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僕は弟分

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辺境伯が戦況の詳細の報告を受けた後、采配をした。王宮騎士の先発隊は負傷者の搬送や手当を中心にと言われたが、辺境伯に頼もうとした。

「閣下、」

「分かってる。前に学校で手合わせした男を覚えているか?」

「はい。ジオルド卿ですね」

「クリスの行く場所はジオルドがいる。
動けない負傷兵の搬送が終われば、ジオルドと参戦していい。

だが、実戦未経験の者を使うということは、何かあれば責任を問われるのは私だ。我が領土が攻め込まれ、荒らされ、部下達が負傷して、その上責任を負わされるのは辛いところだ。

無理はせず、少しでも体や気持ちに違和感が出たら退がれ。

迷いのある者や向かない者はやられる。
そんな者を助けようと側にいる兵士が無理をする。

特にお前は副団長のお気に入りで、次期コンラッド侯爵なのだからな」

「コンラッドは実子のリリアナの血が大事で、私の代わりはいます。

今の私は閣下に “俺のお気に入りだから生き残れ” と言われたいです」

「可愛いやつめ」

「副団長への恩がなければ エスペランド軍を希望しましたから」

「娘がいたら縁談を申し込んだが未婚の娘がいなかった。リリアナ嬢には敵わないしな」

「見た目や条件で結婚する気はありません。
この剣使っていいですか」

「ツーハンデットソードを使った事が?」

「いえ。振り回すのに丁度いいかなと」

「クリスなら片手で振れるか。いいぞ。持っていけ。最初のうちは両手にしておけよ」

「はい」





「ぐわぁっ!」

「ぎゃあっ!」

「止めてくれ!」

重症者の搬送が終わった後、ジオルド卿と一緒に敵兵を薙ぎ倒して行く。

加減しないとこうなるのか。

首に当たるよう振るうと、上手くいけば胴と頭は離れるが、中途半端な深さになると苦しみながら死んでいく。腕を切り落とし胴まで刃が届いて、苦しむ者も少なくない。

そして、このエリアを攻めている指揮官らしき姿を、敵軍の中腹に確認するると、剣を地面に突き刺し、背負っていた特注の大型の弓を構えると、しならせ矢を放つ。

「クリス、やったな」

「この距離だと狙った場所には当たりませんね。頭部を狙ったのですが胸に刺さったようです」

「見てみろ、後方は引いていく。それに気付いていない前衛を片付ければいい」

「はい」




数日が経ち、歩兵と物資が到着。近隣の領地から医師の派遣や物資の支援もあり十分と言える。

その内、王都から軍が到着し、そこから長い戦いとなった。
カロンが諦めず、引いては攻めることを繰り返していたからだ。

敵兵の数が多いのに防げているのは地形のおかげだ。
国境手前のカロン側は険しい谷になっていて、大軍で一気に攻め入ることができない。



団長も来て、僕を王都に戻すと言われたこともあったが、エスペランドの地が平穏を取り戻すまで離れるつもりはないと拒否した。

まあ、命令違反ともとれるが、“普通は帰りたいと言って戦うことを拒否する新兵ならいるけどな” と苦笑いをして許してもらえた。
それには辺境伯と辺境軍の圧が団長に降り注いだから。

“団長、俺達の可愛い弟分を取りあげるつもりですか”

“クリスの代わりだと胸を張っていえる者を目の前に連れてきてください。確かめますんで”

“兄貴としての教育が終わっていないんで返しません”

そして、

“団長。クリスは此処に最後までいます”

と辺境伯が団長を威圧してしまった。

休みは取らせるように団長が言うと、辺境伯達は、たっぷり食べさせますから大丈夫ですと僕を背に隠した。

大きいから隠れてないけど。




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