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拾い主の推測

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【 ノアム・アルク子爵の視点 】



翌朝、パトリシアのドレスを着たエランを見て驚いた。

「おはようございます、ご主人様」

「お、おはようエラン」

「あの、ドレスでは掃除ができません」

「いいから先ずは朝食を食べろ」

「はい」

一緒に食事をすると確かにこれは上品過ぎる。
小屋ではスプーンしか使っていなかったからわからなかった。


「エラン。お前は使用人にはしない」

「不採用ですか。では憲兵の所へ連れて行ってください」

「いや、私の手伝いはさせる」

「助手ということですか」

「そんなところだ。名前も変えよう。
ローズ、何がいいと思う?」

「そうでございますね……アンジェリーヌ様ではいかがでしょう」

「アンジェリーヌか。よし、名前は今からアンジェリーヌだ。いいな」

「はい、ご主人様」

「それも止めろ。ノアムと呼べ。私の名はノアム・アルク。子爵だ」

「では、子爵様とお呼びします」

「ノアムだ」

「ノアム様」

パトリシアのドレスなのか?アンジェリーヌが着ると全く違うものに見える。

サイズが合っていないな。

「ローズ。アンジェリーヌのドレスを仕立ててくれ。急ぎで何着か欲しい」

「でしたら、直接お店に行かれては?
既製品を試着してサイズを少しお直しなさるといいでしょう」

「持って来させないのか」

「店側は全部は持ってくることはしません。
だとすると、お気に召さなかったときに別の物を持って来いと命じることになります。
急ぎなのに時間がかかってしまいます。
小物も必要では?」

「分かった。予約を捩じ込んでくれ」

「かしこまりました。
ご主人様だけでは不安ですので私も付き添います」

「酷いな」

「女性に対して無頓着な所がございますから」

「無頓着か?俺が?」

「正直申し上げますと、そうです。
女性への贈り物など気が利きません。

庭で花を摘んできて差し上げたらどうですかと申しましたとき、ご主人様は植木鉢を持ってパトリシア様に渡しました。

ご主人様が選んだドレスもあまり似合っておりませんでした」

今、娘が似合ってるからいいじゃないか。そんなことを考えていると察したローズが指摘した。

「誰かのお下がりを当てがって似合ってるとか仰らないでくださいね」

「……」

「そういうところですよ」





10時に店を貸し切った。

マダム エーヴが満面の笑みだ。

「彼女はアンジェリーヌ。買い物以外の質問は無しにしてくれ」

「かしこまりました。アンジェリーヌ様、私はエーヴと申します。ご要望をなんなりと仰ってくださいませ」


先に採寸し、既製服を選び試着して見せてくれた。

「どれもお似合いで悩みますわ。アルク子爵様、どれになさいますか」

「オーダー品は何日かかる」

「デザインと布を決めたら今なら一ヶ月未満で一着は納めさせていただけるかと」

「では、最初のと三番目と四番目をもらおう。
あと動きやすいワンピースも二着ほど選ばせてくれ。後はローズと話を詰めてくれ」

「かしこまりました」


聞き耳を立てていると、下着やハンカチ、靴や帽子や手袋なども選んでいた。

ガウンに寝巻き…それは色気がなさ過ぎる。
マダムが手にしていたナイトドレスの方がいいだろう!

「ローズ、ちょっと」

ローズに小声で、何故あっちの寝巻きを選んだのか聞いた。

「(アンジェリーヌ様は妻でも恋人でもないのですよ? 閨用のナイトドレスを買ってどうするのですか。パトリシア様と一緒にしてはいけません)」

「(分かった)」

一緒にしたつもりはない。ただ似合うと思っただけだ。あの美しい身体で着たら映えるだろうと。

こういう時間は面倒だと思っていたが、娘が笑顔になるなら悪くないと思った。

「可愛いな」

マダムの耳に届いてしまったのか、こちらを見るとニタリと口元を上げた。
そしてジェスチャーをしている。

何だ?

首? 耳? 指?

何だ?という顔をすると溜息が返ってきた。
マダムが近寄って耳打ちをする。

「(ドレスと一緒に必要なものはアクセサリーです)」

「(そう言えばいいだろう)」

「(言いました)」




マダムの店を後にして、ネックレスを見に行った。

店長のビクターが使用目的を聞いてきた

「普段使いだ」

「かしこまりました」


少しして店長が俺の元に来た。

「子爵様、あちらでちょっとお話しが」

隣の商談室へ行くと店長はドアを閉めた。


「子爵様、レディは記憶がないのでしたね?」

「そうだ」

「もしかしたら隣国のレディではないかと」

「根拠は」

「レディのバングルですが、ジューネス王国の王都に構える、隣国では一、二を争う高級ジュエリーショップの品です。

嵌め込まれた石は最高級品でアレ一つで最高の軍馬が買えるでしょう。
レディの手首の形に合わせて作らせたオーダー品で、当然採寸しますので間違いなく店に行ったか呼んだかしたはずです」

「そんなにすごい店なのか?」

「他に店舗を出さないかと言われても断り、オーダー品は常連かつある程度の購入実績がないと受け付けて貰えませんので、特にそこのオーダー品を身につけることは一種のステータスでもあります。

あと、独特の絵が彫られています。意味があるのかもしれません」

「分かった。ありがとう」

だとしたら娘の家門か、ソレを贈った者が裕福な貴族だということか。

そこまで裕福なのに指輪はしていないから夫がいるわけではないのだろう。
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