20 / 23
ユーグ王太子殿下のお妃探し
しおりを挟む
予想通り、パトリシアが妃候補として1ヶ月後の茶会に呼ばれた。
お義母様とパトリシアがユーグ王太子殿下について質問をしてきた。
「アナベル。貴女がパトリシアだったら受ける?」
「人としてのユーグ王太子殿下という意味では受けます。
ですがそれと妃教育は別です。学園と同時進行ということになります。
やり抜く強い意志を求められます。
今のところは恋愛でもありませんので、夢を見てはいけません。殿下に何かを求めるのではなく、己との戦いだと思ってください。
後は、他にライバルがいるかどうかでも負担が違います。蹴落とすようなライバルの場合には精神的にも疲弊します。
そういう人が1人なのか複数なのかわかりません。
強気でいくのか、揉め事を避けるようにしたいのかであしらい方が変わってくると思います。
笑顔でいても、それが本心とは限りません。
油断ができないということです。
妃の縁談を受ける人は3タイプいます。
王妃の座を望む者、当主命令に従う者、殿下に恋をしている者です。
パトリシアに受ける理由があるのか、覚悟があるのか次第だと思います。
とにかく会わなければ始まりません」
「お義姉様は前に王子殿下と婚約したのは何故ですか?」
「結果的には王命よ。」
「王命…
ユーグ王太子殿下の魅力は何ですか?」
「友人でもないから語るには不十分だけど、分かっていることは、お母様を大事にしているわ。そして才能を持った努力家よ。文武両道の手本じゃないかしら。後は好きになったら一途だと思うわ」
困惑した顔をしていたけど、会わないことには判断がつかないわよね。
そして1ヶ月後。
「お義姉様、怖いです」
「大丈夫。礼儀正しくしていればいいの。
不安なら大人しくしていればいいわ」
本当はお義母様が付き添う予定だったけど、風邪を引いてしまい、私が代役だ。
今日は女人のみということで、頼まれた。
ルシアン様がだいぶ渋っていたけど、今朝発熱が分かったから当日の代理なんてそう頼めない。
会場に案内されると、私と目を合わせた兵士が走っていった。
誰かに知らせに行くのよね? 走り去るほど私が嫌いってわけじゃないわよね?
席に座り待っていると、近衛が近付いて耳打ちをした。
「お席の移動をお願いします」
「どこにですか?」
近衛の示した先は一番いい席だった。
「パトリシア、ここで待っていてね」
「はい、お義姉様」
近衛を端に連れて行った。
「どなたの指示なのかしら」
「王太子殿下でございます」
「私達はあの席を動きません。
私が来たからと、いい席を開けてはいけません。
今日は私が会いに来たのではなく、パトリシア・ラコルデールが招待されたのです。
席順は理由があって決まっているのです。安易に移せばパトリシアが他の令嬢達から攻撃を受けるでしょう。
どうしても移らねばならないのなら、今すぐ帰ります」
「お、お待ちください」
席に戻るとパトリシアが不安そうにしていた。
「大丈夫よ」
しばらくすると、近衛がメッセージカードを渡しながら、先程の話は取り消させてくださいと言って一礼して去った。
“浅慮だった。すまない。 ユーグ”
その後挨拶を終え、順番に殿下がテーブルを回り、自由な時間となった。
今回の候補者達は意外にも良い子ばかりで、パトリシアは早速友人を作り始めた。
断りを入れてメイドに見張りを頼んでお花摘みに席を外した。
「アナベル」
声の主は分かっている。
「セイリアン殿下。ごきげんよう」
「アナベル嬢と呼んだ方がいいな。
今まで申し訳なかった。
馬鹿で自惚れていて、君を筋違いな劣等感の捌け口にしていた。
数年間、君の時間を奪って、仕事まで押し付けて。
劣等感なんて持つ資格さえ無かった。
君と同じくらい努力をして、初めて持っていい感情だった。
今の私は詫びをする力もない。
遅すぎるがやらないよりはマシだ。
詫びができるようになったら、改めて謝罪をさせて欲しい」
「分かりましたわ。
王城には頼れる大人がたくさんおりますから、教えを乞うとよろしいかと」
「甘えにならないか」
「押し付けたりするわけではなく、知識を与えてもらったり、助言をもらうことは甘えではありません。
助けてくださった方々を敬い、感謝をすれば彼らは喜びます。
もし、何かを成して認められた時に、陛下に助けてくださった方の名を報告なさることで恩返しができますわ」
「そうか。頑張るよ」
「無理はなさらないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
…驚いた。憑きモノが取れたように穏やかだ。
もしかしたら、これが本来のセイリアン殿下なのかもしれない。
お花摘みから戻る途中で腕を引っ張られて部屋に引き摺り込まれた。
口を塞いだのはユーグ王太子殿下だった。
「シッ」
手を離したので怒った。
「何やっているんですか。驚かすのは止めてください」
「すまない」
「主役がこんな所で何をなさっているのですか。
会場に戻ってください」
「アナベル。俺は君を妻に選びたい。何故 駄目なんだ」
「疲れたんです。王族から一線を引くために従わなくてもいい、“子を成すためだけの妾になれ”なんて命令を受け入れたのです。
