上 下
21 / 37

メイド長

しおりを挟む
【 領地ペッシュナー邸のメイド長の視点 】


私達はお嬢様が王都に向かうと知って怯えていた。

「このままお嬢様が帰らなければ、私達はあの時代に戻ってしまうのですね」

「時代って。1年と少し前の話じゃないの」

「元々も良い方でしたが、お嬢様ルールは天国です」

「いずれ、お嬢様は嫁いで、カイン様が継がれたらカイン様の奥方が女主人となるのですから、短い夢を見ていると思って諦めなさい」

メイド達は溜息を漏らし、料理人達は張り合いを無くしてしまった。


“王都から北側は雨が長引いているらしい”

町で旅の者から噂を聞いてきた御者が相談に来た。

「もしかして、こちら側も雨で足元が悪いと思って戻って来れないのかも」

こちらは2日しか降っていない。

「かもしれませんね」

「こっちは晴れていると早馬を出しましょう!」

メイド達も祈るように私を見た。執事まで…。

「満場一致ですか?」

全員が手を挙げた。


“こちらは晴れております。
お嬢様のお戻りを心よりお待ち申し上げます”

と手紙を送った。

早馬が戻って来た。

お嬢様のお手紙には“直ぐに出発します” と書いてあった。

精気を取り戻した皆は仕事をし始めた。

やることのないメイドは何やらコソコソと作り始めた。

「メイド長!見てください!一人二本ずつ歓迎の手旗を作りました!」

「……」

「みんなで振ってお嬢様をお迎えしましょう!」

キラキラと瞳を輝かせるメイド達を見て諦めた。

「そうね。分かりました」

「やった!失礼します!」

どうやら手旗はあれで完成じゃないらしい。




パレードの観衆のように迎える私達を見て お嬢様は苦笑いをなさったけど、“ありがとう” と言っておられたので良しとした。

お土産もたくさん買って来てくださった。


「軽食をお願いできる?
寝不足で、お薬で眠りたいの」

「かしこまりました」

赤い包の睡眠薬の説明を受けた。
よく見るとお嬢様にクマが…

22時にお嬢様の就寝を見届けた後、私達は緊急会議を開いた。

「何かあったのかしら」

「王都が馴染まなかったのよ」

「そうだ、そうに違いない」

「美味いものを召し上がってくだされば、いつも通りだよ」

「そうよ。私が心を込めてマッサージするわ」



静まり返る午前0時過ぎ、けたたましい呼び鈴が鳴り響いた。

お嬢様の部屋に駆けつけると王太子殿下がお嬢様を抱えて叫んでいた。

「シルビアの意識が無い!!医者を呼べ!!」

「お、王太子殿下」

「早くしろ!!私のシルビアが目を覚さないんだ!!」

「お嬢様は、」

「何の病気だ!! まさかまた事故に遭って頭を!?」

「お薬を、」

「俺を忘れるというのか!!シルビア!!」

「殿下、」

「早く医者を連れて来い!!」

動かない私に枕や本を投げ付け、息を切らしている隙に説明した。

「睡眠薬で眠っておられるだけです」

「は?」

「病気でも怪我でもありません」

「え?」

「寝付けないとのことでした。
睡眠薬はお嬢様が王都から持ち帰り、ご自身で飲まれました。朝まで起きません」

「……睡眠薬?」

「左様でございます」

「ご、ごめん」

「本は当たりませんでしたので大丈夫です」

「何で寝付けないんだ?」

「存じ上げません」

「聞いておいてくれないか」

「ご自身でお尋ねくださいませ」

「…シルビアを怒らせちゃうんだ」

「素直に心配したと仰ることが一番かと」

「明日は飲ませないでくれ」

「常用なさっているわけではありませんので、お止めできません」


結局 王太子殿下はベッドに座り脚を伸ばし 背もたれに寄り掛かると お嬢様を大事に抱きかかえていらした。

「王太子殿下、そろそろ日の出を迎えます」

「ありがとう」

王太子殿下はお嬢様をベッドに寝かせ額にキスをすると消えるまで頭を撫でていた。



使用人上層部の緊急会議を開いた。

「でも、王太子殿下には婚約者が」

「だけどペッシュナー家のお嬢様で、王太子殿下が望まれたら」

「旦那様が阻止するだろう」

だけどあんな風に慕われたら お嬢様の心も絆されるのではないか。

「心の準備はしましょう」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話

七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。 離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

だからもう…

詩織
恋愛
ずっと好きだった人に告白してやっと付き合えることになったのに、彼はいつも他の人といる。

処理中です...