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手紙
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親友で、すっかりご無沙汰のエレノアには、退学してセンティアへ編入したこと、大公女になったこと、婚約したことを手紙に書いた。
“私を蔑ろにして!!”と、お叱りの手紙が返ってきた。
ペーズリー様は“リオくんは任せて”と返事が来た。
リオ宛は
“お互いの新しい人生に幸あらんことを願ます”とメッセージを書いた。
パパが、ユリス殿下のことを含めて説明をしてくださった。お母様も説得してくださった。
【 リオの視点 】
大公閣下がタウンハウスまで訪ねてきた。
サラがいると思ったら違った。
「サラのことでいくつか報告がある」
「はい」
「今日、退学の手続きをした。
サラは大公女となり、向こうで卒業する」
「卒業したら戻してくれますか」
「…サラは婚約する」
「は? 誰とです!」
「ケイン・サットン卿だ」
「嫌な予感がしていたんです。あの茶会の時から」
「何故サラをこちらへ返せないか、それはユリス殿下の存在だ」
大公閣下から、あの王子の所業を聞いて納得はしたが…
「私との婚姻では駄目だったのですか」
「相手は王族だ。国内に置いてはおけない。
それに、王子妃になる資格を失くすためとはいえ、同意なくサラにあんなことをするのは父親として許すことは難しい。リオのことは嫌いではないが、サラは大事な娘だ」
何も言えなかった。
その後 サラから手紙が届き、こちらも返事を出した。
“決勝であいつの首を刎ねておけは良かったな。
サラ。過去も未来も愛してる”
卒業前に母上がセンティアからタウンハウスへやって来た。
そしてサットン将軍、サットン伯爵夫妻、ペーズリー様を招いた。
招くことが決まったときに渋ったら、母上から
“貴方が剣闘会で求婚したからじゃないの。いつまでも話を進めない訳にはいかないわ。もう世間では婚約していると思われているもの。
しかも貴方は侯爵なのよ?普通の学生とは重みが全く違うの”と叱られた。
もう、諦めて受け入れるしかなく、婚約した。
【 ユリスの視点 】
大公が来ると聞いて、サラも帰って来ると思った。
だが、謁見は父上と宰相だけだった。
謁見の間に行ってもいない。
結局会議室にいたことが分かったときは既に大公は去っていた。
「父上!サラは何処ですか!」
「座りなさい」
「父上!」
「座れ」
「……」
「サラは大公女となる。退学を済ませてセンティアの学園へ編入するそうだ」
「では、大公女との縁談を、」
「婚約者は決まっているそうだ」
「は?」
「サットン家が今までサラを支えてきたことや、ケイン・サットンが近衛を辞めてまで、最後まで捜索に尽力したことに、先方の国王が甚く感動なさったそうだ。そこでサラの婚約者にケイン殿を指名したようだ。サラの母方の祖父母であるフィオルド公爵夫妻も、孫を支え 探し続けてくれたケイン殿を養子にしたいと申し出たようだ。
そして、当時は王子だった大公が、成人前の公女であるソフィア・フィオルドを孕ませたことや、当時の国王が無理に婚約者を決めて発表したために、公女に危険を感じさせ亡命させてしまったことへの償いと、子連れのソフィア公女を娶って サラを我が子のように大事に育ててくれたガードナー家への感謝をしたいそうだ。
センティアの王家とフィオルド公爵家はガードナー家とサットン家を支持し、サラとケイン殿には伯爵位を授け、慰謝料と報奨金と 大公邸の近くに屋敷を建て与えるそうだ」
「止めてください!」
「大公が書類を持って戻ったら即、2人とも籍を移して 婚約するそうだ」
「何故そんな話を黙って聞いて帰してしまったのですか!」
「我らにはなんの権利も無いからだ。
サラはセンティア国王の姪だ。大公の娘だ。どうしようもない」
「婚約だけなら、解消できるでしょう!」
「もちろん、ユリスの妃にと頼んだ。だが大公は、“娘が純潔ではないことはご存知ではありませんか。ジュネースの王族法では妃の条件の一つは純潔ですよね”と言われてしまったら娶れない」
「直ぐに法を変えて、」
「ユリス!目を覚ましてくれ!
