26 / 37
意志の弱さ
しおりを挟む
はぁ。やってしまった。
彼を突き放そうと決意したのに 受け入れてしまった。
キスが嫌じゃない。
困ったな。
「シルビア、胃が痛くなければ朝の散歩に行こう。
体のために良いからね」
確かに。
「はい」
病み上がりで危ないから掴まれと言われて彼の腕に手を添えた。
「声がします」
「騎士団の区域が近いんだ」
「訓練をなさっているのですね」
そこに声がかかった。
「シルビア?」
振り向くと二番目の兄 ウォリックがいた。
「お兄様」
「何しているんだ」
「散歩です」
「それは分かる。
王太子殿下と散歩はまずい」
「今更感が強いです」
「何をしでかした」
「それよりお兄様は?学園はどうなさったのですか」
「授業の一環で、剣術の授業を選択した生徒が騎士団の見学に来ているんだ」
「職場体験みたいなものですね。
私は胃痛で倒れて お城に泊まりました。
今 リハビリ中です。王太子殿下に見えますが介護職員です」
「シルビア。無理がある。王太子殿下は何をしていても王太子殿下にしか見えないぞ」
「俺が誘ったのだ。シルビアの症状改善には散歩も良い手段だからな」
「散歩は好ましいことですが シルビアは王太子殿下の婚約者でも妹でもありません。噂がたてば辛い目に遭うのはシルビアです。
シルビア、屋敷に戻るんだ」
「お兄様」
「それはできない。シルビアを呼び寄せたのは国王陛下だ。謁見前に体調不良になり ここで療養している。
其方はシルビアの兄だが保護者ではない。伯爵が預けたのだから其方は学生としての務めを果たしに戻れ」
「……」
「お兄様、王太子殿下の仰る通りです。お兄様はここにいる目的を全うなさってください」
お兄様は立ち去って行った。
花を見ながら彼に話をした。
「分かりましたか?
こうしているだけで 私と王太子殿下の間を疑い、知っている兄でさえ注意をしてくるのです。
他人はもっと踏込んだ想像をなさいます。
婚約者は何も仰いませんか?」
「想像と言うが、俺とシルビアは舌を絡ませ合う仲だろう」
「っ! 私は、」
「一方的ではない。ちゃんと俺の舌に挨拶をしてくるぞ。好きですって。
それに政略結婚の王太子の婚約者は文句を言う立場にいないんだ。王太子は妻を複数娶るのは普通の事だからな。順位の入れ替えだけは文句を言うだろう」
「複数…」
「恋愛結婚なら別だ。進言があっても拒むよ」
「進言?」
「王子が産まれない場合だな」
そうだよね。
「私、妃にはならない。改めて無理だと自覚しましたわ」
「シルビア、寵妃はお前だ」
「私が他の男とも縁を結んで、貴方に“寵夫は貴方よ” って言ったら納得して穏やかに大人しく過ごせますか?」
「俺は王太子で、」
彼の唇に指を当てた。
「私はその考え方を受け入れられない。私と貴方の隔たりはとても分厚くて高いのです。お互いが受け入れられないのなら引き下がるべきかと思うのは当たり前のことです」
「俺が望む女が手に入らないと?」
「王命でも使ったら、私はすぐにでもその王命を無意味なものにしますよ」
「どういう意味だ」
「平凡な顔をして貧相な体をした私でも、相手をする男はいるということです」
「その時は相手の男を殺そう。また別の男を作ったら、また殺してやる。王命が出た瞬間から見張りを付ける」
「貴方は私に愛してると言いながら首を絞めるのね…」
「シルビア」
「その時は私を自由にしていいですよ。冷たくなった体を自由に使ってください。
骨になって使えなくなったらペッシュナー家へ戻してくださいね」
「シルビア!」
強い力で腕を掴まれた。
「まだ王命は出ていません。手を放してください」
「愛してる」
「私は愛せません」
「王太子殿下、手をお放しください。
そんな風に掴んではシルビア様の腕に痣ができてしまいますし、痛いはずです」
「っ! ごめん」
「っ……」
「ごめん、泣かないでくれ。全部俺が悪いのは分かってる」
「ううっ……」
「痛かったんだな。ごめんな。花瓶投げ付けていいからな」
「ぐっ」
「今 笑ったろう」
「……」
「何を投げられてもシルビアへの愛は変わらない」
「……」
「あまり重いものにすると、腰や肩を痛めるからな」
「……それも?」
「それも俺のせいだ」
「アイザック」
私は説得に失敗したばかりか、
「んっ」
彼の部屋で唇を重ねていた。
彼を突き放そうと決意したのに 受け入れてしまった。
キスが嫌じゃない。
困ったな。
「シルビア、胃が痛くなければ朝の散歩に行こう。
体のために良いからね」
確かに。
「はい」
病み上がりで危ないから掴まれと言われて彼の腕に手を添えた。
「声がします」
「騎士団の区域が近いんだ」
「訓練をなさっているのですね」
そこに声がかかった。
「シルビア?」
振り向くと二番目の兄 ウォリックがいた。
「お兄様」
「何しているんだ」
「散歩です」
「それは分かる。
王太子殿下と散歩はまずい」
「今更感が強いです」
「何をしでかした」
「それよりお兄様は?学園はどうなさったのですか」
「授業の一環で、剣術の授業を選択した生徒が騎士団の見学に来ているんだ」
「職場体験みたいなものですね。
私は胃痛で倒れて お城に泊まりました。
今 リハビリ中です。王太子殿下に見えますが介護職員です」
「シルビア。無理がある。王太子殿下は何をしていても王太子殿下にしか見えないぞ」
