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お迎え?…嫌だぁ

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パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ

「将軍閣下~っ 早いです~」

「まだまだ早いうちには入らんぞ」

天気がいいので閣下(叔父様)と遠乗りに来た。
閣下もすっかり日常生活を取り戻し、こうやって乗馬を楽しめるまでになった。
私も乗馬の腕が上がった。これなら別居後に一人で馬に乗って出かけられる。

牧場が経営しているレストランで食事をしてヤンヌ子爵邸に戻ってきた。馬から降りた私に駆け寄ろうとしたマリーが見えた。同行していたラウルが何か言いかけた。

「リーナ様、ロ、」

「きゃあっ」

後ろから腕を回され寄せられたので後ろに倒れ掛けたが何かに当たった。
見上げると夫ローランドだった。

「……」

「こ、こんにちは?」

「まったく…記憶を失くす前は違う意味で大変だったが、失くした後も振り回されるとは思ってもいなかった」

「はあ!?」

「叔父上、連れて帰りますから」

「嫌よ」

「王命婚なのにこんなに離れていていいと思っているのか!」

「思ってるに決まってるじゃない!」

「っ! こ、子供はどうするんだ」

「それなんだけど、別に必要はないと思わない?採取して届けさせたらシリンジで注入すればいいだけじゃない。王都のミュローノ邸からここまで、単騎で飛ばせば1日程度でしょう?精子は生きてるもの」

「なっ!」

「だいたい、王命婚の夫に恋人がいる時点で終わってるのに、挙句 王命婚のはずの妻と会うのは月に一度の十数分なんて致命的でしょう。違う?」

「っ!」

「いいのいいの。好きなだけ恋人を作って楽しんで。貴方ほどカッコ良ければ女達が放っておかないよね。その代わり王命婚云々を語らないでもらいたいんだけど。私、無理な主張はしていないと思うけどな」

「確かに。ローランドの行動と言葉は矛盾しているな。自分の思い通りにしたいために王命婚という言葉を持ち出しているだけだ」

叔父様が加勢してくれた。

「私には何の権利もないんでしょう?
でも予算は妻への義務と聞いたし、子さえ成せば自由よね」

「社交があるだろう」

「無い。王命書には婚姻と子を成すことしか書かれていなかった。ウィルが見せてくれたのよ。

それにこの一年で一緒に社交に出たのは1度しかないと聞いたわ。貴方は一人で出席するか恋人を同伴していたんでしょう?」

「……」

「今後もそれでいいじゃない。
子が産まれたら、恋人を第二夫人に迎えて一緒に暮らせばいいわ。私は違う土地で暮らすから。
今のような予算はいらないわ。大きな屋敷も要らない。必要最低限の使用人と慎ましく暮らしていけるお金をもらえたら構わないから。
個人資産もあるらしいから小さな屋敷くらいは自分で買えると思うから安心して。実家の領地に住む選択肢もあるしね」

「何を言う。此処で暮らしなさい。リーナは娘同然だ」

「何を騒いでいるのです。中に入って着替えていらっしゃい。ローランドも中に入りなさい」

叔母様が騒ぎを聞き付けて外に出てきてくれた。



夕食では3対1の攻防が続いていた。

ロ「一緒に帰ろう」

私「嫌」

ロ「ここはアンジェリーナの家じゃない」

私「だから自分で家を買うから」

ロ「君が帰るべき屋敷も暮らすべき屋敷もミュローノ邸だけだ」

私「帰って数日でまた旅に出るのはいいよね?帰ってもいるし暮らしてもいることになるし。ただ旅行好きってだけだもの」

マ「そうだ。ここはアンジェリーナ専用の宿屋ヤンヌだ」

イ「そうよ。リーナ専用の馬も買ってあげるわ」

私「叔母様、嬉しい!」

イ「動物を飼ったら毎日面倒見なくてはいけないものね。今度はここでパーティを開いてリーナのお披露目をしましょう」

マ「そうだな。リーナならたくさん友人が出来るだろう」

ロ「叔父上、叔母上、俺から妻を奪おうとするのは止めてください」

マ「何が妻だ。妻が記憶喪失になっているのに愛人と旅行をしている夫などあり得んだろう」

イ「そうですよ。愛人を連れて叔父の見舞いに訪れるなんて非常識だわ。それにバリヤス嬢の態度は最悪よ。貴方はあの女にどんな扱いをしているの?」

ロ「叔母上?」

イ「あの見下した目線。屋敷内の装飾品やドレスやアクセサリーを値踏みして不快な笑い方をしていたわ。
ローランド。貴方はバリヤス嬢をミュローノ侯爵家の嫁のような扱いをしたの?」

ロ「まさか」

イ「そうでないと伯爵家のご令嬢で子爵家に嫁いだことのある人だとは思えない態度よ。
貴方の前と、貴方の見ていない時では態度が全く違うのよ。自分が一番高貴な女性とでも言わんばかりにメイドに命じるし。
それに食事の仕方。下品だわ。高そうな食材とデザートしか手を付けないのだもの。
一体どこが良くて何日も一緒に過ごす気になるのかしらね」

マ「そんなミュローノ邸に、リーナを帰すなんてとんでもない」

ロ「別にヴァイオレットと同居しているわけではありません」

マ「では、愛人がミュローノ邸に立ち入ったことは一度も無いのだな?」

ロ「それは…」

マ「あるんじゃないか」

イ「本当に王命婚を理解しているの?」

ロ「勝手に押しかけてきたんですよ。茶を出して、要件だけ聞いて直ぐに追い返しました。
そして二度とするなと注意しました」

イ「要件はなんだったの」

ロ「構って欲しいとかそんな内容です」

イ「嫌だわ」

マ「愛人が押しかける屋敷になど帰らなくてもいいだろう」

ロ「王命婚なんですよ」

王命婚だと主張し続けるローランドに結論を告げることにした。












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