これ以上執着することは許されないんだ」
「父上!」
「我々は国民から信頼を得て、貴族達の支持を得なければならない。政略結婚をする貴族が大半なのに ユリスが叶わないことにいつまでも執着して、守るべき法を曲げ、格上の隣国を敵に回してしまえば、お前の不信任案を出され順位は末尾になってしまう。
王になれても、暴君だの駄王だの囁かれ、暗殺が付き纏うことになる。お前はそんな王になりたかったのか?」
「……いえ」
「私も同じ間違いを犯すところだった。いや、もう犯したからこうなったのだろう。また機会を作って詫びなければならないな」
部屋に戻り上着を脱ぎ捨てベッドに横になった。
私の恋は終わってしまった。
「はぁ…………」
数々の後悔が次々と浮かんで溜息に押されるかのように涙が流れ落ちた。
やはり原点は最初の求婚だ。
名前を告げ、父上に任せればサラと婚約できるものだと思い込んでいた。
花束を手に屋敷を訪ね、サラの手を握り、“サラが好きだからお嫁さんになって欲しい、どんなことからも私が守り支え、一生サラだけを愛する”と気持ちを直に伝えれば、こんなことにはならなかった。
…移住を決めさせるほど追い詰めたのだな。
何もせずボーッとしていた。卒業の日も心は微塵も動かない。ただサラの姿をつい探してしまうだけ。卒業パーティは ほぼテラスか控え室にいた。
景色は変わらないし、陽が上り雲が流れ夜が来て星が輝くだけの虚しい毎日になった。
「退屈だなぁ」
庭園の奥に行くと野良猫が歩いていた。
少し太っていて 顔は潰れたかのような不細工ぶりだ。
「ニャーゴ」
何とも鳴き声まで可愛くない。
だが、
「ニャーゴ」
私の脚に擦り寄った。
持ち上げると少し重い。
「おまえ、野良のくせに何でこんなに太ってるんだ」
何となく連れ帰り、風呂に入れた。
猫は嫌がるのが普通らしいが大人しい。隅々まで洗い乾かすと美しい毛色だった。手入れをすれば艶々で手触りのいい長毛種だろう。
ネージュと名付け飼うことにした。
よく食べ、よく寝ては時々歩き回る。悪戯の度合いが酷ければ追い出そうと思っていたが、悪戯はしなかった。
仕事も再開した。
猫を拾って7日後。
“ミャー”
“ミャー”
ネージュとは違う鳴き声に起こされた。室内は暗い。まだ夜中だった。
「何なんだ?」
灯りを付けてネージュの寝床を見た。
「うわっ!」
“ミャー” “ミャー” “ミャー”
「お前っ!デブじゃなくて妊娠してたのか!」
慌てて猫の出産に詳しいか立ち会ったことのある者を探させた。
2人集まった。
「夜中に悪いな」
1人が腹に触れた。
「まだ居ますね。準備をします」
2人があれこれしているうちに空が少し明るくなって来た。
「多分、これで全部です。7匹ですね」
「なんか、同じじゃないな」
「母猫は貴族が飼う高級な猫ですね」
「この顔でか」
「そういう品種で好きな人は好きなのです」
「珍味みたいなものか」
「ふふっ そうですね」
「何でこんなにバラバラなんだ」
「おそらく、タウンハウスで飼っていたところ、雑種と交尾して捨てられたのでしょう。逃げた可能性もありますが。
父親の先祖が様々な雑種の血を持っていて、それが子猫に出たのかと」
「そうか」
「どうなさるおつもりですか?」
「ん?」
「母猫と7匹の猫、大変ですよ?」
「まだ産まれたばかりだ。後で考える」
子猫は日に日に少しずつ成長し、歩き始めると囲いをつくり、トイレを複数用意した。
トイレがちゃんとできるようにならないと、部屋は地獄となるらしい。
こんなに飼えないから譲渡した方がいいと言われ、眠る子猫を見つめた。どのチビも色や柄や毛の長さや顔まで微妙に違って、優劣などつけられない。
結局、北の塔を改装し、猫ハウスにした。
世話係を募集したら かなりの数の者が希望して驚いた。
新しい婚約者を決めるときは猫好きの令嬢を優先した。彼女は大喜びで、私との交流を忘れ、猫と交流する。
