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三角関係
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揺れる馬車が憂鬱なわけではない。
「何で護衛の其方が一緒に乗り込むんだ」
「私がシェイナをきちんと守るためです」
ノワール家の護衛達に守られた馬車にはクリスとセヴリアンが同乗している。
外には諜報部門から2人、残りの3人は暗殺部門から派遣されてきた。全てセヴリアンの人選らしい。
諜報のうちの一人は女性だ。
馬車の中の二人は仲が悪い。
最初の出会いがあんなだったから?
出発前はセヴリアンの同乗に揉めて、どちらが私の隣に座るかで揉めて。
休憩毎に交代するという解決法をとった。
早速隣を陣取ったリン兄様からはいい香りがする。
彼からこんな香りがするのは初めてだ。
まさか恋人の所に泊まった後?
やっぱりモヤモヤするな。
「酔ったか?」
「酔ってない」
「お前は気難しいな」
「気難しくない」
「何に怒ってるんだよ」
「怒ってない」
「嘘つけ、全く隠しきれてないぞ」
「しつこい」
「必ず口を割らせるからな」
「其方、シェイナは公女で王兄の娘だ。口の利き方に気をつけろ」
「嫌ですよ。この一行の中で一番強いのは私ですから。それに私とシェイナの間のことは口出ししないでもらいたいですね」
「雇われた側だろう」
「クリス兄様、彼はこのままにしてください」
「シェイナ…」
クリス兄様は王太子殿下だけど、セヴリアンという人を怒らせては駄目だ。
ごめんなさい、クリス兄様。
この二人の対立以外何の問題も(たぶん)無くたどり着いた。
ここはテステュータル子爵家の統治する領地。
隣はバロウ辺境伯の領地となる。
テステュータルも辺境と言っても良さそうなくらいで、テステュータルの屋敷とバロウ辺境の城も位置的に近い。単騎なら半日かからないだろう。
子爵邸に入る前に子爵領内の町を巡ることになった。町に入る毎にシェイナとクリスとセヴリアンは店を見て回る。その間、諜報2名と暗殺1名を放つ。
「リン兄様、護衛以上の仕事をさせていませんか?」
「普通は護衛の依頼なら護衛のみだが、今回はシェイナがいるだろう。危険の元を調べないとな」
「私達が調べるべきことなのに ごめんなさい」
「これはデュケット子爵の判断で、従うのはノワールの掟。シェイナが謝る必要はない。
ある程度のことは既に知っているが、知らぬことが発生していたら困るからな」
微笑みながら頭を撫でてくれる。
こんな風にするから……
昔はこんな微笑み方はしなかった。まあ、子供の頃に一緒にいただけだから、今のセヴリアンになるまでにいろいろな経験をしたのだろう。
いろいろ
「シェイナ 大丈夫か?」
「大丈夫です クリス兄様」
「具合が悪くなったら早く言えよ。抱っこしてやるからな」
「大丈夫だから」
やっぱり彼は私を子供として見てる。
「まあ、素敵なお兄様方ね。あの店にいるから寄っていって」
「いや、結構だ」
「他を当たれ」
「その間、お嬢さんを預かるわ。この町には女性を接待する店があるの。いろいろなタイプの男がいて楽しいわよ」
「彼女と離れるつもりはない」
「行ってみます」
「「はあ!?」」
二人を彼女達から離して小声で話した。
「(潜入ですよ)」
「(駄目に決まってるだろう)」
「(女諜報に任せればいい)」
「(探りに行って不在なら私が適任です。二人は彼女達の店を探りに行っては?)」
「(どんな店か知っているのか?)」
「(知りません)」
「(娼館と同じだ)」
「(え?昼間ですよ?)」
「(辺境に近いし旅の中継地のような町は昼も稼ぎ時間なんだよ)」
「(詳しいですね、リン兄様)」
「……」
「シェイナ、駄目だから」
「クリス兄様、大丈夫です」
リン兄様は声を掛けてきた女性二人と話をすると、何やら会話をして彼女達を去らせた。
「何て言ったの」
「後で行くからと言った。宿はこの町にしよう。
ジン宿の手配を」
「かしこまりました」
「勝手に決められては困る」
「殿下一人で情報収集するつもりですか?」
「っ!」
「一行の責任者は私です。全員私の指示に従ってもらいます。嫌でしたらニ人付けますので殿下だけお戻りください。改めて王宮騎士とどうぞ」
「そういう態度は主が許しているの?ボス」
「……」
「やりたいことは分かってるけど、ノワールの名を汚すの? ノワールは傭兵団じゃない。気高くあれと言われたでしょう」
「クリス王太子殿下、失礼しました。
後で詳細を説明します」
「よろしく頼む。私の方こそすまなかった」
「でも、シェイナを男の店に行かせないからな」
「そうだぞ。論外だ」
え?同盟でも結んだわけ?
