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ナディス公子の兄の調査結果

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【 ナディスの視点 】


今日はノワール邸に来ている。調査結果を聞くためだ。

金曜の夜、姿を消したシェイナはここに匿われていると思っている。

あの辺境伯のせいだ。
ノワール公爵もクリス王太子殿下も殺気立っていた。

辺境伯は縋るようにシェイナに跪いていた。
引き寄せ抱きしめたらシェイナから拳の歓迎を受けていた。

屈強な辺境を守る剣豪に向かって勇ましいことだ。
さらに手刀の追撃を喰らっても離さないときた。

ライバルが三人もいたわけだ。

クリス王太子殿下は従兄妹だから娶ることはないが、邪魔をしたり囲ったりは可能だ。

しかし、あの後、辺境伯が聞き回った結果、シェイナの職場がバレてしまった。
ということは、王宮から離そうとするだろう。

ヴェリテ邸は押しかけられる。

ヴェリテ公爵夫妻が縁のなかったノワール公爵に娘を預けダンスを踊らせた。

一人暮らしの部屋に戻すわけもない。
つまり、可能性が高いのはここだ。

そして、遠くで裸の女が走っているのを見た。
幻覚か?

手洗いを借りてると話し声が聞こえてきた。

『容赦なかったわね。公爵夫人でも掟を破ればああなるのね。気を引き締めないと』

『お給料はいいし、ちゃんと仕事をすれば労いの言葉をかけてくださるし、王都のノワール邸で働いていたと書いた経歴書と、当主の推薦状があれば、どんな場所でも雇ってもらえると聞いたわ。

辞める気はないけどね』

『でも、あんなに怒っている公爵様を見るのは初めてだわ』

『昨夜、タイラー様に命じて姫様の部屋を覗かせたのよ』

『うわ!命知らずね。屋敷中引き摺り回されて、裸にされる訳だわ』

『小指も折られたらしいわよ』

『それだけで済んだのだから運がいいわ』

『今夜、対面させるらしいわ。
姫様が昨夜、気になさったので、公爵様がベアトリス様に挨拶をさせるそうよ。

さっき、一人で脱ぎ着できる服を商人に持って来させて、ドレスなどの一人で脱ぎ着出来ないものは燃やせと指示があったわ』

『もしかして、平民のワンピース?』

『かもしれないわね。夕方までに持ってきてくれと仰っていたから既製服なのは間違いないわ』

『バカね。嫉妬などせずに大人しくしていれば後継ぎの母としていられるのに』

『それがタイラー様は後継ぎじゃないのよ。
適性がないの』

『なら尚更掟を破ったら駄目じゃない』

『あ、呼び笛だわ。行かなくちゃ』



面白い話を聞いた。

やはりシェイナはここに居た。

公爵夫人である妻を屋敷中引き摺り回して裸にして部屋に戻らせたのか。

優しいのはシェイナの前でだけなのだな。





応接間に戻ると公爵がいた。

「手洗いを借りたよ」

「お掛けください」

機嫌が悪そうだな。今日は大人しくした方が良さそうだ。


「まず、兄君のパトリック公子の報告をします。

侍従のガイールは今や亡国となったワルスベルト出身の元子爵令息です。

家族と隣国に逃げる際に自家栽培していたいくつかの種を持ち出し、移住先で育てました。

それは十種類程ありましたが、芽が出ることなく腐ってしまった種が三種類、芽が出ても必要な花も咲かず枯れてしまったものが四種類、一種類は花まで付けたのに害虫が着いてしまい駄目になってしまいました。


