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必殺技
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身支度をしてローランドと馬車に乗った。
ゴトゴトと揺れる馬車はなかなか慣れない。
舗装された道路に車、滑らかなレールに電車という生活が当たり前だった私には、雑な舗装と時代遅れな交通手段は苦痛だ。馬車酔いしない身体は有り難い。
そうだ。寝台馬車を作ろうかな。
ちょっと長くなるけど。
「今日は離れないように。花摘みもついていくから」
「トイレのこと?本当に花摘み?花摘みなんて多分しないと思うけど」
「…トイレだ」
アンジェリーナを嫌っていたこのカッコいい夫は、リーナと夫婦という家族になりたいらしい。しかも他所に女は作らないと言った。
だけど信用できない。だって実際に他の女達とヤっていた人だもの。そういう人は結局下半身に負けると漫画で読んだ。
「ねえ。婚約中から記憶を失くすまで、何人の女性と身体の関係をもったの?」
「えっ?」
「何人?」
「……7…人」
「交際に発展したのが2人?」
「……3…人」
ほらね。
「それなのにアンジェリーナはローランドだけだったのね」
「す、すまない」
「はぁ…」
「本当に悪かった」
「セックス依存症とか?」
「は!?」
「だから、セックスしなきゃいられない病気なの?」
「そんな病気があるのか?……ちょっと荒れていただけで、依存はしていない」
「ふーん」
「リーナ 俺は、」
「あ、着いたみたい」
流石、全国展開はもちろん、隣国やその先まで手を伸ばしている商会なだけあって広くて大きなお屋敷だった。
到着すると中年夫妻?と同じ年頃?の青年が出てきた。
馬車の扉が開くと、2人が手を差し伸べた。先に降りたローランドと出迎えてくれた青年だ。
「ローランド、おもてなしの一部のようだから彼の手をとるわ」
青年は嬉しそうに微笑んだ。
「ようこそマルトー商会のパーティへ。
ローランド•ミュローノ侯爵令息、アンジェリーナ•ミュローノ夫人。まさかお越しいただけるとは夢にも思っておりませんでした」
「私の妻が行きたいと申しまして」
「ミュローノ夫人、とても光栄です」
「あの、ご紹介いただいても?」
「失礼いたしました。
ジャン•セルビーと申します。マルトーの会長をしております。彼女は妻のカトリーヌ、この子は次男のフレデリック。長男のマテオは他国へ出ておりまして、きっといらしたことを知れば暴れるほど悔しがることでしょう」
「どうぞ、先ずは応接間へ」
廊下を歩いている途中、ローランドに小声で話しかけた。
「(ねえ。もしかして爵位があるの?)」
「(セルビー家は男爵家だ。会長の代で爵位を賜った)」
「(そうなんだ)」
応接間の中は煌びやかで、バッキンガム宮殿ツアーに申し込んだら、こんな感じの部屋がありそうだ。
フ「夫人、趣味ではありませんか」
私「はい?」
フ「貴女もセルビー家を成り上がりで貴族を名乗るには相応しくないと思いますか?」
私「は?」
会「フレデリック!」
カ「フレデリック!なんて失礼なことを!」
フ「だって、うちが男爵家だと知らないのか認めないのか、“爵位があるの”と聞いたのです。馬鹿にしてるでしょう?」
会「だとしても、うちは平民上がりの男爵家、ミュローノ家は侯爵家、夫人は嫁ぐ前もプラジール侯爵家出身。身分差の事実は変えられない」
誤解をどう解こうか言葉に詰まると ローランドが低い声で話し始めた。
ロ「妻は半年程前にほとんどの記憶を失くして、自分が誰かさえ分からず混乱していた。俺のことも実家のことも、国の名前も記憶にない。だからセルビー家のことは全く覚えていない。
本当は来させるつもりは無かったが、アンジェリーナが行きたいと懇願したから連れてきた。それは間違いだったようだ。
ミュローノ家はセルビー家が平民だろうが男爵家だろうが興味はない。好きに受け取ってくれ。
会長、夫人。我々は帰らせてもらおう」
ローランドは私の手を引いて立ち上がり、出て行こうとした。
会「申し訳ございません!!」
会長が土下座をしていた。続いて夫人も息子を引っ張り土下座をした。
カ「申し訳ございません!!」
フ「大変な失礼を申しました」
ロ「縁が無かったな」
ローランドが手を引っ張った。
私「待って、ローランド」
ロ「駄目だ、帰るぞ」
会長達を見ると絨毯に額を付けたままだった。
こうなったら必殺技の出番だ。
私「うわぁ~ん!!」
ロ「!!」
私「喧嘩やだぁ~!!」
ロ「ア、アンジェリーナ…」
私「うわぁ~ん!!」
ロ「分かった、分かったから」
私「うわぁ~ん!!」
ロ「喧嘩なんかしてないよ。会長、夫人も立ってくれ。妻が嫌がっている」
5人は座り直し、ローランドは私の涙と鼻水をハンカチで拭っていた。
私「仲直りした?」
ロ「した。したから泣かないでくれ」
私「何で笑ってるの」
ロ「笑ってないよ」
私「顔が笑ってる」
ロ「…ククッ…可愛い」
私「鼻水垂らしてるから?」
ロ「こんなに可愛い鼻水は初めて見たぞ」
私「じゃあ、ローランドの鼻水もカッコいい鼻水でしょうね。今見せて」
ロ「さすがに今は出そうにないな」
私「出たら拭かないで呼んで」
ロ「じゃあ ちゃんと家にいないとな」
私「それは別」
その後、しっかりフレデリックに謝ってもらい、メイク直しをしてもらった後、パーティに出席した。
ゴトゴトと揺れる馬車はなかなか慣れない。
舗装された道路に車、滑らかなレールに電車という生活が当たり前だった私には、雑な舗装と時代遅れな交通手段は苦痛だ。馬車酔いしない身体は有り難い。
そうだ。寝台馬車を作ろうかな。
ちょっと長くなるけど。
「今日は離れないように。花摘みもついていくから」
「トイレのこと?本当に花摘み?花摘みなんて多分しないと思うけど」
「…トイレだ」
アンジェリーナを嫌っていたこのカッコいい夫は、リーナと夫婦という家族になりたいらしい。しかも他所に女は作らないと言った。
だけど信用できない。だって実際に他の女達とヤっていた人だもの。そういう人は結局下半身に負けると漫画で読んだ。
「ねえ。婚約中から記憶を失くすまで、何人の女性と身体の関係をもったの?」
「えっ?」
「何人?」
「……7…人」
「交際に発展したのが2人?」
「……3…人」
ほらね。
「それなのにアンジェリーナはローランドだけだったのね」
「す、すまない」
「はぁ…」
「本当に悪かった」
「セックス依存症とか?」
「は!?」
「だから、セックスしなきゃいられない病気なの?」
「そんな病気があるのか?……ちょっと荒れていただけで、依存はしていない」
「ふーん」
「リーナ 俺は、」
「あ、着いたみたい」
流石、全国展開はもちろん、隣国やその先まで手を伸ばしている商会なだけあって広くて大きなお屋敷だった。
到着すると中年夫妻?と同じ年頃?の青年が出てきた。
馬車の扉が開くと、2人が手を差し伸べた。先に降りたローランドと出迎えてくれた青年だ。
「ローランド、おもてなしの一部のようだから彼の手をとるわ」
青年は嬉しそうに微笑んだ。
「ようこそマルトー商会のパーティへ。
ローランド•ミュローノ侯爵令息、アンジェリーナ•ミュローノ夫人。まさかお越しいただけるとは夢にも思っておりませんでした」
「私の妻が行きたいと申しまして」
「ミュローノ夫人、とても光栄です」
「あの、ご紹介いただいても?」
「失礼いたしました。
ジャン•セルビーと申します。マルトーの会長をしております。彼女は妻のカトリーヌ、この子は次男のフレデリック。長男のマテオは他国へ出ておりまして、きっといらしたことを知れば暴れるほど悔しがることでしょう」
「どうぞ、先ずは応接間へ」
廊下を歩いている途中、ローランドに小声で話しかけた。
「(ねえ。もしかして爵位があるの?)」
「(セルビー家は男爵家だ。会長の代で爵位を賜った)」
「(そうなんだ)」
応接間の中は煌びやかで、バッキンガム宮殿ツアーに申し込んだら、こんな感じの部屋がありそうだ。
フ「夫人、趣味ではありませんか」
私「はい?」
フ「貴女もセルビー家を成り上がりで貴族を名乗るには相応しくないと思いますか?」
私「は?」
会「フレデリック!」
カ「フレデリック!なんて失礼なことを!」
フ「だって、うちが男爵家だと知らないのか認めないのか、“爵位があるの”と聞いたのです。馬鹿にしてるでしょう?」
会「だとしても、うちは平民上がりの男爵家、ミュローノ家は侯爵家、夫人は嫁ぐ前もプラジール侯爵家出身。身分差の事実は変えられない」
誤解をどう解こうか言葉に詰まると ローランドが低い声で話し始めた。
ロ「妻は半年程前にほとんどの記憶を失くして、自分が誰かさえ分からず混乱していた。俺のことも実家のことも、国の名前も記憶にない。だからセルビー家のことは全く覚えていない。
本当は来させるつもりは無かったが、アンジェリーナが行きたいと懇願したから連れてきた。それは間違いだったようだ。
ミュローノ家はセルビー家が平民だろうが男爵家だろうが興味はない。好きに受け取ってくれ。
会長、夫人。我々は帰らせてもらおう」
ローランドは私の手を引いて立ち上がり、出て行こうとした。
会「申し訳ございません!!」
会長が土下座をしていた。続いて夫人も息子を引っ張り土下座をした。
カ「申し訳ございません!!」
フ「大変な失礼を申しました」
ロ「縁が無かったな」
ローランドが手を引っ張った。
私「待って、ローランド」
ロ「駄目だ、帰るぞ」
会長達を見ると絨毯に額を付けたままだった。
こうなったら必殺技の出番だ。
私「うわぁ~ん!!」
ロ「!!」
私「喧嘩やだぁ~!!」
ロ「ア、アンジェリーナ…」
私「うわぁ~ん!!」
ロ「分かった、分かったから」
私「うわぁ~ん!!」
ロ「喧嘩なんかしてないよ。会長、夫人も立ってくれ。妻が嫌がっている」
5人は座り直し、ローランドは私の涙と鼻水をハンカチで拭っていた。
私「仲直りした?」
ロ「した。したから泣かないでくれ」
私「何で笑ってるの」
ロ「笑ってないよ」
私「顔が笑ってる」
ロ「…ククッ…可愛い」
私「鼻水垂らしてるから?」
ロ「こんなに可愛い鼻水は初めて見たぞ」
私「じゃあ、ローランドの鼻水もカッコいい鼻水でしょうね。今見せて」
ロ「さすがに今は出そうにないな」
私「出たら拭かないで呼んで」
ロ「じゃあ ちゃんと家にいないとな」
私「それは別」
その後、しっかりフレデリックに謝ってもらい、メイク直しをしてもらった後、パーティに出席した。
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