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私の妻

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 国境とエスペランドの主要の町までの被害調査報告書を手にしながら何をすべきか、優先事項などを決めていく。

国境とその近くの町までしか被害はほぼない。
エスペランド城を守るべく、敵兵を通さなかった。
だがその代わり、兵士の死傷者は少なくなかった。

だからこそ、王都に来たエスペランド軍の兵士一人一人に陛下にお声がけしていただいたことは、大きな効果をもたらす。

復興のために派遣された復興担当官は7年も戦地となったはずの領地を視察して驚いていた。

「本当にこちらより敵兵の方が多かったのですか?」

「ええ。
エスペランド軍の猛者達は一歩たりとも引きません。矢が刺さろうが剣で切り付けられようが引きません。

たった一歩が、二歩、三歩と後退を許してしまいます。後退した先は領民ですから」

「コンラッド卿も前線に居続けたのですよね。引かなかったのですか?」

「引くような男は最前線に立たせてもらえません。
彼らと一緒にいたら怖いものなどありませんよ。
例え討ち取られたとしてもエスペランドや国を守った男の一人として葬ってもらえますから。

今回の復興支援は壊れた物を直すとか与えるとかだけでなく、次にどう攻め込ませないか、どう撃退するかを考えたいのです。
少しでも攻め込もうなんて気を起こさせないように、死傷者を一人でも減らせるように未然に防げたらと思っています」

そう話すと王都に戻ったら専門家をあたってみてくれると言っていた。




夕方にはエスペランド城に戻り、身重のルイーザと息子のファイゼルとの時間をとった。

だがおかしい。

「父上。お病気ですか?」

「そうね。お食事が進んでないようですが」

「何でもないよ。
新しい任務に頭がいっぱいなだけだ」

ルイーザのことは愛から始まった関係ではなかった。夜這いに抗えず、堰を切ったかのように彼女の求めに応じた。女の体を知ってしまったら、毎晩のように夜這いにやってくるルイーザを退けられなかった。

夫を亡くした寂しさを紛らわせるためだけだと思っていた。

だけど妊娠を告げられたときに そうではなかったと知った。どんな打算があるのかは分からないが、私の子なのは間違いない。

彼女はリリアナとの離縁は望んでいないというが、子を養う義務があるだろう。
閣下と話し合った。

『妻に離縁の意思をずっと示してきましたが、現在も私はコンラッドです。

私はまだ薄給の身。養う力はありません。
私はコンラッドの血が流れていません。ですのでコンラッドの金を当てにはできません。
ですが産まれた子は引き取ります。コンラッド邸に置いてもらえるよう頼むつもりです』

『君に夜這いをかけたのはルイーザなのは知っている。
毎晩のように押しかけた娘の責任だし、避妊薬は敢えて飲まなかったのだろう。

娘がエスペランドで産んだ子はエスペランドのものだ。君が気にすることはない。ただ王都に戻っても父親として時々会いに来てほしい。

それに息子に男児が産まれず、娘が男児を産んだ場合、その子に継がせるかも知れない』

そこでルイーザは男児を産むために夜這いをかけたのだと思った。まあ、男児が生まれるかは分からないが確率は半々。
後は戦士の子胤が欲しかったのだろう。

男児が産まれたときはエスペランドが喜びに包まれた。領民達からはお祝いが届き、閣下も大喜びだった。

ただ、次期辺境伯夫妻に申し訳ない気持ちになった。
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