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メイド長
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【 領地ペッシュナー邸のメイド長の視点 】
私達はお嬢様が王都に向かうと知って怯えていた。
「このままお嬢様が帰らなければ、私達はあの時代に戻ってしまうのですね」
「時代って。1年と少し前の話じゃないの」
「元々も良い方でしたが、お嬢様ルールは天国です」
「いずれ、お嬢様は嫁いで、カイン様が継がれたらカイン様の奥方が女主人となるのですから、短い夢を見ていると思って諦めなさい」
メイド達は溜息を漏らし、料理人達は張り合いを無くしてしまった。
“王都から北側は雨が長引いているらしい”
町で旅の者から噂を聞いてきた御者が相談に来た。
「もしかして、こちら側も雨で足元が悪いと思って戻って来れないのかも」
こちらは2日しか降っていない。
「かもしれませんね」
「こっちは晴れていると早馬を出しましょう!」
メイド達も祈るように私を見た。執事まで…。
「満場一致ですか?」
全員が手を挙げた。
“こちらは晴れております。
お嬢様のお戻りを心よりお待ち申し上げます”
と手紙を送った。
早馬が戻って来た。
お嬢様のお手紙には“直ぐに出発します” と書いてあった。
精気を取り戻した皆は仕事をし始めた。
やることのないメイドは何やらコソコソと作り始めた。
「メイド長!見てください!一人二本ずつ歓迎の手旗を作りました!」
「……」
「みんなで振ってお嬢様をお迎えしましょう!」
キラキラと瞳を輝かせるメイド達を見て諦めた。
「そうね。分かりました」
「やった!失礼します!」
どうやら手旗はあれで完成じゃないらしい。
パレードの観衆のように迎える私達を見て お嬢様は苦笑いをなさったけど、“ありがとう” と言っておられたので良しとした。
お土産もたくさん買って来てくださった。
「軽食をお願いできる?
寝不足で、お薬で眠りたいの」
「かしこまりました」
赤い包の睡眠薬の説明を受けた。
よく見るとお嬢様にクマが…
22時にお嬢様の就寝を見届けた後、私達は緊急会議を開いた。
「何かあったのかしら」
「王都が馴染まなかったのよ」
「そうだ、そうに違いない」
「美味いものを召し上がってくだされば、いつも通りだよ」
「そうよ。私が心を込めてマッサージするわ」
静まり返る午前0時過ぎ、けたたましい呼び鈴が鳴り響いた。
お嬢様の部屋に駆けつけると王太子殿下がお嬢様を抱えて叫んでいた。
「シルビアの意識が無い!!医者を呼べ!!」
「お、王太子殿下」
「早くしろ!!私のシルビアが目を覚さないんだ!!」
「お嬢様は、」
「何の病気だ!! まさかまた事故に遭って頭を!?」
「お薬を、」
「俺を忘れるというのか!!シルビア!!」
「殿下、」
「早く医者を連れて来い!!」
動かない私に枕や本を投げ付け、息を切らしている隙に説明した。
「睡眠薬で眠っておられるだけです」
「は?」
「病気でも怪我でもありません」
「え?」
「寝付けないとのことでした。
睡眠薬はお嬢様が王都から持ち帰り、ご自身で飲まれました。朝まで起きません」
「……睡眠薬?」
「左様でございます」
「ご、ごめん」
「本は当たりませんでしたので大丈夫です」
「何で寝付けないんだ?」
「存じ上げません」
「聞いておいてくれないか」
「ご自身でお尋ねくださいませ」
「…シルビアを怒らせちゃうんだ」
「素直に心配したと仰ることが一番かと」
「明日は飲ませないでくれ」
「常用なさっているわけではありませんので、お止めできません」
結局 王太子殿下はベッドに座り脚を伸ばし 背もたれに寄り掛かると お嬢様を大事に抱きかかえていらした。
「王太子殿下、そろそろ日の出を迎えます」
「ありがとう」
王太子殿下はお嬢様をベッドに寝かせ額にキスをすると消えるまで頭を撫でていた。
使用人上層部の緊急会議を開いた。
「でも、王太子殿下には婚約者が」
「だけどペッシュナー家のお嬢様で、王太子殿下が望まれたら」
「旦那様が阻止するだろう」
だけどあんな風に慕われたら お嬢様の心も絆されるのではないか。
「心の準備はしましょう」
私達はお嬢様が王都に向かうと知って怯えていた。
「このままお嬢様が帰らなければ、私達はあの時代に戻ってしまうのですね」
「時代って。1年と少し前の話じゃないの」
「元々も良い方でしたが、お嬢様ルールは天国です」
「いずれ、お嬢様は嫁いで、カイン様が継がれたらカイン様の奥方が女主人となるのですから、短い夢を見ていると思って諦めなさい」
メイド達は溜息を漏らし、料理人達は張り合いを無くしてしまった。
“王都から北側は雨が長引いているらしい”
町で旅の者から噂を聞いてきた御者が相談に来た。
「もしかして、こちら側も雨で足元が悪いと思って戻って来れないのかも」
こちらは2日しか降っていない。
「かもしれませんね」
「こっちは晴れていると早馬を出しましょう!」
メイド達も祈るように私を見た。執事まで…。
「満場一致ですか?」
全員が手を挙げた。
“こちらは晴れております。
お嬢様のお戻りを心よりお待ち申し上げます”
と手紙を送った。
早馬が戻って来た。
お嬢様のお手紙には“直ぐに出発します” と書いてあった。
精気を取り戻した皆は仕事をし始めた。
やることのないメイドは何やらコソコソと作り始めた。
「メイド長!見てください!一人二本ずつ歓迎の手旗を作りました!」
「……」
「みんなで振ってお嬢様をお迎えしましょう!」
キラキラと瞳を輝かせるメイド達を見て諦めた。
「そうね。分かりました」
「やった!失礼します!」
どうやら手旗はあれで完成じゃないらしい。
パレードの観衆のように迎える私達を見て お嬢様は苦笑いをなさったけど、“ありがとう” と言っておられたので良しとした。
お土産もたくさん買って来てくださった。
「軽食をお願いできる?
寝不足で、お薬で眠りたいの」
「かしこまりました」
赤い包の睡眠薬の説明を受けた。
よく見るとお嬢様にクマが…
22時にお嬢様の就寝を見届けた後、私達は緊急会議を開いた。
「何かあったのかしら」
「王都が馴染まなかったのよ」
「そうだ、そうに違いない」
「美味いものを召し上がってくだされば、いつも通りだよ」
「そうよ。私が心を込めてマッサージするわ」
静まり返る午前0時過ぎ、けたたましい呼び鈴が鳴り響いた。
お嬢様の部屋に駆けつけると王太子殿下がお嬢様を抱えて叫んでいた。
「シルビアの意識が無い!!医者を呼べ!!」
「お、王太子殿下」
「早くしろ!!私のシルビアが目を覚さないんだ!!」
「お嬢様は、」
「何の病気だ!! まさかまた事故に遭って頭を!?」
「お薬を、」
「俺を忘れるというのか!!シルビア!!」
「殿下、」
「早く医者を連れて来い!!」
動かない私に枕や本を投げ付け、息を切らしている隙に説明した。
「睡眠薬で眠っておられるだけです」
「は?」
「病気でも怪我でもありません」
「え?」
「寝付けないとのことでした。
睡眠薬はお嬢様が王都から持ち帰り、ご自身で飲まれました。朝まで起きません」
「……睡眠薬?」
「左様でございます」
「ご、ごめん」
「本は当たりませんでしたので大丈夫です」
「何で寝付けないんだ?」
「存じ上げません」
「聞いておいてくれないか」
「ご自身でお尋ねくださいませ」
「…シルビアを怒らせちゃうんだ」
「素直に心配したと仰ることが一番かと」
「明日は飲ませないでくれ」
「常用なさっているわけではありませんので、お止めできません」
結局 王太子殿下はベッドに座り脚を伸ばし 背もたれに寄り掛かると お嬢様を大事に抱きかかえていらした。
「王太子殿下、そろそろ日の出を迎えます」
「ありがとう」
王太子殿下はお嬢様をベッドに寝かせ額にキスをすると消えるまで頭を撫でていた。
使用人上層部の緊急会議を開いた。
「でも、王太子殿下には婚約者が」
「だけどペッシュナー家のお嬢様で、王太子殿下が望まれたら」
「旦那様が阻止するだろう」
だけどあんな風に慕われたら お嬢様の心も絆されるのではないか。
「心の準備はしましょう」
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