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追い討ち

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【 アクセルの視点 】



「婚姻七ヶ月間は自分の物は自分で買ってくれ。その代わり、騎士の給料は全額アクセル殿の自由だ。

離縁になった時、当主の配偶者の一般的な分与しか行わない。瑕疵がアクセル殿にあれば小銅貨一枚でさえ渡さない。

持参金は1億セルガ。一般的な貴族の輿入れでは高めだが、カロンヌうちの規模では高くない」

「は?私を女の嫁入りと同等に考えておられるのですか!」

「君に出来ることは何かな?アクセル殿」

「……」

「当主の妻は使用人の管理、来客対応、社交や縁繋ぎ、親族の取り纏め、慈善活動、当主の補助や世話、そして健康な子を産むこと、子育てを要求され、多くの役割を日々こなす。
屋敷内を取りまとめて予算内におさまるよう努める。

それでも持参金を求められ従えと言われる。
子を産むことを除いて、これらの何が君に出来るのだ?」

「……」

「女の嫁入りねぇ。今の君は何一つできやしない。女の嫁入りの足元にも及ばない。
時間を守るのは初歩だよ。挨拶出来なきゃ来客対応も何も任せられない。

筋違いなことを言っていては使用人の信頼は得られない。

もし、君がその実力のまま令嬢であったとしたら、愛人か妾にしかしてもらえないだろう」

「っ!!」

「君は美男子と言えるが、美しさで人の心を掴めるのは男も女も僅かな時間だ。直ぐに飽きられて使い捨てられてしまうよ」

「公爵!」

「ソフィアは忙しい。国王陛下、王妃様、王太子殿下、王太子妃様主催のものにしか出席しない。

そして、貞操の誓いをしてもらおう。
言い訳は聞かない。不貞が発覚した時点で即離縁だ。身一つで追い出すことになるし、損害が出れば賠償請求もする。

王命の婚姻なのに浮気など有り得ないだろう?病気をもらってきても困るしな。
他の女とどうこうしたければ離縁してからにしてくれ。

今日から一年間は白い結婚となるから、我慢できないのであれば、その間だけは娼婦を一人、専属の閨係として用意しよう。

意義はあるかな?

男は女遊びをするものだみたいなのは止めてくれよ?
それは当主の務めを一人前にこなせる者が口に出来る台詞だ。
つまり、君とソフィアに言い換えれば、遊ぶことを許されるとしたらソフィアになるな」

「なっ」

「今のところ、子を作る協力一つしか出来ないのに他所でも腰を振ろうというのかな?
それでは人間ではなくなってしまうだろう」

「公爵!!」

「アクセル!! 座れ!!

カロンヌ公爵。はっきり言われてアクセルの立場がよく分かりました。確かに、アクセルはカロンヌ家の必要とする役割の内、子作りしか役に立ちません。

私が甘過ぎました。お恥ずかしい限りです。

条件を全て受け入れ、持参金も用意いたします」

「父上!」

「当主の決定だ。
そもそも、指摘通りじゃないか。
これ以上恥をかかせるんじゃない!」



屈辱的な時間を与えられている間に、ソフィア嬢は兄上と話し込んでいた。

「ソフィア嬢に相談してみたんだ。
領地の果物工場が険悪だと言う話をしてアドバイスをもらったよ」

父上も兄上も何故納得してるんだ!?


ティータイムに義姉上に話を振ってみた。

「それは印象悪いわね。 
うちは侯爵家、向こうは公爵家。
カロンヌは公爵家の中でも家格が高いのよ?
その家門との縁繋ぎの話し合いの席に遅れて来て、謝罪も挨拶もしないのは有り得ないわね。

もし、私が招かれた茶会でそんなことをしようものなら一度で社交から締め出されるわ。

アクセル様は王女殿下付きの専従騎士なのに時間厳守、挨拶、謝罪も不要なのかしら」

「……」

「それに、公爵の仰っていることに間違いはなくてよ?アクセル様が受け入れられないのは、根底に女性蔑視があって、ソフィア嬢を見下しているから反発するのね。

自分の方が上だ、偉いんだって」

「そんなことは…」

「では、何故、努力している者を認めてあげられないの?

主席を維持しながら、領地経営と語学の教師を雇って身につけるなんて、誰にでも出来ることではないわ。
勉強するだけは誰でも出来るのよ?お金さえ出せば。でもどちらにしてもソフィア嬢は結果を出したじゃない。主席だけでも困難よ。

婿を迎える当主なら絶対思うわよ。
婿先で爵位を継ごうというのなら、後継者教育が済んで然るべきだってね。

アクセル様は、いつか将来婿入りすることは子供の頃から判っていた。
なのにその為の準備を何もしていない。


そうね、アクセル様視点で言うならば、騎士の採用から外れてしまった。貴方は納得いかなかった。

騎士団長はこう言った。

“騎士になりたい?
なら何故剣の稽古をしないんだ?
剣術を教わろうとしないんだ?
騎士になる為の努力をしないのに騎士と呼ばれて剣を握る資格をもらいたい?

何も学ばずに過ごしてきた君に剣を握ることを許したら、騎士団は崩壊するし、仲間に死傷者が出てしまう。誰も君に背を預けられないし危なくて近くにも置いておけない。
知識も技術も体力も無くて只々足手纏いだ。

そもそも時間に遅れてやって来て、謝罪も挨拶も無い。

騎士として云々どころか、人としてどうかと問わねばならないよ” って感じね。

それでも、納得いかないと駄々を捏ねているの。どう思う?」


何も言えなくなり、夕食をとって城の宿舎に戻った。





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