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カイゼル・フェリング
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自室に戻り苛立ちで何も手につかない。
私に抱かれたくない!?
恋人を作る!?
友人には
“愛など微塵もない”
“見ていると腹が立つ”
“政略結婚だ、破棄はできない”
“抱きたくもない”
“どうせ財産狙い”
“愛人でも囲うか”
そんなことを言っていた覚えがある。
あの条件は偶然にもそれを叶えたものだった。
だが一部本音じゃなかったことがある。
結婚式の夜にアリエルが初めてを私に捧げる夢を何度も見てきた。抱かれて従順に私に縋り付き熱い視線で“お慕いしております”と頬を染めて囁く。
本邸で大人しく私の帰りを待ち、夜は抱いて欲しいと言う顔で夫婦の寝室に入ってくる。
自分のガウンの紐を解きアリエルを見つめれば、アリエルを求めて反り勃つモノを恥ずかしそうに見ながら彼女はナイトドレスを脱ぐ。
深く繋がり精を放てばアリエルの奥は喜びに震える。
朝には腕枕を解き、今夜は愛人のもとへ行くと告げると悲しそうに“かしこまりました”と言い、夜中に戻ると起きて待っている拗ねたアリエルを抱く。
そんな夢を何度も見てきた。
なのに私に抱かれるのは嫌!?
子はメリンダとの子だけ!?
お前は私の妻になるのだろう!妻の役目は夫との閨も含まれると言うのに…。
しばらく経つと、気を引く為のアリエルの抵抗かもしれない。メリンダに嫉妬しているのだと思った。
数ヶ月後、アリエルに恋人ができたと噂が広まった。社交でも見かけたがどう見ても初心な関係に見えた。
隣国の公爵を使って気を引きたいのだろう。
だがしばらくすると友人がとんでもないことを口にする。
「兄貴が見かけたんだけど、ラクロワ嬢と恋人がホテルで過ごしているぞ」
「相手の男の方がベタ惚れらしいな。レストランで愛を囁いていたと母から聞いた」
他人の婚約者に愛を囁くだと!?
ホテルと言うことは純潔を捧げたと言うことか!!
腸が煮え繰り返るとはこのことだと思った。
しばらく何にも身に入らず、発散するようにメリンダを抱いた。
月日が流れ、なんとか家系図を丸暗記して卒業した。
別棟は完成した。こっそり覗こうとしたが施錠してあって覗けなかった。
結婚式は本当にメリンダが分厚いベールを被り花嫁役をやっていた。
その後もアリエルは恋人を作り、時には男の馬車が屋敷に迎えに来る。
侯爵位を継いでも何も変わらなかった。
アリエルは月日が経つごとに艶やかになり楽しそうな声がたまに聞こえる。
なのに5年近く経ってもメリンダは孕らない。どういうことだ!?
医者に相談しても分からないという。
シーファ夫妻の夜会に呼ばれた。招待状は別々なのでエスコートはない。私はメリンダを。アリエルは歳上の男を連れていた。
男がアリエルを特別に思っていることも、アリエルが心を許していることも見て取れた。
夜空のようなドレスを上品に着こなし頬を染めて笑う。
私の腕に絡みつくメリンダは挨拶も拙く、孕まないストレスからか何かと口に入れ、あの頃より太っていた。
ドレスを自由に選ばせていたが、金がかかっている割にはピンクのヒラヒラした未成年の令嬢が着るようなデザインの安っぽく見えるものだった。
家では気にならなかったが、レディ達の中にいると浮いているのが分かる。
帰ったら外出用のドレスを全て入れ替えようと考えていた。
「カイゼル様、踊りましょう」
中央でシーファ夫妻やアリエル達が華のようにダンスを舞う中、メリンダはぎこちないステップを踏む。
何処からかクスクスと笑う声が聞こえる。
大きくバランスを崩したメリンダを支えると上目遣いで舌を少し出して照れくさそうにする。
学生の頃は新鮮で可愛く思えた仕草が下品に感じた。もしかして、私以外にはメリンダは下品に映っていたのではないかと思った。
曲が変わるとレオンスがアリエルの手を取り腰を引き寄せて踊り始めた。
レオンスが嬉しそうに目を細めている。
アリエルは親しげに話しかけていた。
いつからだ……アリエルとレオンスが?
端で喉を潤す夫人の側まで行き問いかけた。
「いいのですか」
「何がですの?」
「レオンスとアリエルです」
「ああ。レオンスがアリエルに惚れて誘ったのだけどフェリング侯爵と学友だと知ると断られてしまいましたの。
気にしないとレオンスは申し上げたのですが譲らなくて」
「夫人はレオンスに他の女を近付かせても構わないのですか!?」
「アリエルのような素敵なレディは大歓迎ですわ!」
そう言いながらチラリとメリンダを見て、すぐ私に目線を戻した。
「断られたレオンスはアリエルを屋敷に招待して私に紹介しましたの。それから親しくさせていただいておりますわ。
私達夫婦は友人同士の政略結婚ですの。
変な女を引っ掛けて来ない限りは黙認しています。私も外で楽しんでおりますから。
アリエルを見つけてきたレオンスを誇りに思いますわ」
「そうですか」
「ほら、レオンスの嬉しそうな顔!」
「貴族の皆様は奔放なのですね」
「……」
「メリンダ!紹介も無しに話しかけるな、
伯爵夫人なのだぞ」
「招待したのに?」
「これは、」
「シーファ家はアリエル・フェリング侯爵夫人と、カイゼル・フェリング侯爵に友人として招待をしたけれど貴女は招待していないのよ。
連れてきた侯爵が責を負うことになるから気を付けた方がよろしいわ」
「私が元平民の準男爵の娘だからですか」
「メリンダ!」
「元平民だろうが貴族を名乗っているのでしょう?ならば貴族のルールやマナーを守るのは最低限の義務だと思うのだけど。
貴女の振る舞いやダンス、身に着ける物も全てフェリング侯爵の評価に繋がるのよ。
例え子を成せない愛人止まりでも、こうも周知されてしまっては侯爵も無関係だとは言えませんからね」
「酷い!」
「失礼はお詫びしますが、子のことに口出しは止めていただきたい」
「そうね。ごめんなさい。
いろいろな令息や平民と交わって避妊薬を乱用して不妊になった方には酷な話でしたわね」
「は?」
私に抱かれたくない!?
恋人を作る!?
友人には
“愛など微塵もない”
“見ていると腹が立つ”
“政略結婚だ、破棄はできない”
“抱きたくもない”
“どうせ財産狙い”
“愛人でも囲うか”
そんなことを言っていた覚えがある。
あの条件は偶然にもそれを叶えたものだった。
だが一部本音じゃなかったことがある。
結婚式の夜にアリエルが初めてを私に捧げる夢を何度も見てきた。抱かれて従順に私に縋り付き熱い視線で“お慕いしております”と頬を染めて囁く。
本邸で大人しく私の帰りを待ち、夜は抱いて欲しいと言う顔で夫婦の寝室に入ってくる。
自分のガウンの紐を解きアリエルを見つめれば、アリエルを求めて反り勃つモノを恥ずかしそうに見ながら彼女はナイトドレスを脱ぐ。
深く繋がり精を放てばアリエルの奥は喜びに震える。
朝には腕枕を解き、今夜は愛人のもとへ行くと告げると悲しそうに“かしこまりました”と言い、夜中に戻ると起きて待っている拗ねたアリエルを抱く。
そんな夢を何度も見てきた。
なのに私に抱かれるのは嫌!?
子はメリンダとの子だけ!?
お前は私の妻になるのだろう!妻の役目は夫との閨も含まれると言うのに…。
しばらく経つと、気を引く為のアリエルの抵抗かもしれない。メリンダに嫉妬しているのだと思った。
数ヶ月後、アリエルに恋人ができたと噂が広まった。社交でも見かけたがどう見ても初心な関係に見えた。
隣国の公爵を使って気を引きたいのだろう。
だがしばらくすると友人がとんでもないことを口にする。
「兄貴が見かけたんだけど、ラクロワ嬢と恋人がホテルで過ごしているぞ」
「相手の男の方がベタ惚れらしいな。レストランで愛を囁いていたと母から聞いた」
他人の婚約者に愛を囁くだと!?
ホテルと言うことは純潔を捧げたと言うことか!!
