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アンジェリーヌの気持ち
しおりを挟む町でのことがあって、直ぐに戻りたくなくて、ブラブラとしてから戻ったら、屋敷の前にも中にも騎士達がいた。
エントランスでローズさんが私を待っていた。
「お客様がお待ちです」
「ノアム様は」
「一緒にお待ちです」
応接間に連れて来られると3人の殿方が迫って来た。
私を“サラ”と呼んでいた。
そしてかなり身なりのいい殿方が話しかけてきた。
「君はアンジェリーヌと呼ばれているが 本名ではないことは分かるね?」
「はい」
「君の名は、サラ・ガードナーといって侯爵家の長女だ。ジューネスという国で生まれ育ち、学園にも通っている。
訳あって、友人のいるサットン伯爵家に滞在していた。こちらがサットン将軍で、サラがお祖父様と慕っていた方だ。こちらはケイン・サットン殿だ。サラを妹と同様に面倒を見ていた。王族の専属騎士をしている。
そして私はこの国センティアの国王の弟で、エリオット・サラセナ・ブランパーンという名の君の実父だ」
ズキン!
またあの頭痛だ。
そういえば貴族年鑑でその名を見た気がする…
「嫌! ローズさん!」
「アンジェリーヌ様!」
「頭が痛い!」
「アンジェリーヌ様!」
「アンジェリーヌ!」
「サラ!」
「大公閣下、今日はもう無理です。お引き取りを」
「そういうわけにはいかない。彼女は王族の血が流れているのだから置いてはおけない」
「こんなに苦しんでいるのにですか!?
何故、閣下の名でこんなに過剰反応するのです!
可哀想に。アンジェリーヌ、大丈夫。俺もローズもバートも君の嫌がることはしない。
ここに居ていいからね」
「ノアム様…」
大公閣下は将軍達と話し合い、一先ず無理強いはしないことにしたようだ。
「今回は仕方ない。だが、このまま置いてはおけない。護衛騎士を付け、屋敷にも配置する。
そして医師を派遣し、医師に付き添わせて一緒に連れて行く。その時は王命と同等の措置だと認識して従ってもらいたい」
「……アンジェリーヌの意思を尊重します」
「アルク子爵」
「そもそも川で一人流されるようなことになったのは何故です。偶然岩に引っかかっていたから助けられましたが、そうでなければ溺死ですよ。しかも川から引き上げた時には身体は冷え切って、かなり危険でした。
温めて、食べさせて、屋敷で保護して、ドレスも買い与えて、不自由無く面倒をみました。子爵家の何が不満なのですか!」
「子爵、そうではない。
気分を害させて申し訳ない。
サラは王族の血が流れているから狙われやすい。
襲撃があるかもしれないから護衛が必要なのだ。
それに、事故だった。サラの乗った馬車は大公家へ向かっていたが落石が馬車を直撃して崖下の湖に落ちた。深さも流れもあり、サラは泳げたが流木に当たって流されてしまった。
子爵の気持ちも分かるが、娘が死んだかもしれないと思いながら探していた私の身にもなって欲しい。
サラは私が愛した女性との唯一の子だ。
息子も2人いて愛しているが、政略結婚で産まれた子供と、大恋愛で授かったサラとではまるで違う」
「屋敷内に置く護衛騎士は子爵家と彼女に従ってください。彼女が受け入れるまでアンジェリーヌと呼んでください」
「分かった」
お客様は帰り、私は部屋で横になった。
ドアの外には2人の護衛騎士。
他にも敷地内に何人も騎士を置いたらしい。
何も考えたくなくて目を瞑った。
夜中に目を覚まし、テーブルの上の軽食を食べた。
窓の外を見ると紫色が使われた騎士服の人が何人もいた。
ソファに横になった。
大公だという人が私の父…。
皆ホッとして喜んだ顔をしていた。
きっと私は大事にされていたのだろう。
町でのことが頭から離れない。
きっとリタという女性は私のように理由があって娼館に身を寄せたのだろう。しかも処女だったという。処女が娼館で身を売るなど、怖くて仕方がないはずだ。
私は経験があるのかないのか分からないが、ノアム様に引き取ってもらわなければ、同じように娼婦になっていたかもしれない。
男爵家に行っても、相手が固定してるだけで、飽きるまで身を捧げなくてはならなかっただろう。
そう思うと私は王族の血が流れているということよりも、リタと同じ立ち位置だと感じてしまう。
最初は女嫌いなノアム様は私の存在が面倒だったはず。だから早く憲兵に引き渡して欲しかった。疎まれながら生きるのは辛いから。
だけど何度か雨が降り、その度に延期になると段々とノアム様が変わってきた。
未来の境遇を知って憲兵に引き渡さないと決めるくらいに。
下働きとして連れて来たはずなのに 働く前から撤回されて、仕事とは言えないことをして過ごし ドレスなども買ってくれた。
部屋も客間のまま。
バートさんもローズさんも優しくしてくれる。
楽しく過ごすうちにノアム様は更に変化していった。とても優しいのだ。
最近では、一緒に時間を過ごしてくれた。
外出に連れて行ってくれて、手を握られ、優しく見つめられた。
私は平民みたいだけど、ノアム様は子爵家の当主。相手にされるはずがない。良くて愛人だろう。
町ではエスコートされながら歩いていた。
時々髪や頭や手に触れる。気遣いも丁寧で瞳が好意を表していると感じていた。
もし、愛人にと言われたら、私はどう答えるのだろう。そんなことを考えていたらノアム様の元奥様に遭遇した。
話の感じだと、娼館に身を寄せていて、復縁を望んでいたが断られたので妾でも構わないと縋っているようだった。
相手にはしないだろうと思っていた。
だけどリタの話を聞いてしまった。
処女のリタをノアム様が抱いて女にした。
1日置きに通い、指名し、失神するほど抱き潰す。
私はキスさえしたことがない。
最近のノアム様の態度は私が考えていた意味合いとは違うと分かった。
愛人として引き取るならリタだろう。
私は厄介者となるのだ。
その場に居られなくて先に帰ると告げて離れた。
屋敷に戻ると父と名乗る人がいて、それが王弟殿下だった。
何故かノアム様は王弟殿下に反論して私を守ろうとしてくれている。
ノアム様にとってそんな価値はないのに。
王族と揉めさせてはいけない。
バートさんもローズさんも他の使用人のみんなも困ることになってしまう。
迷った挙句、ケインという人がドアの外で護衛をしているので話しかけた。
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