「俺が誘ったのだ。シルビアの症状改善には散歩も良い手段だからな」
「散歩は好ましいことですが シルビアは王太子殿下の婚約者でも妹でもありません。噂がたてば辛い目に遭うのはシルビアです。
シルビア、屋敷に戻るんだ」
「お兄様」
「それはできない。シルビアを呼び寄せたのは国王陛下だ。謁見前に体調不良になり ここで療養している。
其方はシルビアの兄だが保護者ではない。伯爵が預けたのだから其方は学生としての務めを果たしに戻れ」
「……」
「お兄様、王太子殿下の仰る通りです。お兄様はここにいる目的を全うなさってください」
お兄様は立ち去って行った。
花を見ながら彼に話をした。
「分かりましたか?
こうしているだけで 私と王太子殿下の間を疑い、知っている兄でさえ注意をしてくるのです。
他人はもっと踏込んだ想像をなさいます。
婚約者は何も仰いませんか?」
「想像と言うが、俺とシルビアは舌を絡ませ合う仲だろう」
「っ! 私は、」
「一方的ではない。ちゃんと俺の舌に挨拶をしてくるぞ。好きですって。
それに政略結婚の王太子の婚約者は文句を言う立場にいないんだ。王太子は妻を複数娶るのは普通の事だからな。順位の入れ替えだけは文句を言うだろう」
「複数…」
「恋愛結婚なら別だ。進言があっても拒むよ」
「進言?」
「王子が産まれない場合だな」
そうだよね。
「私、妃にはならない。改めて無理だと自覚しましたわ」
「シルビア、寵妃はお前だ」
「私が他の男とも縁を結んで、貴方に“寵夫は貴方よ” って言ったら納得して穏やかに大人しく過ごせますか?」
「俺は王太子で、」
彼の唇に指を当てた。
「私はその考え方を受け入れられない。私と貴方の隔たりはとても分厚くて高いのです。お互いが受け入れられないのなら引き下がるべきかと思うのは当たり前のことです」
「俺が望む女が手に入らないと?」
「王命でも使ったら、私はすぐにでもその王命を無意味なものにしますよ」
「どういう意味だ」
「平凡な顔をして貧相な体をした私でも、相手をする男はいるということです」
「その時は相手の男を殺そう。また別の男を作ったら、また殺してやる。王命が出た瞬間から見張りを付ける」
「貴方は私に愛してると言いながら首を絞めるのね…」
「シルビア」
「その時は私を自由にしていいですよ。冷たくなった体を自由に使ってください。
骨になって使えなくなったらペッシュナー家へ戻してくださいね」
「シルビア!」
強い力で腕を掴まれた。
「まだ王命は出ていません。手を放してください」
「愛してる」
「私は愛せません」
「王太子殿下、手をお放しください。
そんな風に掴んではシルビア様の腕に痣ができてしまいますし、痛いはずです」
「っ! ごめん」
「っ……」
「ごめん、泣かないでくれ。全部俺が悪いのは分かってる」
「ううっ……」
「痛かったんだな。ごめんな。花瓶投げ付けていいからな」
「ぐっ」
「今 笑ったろう」
「……」
「何を投げられてもシルビアへの愛は変わらない」
「……」
「あまり重いものにすると、腰や肩を痛めるからな」
「……それも?」
「それも俺のせいだ」
「アイザック」
私は説得に失敗したばかりか、
「んっ」
彼の部屋で唇を重ねていた。
254
お気に入りに追加
1,465
あなたにおすすめの小説
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます
佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」
いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。
第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。
ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。
だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。
それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。
私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて――
=========
お姉様のスピンオフ始めました。
「国を追い出された悪女は、隣国を立て直す」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482
※無断転載・複写はお断りいたします。
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
捨てられた騎士団長と相思相愛です
京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
プロポーズされたと思ったら、翌日には結婚式をすることになりました。
ほったげな
恋愛
パーティーで出会ったレイフ様と親しくなった私。ある日、レイフ様にプロポーズされ、その翌日には結婚式を行うことに。幸せな結婚生活を送っているものの、レイフ様の姉に嫌がらせをされて?!
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる