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ユベール/理由
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【 ユベールの視点 】
ガルザック領の一部を代々任せている 遠縁のスタンダル子爵家は目立たない平凡な家門だ。
たまに子爵夫妻が連れてくるリゼットは元気いっぱいに駆け回る子だった。
他の令嬢達は、早くも私や他の令息に媚を売っていた。
そんなリゼットを疎ましく思う令嬢達は、“はしたない” “平民みたい” と口にした。
だけど私には、彼女が眩しく見えていたし、屈託のない笑顔に心を奪われた。
私は父上にリゼットを婚約者にしたいと言ったけど、リゼットに侯爵家は重荷だと言われた。
“あの笑顔が消えるぞ”
侯爵夫人の務めや周囲からのプレッシャーで笑顔は曇ると言われた。
まだ子供だから学園に入って様子を見たいとお願いをして、リゼットがどう成長するのか見守った。
デビュータントのダンスの相手をしたくてパートナーを申し出た。
確かにそれだけでリゼットに視線が刺さる。
駄目なのか…。
あっという間にリゼットは二年生になった。
そして父上に呼ばれた。
「リゼットが王子妃に選ばれた。
ラザール第三王子殿下に嫁ぐ。
直ぐに退学して身内で式をするそうだ」
「は!?」
「ユベールは他の令嬢と、」
「王子妃だったら私との婚姻でも良かったじゃないですか!!」
「王子妃と言っても、闘病する殿下をお慰めする為の妻だ。殿下に奇跡が起きて治らない限り表にはでない。リゼットは殿下の話し相手となり看取ることになる」
「若いリゼットにその様なことを 何故させるのです!」
「王家の強い希望だ。王命と言っても変わらないだろう。もうどうすることもできない」
リゼットは本当にラザール殿下に娶られた。
式を済ませたと記事を読んだときに、リゼットは他の男と初夜を迎えたのだと部屋中をめちゃくちゃにした。
その後は何も身に入らず成績は落ち続けた。
社交も出席しては人目のつかない場所に隠れて時間を潰した。
ついに指名を取り消すかと思ったが、父上は予想外のことを提案してきた。
「あの時、お前の意を汲んで娶らせてやれば良かった」
そんなことを言われても今更だと思った。
「スタンダル子爵夫人に内密にするからと聞き出したところ、殿下が亡くなれば自由の身になるらしい。
それ以上は教えてもらえなかったが、10年ももたないだろうと考えている様だ。
ユベール。とにかく誰か娶れ。夫の役目は果たしてもらう。男児が産まれたら、もしくは不妊なら離縁して 独身に戻ったリゼットを娶っていい」
父上が選んだ縁談相手は、家門には問題ないし格上ではないが、本人に少し問題がある令嬢達だった。
その中でビビオナード侯爵家の娘に目をつけた。
「彼女は?」
「婚約者に破棄された。婚約者と仲の良い令嬢を虐めていたようだ」
「彼女にします」
彼女の髪も瞳も色だけはリゼットに似ていた。
卒業までを婚約期間とした。
「ユベール様、今度デートに連れて行ってください」
「忙しい」
「ユベール様、今度我が家のお茶会に、」
「行かない」
「知人の夜会に、」
「行かない」
「酷いですわ。恋人同士なら、」
「ベルティーユ様。私達は恋人ではありません。
いつ私が愛を囁きましたか?
ビビオナード家から釣書が届いて、条件を飲むというから婚約しただけの契約婚でしかありません。
次期侯爵夫人になるのでしたら夢見る乙女でいられては困ります」
「っ!」
それ以来、大人しくなったが婚姻が近付いてくると あれもこれもと要求しだした。
「もっとお花を飾りたいわ」
「……」
「参列者をもう少し増やしたいわ」
「……」
「結婚指輪は王室御用達のお店で選びたいわ」
「……」
「ウェディングドレスはもっと華やかにしたいからダイヤを散りばめようかしら」
「……」
「ティアラを作りたいわ」
「……」
「ネックレスはユベール様の瞳の色で大きな石を探させましたの」
「……」
「新婚旅行は、」
「ベルティーユ様。ご自身の評判を知っていて仰っているのですか?
何故 婚約破棄されたのか忘れたのですか?
本来なら質素に済ますところでしょう」
「っ!!」
「追加の部分は全てビビオナード家で支払ってください。新婚旅行は行ってきていいですよ。私は行きませんのでご自由に」
「ううっ」
「婚姻はお遊びではありません。
泣いて済ます侯爵夫人など聞いたことがありませんね。
少しでも心を入れ替えたと周囲に思ってもらえる様に振る舞えないのですか」
常に厳しく指摘した。
リゼットはクッキーを一枚あげると嬉しそうに微笑んだ。彼女に買ってやれないのに、何故お前に馬鹿高い宝石など買わねばならないんだ?