入籍はしていませんが、夫婦同様の生活をしています。初婚の王太子殿下の妻にはなれません」
「子ができた訳じゃないだろう」
「ラコルデール侯爵家は、ルシアンは、巻き添えになりながらも誠実で、私に優しくしてくださいます。
正妻としての求婚もされました。
今は自分の気持ちを確かめているところです。
殿下も先ずは招待した令嬢と向き合うべきです」
会場に戻り、パトリシアを見守り、友人ができたと喜ぶパトリシアと屋敷に帰った。
お義母様とパトリシアがユーグ王太子殿下について質問をしてきた。
「アナベル。貴女がパトリシアだったら受ける?」
「人としてのユーグ王太子殿下という意味では受けます。
ですがそれと妃教育は別です。学園と同時進行ということになります。
やり抜く強い意志を求められます。
今のところは恋愛でもありませんので、夢を見てはいけません。殿下に何かを求めるのではなく、己との戦いだと思ってください。
後は、他にライバルがいるかどうかでも負担が違います。蹴落とすようなライバルの場合には精神的にも疲弊します。
そういう人が1人なのか複数なのかわかりません。
強気でいくのか、揉め事を避けるようにしたいのかであしらい方が変わってくると思います。
笑顔でいても、それが本心とは限りません。
油断ができないということです。
妃の縁談を受ける人は3タイプいます。
王妃の座を望む者、当主命令に従う者、殿下に恋をしている者です。
パトリシアに受ける理由があるのか、覚悟があるのか次第だと思います。
とにかく会わなければ始まりません」
「お義姉様は前に王子殿下と婚約したのは何故ですか?」
「結果的には王命よ。」
「王命…
ユーグ王太子殿下の魅力は何ですか?」
「友人でもないから語るには不十分だけど、分かっていることは、お母様を大事にしているわ。そして才能を持った努力家よ。文武両道の手本じゃないかしら。後は好きになったら一途だと思うわ」
困惑した顔をしていたけど、会わないことには判断がつかないわよね。
そして1ヶ月後。
「お義姉様、怖いです」
「大丈夫。礼儀正しくしていればいいの。
不安なら大人しくしていればいいわ」
本当はお義母様が付き添う予定だったけど、風邪を引いてしまい、私が代役だ。
今日は女人のみということで、頼まれた。
ルシアン様がだいぶ渋っていたけど、今朝発熱が分かったから当日の代理なんてそう頼めない。
会場に案内されると、私と目を合わせた兵士が走っていった。
誰かに知らせに行くのよね? 走り去るほど私が嫌いってわけじゃないわよね?
席に座り待っていると、近衛が近付いて耳打ちをした。
「お席の移動をお願いします」
「どこにですか?」
近衛の示した先は一番いい席だった。
「パトリシア、ここで待っていてね」
「はい、お義姉様」
近衛を端に連れて行った。
「どなたの指示なのかしら」
「王太子殿下でございます」
「私達はあの席を動きません。
私が来たからと、いい席を開けてはいけません。
今日は私が会いに来たのではなく、パトリシア・ラコルデールが招待されたのです。
席順は理由があって決まっているのです。安易に移せばパトリシアが他の令嬢達から攻撃を受けるでしょう。
どうしても移らねばならないのなら、今すぐ帰ります」
「お、お待ちください」
席に戻るとパトリシアが不安そうにしていた。
「大丈夫よ」
しばらくすると、近衛がメッセージカードを渡しながら、先程の話は取り消させてくださいと言って一礼して去った。
“浅慮だった。すまない。 ユーグ”
その後挨拶を終え、順番に殿下がテーブルを回り、自由な時間となった。
今回の候補者達は意外にも良い子ばかりで、パトリシアは早速友人を作り始めた。
断りを入れてメイドに見張りを頼んでお花摘みに席を外した。
「アナベル」
声の主は分かっている。
「セイリアン殿下。ごきげんよう」
「アナベル嬢と呼んだ方がいいな。
今まで申し訳なかった。
馬鹿で自惚れていて、君を筋違いな劣等感の捌け口にしていた。
数年間、君の時間を奪って、仕事まで押し付けて。
劣等感なんて持つ資格さえ無かった。
君と同じくらい努力をして、初めて持っていい感情だった。
今の私は詫びをする力もない。
遅すぎるがやらないよりはマシだ。
詫びができるようになったら、改めて謝罪をさせて欲しい」
「分かりましたわ。
王城には頼れる大人がたくさんおりますから、教えを乞うとよろしいかと」
「甘えにならないか」
「押し付けたりするわけではなく、知識を与えてもらったり、助言をもらうことは甘えではありません。
助けてくださった方々を敬い、感謝をすれば彼らは喜びます。
もし、何かを成して認められた時に、陛下に助けてくださった方の名を報告なさることで恩返しができますわ」
「そうか。頑張るよ」
「無理はなさらないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
…驚いた。憑きモノが取れたように穏やかだ。
もしかしたら、これが本来のセイリアン殿下なのかもしれない。
お花摘みから戻る途中で腕を引っ張られて部屋に引き摺り込まれた。
口を塞いだのはユーグ王太子殿下だった。
「シッ」
手を離したので怒った。
「何やっているんですか。驚かすのは止めてください」