腸が煮え繰り返るとはこのことだと思った。
しばらく何にも身に入らず、発散するようにメリンダを抱いた。
月日が流れ、なんとか家系図を丸暗記して卒業した。
別棟は完成した。こっそり覗こうとしたが施錠してあって覗けなかった。
結婚式は本当にメリンダが分厚いベールを被り花嫁役をやっていた。
その後もアリエルは恋人を作り、時には男の馬車が屋敷に迎えに来る。
侯爵位を継いでも何も変わらなかった。
アリエルは月日が経つごとに艶やかになり楽しそうな声がたまに聞こえる。
なのに5年近く経ってもメリンダは孕らない。どういうことだ!?
医者に相談しても分からないという。
シーファ夫妻の夜会に呼ばれた。招待状は別々なのでエスコートはない。私はメリンダを。アリエルは歳上の男を連れていた。
男がアリエルを特別に思っていることも、アリエルが心を許していることも見て取れた。
夜空のようなドレスを上品に着こなし頬を染めて笑う。
私の腕に絡みつくメリンダは挨拶も拙く、孕まないストレスからか何かと口に入れ、あの頃より太っていた。
ドレスを自由に選ばせていたが、金がかかっている割にはピンクのヒラヒラした未成年の令嬢が着るようなデザインの安っぽく見えるものだった。
家では気にならなかったが、レディ達の中にいると浮いているのが分かる。
帰ったら外出用のドレスを全て入れ替えようと考えていた。
「カイゼル様、踊りましょう」
中央でシーファ夫妻やアリエル達が華のようにダンスを舞う中、メリンダはぎこちないステップを踏む。
何処からかクスクスと笑う声が聞こえる。
大きくバランスを崩したメリンダを支えると上目遣いで舌を少し出して照れくさそうにする。
学生の頃は新鮮で可愛く思えた仕草が下品に感じた。もしかして、私以外にはメリンダは下品に映っていたのではないかと思った。
曲が変わるとレオンスがアリエルの手を取り腰を引き寄せて踊り始めた。
レオンスが嬉しそうに目を細めている。
アリエルは親しげに話しかけていた。
いつからだ……アリエルとレオンスが?
端で喉を潤す夫人の側まで行き問いかけた。
「いいのですか」
「何がですの?」
「レオンスとアリエルです」
「ああ。レオンスがアリエルに惚れて誘ったのだけどフェリング侯爵と学友だと知ると断られてしまいましたの。
気にしないとレオンスは申し上げたのですが譲らなくて」
「夫人はレオンスに他の女を近付かせても構わないのですか!?」
「アリエルのような素敵なレディは大歓迎ですわ!」
そう言いながらチラリとメリンダを見て、すぐ私に目線を戻した。
「断られたレオンスはアリエルを屋敷に招待して私に紹介しましたの。それから親しくさせていただいておりますわ。
私達夫婦は友人同士の政略結婚ですの。
変な女を引っ掛けて来ない限りは黙認しています。私も外で楽しんでおりますから。
アリエルを見つけてきたレオンスを誇りに思いますわ」
「そうですか」
「ほら、レオンスの嬉しそうな顔!」
「貴族の皆様は奔放なのですね」
「……」
「メリンダ!紹介も無しに話しかけるな、
伯爵夫人なのだぞ」
「招待したのに?」
「これは、」
「シーファ家はアリエル・フェリング侯爵夫人と、カイゼル・フェリング侯爵に友人として招待をしたけれど貴女は招待していないのよ。
連れてきた侯爵が責を負うことになるから気を付けた方がよろしいわ」
「私が元平民の準男爵の娘だからですか」
「メリンダ!」
「元平民だろうが貴族を名乗っているのでしょう?ならば貴族のルールやマナーを守るのは最低限の義務だと思うのだけど。
貴女の振る舞いやダンス、身に着ける物も全てフェリング侯爵の評価に繋がるのよ。
例え子を成せない愛人止まりでも、こうも周知されてしまっては侯爵も無関係だとは言えませんからね」
「酷い!」
「失礼はお詫びしますが、子のことに口出しは止めていただきたい」
「そうね。ごめんなさい。
いろいろな令息や平民と交わって避妊薬を乱用して不妊になった方には酷な話でしたわね」
「は?」
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