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妾の契約

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「ラコルデール侯爵、ルシアン殿。心中お察しします」

「バシュレ公爵家としてはご納得ですか?妾ですよ?」

「アナベルがいいと言うなら構いません」

「アナベル嬢、よろしいのですか」

「私としては、殿下に嫁ごうと、ご子息に囲われようと同じこと。愛などありませんから」

「アナベル嬢は殿下を愛していないと?」

ルシアンが顔に疑問符を浮かべて質問をした。

「ルシアン様、殿下の何処を愛せと?」

「……」

「王命で仕方なく婚約し、仕方なく厳しい王子妃教育を受けて、仕方なく殿下の仕事をほぼ全て肩代わりしてまいりました。
当人は浮気をして遊び回っているのにですよ?

私、そんな奇特な趣向は持ち合わせておりませんわ」

「そうですか。では、息子ルシアンとアナベル嬢の条件を擦り合わせましょう」

「ルシアン様、契約書に載せたいことはありますか?
貴方もピ…ビジュー様をお慕いして、彼女の側にいらしたのですから、彼女から私の陰口を聞いていたでしょう。

事実無根ですが、恋するルシアン様はビジュー様を信じていらっしゃることでしょう。
遠慮なく、仰ってください」

「ルシアン!お前!」

「侯爵様、過ぎたことですわ」

「アナベル嬢、申し訳ございません。ルシアン、要望を言いなさい」

「私は妻を別に娶ります」

「お決まりの令嬢が?」

「いません」

「分かりましたわ。他には?」

「離れに部屋を用意させます。不自由はさせません」

「改装費用は私が払いますから自由にさせてください。使用人は連れて行きます。
私の部屋を大小一つずつ、側に専属メイドの部屋を二つお願いします」

「分かりました。
妻として扱うことはありません。妾ということですので、社交もありません。
離れには別途食堂もありますので、そちらに食事を運ばせます」

「結構ですわ」

「閨は孕みやすい時期に2日。

私達に愛はありません」

「承知しました」

「以上です」

「では、私から。
閨以外の関わりは拒否いたします。
愛のない妾ですからお互いに好都合のはずです。

自分の物は自分で買います。食事や生活に必要な消耗品や備品はお願いします。

私は囚人ではありませんので、断りを入れることなく外出をします。他所で体を許したりしませんが、侯爵家の護衛騎士を付けて見張らせるなりしてください。

閨は1日に一度。月に2日。
体調が悪い日はお休みさせてください。

子を産むか、三年経てば妾契約は満了です。
子の性別や生死は影響を受けません」

「生死?」

「死産という可能性もございます。それでも子を産んだことにかわりはありません。

正妻を娶るとのことですが、正妻との関わりも一切拒否します。顔も合わせませんし、挨拶もしません。離れには近寄らせないでください」

「分りました」

「そしてラコルデール家の籍には移らないままにします」

「それでは、」

「殿下は婚姻しろとは仰っておりません。妾として子を産んだら分かれてもいいと仰いました。

生まれた子が不要であれば私が引き取ります」

「分りました」

「では、すぐに業者を入れて部屋の改装をさせていただきます」


清書した契約書に署名した。





部屋の改装が済むまで1ヶ月。その間に自由を満喫した。

まあ、妾になってもほぼ自由なのだけど。 


「アナベル様、ごきげんよう」

「シスター。ごきげんよう。司教様にお会いできますか」

「はい。ご案内いたします」

教会の奥の応接間に通されると、司教様がいらした。

「アナベル様。この度はおめでとうございます…でよろしいのでしょうか」

「もちろんです。神の誓ったのに不誠実な男と決別できて嬉しいですわ」

「アナベル様の神の啓示を伺ったときは信じられませんでしたが、数年前にお話しいただいた通り、事が進みましたね」

「教会を巻き込んで申し訳ございません」

「私は婚前契約書を預かっただけですよ」

「あの内容通り、慰謝料が支払われました。
これは司教様が良かれと思う用途にご自由にお使いください」

使用人達が次々と麻袋を運んだ。
「ア、アナベル様…」

「金貨2万枚を寄付します」

これは慰謝料のほんの一部だけど。

「ほ、本当に王家が支払いを?」

「ええ。数日に渡って屋敷に届けに来ましたわ。
即日支払わないと王族全員を平民にして追放し、バシュレ家が王族になるというペナルティが明記してありますから、個人資産をかき集め、王妃様の親族からも借り、国庫にも手を付け、多分宝物庫にも手を出して工面したでしょう。

殿下からの破婚と不貞ですのでしっかりと巻き上げましたわ。
領地の者に平等な家を建ててあげて、道も全部舗装して、施設も立て替えたり新設しますわ。

教会も建て替えますのよ」

「積極的に使うのですね」

「残しすぎると狙われますから」

「なるほど」

「それでお願いがございます」

「どうぞ、仰ってください」

「勉強を教えられるシスターを何人か我が領に派遣していただきたいのです。教会を建て替えて、学舎も作り、領民の学力の底上げをします。

寄付というかたちで給金を支払いますので、平民の子供に一から教える気骨のある方々を探していただけませんか。教会は二箇所に建てますので、2名ずつお願いしたいのです」

「お任せください」

「では、こちらが新たな契約書です。保管していただけますか」

「妾!?」

「殿下がお命じになりましたので。最長三年、ほぼ何もせず待てば完全に自由の身ですから悪くはありませんわ。
政略結婚でもしたと思うことます」

「何かあれば頼ってくださいね」

「ありがとうございます」

妾契約書を預けて屋敷に戻った。

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