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従兄妹

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王妃殿下からサロンに招待され、緊張しながら昼食を口に運んでいた。
野菜中心のメニューは王妃様の好みだろうか。

「サラは欲しい物はあるの?」

「ありません」

「レノー達と買い物に行って、私とエリゼの分も沢山買ってきてくれたじゃない」

「全部レノ従兄様が購入なさった物です」

「でも、サラが“王妃殿下と王太子妃殿下へ お土産を買わないのなら 私の分の購入はけっこうです”と言ったからでしょう?貴女のおかげで貰えた品なのよ?あの子ったら私とエリゼにそんなことをした事は無いもの。無関心なのよ」

「あの世話焼きレノ従兄様がですか?」

「貴女にだけよ」

「妹ができて嬉しいのですよ きっと」

「……サラはレノーに嫁ぐ気はあるかしら」

「え?」

「レノーのお嫁さんよ。どうかしら」

「王太子妃がいらっしゃいます」

「レノーはサラを気に入っているから いいと思うの」

「そうだとしても 妹としてですわ」

「従兄妹は婚姻可能よ。何代も他家から迎えてるから問題ないわ」

「私は…従兄様とは結婚しません。するとしたら血縁が無いか すごく薄い縁者にします」

リオとのときに散々近親相姦について悩んだもの。結局は他人だったけど。

「分かったわ。
そういえば、宰相の補佐官に沢山お土産を買ったそうね」

「はい。奥様とご令息とご令嬢用に訪れたお店全てで購入しました」

「どうしてボイズ家にだけ?」

「それはレノ従兄様が無茶を強いたからです」

「レノーが何をしたの?」

「私が此方に滞在すると決まってから此方に到着するまで僅かな時間しかありませんでした。
ですがレノ従兄様は数々のお店を貸切にしたのです。きっと レノ従兄様から上がったお店を中心に仮予定を組んでから お店に連絡を入れて無理に指定した時間に貸切にさせたはずです。それをしてくださったのはボイズ様で猶予も数時間しか無かったはずです。
そんなことをして時間を空けさせたお店の為に何か購入しなくてはいけませんし、でしたらボイズ様のご家族のお土産として購入すればボイズ様へのお詫びにもなるかと。
ボイズ様は宰相様の右腕、つまり陛下と国のために尽力してくださる功労者です。私如きの観光に巻き込んでいい方ではありません」

「そうだったのね。ボイズが恐縮して困惑していると聞いたから。でも納得だわ。私から貴女の言葉通りに説明しておくわ」

「ありがとうございます」

「まったく…レノーったらダメね」

「やり過ぎでも止めることのできる方は限られていますから」

「私から叱っておくわ。サラにも迷惑をかけたわね」

「でも嬉しかったです。お従兄様が妹を可愛がろうとしてくださったのですから」

バン!

「母上!サラは、」

うわぁ~
親子とはいえ ノック無しに王妃殿下の使っているサロンに…

「レノー」

「サラ、こっちで食べるなら誘ってくれよ」

王妃殿下を無視して私に話しかけないで!

「あの、」

「聞いたぞ。留年ならまだまだセンティアに居られるんだろう?ならこのまま滞在すればいい。
そうだ、遠出をしよう」

「レノー」

「どこか高位貴族の夜会に遊びに行ってもいいし。
そうだ、ここでやればいい。直ぐに、」

「レノー!」

「は、母上?」

「サラ、王弟殿下の元へ戻ってもらえる?」

「はい、王妃殿下 昼食をありがとうございました」

「待って サラ!」

「レノー。貴方は残りなさい。大事な話があるわ」

「……はい」




【 王妃の視点 】

ジョフロワ陛下の弟エリオット様は、ある期間 心を閉ざしていた。当時、彼と噂のあった公女が失踪してからだった。
世間では、彼のことを迷惑に思っていた公女が逃げた、彼の婚約者が公女に何かした、国王もしくは王妃が彼の将来のために公女に何かした、他に好きな男がいて駆け落ちしたなど 様々な憶測が流れた。
エリオット様は耳を傾けず、王にはならないと宣言。婚姻し子が生まれると大公となった。

今はジョフロワ様に王位を譲ったが 当時の国王でジョフロワ様とエリオット様の父は後悔した。フィオルド家とソフィアも呼び、エリオットとしっかり話し合うべきだったと。頭ごなしに駄目だと言って勝手に婚約を発表してしまったことを。
エリオット様は特にご両親に心を閉ざした。会話というものは成り立たず、ただ必要最小限の返事をするだけ。ご両親の誕生日は挨拶だけして直ぐに帰ってしまう。用がないと王城へ来ないしブランパーン家の催しには一切招待しなかった。

彼は義務は果たした。仕事をして子を産ませるべく両親の選んだ妻を抱く。そこに愛はない。
ロクサンヌが酔って私に胸の内を洩らしたこともある。

『私はエリオット様に憧れておりました。婚約が決まったときは天にも昇る喜びで満ちておりました。
ですが、婚約式に現れたエリオット様は抜け殻でした。抜け殻に義務を詰め込んだだけの動く人形のように。
エスコートも交流も丁寧でした。ですがそこに心はありません。瞳はまるで硝子のようでした。

夫婦になって 初夜では、まるで教本通りの手順で私を抱きました。唇を合わせることはあれど それは皮膚の接触と同じで、私は未だに深い口付けを知りません。行為が終わるとエリオット様は自室に戻られます。彼のガラスの瞳は哀れな私を映すだけで、それに気付いてからは閨事の最中に彼の瞳は見ないようにしてまいりました。
私の隣で眠ったことはございません。第一子の男児が産まれても感謝の言葉はくださっても顔は喜んでおりませんでした。一つ義務を果たした安堵と 後もう1人男児を産ませようという考えだけが伝わりました。

2人の男児を産むと閨事は激減しました。
愛や義務で抱くのではなく、殿方の自慰の延長で私を召しているのです。胸にナイフを突き立てられたかのように心が痛みます。ですが避ければ別の女を連れてくるなり囲うなりするかもしれません。一番避けなければならないのは夜会などで女漁りをされることです。対外的に妻の私が軽んじて見られてしまうからです。ですから私はメイドが“夜のお時間のお支度をいたします”と言いにくると喜んだフリをするのです。私が気付いていることを悟られないように。
そんな状況なのに私は愚かです。彼に触れられたら嬉しいし、揺さぶられると快楽を得るのです。目を瞑り 愛を込めて求められていると妄想しながら。それにエリオット様が抱く女は私だけなのは事実。それと彼の正妻だということも事実。それだけが私の拠り所なのです。例え未だに名前呼びを許されていなくとも』

そんな話を聞いたとき、悲しい政略結婚をした夫婦が目の前にいると知った。
婚姻前にもそういう話は聞いたことがある。
もちろん何十倍も酷い話を。だけど他人事ではないと感じたのはロクサンヌの話が初めてだった。
私もジョフロワ様に寵妃ができたら…。結局女の頂点に立つ身の私でさえ、夫の心を捉える者には敵わないのだから。

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