上 下
1 / 18

ここは何処?…マジか

しおりを挟む
チュン チュン チュン チュン

「ん…」

「お目覚めですか」

「何時?」

「7時です」

「朝の?」

「はい。朝食をご用意します」

「まだ早いよ。寝たの3時だよ?もう少し寝かせてよ ママ」

「……アンジェリーナ様?」

「ママ…寝かせて」

「……」




3時間後、

「ハッ、いい気なものだな」

「お目覚めになりましたら お伝えいたします」

「二度と目覚めないかもしれないぞ」

バタン

「ん…ママ?」

「アンジェリーナ様、起きてください」

「誰ソレ」

「…アンジェリーナ様!?」

目を開けると、茶色の髪で青い瞳の異国の女性が覗き込んでいた。

「うわあ!!」

「アンジェリーナ様!?」

「あ、あなた誰!?」

「…本気ですか?」

「何が」

「私をお忘れですか?」

「何で知っていると思うの。ママは何処」

「エリザベス奥様は領地にいらっしゃいます」

「エリザベス?誰ソレ。私のママは由紀子なんだけど」

「……お医者様をお呼びします」


知らない異国の女性が足早に部屋を出て行った。

って、この部屋何!!

見回すとキラキラとした落ち着かない装飾に家具、ベッドは天蓋付き。部屋は私の部屋の6個分以上ある。

「あれ?」

カツラが落ちてる?

長い髪を掴むと私の頭が引っ張られた。

「何これ!」

立ち上がり、鏡台の椅子に座った。

少し赤みを帯びたダークブロンドに透き通った白藍色の瞳で、肌が恐ろしく白い美人が映っていた。

頬を摘んでも口を開けても舌を出しても、鏡の中の美人は同じことをした。

引き出しを開けると宝石がズラリ。

ドアを開けるとトイレ…ウォシュレットは付いていない。古い水洗?怖くて蓋を開けられない。オマル風じゃないよね?
別のドアは浴室で給湯パネルが無い。
違うドアはドレスだらけのウォークインクローゼット。しかも広い。
さっきの女性が出て行ったドアを開けると長~い廊下になっていた。

パタン

「夢の中にいるのね。寝よう」

ベッドに戻って目を閉じた。



ライトブラウンの髪にスーツを着たおじさまが私を診察していた。鼻が高い。

「記憶喪失です。全てをお忘れです。ご自身の名前も覚えておらず、別の記憶をお持ちのようです」

「先生、アンジェリーナ様は治りますか?」

「全く分かりません」

「なんということでしょう」

「読み書きは出来ます」

「先生、どうしたらいいのでしょう」

「無理に記憶を戻させようとはなさらないように。
ゆっくり生活していく中で思い出していけばいいのです。戻る保証はありませんが」


おじさまが帰ると食事が運ばれた。

食べながら私の専属メイドのマリーがアンジェリーナについて教えてくれた。

私はプラジール侯爵家のジョスランとエリザベスの娘。姉のロクサーヌは他国の王子に嫁ぎ、兄イアンは跡継ぎとして妻を娶った。

ここはミュローノ侯爵家のタウンハウス。一つ歳上の跡継ぎであるローランドが夫。

アンジェリーナとローランドは仲が悪かったが、王命婚姻だった。

隣接する大国の王女と婚約が内定していた王太子が、アンジェリーナに恋をしてしまい、王女との縁談は無かったことにしてアンジェリーナと結婚したいと騒いだ。
この辺りの国は、成人しないと婚約できないのでアンジェリーナはフリーだった。
国王陛下はアンジェリーナが成人すると、王太子の親友ローランドとの結婚を命じた。

ローランドはノア王太子に、アンジェリーナは妃の器ではないし性格も悪いからと諦めるよう忠告し、アンジェリーナにも牽制し続けていた。
その経緯があって、夫婦になっても仲が悪く冷え切っていた。

ローランドは恋人を作りアンジェリーナとは関わらず、アンジェリーナも屋敷内別居を望んだ。

「は? 月に一度の子作り!? 互いが嫌いなのに!?」

「王命婚です。子を産まねばなりません」

私、男と付き合ったこともなければ、したこともないんですけど!

「結婚してどのくらい?」

「来月の28日にちょうど1年になります」

鶏の日じゃない。

「じゃあ、11回くらいヤってるのね」

「アンジェリーナ様っ!お言葉がっ!」

「何て言えばいいの?」

「お渡りがあるとか」

「大奥か」

「はい?」

「まだ妊娠してないのね?」

「はい。“あんな男に抱かれるのも嫌だけど、あんな男の子を産むのも嫌だ”とこっそり避妊薬をお使いになっていますので」

「で、嫌々お渡りの刑に?」

「刑…」

「目を瞑っている間にすませるとか?そもそも勃つの?」

「っ! ……アンジェリーナ様がうつ伏せになり、ローランド様が潤滑油を使ってアンジェリーナ様と繋がり、サッと済ませます」

「自慰で出した精液をシリンジで注入すればいいのに」

「はい?」

「嫌いな者同士なのだから」

「そんな発想をする人はおりません!口に出してもいけません!」

腑に落ちないけど、こんなに否定するなら この世界ではダメということなのだろう。

「じゃあ、避妊は止めるわ。さっさと産んで完全別居すればいいのよ。嫌いな私と一緒に暮らしたくないでしょう?」

「よろしいのですか?」

「仕方ないじゃない。子を産むのは避けられないんでしょう? なら さっさと産んで完全別居すればいいんじゃない?
産んだ子の権利はミュローノ侯爵家にあって、乳母が育てるなら私は用済みになるから、いなくなった方が互いのためじゃない」

「産後は何処で生活をなさるのですか?」

「記憶がないの。分からないわ。お金さえあれば何処でもいいんじゃない?
ところで、実家との関係はどうなの?」

「普通かと」

「仲が悪くもなく、溺愛されてもないってことね」

「はい」

「問題は生活が時代遅れということよね。
使用人がいないと厳しいかも」

「当然ですっ」

ガスも電気も通ってなくて、電車も車もないんだものね。
水汲みや火起こし…洗濯も手洗いで水気も絞らないといけないんだものね。

「マリー。先ずは髪を切りたいからハサミを持ってきて」

「はい!?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

愛する誰かがいるんなら私なんて捨てればいいじゃん

ヘロディア
恋愛
最近の恋人の様子がおかしいと思っている主人公。 ある日、和やかな食事の時間にいきなり切り込んでみることにする…

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...