宿に部屋を取り体を伸ばす。
「疲れたぁ~」
「すぐ夕食だからな」
説明されたのは、諜報のカレンとボルドをそれぞれの店に行かせるということだった。
セヴリアンが行く気なのかと思ったと言ったら、俺が行ったら誰がお前を守るんだ?と呆れられた。
最初から言ってよ。
「何で護衛の其方が一緒に乗り込むんだ」
「私がシェイナをきちんと守るためです」
ノワール家の護衛達に守られた馬車にはクリスとセヴリアンが同乗している。
外には諜報部門から2人、残りの3人は暗殺部門から派遣されてきた。全てセヴリアンの人選らしい。
諜報のうちの一人は女性だ。
馬車の中の二人は仲が悪い。
最初の出会いがあんなだったから?
出発前はセヴリアンの同乗に揉めて、どちらが私の隣に座るかで揉めて。
休憩毎に交代するという解決法をとった。
早速隣を陣取ったリン兄様からはいい香りがする。
彼からこんな香りがするのは初めてだ。
まさか恋人の所に泊まった後?
やっぱりモヤモヤするな。
「酔ったか?」
「酔ってない」
「お前は気難しいな」
「気難しくない」
「何に怒ってるんだよ」
「怒ってない」
「嘘つけ、全く隠しきれてないぞ」
「しつこい」
「必ず口を割らせるからな」
「其方、シェイナは公女で王兄の娘だ。口の利き方に気をつけろ」
「嫌ですよ。この一行の中で一番強いのは私ですから。それに私とシェイナの間のことは口出ししないでもらいたいですね」
「雇われた側だろう」
「クリス兄様、彼はこのままにしてください」
「シェイナ…」
クリス兄様は王太子殿下だけど、セヴリアンという人を怒らせては駄目だ。
ごめんなさい、クリス兄様。
この二人の対立以外何の問題も(たぶん)無くたどり着いた。
ここはテステュータル子爵家の統治する領地。
隣はバロウ辺境伯の領地となる。
テステュータルも辺境と言っても良さそうなくらいで、テステュータルの屋敷とバロウ辺境の城も位置的に近い。単騎なら半日かからないだろう。
子爵邸に入る前に子爵領内の町を巡ることになった。町に入る毎にシェイナとクリスとセヴリアンは店を見て回る。その間、諜報2名と暗殺1名を放つ。
「リン兄様、護衛以上の仕事をさせていませんか?」
「普通は護衛の依頼なら護衛のみだが、今回はシェイナがいるだろう。危険の元を調べないとな」
「私達が調べるべきことなのに ごめんなさい」
「これはデュケット子爵の判断で、従うのはノワールの掟。シェイナが謝る必要はない。
ある程度のことは既に知っているが、知らぬことが発生していたら困るからな」
微笑みながら頭を撫でてくれる。
こんな風にするから……
昔はこんな微笑み方はしなかった。まあ、子供の頃に一緒にいただけだから、今のセヴリアンになるまでにいろいろな経験をしたのだろう。
いろいろ
「シェイナ 大丈夫か?」
「大丈夫です クリス兄様」
「具合が悪くなったら早く言えよ。抱っこしてやるからな」
「大丈夫だから」
やっぱり彼は私を子供として見てる。
「まあ、素敵なお兄様方ね。あの店にいるから寄っていって」
「いや、結構だ」
「他を当たれ」
「その間、お嬢さんを預かるわ。この町には女性を接待する店があるの。いろいろなタイプの男がいて楽しいわよ」
「彼女と離れるつもりはない」
「行ってみます」
「「はあ!?」」
二人を彼女達から離して小声で話した。
「(潜入ですよ)」
「(駄目に決まってるだろう)」
「(女諜報に任せればいい)」
「(探りに行って不在なら私が適任です。二人は彼女達の店を探りに行っては?)」
「(どんな店か知っているのか?)」
「(知りません)」
「(娼館と同じだ)」
「(え?昼間ですよ?)」
「(辺境に近いし旅の中継地のような町は昼も稼ぎ時間なんだよ)」
「(詳しいですね、リン兄様)」
「……」
「シェイナ、駄目だから」
「クリス兄様、大丈夫です」
リン兄様は声を掛けてきた女性二人と話をすると、何やら会話をして彼女達を去らせた。
「何て言ったの」
「後で行くからと言った。宿はこの町にしよう。
ジン宿の手配を」
「かしこまりました」
「勝手に決められては困る」
「殿下一人で情報収集するつもりですか?」
「っ!」
「一行の責任者は私です。全員私の指示に従ってもらいます。嫌でしたらニ人付けますので殿下だけお戻りください。改めて王宮騎士とどうぞ」
「そういう態度は主が許しているの?ボス」
「……」
「やりたいことは分かってるけど、ノワールの名を汚すの? ノワールは傭兵団じゃない。気高くあれと言われたでしょう」
「クリス王太子殿下、失礼しました。
後で詳細を説明します」
「よろしく頼む。私の方こそすまなかった」
「でも、シェイナを男の店に行かせないからな」
「そうだぞ。論外だ」
え?同盟でも結んだわけ?
宿に部屋を取り体を伸ばす。
「疲れたぁ~」
「すぐ夕食だからな」
説明されたのは、諜報のカレンとボルドをそれぞれの店に行かせるということだった。
セヴリアンが行く気なのかと思ったと言ったら、俺が行ったら誰がお前を守るんだ?と呆れられた。
最初から言ってよ。
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