2 / 23
妾の契約
しおりを挟む
「ラコルデール侯爵、ルシアン殿。心中お察しします」
「バシュレ公爵家としてはご納得ですか?妾ですよ?」
「アナベルがいいと言うなら構いません」
「アナベル嬢、よろしいのですか」
「私としては、殿下に嫁ごうと、ご子息に囲われようと同じこと。愛などありませんから」
「アナベル嬢は殿下を愛していないと?」
ルシアンが顔に疑問符を浮かべて質問をした。
「ルシアン様、殿下の何処を愛せと?」
「……」
「王命で仕方なく婚約し、仕方なく厳しい王子妃教育を受けて、仕方なく殿下の仕事をほぼ全て肩代わりしてまいりました。
当人は浮気をして遊び回っているのにですよ?
私、そんな奇特な趣向は持ち合わせておりませんわ」
「そうですか。では、息子ルシアンとアナベル嬢の条件を擦り合わせましょう」
「ルシアン様、契約書に載せたいことはありますか?
貴方もピ…ビジュー様をお慕いして、彼女の側にいらしたのですから、彼女から私の陰口を聞いていたでしょう。
事実無根ですが、恋するルシアン様はビジュー様を信じていらっしゃることでしょう。
遠慮なく、仰ってください」
「ルシアン!お前!」
「侯爵様、過ぎたことですわ」
「アナベル嬢、申し訳ございません。ルシアン、要望を言いなさい」
「私は妻を別に娶ります」
「お決まりの令嬢が?」
「いません」
「分かりましたわ。他には?」
「離れに部屋を用意させます。不自由はさせません」
「改装費用は私が払いますから自由にさせてください。使用人は連れて行きます。
私の部屋を大小一つずつ、側に専属メイドの部屋を二つお願いします」
「分かりました。
妻として扱うことはありません。妾ということですので、社交もありません。
離れには別途食堂もありますので、そちらに食事を運ばせます」
「結構ですわ」
「閨は孕みやすい時期に2日。
私達に愛はありません」
「承知しました」
「以上です」
「では、私から。
閨以外の関わりは拒否いたします。
愛のない妾ですからお互いに好都合のはずです。
自分の物は自分で買います。食事や生活に必要な消耗品や備品はお願いします。
私は囚人ではありませんので、断りを入れることなく外出をします。他所で体を許したりしませんが、侯爵家の護衛騎士を付けて見張らせるなりしてください。
閨は1日に一度。月に2日。
体調が悪い日はお休みさせてください。
子を産むか、三年経てば妾契約は満了です。
子の性別や生死は影響を受けません」
「生死?」
「死産という可能性もございます。それでも子を産んだことにかわりはありません。
正妻を娶るとのことですが、正妻との関わりも一切拒否します。顔も合わせませんし、挨拶もしません。離れには近寄らせないでください」
「分りました」
「そしてラコルデール家の籍には移らないままにします」
「それでは、」
「殿下は婚姻しろとは仰っておりません。妾として子を産んだら分かれてもいいと仰いました。
生まれた子が不要であれば私が引き取ります」
「分りました」
「では、すぐに業者を入れて部屋の改装をさせていただきます」
清書した契約書に署名した。
部屋の改装が済むまで1ヶ月。その間に自由を満喫した。
まあ、妾になってもほぼ自由なのだけど。
「アナベル様、ごきげんよう」
「シスター。ごきげんよう。司教様にお会いできますか」
「はい。ご案内いたします」
教会の奥の応接間に通されると、司教様がいらした。
「アナベル様。この度はおめでとうございます…でよろしいのでしょうか」
「もちろんです。神の誓ったのに不誠実な男と決別できて嬉しいですわ」
「アナベル様の神の啓示を伺ったときは信じられませんでしたが、数年前にお話しいただいた通り、事が進みましたね」
「教会を巻き込んで申し訳ございません」
「私は婚前契約書を預かっただけですよ」
「あの内容通り、慰謝料が支払われました。
これは司教様が良かれと思う用途にご自由にお使いください」
使用人達が次々と麻袋を運んだ。
「ア、アナベル様…」
「金貨2万枚を寄付します」
これは慰謝料のほんの一部だけど。
「ほ、本当に王家が支払いを?」
「ええ。数日に渡って屋敷に届けに来ましたわ。
即日支払わないと王族全員を平民にして追放し、バシュレ家が王族になるというペナルティが明記してありますから、個人資産をかき集め、王妃様の親族からも借り、国庫にも手を付け、多分宝物庫にも手を出して工面したでしょう。
殿下からの破婚と不貞ですのでしっかりと巻き上げましたわ。
領地の者に平等な家を建ててあげて、道も全部舗装して、施設も立て替えたり新設しますわ。
教会も建て替えますのよ」
「積極的に使うのですね」
「残しすぎると狙われますから」
「なるほど」
「それでお願いがございます」
「どうぞ、仰ってください」
「勉強を教えられるシスターを何人か我が領に派遣していただきたいのです。教会を建て替えて、学舎も作り、領民の学力の底上げをします。
寄付というかたちで給金を支払いますので、平民の子供に一から教える気骨のある方々を探していただけませんか。教会は二箇所に建てますので、2名ずつお願いしたいのです」
「お任せください」
「では、こちらが新たな契約書です。保管していただけますか」
「妾!?」
