上 下
19 / 23

この世の現実

しおりを挟む
何で…

何でルシアンは元気なの!?

「不満そうだな」

「怠い」

「昨夜は喜んでいたのに」

「……」

「すっきりはしたろう?」

「……」

抱き上げてバスルームへ向かい、湯浴みを始めた。
せっせと磨き、後処理をし、湯に浸かりながら抱きしめる。 

優しく拭いてメイドを呼ぶ。


髪を乾かしてもらったり、化粧水などを付けてもらうと、ソファに促されルシアンに寄りかかってお茶を飲む。


朝食を食べて、抱き上げられ、離れの私室に運ばれて寝かされた。

「午前中はゆっくり休ませてくれ」

「かしこまりました」

すっかり、カリン達はルシアンに慣れてしまった。




午後にお義父様から呼び出しがあった。

お義母様、ルシアン、執事、側近も同席していた。


「先日、アナベルに活躍してもらった違法売春居酒屋の件は、他領に及ぶために国に報告をした。

居酒屋に関してはアバル男爵がオーナーだった。

パラディ領の商家と子爵家が手を組んでいた。
パラディ領や近隣の領の貧しい平民の家から娘を買い取り、同領内や他領に売っていた。

商家は先に子爵に見せて、毎年一人無償で譲る代わりに、領内での便宜を図ってもらっていた。

何か通報があっても調べたが何も無かったと、揉み消す役割を果たしていた。

女の子はパラディ領でオークションにかけられて、落とした者がその場で金を払い連れ帰る仕組みだ。 

アバル男爵はうちで捕らえて、居酒屋の従業員と一緒に引き渡した。

子爵と商家は国が捕らえた。

居酒屋で働かされていた子はうちで保護して、子供は孤児院へ。大人は職を斡旋した。

他領の子供については分からない。
多分同じ様にしたと思うが」

娼館を営業するには、領主に許可を得て、国に届ける必要がある。

そして働く女性は成人以上の年齢でなくてはならない。




話を聞いた後、気分が優れず部屋に篭った。

女性の売買を禁止したら、必要のない女児は間引きされるし、娼婦のなり手が減って、犯罪も増える。

引き取るにも限界がある。 
逆に引き取ってもらえると分かれば、もっと安易に子が生まれるかもしれない。


初めてこの世界が嫌になってしまった。


数日篭って実家に帰り、お父様に聞いたけど、難しいと言われた。

「私は非力ですね」

「だとしたら、私はもっと駄目な領主だ」

「お父様。気持ちが沈んでどうしようもないのです」

「優しい子だな」

「教会に寄付もしたけど、他は手付かずです。
ユーグ殿下を迎えたのに財政難では可哀想ですから半分、城に寄付をしようかと思います」

「では、代理でやっておこう」

「お願いします」


数日後、実家に呼ばれて行くと物々しさがあった。
馬車と護衛騎士を見ると陛下がいらしてるようだ。
応接間に行くと想像通りだった。

「アナベル嬢、呼び付けて悪かったな」

「国王陛下にご挨拶を申し上げます」

「此度は多額の寄付に感謝する」

「いただき過ぎでしたので」

「何か使い道に指定はあるのかな」

「王妃殿下とユーグ王太子殿下の為ですわ。
せっかくお迎えしましたので」

「そうか」

「セイリアン殿下はその後、いかがですか」

「それが、図書室に入り浸っているのだよ」

「探し物が見つかるといいですね」

「心配してくれるのか。憎いだろうに」

「ユーグ王太子殿下が背負い投げしてくださったので、スッキリしました」

「あれは背負い投げというのだな」

しまった。笑顔で誤魔化そう。

「アナベル嬢。気を悪くしないで欲しいのだが、もしユーグが妃に其方を望んだら、その気はあるかな?」

「ありません」

「分かった。忘れて欲しい」

妃選定を始めるのね。いい人が見つかるといいな。

だけど今からだとだいぶ歳下の子が選ばれるわね。パトリシアとか。

ユーグ殿下と同じ年頃の令嬢は嫁いでいるし、私の同級生も婚約しているか結婚してるし。

パトリシアは来年から学園生。侯爵令嬢なら早くに婚約していてもおかしくはないのに。
婚約者は探さなかったのかしら。


陛下をお見送りした後は家族団欒をしていた。
夕食を食べると、お母様に泊まって行きなさいと言われて従うことにした。


就寝前にお母様が私の部屋へ来て隣に座った。

「アナベル。ルシアン様とはどうなの?
辛いことはない?」

「大事にしてくださるわ。侯爵夫妻もいい方です」

「素敵な人と結ばれてくれる方が嬉しいわ。
私達が天に召された後に、代わりに守ってくれる人がいてくれると安心だもの。

だけど、無理に嫁がなくていいのよ」

「どうしてこの世は、お母様やお父様の様に、子を大事にして尊重して、愛してくれる親が少ないのかしら」

「貴族の家では私達の方が異色にみられてしまうわ。

先ずは貴女自身と将来のことを考えなさい。
子を産むなら早くしないといけないわ。
複数人 産むなら尚更よ」

「はい」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

処理中です...