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言えない

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またしばらくカイン様はフィオルド邸、私は大公邸で暮らしていた。

ロクサンヌ大公妃とお茶を飲んでいると、慌ててメイドが知らせに来た。

「レノー王太子殿下がいらっしゃいました」

「え? レノー従兄様?」

彼とはかなり久しぶりだった。少し離れた他国の王太子の結婚式に参列するために長く不在だった。

険しい顔をして ツカツカと私の側まで来たレノ従兄様の顔が一瞬悲しそうな顔をしたと思ったら、力強く抱きしめ言葉を絞り出した。

「何で…」

レノ従兄様?

「何で婚約しているんだ」

「く、くるしぃ」

力は緩められたが抱きしめられたまま。

「何でって…そういう歳ですし」

「ずっとここに居ればいいじゃないか。大公邸が居辛いなら私の宮でもよかったんだ」

「私が結婚してはダメなのですか?」

「そうじゃない…だが彼ではサラを守れない。叔父上か父上か私じゃないと」

「私は大公邸でずっと暮らすことは出来ません。今ではロクサンヌ大公妃が親切にしてくださいますが、それでもお立場を考えると胸の内は複雑だと思います。
レノ従兄様の宮で暮らすことなど許されません。
国王陛下のお慈悲でお部屋を与えてもらえる時は、もっと公表できる明確な理由も必要です。
結果的に私の夫になるケイン様に爵位を与えて屋敷もお金も用意してくださいます。過剰なほど守ってくだっていますわ」

「だが、」

「帰ってきたばかりでお疲れではありませんか?
ゆっくり休んでください」

「サラっ」

「レノ従兄様は王太子殿下です。私のことで これ以上の異例を作ろうとしないでください。従兄様は皆様からの信頼が揺らぐようなことはして欲しくありません。
おめでとうと言ってください」

「……言えそうにない」

パッと放して部屋を出て行ってしまった。

……まさかね。



【 ユリスの視点 】

遠くの国の王太子の挙式に参列する為に長く留守にしていた。
城に戻ると直ぐに父上に公務の報告した。

父上は一呼吸置くと改まってサラのことをについて話し始めた。

「ジュネースの王子がサラに執着していたが、サラを国に帰せないほどになっている。サラが妃になりたいと望むなら構わないだろうが、その気は無いと断言した。王家とガードナー家の間で起きた昔のことが尾を引いている。

大公女として籍を移せばいいのだが、サラは大公妃と婚姻する前の恋人との子だ。しかも恋人にそっくりだ。エリオットはサラを優先してしまう。
今は大公妃の方が気にかけてくれているようだが、それは滞在客だからかもしれない。
フィオルド公爵家は養女にしたいと言っているが、それはエリオットが悲しむ。

だからエリオット達とフィオルド公爵夫妻を呼んで話し合った結果、サラをこっちの学園で卒業させて、嫁ぎ先を探すことになった。
そこで浮上したのがサットン卿だ。記憶を取り戻したサラの様子を確認したが、彼によく懐いていた。
サットン卿はジュネースでもサラの面倒を見て、事故の時も見つかるまで捜索してくれた。次期国王の専属護衛騎士の職は選び抜かれた者にしか得られない。それを捨てて絶望視されていたサラの捜索に尽力した。サットン卿がサラをそれだけ愛しているということだ。

サラにサットン卿のことを尋ねたら、好みの男らしい」

「は?」

「お互い 最初に言葉を交わしたときに好意を持ったようだ。運命だな。
エリオットがジュネースに行って全て話をつけてきた。
サラは大公女となり、フィオルド邸から学園に通い猛勉強をして卒業した。同時にサットン卿はフィオルド公爵の養子になり、センティアの貴族社会で生きていけるよう教育をしている。
今、大公邸の近くに屋敷を建てていて、完成したら2人は婚姻し、伯爵となる。

だからレノー。いくら従兄妹でも節度を守って接するように。サラはもうケイン・フィオルドの婚約者なのだから」

「何で私が居ない間にそんな大事なことを決めてしまったのですか!」

「サラの未来を決めるのにレノーが口出しする権利はないだろう。サラの親、祖父母、叔父が話し合いサラ本人の意見も組み入れて決めた事だぞ?」

「っ!!」

「フィオルド家とまた揉めることは許さないぞ」


父上との話を終えたその足でサラに会いに行った。
サラは本当に婚約していた。
おめでとうなんて言えるわけがない。


そして更に母上からも、

「相思相愛ね。見ているこっちまでドキドキしてくるわ」

「女遊びしてそうじゃないですか」

「まあ、結構モテそうだものね。顔も良くて色気もあって、身体は鍛えていて元近衞騎士だもの。
でも彼女に夢中って感じで、すごくいいわ」

などと言いながら頬を染めていた。


ジュネースにサラを迎えに行った騎士隊の隊長で、捜索にずっと携わり 長く一緒にいたヴェスタリオス卿に聞いてみた。

「サットン卿の態度ですか?…今はフィオルド卿でしたね。彼は間違いなく姫様を愛しています。
1日たりとも休まずに必死に探していましたから」

「実力は?」

「姫様が見つかって、卿の体調が良くなってから剣を交えましたが 強いですね。一本取れませんでしたから」

「そうか」


その日の夜、イザークと話をした。

「伯爵家の息子だし、婚姻と同時にセンティアの伯爵になり、サラと大公邸の近くに住む。
サラのことが好きなのは本当らしいし、サラも好きらしい。剣の実力もある。なのに受け入れられないんだ」

「受け入れるしかありません。いつか大丈夫になる日がきます。それまではサラに嫌われないように、演技でもしてください」

「この気持ちは何なんだ」

「何なのか知らない方がいいですよ。
2人の挙式はもうすぐです。当日はおめでとうと言えないと駄目ですからね」

「……」

そのままイザークは私が酔い潰れるまで酒に付き合ってくれた。
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