「殿下がお命じになりましたので。最長三年、ほぼ何もせず待てば完全に自由の身ですから悪くはありませんわ。
政略結婚でもしたと思うことます」
「何かあれば頼ってくださいね」
「ありがとうございます」
妾契約書を預けて屋敷に戻った。
「バシュレ公爵家としてはご納得ですか?妾ですよ?」
「アナベルがいいと言うなら構いません」
「アナベル嬢、よろしいのですか」
「私としては、殿下に嫁ごうと、ご子息に囲われようと同じこと。愛などありませんから」
「アナベル嬢は殿下を愛していないと?」
ルシアンが顔に疑問符を浮かべて質問をした。
「ルシアン様、殿下の何処を愛せと?」
「……」
「王命で仕方なく婚約し、仕方なく厳しい王子妃教育を受けて、仕方なく殿下の仕事をほぼ全て肩代わりしてまいりました。
当人は浮気をして遊び回っているのにですよ?
私、そんな奇特な趣向は持ち合わせておりませんわ」
「そうですか。では、息子ルシアンとアナベル嬢の条件を擦り合わせましょう」
「ルシアン様、契約書に載せたいことはありますか?
貴方もピ…ビジュー様をお慕いして、彼女の側にいらしたのですから、彼女から私の陰口を聞いていたでしょう。
事実無根ですが、恋するルシアン様はビジュー様を信じていらっしゃることでしょう。
遠慮なく、仰ってください」
「ルシアン!お前!」
「侯爵様、過ぎたことですわ」
「アナベル嬢、申し訳ございません。ルシアン、要望を言いなさい」
「私は妻を別に娶ります」
「お決まりの令嬢が?」
「いません」
「分かりましたわ。他には?」
「離れに部屋を用意させます。不自由はさせません」
「改装費用は私が払いますから自由にさせてください。使用人は連れて行きます。
私の部屋を大小一つずつ、側に専属メイドの部屋を二つお願いします」
「分かりました。
妻として扱うことはありません。妾ということですので、社交もありません。
離れには別途食堂もありますので、そちらに食事を運ばせます」
「結構ですわ」
「閨は孕みやすい時期に2日。
私達に愛はありません」
「承知しました」
「以上です」
「では、私から。
閨以外の関わりは拒否いたします。
愛のない妾ですからお互いに好都合のはずです。
自分の物は自分で買います。食事や生活に必要な消耗品や備品はお願いします。
私は囚人ではありませんので、断りを入れることなく外出をします。他所で体を許したりしませんが、侯爵家の護衛騎士を付けて見張らせるなりしてください。
閨は1日に一度。月に2日。
体調が悪い日はお休みさせてください。
子を産むか、三年経てば妾契約は満了です。
子の性別や生死は影響を受けません」
「生死?」
「死産という可能性もございます。それでも子を産んだことにかわりはありません。
正妻を娶るとのことですが、正妻との関わりも一切拒否します。顔も合わせませんし、挨拶もしません。離れには近寄らせないでください」
「分りました」
「そしてラコルデール家の籍には移らないままにします」
「それでは、」
「殿下は婚姻しろとは仰っておりません。妾として子を産んだら分かれてもいいと仰いました。
生まれた子が不要であれば私が引き取ります」
「分りました」
「では、すぐに業者を入れて部屋の改装をさせていただきます」
清書した契約書に署名した。
部屋の改装が済むまで1ヶ月。その間に自由を満喫した。
まあ、妾になってもほぼ自由なのだけど。
「アナベル様、ごきげんよう」
「シスター。ごきげんよう。司教様にお会いできますか」
「はい。ご案内いたします」
教会の奥の応接間に通されると、司教様がいらした。
「アナベル様。この度はおめでとうございます…でよろしいのでしょうか」
「もちろんです。神の誓ったのに不誠実な男と決別できて嬉しいですわ」
「アナベル様の神の啓示を伺ったときは信じられませんでしたが、数年前にお話しいただいた通り、事が進みましたね」
「教会を巻き込んで申し訳ございません」
「私は婚前契約書を預かっただけですよ」
「あの内容通り、慰謝料が支払われました。
これは司教様が良かれと思う用途にご自由にお使いください」
使用人達が次々と麻袋を運んだ。
「ア、アナベル様…」
「金貨2万枚を寄付します」
これは慰謝料のほんの一部だけど。
「ほ、本当に王家が支払いを?」
「ええ。数日に渡って屋敷に届けに来ましたわ。
即日支払わないと王族全員を平民にして追放し、バシュレ家が王族になるというペナルティが明記してありますから、個人資産をかき集め、王妃様の親族からも借り、国庫にも手を付け、多分宝物庫にも手を出して工面したでしょう。
殿下からの破婚と不貞ですのでしっかりと巻き上げましたわ。
領地の者に平等な家を建ててあげて、道も全部舗装して、施設も立て替えたり新設しますわ。
教会も建て替えますのよ」
「積極的に使うのですね」
「残しすぎると狙われますから」
「なるほど」
「それでお願いがございます」
「どうぞ、仰ってください」
「勉強を教えられるシスターを何人か我が領に派遣していただきたいのです。教会を建て替えて、学舎も作り、領民の学力の底上げをします。
寄付というかたちで給金を支払いますので、平民の子供に一から教える気骨のある方々を探していただけませんか。教会は二箇所に建てますので、2名ずつお願いしたいのです」
