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ランベールの若き側近
しおりを挟む【 ランベール・カルモンド子爵の視点 】
若き側近ルイはオートウェイル侯爵家の四男だ。
娘が欲しかった侯爵夫人が最後にと身籠ったのが男児だった。
父親は忙しく 母親はルイを構うことは無かったという。兄弟仲は良かったようだ。
ルイは小さな頃から婚約を拒否し続けた。無理矢理繋ごうとしても、顔合わせ後に令嬢の方から断ってくることが続き、学園が始まれば出会いがあると侯爵は待つことにした。
だが、学園を卒業しても婚約は叶わなかった。
ルイは侯爵令息で中性的な美男子なので言い寄る令嬢は多かった。だが、どんな可愛い令嬢も美しい令嬢にも靡くことは無く、男色なのではないかと囁かれた。
侯爵が罰を与えるかのように我がカルモンド子爵家にルイを寄越した。縁を繋いで役に立つ気が無いのなら、領地で役に立てということらしい。
当初はどうなることかと不安だった。しかしルイは愛想が悪いが有能だった。
もう9年。侯爵家もルイの婚姻を諦めていた。
だが、ある日
「ランベール様、個人的な相談がございます」
ルイがそんなことを言うのは初めてだった。
執務室に夕食を運ばせて人払いをした。
「何か困り事か?」
「アンナと婚姻します」
「……ん? どちらのアンナ嬢だ? 式はいつだ」
「2週間前にこの屋敷に雇い入れたアンナです」
「平民のアンナか!?」
「はい」
「早いな、もう交際していたのか」
「していません」
「……つまり?」
「交際も何も、挨拶しかしたことがありません」
「……だが、“婚姻します”と言い切ったじゃないか」
「はい。他の女を妻にする気はありませんので、アンナと婚約できなければ一生独身でいます。その代わりアンナも一生独身で誰とも交際させません」
「……いや、ルイ。どこから突っ込めばいいのか」
「アンナが他の男と仲良く話している姿を見て相手の男を殺したくなってしまいました」
「……誰だ」
「執事のジョナサン、料理長のジャン、料理人のエヴァンとサリー、庭師のアントニオ、御者のダニエル、下男のロニー、ラズロ、オード、兵士の、」
「もういい。分かった。大量殺戮は止めろ。2週間でよくそれだけの名があがったな。ルイは仕事はしていたよな?」
「もちろんです」
「謎は残るが まあいい。
待て。まさか、私も含んでいるのか!?」
「……いいえ」
「殺戮リストから抹消しておいてくれ。私は無害だ」
「ソレに誓えますか?」
「股間を見るな。誓う誓う。
アンナとの婚姻は決定事項なんだな?挨拶しかしたことがなくても」
「はい」
「で、相談とは?」
「僕はアンナが好きだと悟った瞬間から、侯爵家に生まれたことを後悔しました」
「そこまで言わなくても…
“選択肢がないから不運に嘆く”とかの方がいいかもな」
「アンナは貴族になることを拒みそうなので、アンナに合わせたいのですが、実家の猛反対に遭いそうで。まあ、僕だけなら無視しておけばいいのですが矛先がアンナに向いては困ります」
「オートウェイル家は侯爵が交代したばかりだろう。侯爵になった兄君に許可をもらえばいいんじゃないかな」
「会わせろっていう話になりませんか?」
「母上の付添人が今度退職するんだ。アンナに任命してテーブルマナーなどの教育を受ければいい。教養はあって困らないだろう」
「よろしいのですか?」
「私を殺戮リストから外してくれたらな」
「……善処します」
「はぁ。
ルイこそ、話しかけたりしないと駄目なんじゃないか?侯爵家の力で婚姻しないのなら、自分で頑張って仲良くなるしかないだろう」
「……どうやって話しかけるのですか?業務以外で身内でもない女性に話しかけたことがないので」
「宝の持ち腐れだな」
「宝とは?」
「顔だよ顔」
「好みでなかったら無意味です」
「はあ。仕方ない。配置換えを命じるために執務室に呼ぶから、ルイも話しかけてみろ」
ルイのためにアンナを呼んだのに……
「何で私のアンナに圧をかけるのですか」
「待て、ペーパーナイフは机に置け」
「アンナが貴族を嫌がってしまうではありませんか」
「子爵命令にしなければ断る雰囲気だっただろう。それより何で話しかけなかったんだ」
「アンナが側を通ったらアンナの匂いが香ったんです。そうしたら立てなくなりました」
「……重症だな。話しかける前にトイレで抜くしかないな」
「正気ですか?」
「私のセリフだ」
そして、アンナの華麗な土下座を見た後、ルイは頬を染めた。ルイの性癖に不安を覚えた。
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