ティアラ? 何様のつもりだ。
結局最初のプランのまま式を挙げた。
ガルザック領の一部を代々任せている 遠縁のスタンダル子爵家は目立たない平凡な家門だ。
たまに子爵夫妻が連れてくるリゼットは元気いっぱいに駆け回る子だった。
他の令嬢達は、早くも私や他の令息に媚を売っていた。
そんなリゼットを疎ましく思う令嬢達は、“はしたない” “平民みたい” と口にした。
だけど私には、彼女が眩しく見えていたし、屈託のない笑顔に心を奪われた。
私は父上にリゼットを婚約者にしたいと言ったけど、リゼットに侯爵家は重荷だと言われた。
“あの笑顔が消えるぞ”
侯爵夫人の務めや周囲からのプレッシャーで笑顔は曇ると言われた。
まだ子供だから学園に入って様子を見たいとお願いをして、リゼットがどう成長するのか見守った。
デビュータントのダンスの相手をしたくてパートナーを申し出た。
確かにそれだけでリゼットに視線が刺さる。
駄目なのか…。
あっという間にリゼットは二年生になった。
そして父上に呼ばれた。
「リゼットが王子妃に選ばれた。
ラザール第三王子殿下に嫁ぐ。
直ぐに退学して身内で式をするそうだ」
「は!?」
「ユベールは他の令嬢と、」
「王子妃だったら私との婚姻でも良かったじゃないですか!!」
「王子妃と言っても、闘病する殿下をお慰めする為の妻だ。殿下に奇跡が起きて治らない限り表にはでない。リゼットは殿下の話し相手となり看取ることになる」
「若いリゼットにその様なことを 何故させるのです!」
「王家の強い希望だ。王命と言っても変わらないだろう。もうどうすることもできない」
リゼットは本当にラザール殿下に娶られた。
式を済ませたと記事を読んだときに、リゼットは他の男と初夜を迎えたのだと部屋中をめちゃくちゃにした。
その後は何も身に入らず成績は落ち続けた。
社交も出席しては人目のつかない場所に隠れて時間を潰した。
ついに指名を取り消すかと思ったが、父上は予想外のことを提案してきた。
「あの時、お前の意を汲んで娶らせてやれば良かった」
そんなことを言われても今更だと思った。
「スタンダル子爵夫人に内密にするからと聞き出したところ、殿下が亡くなれば自由の身になるらしい。
それ以上は教えてもらえなかったが、10年ももたないだろうと考えている様だ。
ユベール。とにかく誰か娶れ。夫の役目は果たしてもらう。男児が産まれたら、もしくは不妊なら離縁して 独身に戻ったリゼットを娶っていい」
父上が選んだ縁談相手は、家門には問題ないし格上ではないが、本人に少し問題がある令嬢達だった。
その中でビビオナード侯爵家の娘に目をつけた。
「彼女は?」
「婚約者に破棄された。婚約者と仲の良い令嬢を虐めていたようだ」
「彼女にします」
彼女の髪も瞳も色だけはリゼットに似ていた。
卒業までを婚約期間とした。
「ユベール様、今度デートに連れて行ってください」
「忙しい」
「ユベール様、今度我が家のお茶会に、」
「行かない」
「知人の夜会に、」
「行かない」
「酷いですわ。恋人同士なら、」
「ベルティーユ様。私達は恋人ではありません。
いつ私が愛を囁きましたか?
ビビオナード家から釣書が届いて、条件を飲むというから婚約しただけの契約婚でしかありません。
次期侯爵夫人になるのでしたら夢見る乙女でいられては困ります」
「っ!」
それ以来、大人しくなったが婚姻が近付いてくると あれもこれもと要求しだした。
「もっとお花を飾りたいわ」
「……」
「参列者をもう少し増やしたいわ」
「……」
「結婚指輪は王室御用達のお店で選びたいわ」
「……」
「ウェディングドレスはもっと華やかにしたいからダイヤを散りばめようかしら」
「……」
「ティアラを作りたいわ」
「……」
「ネックレスはユベール様の瞳の色で大きな石を探させましたの」
「……」
「新婚旅行は、」
「ベルティーユ様。ご自身の評判を知っていて仰っているのですか?
何故 婚約破棄されたのか忘れたのですか?
本来なら質素に済ますところでしょう」
「っ!!」
「追加の部分は全てビビオナード家で支払ってください。新婚旅行は行ってきていいですよ。私は行きませんのでご自由に」
「ううっ」
「婚姻はお遊びではありません。
泣いて済ます侯爵夫人など聞いたことがありませんね。
少しでも心を入れ替えたと周囲に思ってもらえる様に振る舞えないのですか」
常に厳しく指摘した。
リゼットはクッキーを一枚あげると嬉しそうに微笑んだ。彼女に買ってやれないのに、何故お前に馬鹿高い宝石など買わねばならないんだ?
ティアラ? 何様のつもりだ。
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