上 下
78 / 84

恩人

しおりを挟む
 宰相閣下とフィロ兄様も後日ヴェリテ領に到着した。

宰「シェイナ、具合はどうだ」

私「すっかり良くなりました。傷も塞がりました。順調に完治すると思います」

宰「辺境伯は?」

私「毒は抜けましたが、矢傷がまだ。
医師の話では浅く刺さったので内臓に達していなかったようです」

宰「そうか。

ヴェリテ公爵は王城に報告にいらしたが、王太子殿下の質問攻めに遭っていたよ。

シェイナが毒矢の被害に遭って昏睡していると知らされた時から半狂乱で手が付けられなかった。

今は落ち着いた方だが、私達が行くと知って行きたいと騒いでいたよ」

私「クリス兄様によろしくお伝えください」

宰「辺境伯の傷が治ったら一緒に王都に戻って報告をしてくれ。
既に処刑してサガスは没落したが、牛を盗むところから襲撃まで目撃した二人だからな。

それまで休暇をとって付き添え。
命の恩人だろう?」

私「感謝します」

二人は一泊して戻って行った。

既にノワール家も叔父様も派遣された騎士団も王都に戻っている。

ここには私と母とストラ兄様とフェリシアン達だけだ。

ストラ兄様はフェリシアンの護衛達と鍛錬をして過ごし、私はフェリシアンに付き添っている。

彼の食事や入浴や着替えを手伝ったり、薬湯を飲ませたり 塗り薬を塗ったり包帯を交換したり、話し相手になったりしている。

フェリシアンは何をしても嬉しそうだ。

一緒に寝たいと言い出したが却下した。


「王都に行ったらデートしてくれる?」

「いいわよ」

「キスもしてくれる?」

「……いいわよ」

「……こっち来て」

「今じゃない」

「まさか一回だけとか言わないよな?」

「じゃあ、そろそろ戻るわね。おやすみなさい」

「シェイナ」

そんな声色で呼び止めないで。

近寄ってフェリシアンの胸に唇を付けた。

「おやすみなさい」

「愛してるよ シェイナ」



【 アリオンの視点 】


運が良いのか悪いのか。
矢傷のお陰で公女の態度が軟化した。

だけど疑問が残る。
奇襲とはいえ、洗練されていない賊の放った矢を正面から受けるなど考えられない。
背を向けていたなら分かる。
だが剣まで持っていた主人なら目の前に迫る矢を弾けたはずだ。

しかも矢傷は浅い。
考えられるのは、矢の威力を削いで態と受けた可能性だ。誤算は毒矢だったこと。

毒の種類によっては死ぬし、障害が残ることもある。

主人はどうしても公女を手に入れたいのだ。


確かに可愛いしヴェリテ公爵家の娘だから旨みはある。だが、あの出来事が始まりで嫌がられているのに付き纏うことは辺境伯にとって良いことではない。
たった一晩体を合わせて具合が良かったからといって執着していい相手でもない。

度々公女に会うために バロウ城を空けて王都やヴェリテ領に来るようになった。兵士達がどう思うか。

だけどただの高位貴族のお嬢様じゃなかった。
主人の姉達を 主人の気持ちになって諌めた姿には驚いた。

そして今回。
馬車の中で怯えて待つのでは無く、自ら先に降りてナイフで応戦した。
後で聞いたら 主人には馬車の上から私に剣を突き付けている賊の始末を優先させた。

主人が馬車を先に降りていたら私の命は無かった。

そしてしっかりと指揮を取り、ヴェリテ邸に戻るのではなく近くの宿で血を洗い流し平民服を着て詰所へ向かった。


ベッドの住人になった主人は私と二人きりになると口を開いた。

「見る目が変わったか?アリオン」

「お気付きでしたか」

「戦えて指揮も取れて ヴェリテ家の令嬢で、王家やウィルソン公爵家 今やあのノワール公爵家までが後ろ盾になっている。宰相閣下とも公私で縁繋ぎだ。

あの愚かな姉やしつこいサーシャを諌め 腰の重い子爵を動かした。
俺の立場を代弁できる女だ。

そして外見や身分だけでは男に靡かず、平民のお前を差別しない。
そんな女は滅多にお目にかかれないだろう?

その上 容姿もいいし、身体の具合もいいなんて女は二度と現れない。

矢を受けるくらいしなきゃ、無理矢理抱いてしまった過去を払拭できないからな」

「態と公女の前に出て受けたのですね」

「一本は剣に少し当てて威力を削いで胸筋に刺さるようにした。
もう一本は外れていたのに、シェイナが動いて俺の背後から出てしまった。
矢を受けた俺を心配してのことだろう。

迂闊だったのはシェイナを動かないようにしなかったことと、毒矢だったことだ」

「勘弁してくださいよ」

「このチャンスを逃さないぞ」

「わかりました」


すっかり公女は主人への警戒を解いたようだった。
甲斐甲斐しく世話をしてくれている。

主人のあの嬉しそうな顔。
どんな言葉を並べても恋に落ちただけじゃないのか?と思うのは私だけではない。
同行した騎士達も同じ気持ちだろう。
主人が幸せそうに笑っているのだから。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

【完結】第二王子の失恋〜傷心旅行先で出会ったのはイケメン王子でした〜

オレンジペコ
BL
俺はコーリック王国の第二王子、ルマンド=コーネ。 学園で好きになった子を振り向かせたくて、この一年一生懸命男を磨いた。 具体的に言うと魔物退治によるレベルアップを繰り返した。 けれど好きな子に告白しようと思っていた卒業パーティー当日────俺は気づいてしまったんだ。 彼女が『魅了』の魔法を周囲に使っていたことに。 百年の恋も冷めるくらいドン引きした俺は、その場のみんなの魅了を魔法で解いて、傷心のまま国を出た。 ま、傷心旅行ってやつだ。 取り敢えず隣国で冒険者として魔物退治でもしながらストレス発散&傷心を癒すぞー! これは旅行先で出会ったお忍び王子と友情を深めていたはずが、気づけば捕まっていたという…そんなお話。 ※主人公がノンケなので二人がくっつくのは結構先になります。(大体二章の終わりくらい) R-18は第四章がメイン。タイトルに※をつけてるので苦手な方はお気を付けください。 全120話予定です。宜しくお願いします。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

BL短編集②

田舎
BL
タイトル通り。Xくんで呟いたショートストーリーを加筆&修正して短編にしたやつの置き場。 こちらは♡描写ありか倫理観のない作品となります。

いつも余裕そうな先輩をグズグズに啼かせてみたい

作者
BL
2個上の余裕たっぷりの裾野先輩をぐちゃぐちゃに犯したい山井という雄味たっぷり後輩くんの話です。所構わず喘ぎまくってます。 BLなので注意!! 初投稿なので拙いです

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師としていざという時の為に自立を目指します〜

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
恋愛
政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。 それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。 なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。 そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。 そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。 このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう! そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。 絶望した私は、初めて夫に反抗した。 私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……? そして新たに私の前に現れた5人の男性。 宮廷に出入りする化粧師。 新進気鋭の若手魔法絵師。 王弟の子息の魔塔の賢者。 工房長の孫の絵の具職人。 引退した元第一騎士団長。 何故か彼らに口説かれだした私。 このまま自立?再構築? どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい! コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

処理中です...