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ケインの暗躍
しおりを挟む【 ケインの視点 】
任務中に見聞きしたことの口外は重罪だ。
だけどこれは見過ごせない。
遅番が終わると急いで屋敷に戻り、サラの元を訪ねた。
「サラ」
「おかえりなさいませ」
「ちょっと外してくれ」
「かしこまりました」
メイドを遠ざけ、サラの手を取った。
「サラ。今から大事な質問をする。
王族に嫁ぐ気はないのだな?」
「お伝えした通りです」
「そうじゃない。もし、サラが純潔でなかったとしても娶れるようになったら殿下の伴侶になるのか」
「ケイン様?」
「君の気持ちだよ。サラ。
君はユリス殿下と婚姻し、子を成して、王妃になりたいかどうか聞いているんだ」
「そんな有りもしない未来のことを、」
「あるんだよ!今の積み重ねが未来を決めるんだ!なれるかなれないかじゃない!なりたいか なりたくないかを聞いているんだ!」
「何か聞いてしまったのですね」
「口外はできない」
意を決したように返事をした。
「未来の王妃にはなりません」
「分かった」
サラの部屋を出てお祖父様の部屋を訪ねた。
「お祖父様、お話がございます」
「入れ」
ドアを閉めて話を始めた。
「剣闘大会の優勝候補を教えてください」
「……殿下、ガードナー侯爵、バルチノ公子と聞いている」
「ガードナー侯爵かバルチノ公子に集中して指南をしていただけませんか」
「つまり、殿下に勝たせたくないと?」
「そういうことになります」
「何故だ」
「口外できません」
「サットン家に関わるのか?」
「いいえ」
「サラか」
「……口外できません」
「分かった」
翌日、殿下の護衛に就いていると、お祖父様の所へ行きたいと仰った。
騎士団本部のお祖父様の部屋へ行くがおらず、団長に聞くと腰の調子が悪くて2週間ほど休暇を取ったらしい。
「サットン卿、知らなかったのか」
「はい。申し訳ございません」
殿下は仕方ないと溜息を吐き、団長に頼むことにしたようだ。
「団長、剣闘会まで時間がない。指南をして貰いたい」
「殿下、それはなりません。
騎士団の者を個人的に利用してはなりません」
「今まで教えてくれていたではないか」
「王族が身を守る力を付ける手助けをしただけです。ですが今殿下は名誉を求めておられます。
全く意味合いが違うのです。
他の参加者に公平だったと申せなくなってしまいます。その様にして手に入れた名誉は後に殿下の足枷となります。負けたら負けたで騎士団を使ったくせにと言われてしまいます。
殿下は将軍職を目指されておいでですか?それならば不満は出ませんので徹底的な鍛錬を指導させていただきます。
先ずは承認を取ってください」
「いや、目指すわけではない」
「では、騎士団を引退した者を当たってはいかがでしょう」
団長はそう言って最近の退職者名簿を貸し出した。
殿下と退室する際に団長が目で合図をくださった。
お祖父様が団長を巻き込んだのだろう。結託している。
お祖父様は騎士団所属ではない。
将軍ではあるが名誉職だ。非常勤で若手の育成に協力しているだけ。
つまりガードナー侯爵やバルチノ公子が個人的に指導を申し入れても問題はない。
退職者名簿を借りたが、殿下が教わることができるのは良くて数日だろう。
そして時間は学園から戻ってきてからと休日のみ。
他にもやるべきことはあるので思うように時間は割けないだろう。
退職騎士の選定後に当たっても相手の予定が分からないし、王都にいるとも限らない。
それに退職者は辞めざるを得ない理由の者が多い。
違反をした者、傷病者、家族の事情や跡継ぎ問題。
そんな事情を抱えた者が王城まで教えに来ることが出来るのか。
何人目のオファーでいい返事がもらえるか。
最悪は間に合わない。
言い出すのが遅過ぎたのだ。
勤務を終えて屋敷に戻るとちょうどお祖父様が建物の外にいた。どうやら見送った後らしい。
「ただいま戻りました」
「おかえり」
中に入って報告とお礼を伝えた。
団長の対応に満足そうだ。
「ガードナー侯爵もバルチノ公子もなかなか良かった。熱意もあるし筋もいい。この2週間で差が付くだろう」
「どちらが勝つと思われますか」
「体調が戻ればガードナー侯爵だろう」
「体調?」
「食欲が無いらしく良く眠れないらしい。サラがかなり心配してな……。今夜はガードナー邸に戻った」
「そうですか」
「ガードナー侯爵はサラに依存している様だな。
儂がいてもバルチノ公子がいてもお構い無しだ。
自分こそ大丈夫ではないのに、ちゃんと食べているか、困っていないか聞いていた。
学園で時々昼食を一緒に取っているにも関わらず、まるで何ヶ月何年と会っていなかったかの様だった。抱きしめて離さないものだからサラが困ってしまってな。儂が引き離した。
ずっと2人は一緒だったようだな」
「夫妻がほぼ領地におられたようですからね。
支え合いながら王都と領地を何度も2人で往復したと聞いています。
ですがあの2人は血の繋がりが無く、侯爵の方はサラを望んでいます。気を付けてやらねばなりません」
「では少し気を付けてみるとしよう」
「お願いします、お祖父様」
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