーなどいただいたことがないのに…悔しくて」

「すまない。デニス殿が浮気をしていたとは知らず辛い思いをさせた」

「私もデビュータントで噂話を聞いたのです。それで真偽を確かめようとして」

「これから辛い事を話すが隠し通せるものではないからエマにその後のことを話す。
落ち着いて聞いて欲しい」

「はい」

「デニス殿とレジュール侯爵令嬢は体の関係は無かったが不貞と言えるだろう。
デニス殿はかなり令嬢に貢いでいたようだ。
夜会でも仲良く踊り庭園やテラスなどで話し込む姿が目撃されている。

エマと口論になりデニス殿はエマを殴った。
倒れたエマの身体を執拗に蹴り続け、悲鳴を聞いた男子生徒がデニス殿を取り押さえた」

「じゃあ、デニス様は」

「罪人となった。

エマの怪我の状態と、不貞の内容から重罪人として裁かれた」

「もう裁かれたのですか？」

「１カ月経つんだ。時折朦朧とした状態で目を開けたけどまた昏睡してしまうことを繰り返したんだ」

「そんなに経ったのですか。
何故あんな事を言ってしまったのか…」

「ノーディング家は我が家から融資を受けて持ち直したんだ。婚約時に負債額を融資し、その後も毎年援助してきた。
なのにその金を他所の女の貢ぐために使うなどあってはならないし、令嬢も受け取ってはならなかった。
エマに非はない」

「どうなったのですか」

「ノーディング家は没落させた。
融資や支援の条件はエマとの婚約だった。
なのに不貞の上、暴力を振るったのだから不履行になる。

全額回収と慰謝料を求め提訴した。
伯爵夫妻は夜逃げをしたよ。
請求金額に届かないが全てをもらった。
国王陛下は爵位も取り上げた。

デニスは犯罪奴隷になった」

「犯罪奴隷ですか」

「ティファニー・レジュールにも裁きを受けさせる過程で陛下に呼ばれて頼みこまれてしまった。
レジュール侯爵家の次女が他国の王子妃になっているし、肉体関係はないからあまり重い処罰ができないと」

「彼女は…」

「修道院へは送らずに自宅で生涯軟禁になった。婚約は破棄され、貴族籍も抜けた。
つまり侯爵家で幽閉される平民だ。
生涯婚姻も子を産むことも許されない。

その代わり処刑予定だったデニスを犯罪奴隷にしてもらった。
元凶が楽に死ねるなんて許せなくてね。

あの容姿だから活躍するだろう」

「どちらもちょっと刑が重いのでは」

「……エマ。デニスの靴先がエマの左目を直撃した」

「えっ」

「左目は潰れてしまって…もう元には戻らない。顔の骨も骨折して昔の顔とは少し違う。

左の頬骨や鼻の骨も、指の骨や肋骨も折れていた。死にかけたんだ。

しかも非はデニスと令嬢にある。だから重い刑ではないんだよ」

「……」


それから私は言葉を発せなくなった。
鏡も怖くて見れなかった。

あんなにデニス様との結婚を夢見ていたのに…

私があの時我慢できていたら？
もっと美容やお洒落に気を使っていたら？
年頃の彼を満足させてあげれたら？




長い入院となった。半年経ったがまだ左目の包帯は取っていない。傷は塞がった。
今は平衡感覚がおかしいので廊下で歩行訓練をしていた。

そこに男の子が迷い込んできて私を見るなり叫んで走って逃げていった。




夜中、私は最上階の窓を開けた。

“化け物！！”

子供にそう叫ばれた。
左目には包帯をしているにも関わらず化け物と呼ばれるのか…。

あの頃に戻りたい。やり直したい。

私は窓から身を投げた。