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前世の記憶

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面倒くさいデビューを終えて、私は悩んでいる。



二日前。

デビュータント前日に到着した両親に言い過ぎたと謝った。

だけど子供にそんな分かり難い愛情の掛け方は考えものだと思うし、やはり心の中では私達子供は二の次なのだろうと言う気持ちが拭えない。
行き先がタウンハウスだったから良かったものの、違う場所なら拗れていたはず。


そしてデビュータント翌日には宰相閣下がやってきて私をスカウトしたのだ。
宰相閣下はお父様に交渉をし始めた。

『シェイナ嬢も非常に優秀で、是非私の執務室で働いて欲しいのです。手伝ってもらった僅かな時間が忘れられないのです。

正直申しまして、学校で3年間ボーッと聞き流して過ごすよりいいと思います』

『何故ボーッと過ごすと?』

『もう学校で学ぶことなど終了しているはずです』

お父様がチラリと私を見るから、私もメイドを見た。

メイドは “え!?” という顔をした後、首を横に振っている。
仕方ないからお父様に顔を向き直すとまだこっちを見ていた。

『多分、終わってます』

『そんな話は聞いていないが』

『そんな話をする私達ではありませんでした』

『それで?』

『引きこもっている分、自習が進み、授業も早く進みました』

『何か狙いがあるのか?』

『ありません』

『教師からは終了報告が無かったが』

『入学相応の学力がつくまでということでしたが、必要とした見込期間の三分の一未満でした。

それでは収入が大幅に減ってしまうのでその先を続けてもらいました』

『誰の考えだ』

『私がお願いしました。終了したら入学まで三年近く空きます。そんなに空いたら忘れそうでした』

『では、卒業レベルの学力があるということだな?』

『そうかもしれません』

『曖昧だな』

『卒業試験を受けたことがありませんので、私には判断がつきません』

『……王宮で働きたいのか?』

『違います』

『宰相?』

『殿下、私はスカウトに参りました。シェイナ嬢の能力を見込んで私が部下として欲しいと願っているのです。

社交でしたら王宮勤めでも社交は叶います』

『では、入試で一位を取れていたら、シェイナに選ばせよう』

一位……結局は入学させたいだけなんだなと思うと溜息も深くなってしまった。



一ヶ月後。

深緑色の蝋印を捺された白い封筒を握りしめた私に声をかけたのは執事のマークスだった。

「お嬢様、開封なさって旦那様に報告に行かないとなりません。答えを急がねばなりませんよ」

合否通知を受け取ってからニ週間以内に意思表示をして迅速に入学手続きや準備をしなくてはならないのだ。

思い切って開けてみると

“入学を許可する”  

“1/102位”

「どっちもイヤだ~!!」

「お嬢様、旦那様にお見せしなければ」

「はぁ、行ってくるわ」


私は考え事をしながら階段を登っていた。
よりにもよって一番上の段で滑らせてしまった。

「キャーッ!!お嬢様!!」

「医者を呼べ!!」

「旦那様に知らせます!!」

意識が遠退いていった。






身体が重い

寝返りが……出来ない

泣いているのは?
明るい?陽が登っている?

あ~今日の任務は何だっけ。
ボスも人使いが荒いからな。
私の専門は情報収集なのに何で暗殺の仕事を回すかなあ。

あれ?それ失敗しなかった?

え?失敗?

そうだ。あの仕事は罠だった。
仲間であり次期ボスの補佐の座を巡ってライバルだったバチスに殺られたんだった。

……殺られた!?

「あいつ……」

「シェイナ?……シェイナ!」

「お母様?」

「ノジー、医者とセインを呼んできて!」

「私……あれ?此処は?」

「王都のヴェリテ邸よ!」

「ヴェリテ……ヴェリテ……

あれ?じゃあミラは?」

「まさかそんな!」

「追っ手は」

「お嬢様!」

そこにシェイナの父が駆けつけた。

「シェイナ!」

「お父様?」

「セイン、シェイナの様子がおかしいの」

「分かるか?シェイナ。階段から落ちたんだ」

「階段……」

「学園入試の合否通知を持っていた」

「一位……」

「そう、一位だ」

「セイン、ちょっといい?この子に質問をするから。

貴女、名前は?」

「ミラ・ノ……あれ?」

「歳はいくつ?」

「14歳」

「最後の記憶は?」

「刺されて…死んだ?あれ?」

「貴女の名はシェイナ・ヴェリテ、15歳よ」

「うあっ!」

「「シェイナ!」」

痛い!頭が割れるように痛い!

「シェイナ! シェ……! ………!」





「熱は落ち着きましたのでゆっくり休ませてください。記憶の混乱がある場合は質問攻めにせず、自分から話すのを待ってあげてください」

「ありがとうございました」

「お見送りいたしますわ」

「大丈夫ですよ。奥様も休まれて下さい。
これは睡眠薬です。一包み服用してください。お嬢様が目覚めた時にやつれていたら不安になりますよ」

「分かりました。飲んで休みます」


扉の閉まる音がして目を開けた。

「ふう~」

混沌としていた頭の中がスッキリして落ち着いた。

何日経ったのだろう。
汗ばんで気持ち悪い。お風呂に入りたい。

呼び鈴を鳴らすとメイドが駆けつけた。

「お嬢様!」

「湯浴みと果実水を用意してもらえる?
お母様にはまだ知らせないで。休ませてあげたいの。お父様は?」

「執務室にいらっしゃいます」

「二時間後に起きたと伝えて」

「かしこまりました。不調なところはございませんか」

「大丈夫よ。何日経つのかしら」

「転落から四日です」

「心配かけちゃったわね」

「すぐご用意いたします」



果実水を飲みながら湯浴みをして、休んでからお父様を呼んでもらった。

「心配をおかけしました」

「痛みは」

「まあ、痛いです。打身の痛さです。お母様はこのまま自然に起きるまで寝かせてください」

「睡眠薬を飲んだからそのままにするよ。
落ち着いたのか」

「はい。ほぼ。
お父様、私、学園へは行かずに就職します」

「縁談に支障がでるぞ」

「かまいません。

文官になれば自立できますから、結婚するかどうかなんて拘りません」

「私が言ったことを気にしているのだな」

「己を知るいい機会でした。
普通の貴族令嬢は向いていなかったのです。

ヴェリテ公爵家に娘はいなかったものとして諦めてください。成人するまで後ちょっとですから、それまでに棲家を確保して成人と同時に独立します」

「それは駄目だ」

「私、貴族に拘りません。除籍なさってください。平民として生きていけますから」

「生きていけるわけないだろう」

「証明して見せます」












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