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ロドルフとジョエル

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【 ロドルフ第一王子殿下 】

毎日ただ執務をこなし、夜には性欲の解消をしてもらい眠りにつく。

睡眠薬無しでは眠れなくなっていた。


あの後すぐ、リディアーヌは帰国した。
登城していると噂を聞いてリディアーヌを探したらアベルは女といた。

あの顔はリディアーヌの護衛だったはず…

辺りを見回すとリディアーヌを見つけた。
だが隣には男が寄り添っていた。

リディアーヌの頭を撫で、髪を掬い、頬に触れ額にキスをした。

リディアーヌは照れ笑いをして男に抱きついた。男は抱きしめ返すと頭に沢山キスをしていた。


子供の時のままリディアーヌを大事にしていたら…最初から父上に相談して娼婦を用意してもらい、令嬢に手を出すことが無ければ…リディアーヌの隣にいたのは私だったはず。

ああやって甘やかしてやれば、リディアーヌに抱きついてもらえたのは私だったはず。
あの笑顔も。

あれは出会った時のリディアーヌだ。無邪気な笑顔に惚れたんだった。

「リディアーヌ…」

「兄上、行きましょう。ここにいてはいけない」

「ジョエル」

「リディアーヌ嬢の幸せを祈りましょう。
私達に出来ることは国を豊かにして民に安定した暮らしを与えることです。

いつかリディアーヌ嬢は許してくださいます。兄上が改心して生まれ変わったと証明できれば」

「そうかな」

「僕には兄上が必要です。僕の側にいていつものように励ましてください」

「大丈夫。ジョエルは優秀だ。出来ないことがあったっていい。私がいる」

「はい。兄上」






【 ジョエル第二王子 】

僕は不器用だ。
普通の令息よりはいいという程度で優秀な令息には敵わない。

王子教育もかなり遅れた。
兄上は学園が始まる時には終わっていたようだが、僕は卒業迄に終わらないかもしれないと危惧されていた。

歩き出すのも、おねしょを卒業するのも遅かった。
剣術も駄目だし。

何が取り柄なのかと言われたら、小動物に好かれることくらいだった。

そんな僕の尻拭いをして根気よく相手をしてくれたのがロドルフ兄上だった。

怖い夢を見た時も、嵐の夜も、兄上のベッドに潜り込んだ。
兄上は目を覚ますと僕を撫でて絵本を読んで寝かしつけてくれた。

病気の時は1時間おきに様子をみに来てくれて、時には僕の風邪がうつってしまったこともある。
皆に駄目だと言われても必ず兄上は世話をしてくれた。

頻繁に兄と比べる教師がいたが、それを知った兄上はクビにした。そして他の教師達を集めてこう言った。

『お前達も誰かと比べられたいのか?
そんな事をして生徒の心を折るくらいなら教師など止めてしまえ。教師の資格などない』

それ依頼、僕のペースで教えてもらうことができたし先生達に感謝することができた。
すると先生達も心から反省したようで個々に謝ってくれた。


そんな兄上にもままならないことがある。
婚約者のリディアーヌ嬢だ。

兄上がリディアーヌ嬢を大好きなのは知っているがいつの間にか軌道が逸れてしまった。

兄上、そんな事をしたら嫌われてしまいます。

次第に他の令嬢と仲良くしだした。
その令嬢達へ気持ちがないのは見てわかる。
だけどリディアーヌ嬢には酷だったようだ。

リディアーヌ嬢を城で見かけることはなくなった。

ある日、父上に呼ばれて全てを聞かされた。

学園に入ってから贈り物をしていない!?
他の令嬢をパートナーにしてエスコート!?
見られた!? 浮気を推奨した!? 
17人!? 種無し!?…処刑…取り潰し…

『廃嫡することにした。次期国王はジョエルだ』

そんな…

『父上、僕に継いてもらいたいのであれば兄上を廃嫡せず僕の側に置いてください』

『だが、信用はガタ落ちだ』

『次期国王の僕が兄上を一番信用しているのです。

小さい時から僕を励まし助けてくれたのは兄上です!虐める教師からも守ってくださいました。いつも絵本を読んで看病もしてくださいました。

不器用で進捗の悪い僕にいつも兄上は
“大丈夫。ジョエルは優秀だ。出来ないことがあったっていい。私がいる” と言ってくださいます。

僕は卒業迄に王子教育が終わらないだろうと言われた不出来な王子です。助けが必要です。兄上のような愛情深い方の支えが。

兄上は優秀です。女性関係に不器用だっただけなのです。それに気付かずに悪化させた周囲の責任はどうなるのですか!

