上 下
38 / 52

僕は弟分

しおりを挟む
辺境伯が戦況の詳細の報告を受けた後、采配をした。王宮騎士の先発隊は負傷者の搬送や手当を中心にと言われたが、辺境伯に頼もうとした。

「閣下、」

「分かってる。前に学校で手合わせした男を覚えているか?」

「はい。ジオルド卿ですね」

「クリスの行く場所はジオルドがいる。
動けない負傷兵の搬送が終われば、ジオルドと参戦していい。

だが、実戦未経験の者を使うということは、何かあれば責任を問われるのは私だ。我が領土が攻め込まれ、荒らされ、部下達が負傷して、その上責任を負わされるのは辛いところだ。

無理はせず、少しでも体や気持ちに違和感が出たら退がれ。

迷いのある者や向かない者はやられる。
そんな者を助けようと側にいる兵士が無理をする。

特にお前は副団長のお気に入りで、次期コンラッド侯爵なのだからな」

「コンラッドは実子のリリアナの血が大事で、私の代わりはいます。

今の私は閣下に “俺のお気に入りだから生き残れ” と言われたいです」

「可愛いやつめ」

「副団長への恩がなければ エスペランド軍を希望しましたから」

「娘がいたら縁談を申し込んだが未婚の娘がいなかった。リリアナ嬢には敵わないしな」

「見た目や条件で結婚する気はありません。
この剣使っていいですか」

「ツーハンデットソードを使った事が?」

「いえ。振り回すのに丁度いいかなと」

「クリスなら片手で振れるか。いいぞ。持っていけ。最初のうちは両手にしておけよ」

「はい」





「ぐわぁっ!」

「ぎゃあっ!」

「止めてくれ!」

重症者の搬送が終わった後、ジオルド卿と一緒に敵兵を薙ぎ倒して行く。

加減しないとこうなるのか。

首に当たるよう振るうと、上手くいけば胴と頭は離れるが、中途半端な深さになると苦しみながら死んでいく。腕を切り落とし胴まで刃が届いて、苦しむ者も少なくない。

そして、このエリアを攻めている指揮官らしき姿を、敵軍の中腹に確認するると、剣を地面に突き刺し、背負っていた特注の大型の弓を構えると、しならせ矢を放つ。

「クリス、やったな」

「この距離だと狙った場所には当たりませんね。頭部を狙ったのですが胸に刺さったようです」

「見てみろ、後方は引いていく。それに気付いていない前衛を片付ければいい」

「はい」




数日が経ち、歩兵と物資が到着。近隣の領地から医師の派遣や物資の支援もあり十分と言える。

その内、王都から軍が到着し、そこから長い戦いとなった。
カロンが諦めず、引いては攻めることを繰り返していたからだ。

敵兵の数が多いのに防げているのは地形のおかげだ。
国境手前のカロン側は険しい谷になっていて、大軍で一気に攻め入ることができない。



団長も来て、僕を王都に戻すと言われたこともあったが、エスペランドの地が平穏を取り戻すまで離れるつもりはないと拒否した。

まあ、命令違反ともとれるが、“普通は帰りたいと言って戦うことを拒否する新兵ならいるけどな” と苦笑いをして許してもらえた。
それには辺境伯と辺境軍の圧が団長に降り注いだから。

“団長、俺達の可愛い弟分を取りあげるつもりですか”

“クリスの代わりだと胸を張っていえる者を目の前に連れてきてください。確かめますんで”

“兄貴としての教育が終わっていないんで返しません”

そして、

“団長。クリスは此処に最後までいます”

と辺境伯が団長を威圧してしまった。

休みは取らせるように団長が言うと、辺境伯達は、たっぷり食べさせますから大丈夫ですと僕を背に隠した。

大きいから隠れてないけど。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

【完結】妹を庇って怪我をしたら、婚約破棄されました

紫宛
恋愛
R15とR18は、保険です(*ᴗˬᴗ)⁾ 馬の後ろに立つのは危険……そう言われていたのに私の妹は、急に走り寄ってきて馬の後ろに立ったのです。 そして、びっくりした馬が妹を蹴ろうとしたので、私は咄嗟に妹を庇いました。 ……脊椎脊髄損傷、私は足が動かなくなり車椅子での生活が余儀なくされましたの。 父からは、穀潰しと言われてしまいましたわ。その上……婚約者からも、動けない私を娶るのは嫌だと言われ婚約破棄されました。 そんな時、こんな私を娶ってくれるという奇特な人が現れました。 辺境伯様で、血濡れの悪魔と噂されている方です。 蒼海の乙女と言われた令嬢は、怪我が原因で家族に見捨てられ、辺境伯家で、愛され大切にされるお話。 ※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定、リハビリ作品※

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

処理中です...