「すまない」
「主役がこんな所で何をなさっているのですか。
会場に戻ってください」
「アナベル。俺は君を妻に選びたい。何故 駄目なんだ」
「疲れたんです。王族から一線を引くために従わなくてもいい、“子を成すためだけの妾になれ”なんて命令を受け入れたのです。
入籍はしていませんが、夫婦同様の生活をしています。初婚の王太子殿下の妻にはなれません」
「子ができた訳じゃないだろう」
「ラコルデール侯爵家は、ルシアンは、巻き添えになりながらも誠実で、私に優しくしてくださいます。
正妻としての求婚もされました。
今は自分の気持ちを確かめているところです。
殿下も先ずは招待した令嬢と向き合うべきです」
会場に戻り、パトリシアを見守り、友人ができたと喜ぶパトリシアと屋敷に帰った。
193
お気に入りに追加
4,279
あなたにおすすめの小説
【本文非公開】すてられた想い人をなぐさめたら、逆に私がひろわれました!?
鷹槻れん
恋愛
大好きなアイツが、ずっと片想いしていた女の子にふられたみたい。
これってチャンスだよね?
――
■鳴宮 言凛(なるみや ことり) 大学2年生
■柳川 寛道(やながわ ひろみち) 大学2年生
――
※『そろくい』https://estar.jp/novels/25558279
の番外編(スピンオフ)作品です。
『そろくい』のほうでサブキャラとして出ていた男の子/柳川寛道にスポットを当てた、頼綱×花々里とは全く別の恋バナです。
読者様からの、寛道へのラブコールを受けてスタ特として公開開始したものが存外長くなりましたので、それに加筆修正して新作として公開することにしました。
※これのみでも分かるように加筆修正したつもりではありますが、『そろくい』の482頁 https://estar.jp/novels/25558279/viewer?page=482までお読みになられてから読み始めると、もっと分かりやすいかな?と思います。
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
(エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755
○書き下ろしのため、公開後に加筆修正する場合が多いにございます。完結時に完成形になると思っていただけたら幸いです。
---------------------
※エブリスタにて先行公開中。
いつか終わりがくるのなら
キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。
まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。
それは誰もが知っている期間限定の婚姻で……
いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。
終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。
アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。
異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。
毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。
ご了承くださいませ。
完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
ヒロインに転生したけどヒロインやる気はありません〜ピンクの髪ってバカっぽくてなんかヤだ。
詩海猫
ファンタジー
入学式の前日に前世の記憶が戻ったけど、私の性格はヒロインに向いてません。この乙女ゲームの世界観に馴染めなくて、すぐ投げちゃったもの。
*タイトル変えるかも知れません、仮のままなので*
転生悪役令嬢は無事婚約解消されました。戻ってきて欲しい?駄目です。(絶倫?)騎士様に恋してますので。
鍋
恋愛
私は、前世の記憶がある。
蓮城奏咲として日本に住み、多分50歳頃まで生きた。そんな記憶。
そして、現世の私はこの国の第1王子デーヴィット殿下の婚約者アイティラ・スターリー。
暇つぶしに読んでいた恋愛小説の悪役令嬢に転生してしまったらしい。
王子に嫌われたら、国外追放。だから、穏便な婚約解消を目指して、みんなの機嫌を取りながら生きてきた。
そして今日、目標達成!
私は無事に婚約解消を言い渡された。
でも、あれ?
ヒロインも転生者?
え?
王子様がマザコン?
王妃様のマウントがしんどい?
やっぱり私に婚約者に戻って欲しい?
そんなの知りません!
悪役令嬢アイティラが理想の騎士を探して口説こうと奮闘するお話です。
※感想欄にネタバレ配慮ないのでご注意ください。
※ヒロインは清楚じゃありません。
※R指定はお話の進み方次第です。→R18に変更しました。性描写は軽め。
※コメディですのでゆるーい気持ちでお願いします。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる