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僕と近衛隊の副隊長

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ガキッ

木刀の接触する音と同時に折れる音、

ドゴッ

すぐ防具に当たる音、

「グハッ」

ズサーッ

地面に体が擦れる音。

そして静まり返る訓練場に副団長の声が響く。

「副隊長は、サモール卿を無能呼ばわりして彼の名誉を貶めた。

サモール卿は近衛からも全辺境伯軍からも、全公爵家からも、全侯爵家からもオファーがあったほどの実力者だ。

他の新兵達と同じ扱いをして下積みをさせない理由は、近衛の副隊長でさえ敵わない実力があって不要だからだ。

手加減しないと相手を殺しかねない力の持ち主で、さっき見たように副隊長からの攻撃を防ぐこともできる。

だから補佐に就かせて荷物を持たせ、会話を聞かせて覚えさせているんだ。

さあ、もう1人居たな」

僕の陰口を言っていた、防具を着けている近衛は謝った。

「申し訳ありません!」

「他にもいるか?
不満があるなら今、決着をつけるぞ」

誰も名乗り出なかった。

「副団長。終わりでいいかな?」

「はい」

団長は倒れて痛みに苦しむ副隊長の側まで行くと、

「近衛隊、バード副隊長」

「…は…い」

「任を解く」

「そ…んな」

「副隊長の役割は部下を助け指導し、隊を纏め、団に貢献することであって、新人の陰口を言うことではない。卑怯者が。
不満があるなら堂々と言えばいいだろう」

「っ!」

「半年間、庭師になれ。
お前達の目にはサモール卿は庭師が向いてると映ったのだよな?お前達がしっかり体験するといい。
その後は騎士団の下働きを半年間。

その間の賃金は、今のサモール卿と同じ額になる。
彼に負けたのだから、本当はそれより安くないとならないが、サモール卿は補佐官の賃金ではなく新人騎士と同じ額しかもらっていない。

だから同額で許してやろう」

「そんな…妻と子が…」

「養うべき大事な家族がいるのなら慎重になるべきだったな。
 
妻と子に、新人イビリをして、その新人に負けて庭師見習いになったと正直に告げて、節約させるなり、金目の物を売るなり、実家に支援を頼むんだな。

ギャバエル卿。お前もだからな。

2人とも、騎士宿舎の荷物を使用人の部屋に移せ。後で案内のメイドを行かせる。

庭師だからな。ほとんどが肉体労働だから、明日から汚れてもいい服を着ろよ。

身分証は差し替える。支給品と一緒に置いていけ。新しい身分証は部屋に置かせたから無くすなよ」

「申し訳ありませんでした…ですが息子が来月婚約式なのです」

「署名は?」

「婚約式の日に」

「そうか。なら先方に話して待ってもらうか、続けるか、無かったことにするか選んでもらえ」

「息子に罪はありません」

「相手にそう言えばいいだろう。其方には罪があるのだから仕方ない。

1年後の今日、近衛隊の入隊試験を行う。
受かれば2人とも近衛隊の新人だ。受からなかったら一般兵から頑張るんだな」

「あまりにも罰が重すぎます」

「私も彼を近衛隊へ誘った一人だ。
彼を無能呼ばわりするということは、私のことも、副団長のことも、辺境伯達や公爵達や侯爵達、その他オファーした者達に、お前達は見る目が無いと侮辱してるのも同じだと気付かないのか?」

「そんなつもりは…」

「つもりが無くても言ってしまったんだ。
不満なら城から去れ」

項垂れたギャバエル卿と立てないバード副隊長は連れていかれてしまった。

「サモール卿、すまなかったな。
監督不行き届きだった」

「いえ。私自身も迷いがありました。このままでいいのかと。その弱々しさが招いた結果です。ご迷惑をお掛けしました」

「こんな真っ直ぐな息子が欲しいものだ」

「止めてください。私の部下ですから」

「面白いものを見せてもらった」

王太子殿下が側まで歩いて来た。

「王太子殿下にご挨拶を申し上げます」

「不自由はないか」

「ございません!」

「元気だな。頑張ってくれ」

「はっ!」


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