父上も母上もロドルフという息子の親なのですよ!』

『……』

『兄上がいないなら辞退します。
城を出て二人で仲良く暮らしていきます!』

『分かった。ロドルフに関してはお前の言う通りにしよう。だが廃嫡を避けるなら継承順位は従兄弟の後だ』

『ありがとうございます』




リディアーヌ嬢は婚約届を出しに来た。
遠くのリディアーヌを見つめる兄上の顔をみていたら僕が泣きそうになってしまった。

今度は兄の心を守らなければ。

僕は父にお願いをしてみた。

『娼婦を変える?』

『没落寸前や兄弟姉妹が多くて苦労している家から閨係を募集しましょう。
兄上に寄り添ってもらい避妊せずに交わってもらいます。

子ができれば婚姻させ、できなければ恩給を与えましょう。これには家と令嬢の同意が必要ですが』

『ロドルフは…』

『兄上には伝えません』

『どうしてそこまでするんだ』

『兄上はもう性欲発散させても眠りにつけず睡眠薬に頼っています。後はただ執務をこなすだけ。

心が壊れかけているのです。このままでは剣で体を突くか首を吊ってしまいます。

歳の離れた僕をあれだけ可愛がってくれたのです。きっと子ができれば生きる気力を取り戻すと思います』

『任せよう』



そして没落寸前で四姉妹の三女が立候補してきた。契約内容をよく読ませて考える日数を与えた。
彼女は署名して閨に上がった。

専属の侍女兼閨係だ。伯爵令嬢だと伝えてある。

彼女は出しゃばらす寄り添い兄上を見守ってくれた。メイド長からは間違いなく処女だったと報告があった。

他の男と関係を持たぬよう監視もつけた。

兄上は彼女に心を開いていったようで時々笑っていた。

そして半年後、懐妊の知らせを受けた。

父上から告げられて兄は信じなかったが、監視をつけているから浮気はあり得ないし王宮医も間違い無いと言っている。

種がなかったのではなく異常に少なくて妊娠に至らなかったのだろうと。

兄上は涙を流してそうですかとだけ言った。

当然閨係は務まらないので娼婦を雇おうとしたら兄上が断ってきた。

『彼女に対して不誠実であってはならない。
私の子を産んでくれる尊い女性なのだ』

悪阻が治ると求婚をした。

令嬢は不安そうだったが、兄上が毎日花を摘み取って現れるので庭園の花が全滅してしまうから止めてと言って求婚を受けた。

胎動をしっかりと感じる頃には睡眠薬は必要なくなった。

そしていざ分娩で兄上は気絶した。
義姉上も陣痛で苦しんでいるのに側で倒れた兄上を見下ろし困惑した。

安産だった。

数時間後に目覚めた兄上はお産を終えてグッタリしている義姉上に土下座をしていた。
そして泣きながらありがとうと言っていた。

小さな小さな赤ちゃんは女の子だった。
文句の付けようが無いほど兄上にそっくりだった。

兄上は義姉上に似て欲しかったらしいが二人から離れないので怒られて追い出されていた。


そして数日後、兄上が僕にお礼を言いに来た。
父上から聞いたようだ。

「兄上はいつも僕を見捨てずに支えてくださいました。これからも支えてもらわないと生きていけません。

僕はそんな大恩人の兄上に細やかな恩返しができたらと思っただけで、全ては兄上と義姉上が互いを思いやった結果です。

いつか閨と子育ての指南も受けなくてはなりません。兄上、お願いしますね」

その日から兄上は乳母に弟子入りをした。







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