その姿に和んだ。彼女となら上手くやれそうだ。
“私を蔑ろにして!!”と、お叱りの手紙が返ってきた。
ペーズリー様は“リオくんは任せて”と返事が来た。
リオ宛は
“お互いの新しい人生に幸あらんことを願ます”とメッセージを書いた。
パパが、ユリス殿下のことを含めて説明をしてくださった。お母様も説得してくださった。
【 リオの視点 】
大公閣下がタウンハウスまで訪ねてきた。
サラがいると思ったら違った。
「サラのことでいくつか報告がある」
「はい」
「今日、退学の手続きをした。
サラは大公女となり、向こうで卒業する」
「卒業したら戻してくれますか」
「…サラは婚約する」
「は? 誰とです!」
「ケイン・サットン卿だ」
「嫌な予感がしていたんです。あの茶会の時から」
「何故サラをこちらへ返せないか、それはユリス殿下の存在だ」
大公閣下から、あの王子の所業を聞いて納得はしたが…
「私との婚姻では駄目だったのですか」
「相手は王族だ。国内に置いてはおけない。
それに、王子妃になる資格を失くすためとはいえ、同意なくサラにあんなことをするのは父親として許すことは難しい。リオのことは嫌いではないが、サラは大事な娘だ」
何も言えなかった。
その後 サラから手紙が届き、こちらも返事を出した。
“決勝であいつの首を刎ねておけは良かったな。
サラ。過去も未来も愛してる”
卒業前に母上がセンティアからタウンハウスへやって来た。
そしてサットン将軍、サットン伯爵夫妻、ペーズリー様を招いた。
招くことが決まったときに渋ったら、母上から
“貴方が剣闘会で求婚したからじゃないの。いつまでも話を進めない訳にはいかないわ。もう世間では婚約していると思われているもの。
しかも貴方は侯爵なのよ?普通の学生とは重みが全く違うの”と叱られた。
もう、諦めて受け入れるしかなく、婚約した。
【 ユリスの視点 】
大公が来ると聞いて、サラも帰って来ると思った。
だが、謁見は父上と宰相だけだった。
謁見の間に行ってもいない。
結局会議室にいたことが分かったときは既に大公は去っていた。
「父上!サラは何処ですか!」
「座りなさい」
「父上!」
「座れ」
「……」
「サラは大公女となる。退学を済ませてセンティアの学園へ編入するそうだ」
「では、大公女との縁談を、」
「婚約者は決まっているそうだ」
「は?」
「サットン家が今までサラを支えてきたことや、ケイン・サットンが近衛を辞めてまで、最後まで捜索に尽力したことに、先方の国王が甚く感動なさったそうだ。そこでサラの婚約者にケイン殿を指名したようだ。サラの母方の祖父母であるフィオルド公爵夫妻も、孫を支え 探し続けてくれたケイン殿を養子にしたいと申し出たようだ。
そして、当時は王子だった大公が、成人前の公女であるソフィア・フィオルドを孕ませたことや、当時の国王が無理に婚約者を決めて発表したために、公女に危険を感じさせ亡命させてしまったことへの償いと、子連れのソフィア公女を娶って サラを我が子のように大事に育ててくれたガードナー家への感謝をしたいそうだ。
センティアの王家とフィオルド公爵家はガードナー家とサットン家を支持し、サラとケイン殿には伯爵位を授け、慰謝料と報奨金と 大公邸の近くに屋敷を建て与えるそうだ」
「止めてください!」
「大公が書類を持って戻ったら即、2人とも籍を移して 婚約するそうだ」
「何故そんな話を黙って聞いて帰してしまったのですか!」
「我らにはなんの権利も無いからだ。
サラはセンティア国王の姪だ。大公の娘だ。どうしようもない」
「婚約だけなら、解消できるでしょう!」
「もちろん、ユリスの妃にと頼んだ。だが大公は、“娘が純潔ではないことはご存知ではありませんか。ジュネースの王族法では妃の条件の一つは純潔ですよね”と言われてしまったら娶れない」
「直ぐに法を変えて、」
「ユリス!目を覚ましてくれ!
