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領地でキス

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よく効く薬だ。

ぐっすり眠れた。

今夜は白い包みを試してみよう。


部屋着とスリッパのまま食堂に向かう。

「おはよう」

「おはようございます」

「何か言いた気ね」

「実は、夜に王太子殿下が現れました」

「あ、晴れたのね」

「お嬢様が目を覚さないので、重篤な病か怪我だと思われて 大騒ぎとなりました」

「あ…… ごめんね。迷惑をかけて」

「夜明けまでお嬢様を抱きしめておられました」

「え?」

「愛されてますね」

「それは無いわ。私は彼の好みのタイプとはまるで違うから」

「お嬢様 もしそうだとして、それでも王太子殿下が恋に落ちないと言い切ることはできませんわ」

「そうかしら」

「私と夫は互いに好みのタイプではございません。
ですが恋に落ちました」

「二人はどんなタイプが好きだったの?」

「私は優しい顔立ちの 本を愛するような物静かな男性を好みました。夫は可愛らしてく従順な女性を好みました。

ですが夫はペッシュナー領の町の兵士で、本など読みません。何をしても騒がしい人です。
私は可愛らしいという容姿はしておりませんし、はっきりと意見を申し上げます。従順ではありません。

ですが、彼は村娘を振って私を選びました。

私もいつの間にか、彼の騒がしさに安心感を得ていました。

見た目が好みでも中身が合わなければ関係は気薄で何年も持ちませんわ」

「アイザックがそうだと?」

「ええ。必死に叫んでお嬢様を助けようとなさっておいででした。
睡眠薬だと分かると、何故眠れないのかと気にされて。
そして大事に抱きかかえておられました。
殿下は一睡もなさっておりません。

本当に睡眠薬の影響なのかどうか、お嬢様が目を覚まして確認ができないまま消えてしまいました。

どうなったのか分からず不安な日々をお過ごしになるかと思います」

「……」




その夜、薬は飲まずに待ってみた。

「シルビア」

力強い腕に抱きしめられた。

「苦しい」

「心配させて!」

「ごめんね」

「医者に診てもらったのか」

「なんとなく眠りにつき難くて、すぐ起きてしまうだけです」

「俺もだ。一緒に寝よう」


その夜から私達の間に 枕やクッションの隔たりはなくなった。

話をしながら眠る。

酒臭い日はなくなった。天気の悪い時だけ嗜むようにしたらしい。


睡眠が取れるようになったある日、夜の庭園を少し散歩してガゼボでお酒とおつまみを出した。

「シルビアも飲むのか」

「私はジュースですよ」

「じゃあ、俺もジュースを」

「うちの領地のワインです」

「いただくよ」

ゴクッ

「これが酒か?」

「初心者向けに飲みやすく開発したワインです。
酸味や渋みを控えて甘味を重視しました。
ちゃんとお酒ですよ」

「危険だな。令嬢が無防備に飲んでしまう。
シルビアはお酒は何歳から飲むつもり?」

「飲みたいと思わないから飲まないかも」

「領地の酒だろう。シルビアが飲まないと可哀想だぞ」

「しゃあ今度飲みます」

「俺のいないところで飲むな。今飲め」

「今は…」

「何で駄目なんだ?」

「お酒臭くなりますから」

「同じ物を飲んだら判別なんかできないんだから飲め」

一杯飲んだ後はアイザックに抱っこされて部屋に戻った。

「寝よう」

「ハミガキしなくちゃ駄目」

「ムードが無いな」

「口の中がバイ菌だらけになりますよ。
朝起きて、繁殖した口でキスなんてされたら、」

やだ。何でこんなこと…

「磨きに行こう」

歯を磨いていつものように眠りについた。



「シルビア」

「……」

「シルビア」

「何?」

「もうすぐ夜が明ける」

「寝なかったのですか?」

「お強請りされたからね」

「え、……んっ」


アイザックは消えるまで私にキスをした。






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