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アイザックの痛み

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【 アイザックの視点 】



国王陛下父上の誕生した日を祝うパーティに連れてこれた。シルビアを瞬間移動に巻き込めるのは好都合だった。

いろいろと抵抗していたが一の緒部屋で寝ることができた。

シルビアの使っている洗料を使った。シルビアの優しい香りに包まれて すごく落ち着く。

シルビアが眠ってからシルビアのベッドに移った。
見張りの騎士が止めようと動いたが手のひらを向けて静止させた。

何もしない。ただシルビアの温もりを感じながら眠りたいだけだ。
お前達が居るなら無理を強いることはないだろう。


あったかい。


そしていつの間にか柔らかくて手触りのいい肌や温もりや、寝息が聞こえない。
目を開けると騎士達と話をしていた。

片方の騎士は男だぞ!そんな格好で!

連れ戻して抱きしめて寝た。



そしてパーティでは着飾ったシルビアを見るのが初めてで浮かれてしまった。
ドレスや宝石を贈ると言っても拒否された。

王族のダンスが終わり上位貴族のダンス中に父上に怒られた。

「お前は子供か」

「……」

「ちゃんとしろ。丁寧にダンスに誘え。
初恋を拗らせた子供ではシルビアに嫌われるぞ」

「はい、父上」


だから跪き丁寧にダンスを誘ったが、シルビアには通じなかった。
あのカイン・ペッシュナーが笑っていた。 

おまけにコーデュロウ公爵家のヘンリーが次のダンス相手だという。

いつ何処で出会ったんだ!?


“何で私に構うの! ”
“貴方の好みは私とは違う女性じゃない! ”
“私は貴方のオモチャじゃない!”

俺はシルビアが…

「アイザックを待っている令嬢達のもとへ行って差し上げてください」

そう言って公子の手を取ってしまった。
下手なダンスを一生懸命踊るが、抱き寄せられてふわっと浮く。

カインとの時は微笑ましく見ていられたのに 他人のヘンリーでは強い苛立ちを覚えた。

見ていられなくて酒の入ったグラスを持って立ち去った。


パーティ終了後、父上に呼び出された。

「あのコーデュロウ公子が出てきたか」

「……」

「どんなつもりなのか分からんな」

「はい」

「アイザックは女を口説いたことがないのか?」

「…口説かなくとも寄ってきますので」

「ペッシュナー家は敵に回したくない。

あの一家には 素直さと誠実さが一番だ。
シルビアちゃんは籠の鳥。そこを忘れるな」

「分かりました」



コーデュロウ公爵家は国内外問わず、薬や薬草を供給する家門で追随を許さないことでも知られている。彼らを敵には絶対に回せない。国から撤退されたら 今までのようには治療は受けられなくなる。
機嫌を損ねれば卸してさえもらえないかもしれない。

そんな家門と縁を繋ぎたいとあらゆる誘いが降り注ぐ。特に縁談。

長男コルトには殺到した。
諸外国の王族や高位貴族、同国の貴族達まで。姉も申し入れたらしいが誰もいい返事を貰えなかった。

彼が選んだのは酪農で有名な領地の娘だった。
政略結婚になる。

そして次男のヘンリー。彼にも国内外の貴族令嬢から縁談が殺到したと聞くが未だ婚約者もいない。

ヘンリーとは同い歳だがあまり話したことはない。
身なりに無頓着で、パーティでさえ髪はボサボサ。前髪で目元が隠れているのに眼鏡までしている。そして少し肉付きがいい。
コーデュロウの人間でなければ令嬢は誰も相手をしないだろう。

その彼が髪を整え眼鏡を外し、シルビアの拙いダンスをリードする。

黒い髪で 瞳はシルバーのように見える。外見では声をかけられることのなかった彼も今夜から声を掛けられることになるだろう。
端正な顔立ちだった。

後で人に聞いたらすごく薄いグレーなのだとか。

男の勘が働く。ヘンリーはシルビアに好感がある。

彼女をしっかりと見つめて ずっと話をしていた。



すっかり遅くなってしまった。
部屋に戻るとシルビアがいない。

「シルビアは?」

「ペッシュナー伯爵令息とお屋敷へ帰られました」

「は?」

「お外をご覧ください」

雨が降っていた。

「荷物は」

「持って行かれました」

「何か言っていたか」

「私どもにお世話になりましたと」

「風呂に入る」

「かしこまりました」


たった一回シルビアの洗料を使っただけなのに、元のものが全て鼻に付く。

たった一泊しただけなのに、シルビアが居ないことへの違和感が強い。

部屋が広く感じるし 殺風景に感じた。

こんなに心も体も支配されるのが恋なのかと眠れぬ夜を過ごした。




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