「お任せください」
「では、こちらが新たな契約書です。保管していただけますか」
「妾!?」
「殿下がお命じになりましたので。最長三年、ほぼ何もせず待てば完全に自由の身ですから悪くはありませんわ。
政略結婚でもしたと思うことます」
「何かあれば頼ってくださいね」
「ありがとうございます」
妾契約書を預けて屋敷に戻った。
377
お気に入りに追加
4,289
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢ディアセーラの旦那様
cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。
そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。
色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。
出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。
「しかと承りました」と応えたディアセーラ。
婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。
中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。
一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。
シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。
痛い記述があるのでR指定しました。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?
百谷シカ
恋愛
フロリアン伯爵、つまり私の兄が赤ん坊を押し付けてきたのよ。
恋人がいたんですって。その恋人、亡くなったんですって。
で、孤児にできないけど妻が恐いから、私の私生児って事にしろですって。
「は?」
「既にバーヴァ伯爵にはお前が妊娠したと告げ、賠償金を払った」
「はっ?」
「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」
「はあっ!?」
年の離れた兄には、私より1才下の妻リヴィエラがいるの。
親の決めた結婚を受け入れてオジサンに嫁いだ、真面目なイイコなのよ。
「お兄様? 私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」
「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」
なんのメリットもないご命令だけど、そこで泣いてる赤ん坊を放っておけないじゃない。
「心配する必要はない。乳母のスージーだ」
「よろしくお願い致します、ソニア様」
ピンと来たわ。
この女が兄の浮気相手、赤ん坊の生みの親だって。
舐めた事してくれちゃって……小娘だろうと、女は怒ると恐いのよ?
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
婚約者に初恋の従姉妹といつも比べられて来ましたが、そんなに彼女が良いならどうぞ彼女とお幸せに。
天歌
恋愛
「シャティならもっと気の利いたことを言ったのに」
「お前といると本当に退屈だ。シャティといればいつでも心躍るのに」
「シャティの髪は綺麗な金色で花も霞んでしまう程なのに、お前の髪は本当に地味だな」
「シャティは本当に優しくて美しいんだ。それに比べてお前は氷のように冷たいな!」
私の婚約者であるエルカルト・ルーツベットは、毎度毎度顔を合わせる度に私をこのように彼の初恋の相手である彼の従姉妹のシャティ様と比べては私を卑下するような事ばかり言う。
家の為の結婚とは言え、毎度このように言われては我慢の限界を迎えつつあったある日。
「あーあ。私は本当はシャティと結婚したかったのに!お前のせいで思い合う二人が引き裂かれた!!悪魔のようなやつめ!!」
そこまで言うならばお好きにどうぞ?
ただし…どうなっても知りませんよ…?
待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!
風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。
婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約?
憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。
アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。
※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。
格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる