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ユーグ王太子殿下のお妃探し

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予想通り、パトリシアが妃候補として1ヶ月後の茶会に呼ばれた。

お義母様とパトリシアがユーグ王太子殿下について質問をしてきた。

「アナベル。貴女がパトリシアだったら受ける?」

「人としてのユーグ王太子殿下という意味では受けます。
ですがそれと妃教育は別です。学園と同時進行ということになります。

やり抜く強い意志を求められます。

今のところは恋愛でもありませんので、夢を見てはいけません。殿下に何かを求めるのではなく、己との戦いだと思ってください。 

後は、他にライバルがいるかどうかでも負担が違います。蹴落とすようなライバルの場合には精神的にも疲弊します。

そういう人が1人なのか複数なのかわかりません。
強気でいくのか、揉め事を避けるようにしたいのかであしらい方が変わってくると思います。

笑顔でいても、それが本心とは限りません。
油断ができないということです。

妃の縁談を受ける人は3タイプいます。
王妃の座を望む者、当主命令に従う者、殿下に恋をしている者です。

パトリシアに受ける理由があるのか、覚悟があるのか次第だと思います。
とにかく会わなければ始まりません」

「お義姉様は前に王子殿下と婚約したのは何故ですか?」

「結果的には王命よ。」

「王命…

ユーグ王太子殿下の魅力は何ですか?」

「友人でもないから語るには不十分だけど、分かっていることは、お母様を大事にしているわ。そして才能を持った努力家よ。文武両道の手本じゃないかしら。後は好きになったら一途だと思うわ」


困惑した顔をしていたけど、会わないことには判断がつかないわよね。




そして1ヶ月後。

「お義姉様、怖いです」

「大丈夫。礼儀正しくしていればいいの。
不安なら大人しくしていればいいわ」


本当はお義母様が付き添う予定だったけど、風邪を引いてしまい、私が代役だ。

今日は女人のみということで、頼まれた。

ルシアン様がだいぶ渋っていたけど、今朝発熱が分かったから当日の代理なんてそう頼めない。



会場に案内されると、私と目を合わせた兵士が走っていった。

誰かに知らせに行くのよね? 走り去るほど私が嫌いってわけじゃないわよね?

席に座り待っていると、近衛が近付いて耳打ちをした。

「お席の移動をお願いします」

「どこにですか?」

近衛の示した先は一番いい席だった。

「パトリシア、ここで待っていてね」

「はい、お義姉様」


近衛を端に連れて行った。

「どなたの指示なのかしら」

「王太子殿下でございます」

「私達はあの席を動きません。
私が来たからと、いい席を開けてはいけません。
今日は私が会いに来たのではなく、パトリシア・ラコルデールが招待されたのです。

席順は理由があって決まっているのです。安易に移せばパトリシアが他の令嬢達から攻撃を受けるでしょう。

どうしても移らねばならないのなら、今すぐ帰ります」

「お、お待ちください」


席に戻るとパトリシアが不安そうにしていた。

「大丈夫よ」

しばらくすると、近衛がメッセージカードを渡しながら、先程の話は取り消させてくださいと言って一礼して去った。

“浅慮だった。すまない。 ユーグ”



その後挨拶を終え、順番に殿下がテーブルを回り、自由な時間となった。

今回の候補者達は意外にも良い子ばかりで、パトリシアは早速友人を作り始めた。

断りを入れてメイドに見張りを頼んでお花摘みに席を外した。

「アナベル」

声の主は分かっている。

「セイリアン殿下。ごきげんよう」

「アナベル嬢と呼んだ方がいいな。

今まで申し訳なかった。
馬鹿で自惚れていて、君を筋違いな劣等感の捌け口にしていた。

数年間、君の時間を奪って、仕事まで押し付けて。

劣等感なんて持つ資格さえ無かった。
君と同じくらい努力をして、初めて持っていい感情だった。

今の私は詫びをする力もない。
遅すぎるがやらないよりはマシだ。
詫びができるようになったら、改めて謝罪をさせて欲しい」

「分かりましたわ。

王城には頼れる大人がたくさんおりますから、教えを乞うとよろしいかと」

「甘えにならないか」

「押し付けたりするわけではなく、知識を与えてもらったり、助言をもらうことは甘えではありません。

助けてくださった方々を敬い、感謝をすれば彼らは喜びます。

もし、何かを成して認められた時に、陛下に助けてくださった方の名を報告なさることで恩返しができますわ」

「そうか。頑張るよ」

「無理はなさらないようにしてくださいね」

「ああ、ありがとう」


…驚いた。憑きモノが取れたように穏やかだ。
もしかしたら、これが本来のセイリアン殿下なのかもしれない。


お花摘みから戻る途中で腕を引っ張られて部屋に引き摺り込まれた。
口を塞いだのはユーグ王太子殿下だった。

「シッ」

手を離したので怒った。

「何やっているんですか。驚かすのは止めてください」

「すまない」

「主役がこんな所で何をなさっているのですか。
会場に戻ってください」

「アナベル。俺は君を妻に選びたい。何故 駄目なんだ」

「疲れたんです。王族から一線を引くために従わなくてもいい、“子を成すためだけの妾になれ”なんて命令を受け入れたのです。

入籍はしていませんが、夫婦同様の生活をしています。初婚の王太子殿下の妻にはなれません」

「子ができた訳じゃないだろう」

「ラコルデール侯爵家は、ルシアンは、巻き添えになりながらも誠実で、私に優しくしてくださいます。

正妻としての求婚もされました。
今は自分の気持ちを確かめているところです。

殿下も先ずは招待した令嬢と向き合うべきです」


会場に戻り、パトリシアを見守り、友人ができたと喜ぶパトリシアと屋敷に帰った。








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