栽培に成功したのは二種。

一つは根から抽出する毒で、体の動きを麻痺させます。
もう一つは花弁から抽出する毒で、意識を混濁させます。

前者は多く与えると呼吸不全になったり心臓が止まり死に至ります」

「ガイールが、兄上に毒を提供しているのだね?
何故今も生かされているのだろう」

「麻痺性の毒はちょっと厄介で、少量ですと時間と共に排出されてしまいます。
多く取ると皮膚に紫斑が現れます」

「つまり、毒を盛ったのがバレるわけか」

「その通りです。
ですから長期計画に変更したものの、時間がかかり過ぎるので意識を混濁させて実権を少しずつ奪っているのです。

邪魔な貴方が婿入りすれば公主は致死量を使われるか、階段から落とすなりして事故死を主張するでしょう」

「木曜の外出は何なんだ?」

「郊外の森の中に屋敷を建てていて、そこに17名の女を囲っています。
その女達はワルスベルト時代の元貴族の血筋か、見目の良い平民です。

10歳が2名、11歳が3名、13歳が1名、15歳が2名、16歳が1名、17歳以上20歳未満が3名、20歳以上が2名の計14名。

奴隷のように繋がれて客を取らされています」

「10歳も!?」

「そういう趣向の金持ちは存在します。
20歳の誕生日を迎えると、嗜虐趣味のある客専用となり、客に始末させて大金を得ます。

10歳の娘を抱けたり、殺しても咎められないならかなり大金を落としたはずです。他所ではできませんからね」

「公主の息子が何てことを」

「王国時代の保守派の貴族がいます。
どちらかの家門でも結構です。
協力を要請してください。

木曜日、パトリック公子が出かけたら、公主を保護して貰うのです。
匿ってもらい、利尿効果のある薬草を使ったり、代謝の上がる食事を摂らせて毒を排出させるのです。
段々と覚醒していきます。まだ間に合うでしょう。

パトリック公子が戻って騒いだら、見舞いに来た公主の友人が連れてきた医師が、毒の疑いを持った為に行き先を教えてもらえなかったと言えばよろしいかと。

公主の搬送に使う馬車は家紋の無い多く使われている平凡な物を使ってください。中古だといいですね」

「どの貴族か聞かれたら?」

「この貴族の名前を出しても大丈夫です。
どちらも夫人が異なる異国の元王女です。
強く出ることはできません。

貴方は、
“何が何だか分からなくて兄上を待っていました。何処にいっていたのですか!”
と動揺している振りをなさってください」

「先程の女の数に差があるが」

「3名はパトリック公子専属です。皆10歳未満です」

「ハッ……嘘だろう?」

「パトリック公子は10歳未満でないと興味がないようで、7歳以上の娘を貰い受け、楽しんでいます。10歳になると客に解放して金を得ます。そうやって、子供を買い付けたり、屋敷の維持をするのです」

「それにも侍従が?」

「はい。少量、麻痺性の毒を与えて事に及びます。当然、10歳未満では泣き叫びます。
ですが媚薬や麻酔は使いたくないようです。
微量の麻痺性の毒を与えて抵抗する力を少し弱めて犯します。

煩すぎるのは嫌みたいですが、涙を流したり、痛みに顔を歪めたり、ナカの締まりを堪能したいようです」

「大人が犯したら壊れるだろう」

「それが、パトリック公子は……陰茎が小さいようで……」

「小さめでも、」

「証言ですと太さは男の親指より少し太い程度、長さは女が握って先が出る程度だそうです」

「だから義姉上とは白い結婚なのか」

「娼館の支配人が証言しました。
まだ、パトリック公子が成人する前に利用した際に、支配人に“緩すぎる”と抗議したそうです。
支配人は謝罪して、代金を返したそうです。
その後、担当した娼婦に話を聞いたら、硬く勃ち上がるがモノが小さ過ぎるから、口で抜いたようでした。

娼婦は、楽な口淫だったが、ちゃんと抜いたのに代金を貰えないのは納得がいかないと怒ったそうです。

しかし、このままではまた来店して、謝罪込みで無料の奉仕しなくてはなりません。

公子相手にどう納得させようか悩んでいたところ、娼婦が、“前回のお詫びだと言って、乱交部屋に無料で招待しましょう。仮面をつけさせて、いろんな嬢とやりたい放題だと誘うのです。その時に、他の客達とアレのサイズが違うと気が付いてもう来ないでしょう”と提案しました。

娼婦の言う通り、早々に逃げ帰ったそうです。それ以来現れなかったと」

「……」

「恐らく、乱交部屋で笑われたのでしょう。
だから女に痛みを与えたい。
幼い娘に態々量を調整して痛みを与え、娘が大人の女になれば客に痛めつけさせて殺させるのです」

男にとっては悪夢だな。
仮面を付けていたのが不幸中の幸だった。

そのサイズでは大人の女を悦ばせることはできないだろう。

「復讐か」

「パトリック公子が屋敷に戻った頃に、森の屋敷に憲兵を向かわせればいいでしょう。
そのまま隠れて待機していれば、その夜か翌日には不安になって鍵を持ったパトリック公子と侍従が様子を見に現れて現行犯逮捕です」

「醜聞になるな」

「でしたら、公主を保護した貴族の私兵を借りるといいでしょう。
捕らえておいて、公主が覚醒したら、代理捜査任命書に署名して貰えばいいのです」

動かせる兵が少ない時に貴族に兵を借りる為のものだ。

「借りがでかいな」

「王制に戻ることはありません。彼らを味方につけて支えて貰うのです。正義を貫き 素直に協力を乞う公子に対して貸しを作ったと 大きな顔をするような家紋ではありません。

そんな輩なら、話を聞いた途端にボルデン家を潰すでしょう」

「流石ノワール家だ。依頼して良かった」

「次は婚約者ですね」





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