上 下
54 / 73

アンジェリーヌの気持ち

しおりを挟む

町でのことがあって、直ぐに戻りたくなくて、ブラブラとしてから戻ったら、屋敷の前にも中にも騎士達がいた。

エントランスでローズさんが私を待っていた。

「お客様がお待ちです」

「ノアム様は」

「一緒にお待ちです」

応接間に連れて来られると3人の殿方が迫って来た。

私を“サラ”と呼んでいた。

そしてかなり身なりのいい殿方が話しかけてきた。

「君はアンジェリーヌと呼ばれているが 本名ではないことは分かるね?」

「はい」

「君の名は、サラ・ガードナーといって侯爵家の長女だ。ジューネスという国で生まれ育ち、学園にも通っている。
訳あって、友人のいるサットン伯爵家に滞在していた。こちらがサットン将軍で、サラがお祖父様と慕っていた方だ。こちらはケイン・サットン殿だ。サラを妹と同様に面倒を見ていた。王族の専属騎士をしている。

そして私はこの国センティアの国王の弟で、エリオット・サラセナ・ブランパーンという名の君の実父だ」

ズキン!

またあの頭痛だ。
そういえば貴族年鑑でその名を見た気がする…

「嫌! ローズさん!」

「アンジェリーヌ様!」

「頭が痛い!」

「アンジェリーヌ様!」

「アンジェリーヌ!」

「サラ!」

「大公閣下、今日はもう無理です。お引き取りを」

「そういうわけにはいかない。彼女は王族の血が流れているのだから置いてはおけない」

「こんなに苦しんでいるのにですか!?
何故、閣下の名でこんなに過剰反応するのです!

可哀想に。アンジェリーヌ、大丈夫。俺もローズもバートも君の嫌がることはしない。
ここに居ていいからね」

「ノアム様…」

大公閣下は将軍達と話し合い、一先ず無理強いはしないことにしたようだ。

「今回は仕方ない。だが、このまま置いてはおけない。護衛騎士を付け、屋敷にも配置する。
そして医師を派遣し、医師に付き添わせて一緒に連れて行く。その時は王命と同等の措置だと認識して従ってもらいたい」

「……アンジェリーヌの意思を尊重します」

「アルク子爵」

「そもそも川で一人流されるようなことになったのは何故です。偶然岩に引っかかっていたから助けられましたが、そうでなければ溺死ですよ。しかも川から引き上げた時には身体は冷え切って、かなり危険でした。
温めて、食べさせて、屋敷で保護して、ドレスも買い与えて、不自由無く面倒をみました。子爵家の何が不満なのですか!」

「子爵、そうではない。
気分を害させて申し訳ない。
サラは王族の血が流れているから狙われやすい。
襲撃があるかもしれないから護衛が必要なのだ。

それに、事故だった。サラの乗った馬車は大公家へ向かっていたが落石が馬車を直撃して崖下の湖に落ちた。深さも流れもあり、サラは泳げたが流木に当たって流されてしまった。

子爵の気持ちも分かるが、娘が死んだかもしれないと思いながら探していた私の身にもなって欲しい。
サラは私が愛した女性との唯一の子だ。
息子も2人いて愛しているが、政略結婚で産まれた子供と、大恋愛で授かったサラとではまるで違う」

「屋敷内に置く護衛騎士は子爵家と彼女に従ってください。彼女が受け入れるまでアンジェリーヌと呼んでください」

「分かった」


お客様は帰り、私は部屋で横になった。

ドアの外には2人の護衛騎士。
他にも敷地内に何人も騎士を置いたらしい。

何も考えたくなくて目を瞑った。


夜中に目を覚まし、テーブルの上の軽食を食べた。

窓の外を見ると紫色が使われた騎士服の人が何人もいた。

ソファに横になった。

大公だという人が私の父…。
皆ホッとして喜んだ顔をしていた。
きっと私は大事にされていたのだろう。

町でのことが頭から離れない。

きっとリタという女性は私のように理由があって娼館に身を寄せたのだろう。しかも処女だったという。処女が娼館で身を売るなど、怖くて仕方がないはずだ。

私は経験があるのかないのか分からないが、ノアム様に引き取ってもらわなければ、同じように娼婦になっていたかもしれない。
男爵家に行っても、相手が固定してるだけで、飽きるまで身を捧げなくてはならなかっただろう。
そう思うと私は王族の血が流れているということよりも、リタと同じ立ち位置だと感じてしまう。

最初は女嫌いなノアム様は私の存在が面倒だったはず。だから早く憲兵に引き渡して欲しかった。疎まれながら生きるのは辛いから。
だけど何度か雨が降り、その度に延期になると段々とノアム様が変わってきた。
未来の境遇を知って憲兵に引き渡さないと決めるくらいに。

下働きとして連れて来たはずなのに 働く前から撤回されて、仕事とは言えないことをして過ごし ドレスなども買ってくれた。

部屋も客間のまま。

バートさんもローズさんも優しくしてくれる。

楽しく過ごすうちにノアム様は更に変化していった。とても優しいのだ。

最近では、一緒に時間を過ごしてくれた。
外出に連れて行ってくれて、手を握られ、優しく見つめられた。

私は平民みたいだけど、ノアム様は子爵家の当主。相手にされるはずがない。良くて愛人だろう。

町ではエスコートされながら歩いていた。
時々髪や頭や手に触れる。気遣いも丁寧で瞳が好意を表していると感じていた。

もし、愛人にと言われたら、私はどう答えるのだろう。そんなことを考えていたらノアム様の元奥様に遭遇した。

話の感じだと、娼館に身を寄せていて、復縁を望んでいたが断られたので妾でも構わないと縋っているようだった。

相手にはしないだろうと思っていた。

だけどリタの話を聞いてしまった。

処女のリタをノアム様が抱いて女にした。
1日置きに通い、指名し、失神するほど抱き潰す。

私はキスさえしたことがない。

最近のノアム様の態度は私が考えていた意味合いとは違うと分かった。
愛人として引き取るならリタだろう。
私は厄介者となるのだ。

その場に居られなくて先に帰ると告げて離れた。

屋敷に戻ると父と名乗る人がいて、それが王弟殿下だった。
何故かノアム様は王弟殿下に反論して私を守ろうとしてくれている。
ノアム様にとってそんな価値はないのに。

王族と揉めさせてはいけない。
バートさんもローズさんも他の使用人のみんなも困ることになってしまう。

迷った挙句、ケインという人がドアの外で護衛をしているので話しかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ
恋愛
わたし、アザレア・ミノン伯爵令嬢には、2つ年上のビトイ・ノーマン伯爵令息という婚約者がいる。 彼は、昔からわたしのお姉様が好きだった。 お姉様が既婚者になった今でも…。 そんなある日、仕事の出張先で義兄が事故にあい、その地で入院する為、邸にしばらく帰れなくなってしまった。 その間、実家に帰ってきたお姉様を目当てに、ビトイはやって来た。 拒んでいるふりをしながらも、まんざらでもない、お姉様。 そして、わたしは見たくもないものを見てしまう―― ※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。ご了承ください。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...