これ以上執着することは許されないんだ」
「父上!」
「我々は国民から信頼を得て、貴族達の支持を得なければならない。政略結婚をする貴族が大半なのに ユリスが叶わないことにいつまでも執着して、守るべき法を曲げ、格上の隣国を敵に回してしまえば、お前の不信任案を出され順位は末尾になってしまう。
王になれても、暴君だの駄王だの囁かれ、暗殺が付き纏うことになる。お前はそんな王になりたかったのか?」
「……いえ」
「私も同じ間違いを犯すところだった。いや、もう犯したからこうなったのだろう。また機会を作って詫びなければならないな」
部屋に戻り上着を脱ぎ捨てベッドに横になった。
私の恋は終わってしまった。
「はぁ…………」
数々の後悔が次々と浮かんで溜息に押されるかのように涙が流れ落ちた。
やはり原点は最初の求婚だ。
名前を告げ、父上に任せればサラと婚約できるものだと思い込んでいた。
花束を手に屋敷を訪ね、サラの手を握り、“サラが好きだからお嫁さんになって欲しい、どんなことからも私が守り支え、一生サラだけを愛する”と気持ちを直に伝えれば、こんなことにはならなかった。
…移住を決めさせるほど追い詰めたのだな。
何もせずボーッとしていた。卒業の日も心は微塵も動かない。ただサラの姿をつい探してしまうだけ。卒業パーティは ほぼテラスか控え室にいた。
景色は変わらないし、陽が上り雲が流れ夜が来て星が輝くだけの虚しい毎日になった。
「退屈だなぁ」
庭園の奥に行くと野良猫が歩いていた。
少し太っていて 顔は潰れたかのような不細工ぶりだ。
「ニャーゴ」
何とも鳴き声まで可愛くない。
だが、
「ニャーゴ」
私の脚に擦り寄った。
持ち上げると少し重い。
「おまえ、野良のくせに何でこんなに太ってるんだ」
何となく連れ帰り、風呂に入れた。
猫は嫌がるのが普通らしいが大人しい。隅々まで洗い乾かすと美しい毛色だった。手入れをすれば艶々で手触りのいい長毛種だろう。
ネージュと名付け飼うことにした。
よく食べ、よく寝ては時々歩き回る。悪戯の度合いが酷ければ追い出そうと思っていたが、悪戯はしなかった。
仕事も再開した。
猫を拾って7日後。
“ミャー”
“ミャー”
ネージュとは違う鳴き声に起こされた。室内は暗い。まだ夜中だった。
「何なんだ?」
灯りを付けてネージュの寝床を見た。
「うわっ!」
“ミャー” “ミャー” “ミャー”
「お前っ!デブじゃなくて妊娠してたのか!」
慌てて猫の出産に詳しいか立ち会ったことのある者を探させた。
2人集まった。
「夜中に悪いな」
1人が腹に触れた。
「まだ居ますね。準備をします」
2人があれこれしているうちに空が少し明るくなって来た。
「多分、これで全部です。7匹ですね」
「なんか、同じじゃないな」
「母猫は貴族が飼う高級な猫ですね」
「この顔でか」
「そういう品種で好きな人は好きなのです」
「珍味みたいなものか」
「ふふっ そうですね」
「何でこんなにバラバラなんだ」
「おそらく、タウンハウスで飼っていたところ、雑種と交尾して捨てられたのでしょう。逃げた可能性もありますが。
父親の先祖が様々な雑種の血を持っていて、それが子猫に出たのかと」
「そうか」
「どうなさるおつもりですか?」
「ん?」
「母猫と7匹の猫、大変ですよ?」
「まだ産まれたばかりだ。後で考える」
子猫は日に日に少しずつ成長し、歩き始めると囲いをつくり、トイレを複数用意した。
トイレがちゃんとできるようにならないと、部屋は地獄となるらしい。
こんなに飼えないから譲渡した方がいいと言われ、眠る子猫を見つめた。どのチビも色や柄や毛の長さや顔まで微妙に違って、優劣などつけられない。
結局、北の塔を改装し、猫ハウスにした。
世話係を募集したら かなりの数の者が希望して驚いた。
新しい婚約者を決めるときは猫好きの令嬢を優先した。彼女は大喜びで、私との交流を忘れ、猫と交流する。
その姿に和んだ。彼女となら上手くやれそうだ。
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