上 下
16 / 37

アイザックの痛み

しおりを挟む
【 アイザックの視点 】



国王陛下父上の誕生した日を祝うパーティに連れてこれた。シルビアを瞬間移動に巻き込めるのは好都合だった。

いろいろと抵抗していたが一の緒部屋で寝ることができた。

シルビアの使っている洗料を使った。シルビアの優しい香りに包まれて すごく落ち着く。

シルビアが眠ってからシルビアのベッドに移った。
見張りの騎士が止めようと動いたが手のひらを向けて静止させた。

何もしない。ただシルビアの温もりを感じながら眠りたいだけだ。
お前達が居るなら無理を強いることはないだろう。


あったかい。


そしていつの間にか柔らかくて手触りのいい肌や温もりや、寝息が聞こえない。
目を開けると騎士達と話をしていた。

片方の騎士は男だぞ!そんな格好で!

連れ戻して抱きしめて寝た。



そしてパーティでは着飾ったシルビアを見るのが初めてで浮かれてしまった。
ドレスや宝石を贈ると言っても拒否された。

王族のダンスが終わり上位貴族のダンス中に父上に怒られた。

「お前は子供か」

「……」

「ちゃんとしろ。丁寧にダンスに誘え。
初恋を拗らせた子供ではシルビアに嫌われるぞ」

「はい、父上」


だから跪き丁寧にダンスを誘ったが、シルビアには通じなかった。
あのカイン・ペッシュナーが笑っていた。 

おまけにコーデュロウ公爵家のヘンリーが次のダンス相手だという。

いつ何処で出会ったんだ!?


“何で私に構うの! ”
“貴方の好みは私とは違う女性じゃない! ”
“私は貴方のオモチャじゃない!”

俺はシルビアが…

「アイザックを待っている令嬢達のもとへ行って差し上げてください」

そう言って公子の手を取ってしまった。
下手なダンスを一生懸命踊るが、抱き寄せられてふわっと浮く。

カインとの時は微笑ましく見ていられたのに 他人のヘンリーでは強い苛立ちを覚えた。

見ていられなくて酒の入ったグラスを持って立ち去った。


パーティ終了後、父上に呼び出された。

「あのコーデュロウ公子が出てきたか」

「……」

「どんなつもりなのか分からんな」

「はい」

「アイザックは女を口説いたことがないのか?」

「…口説かなくとも寄ってきますので」

「ペッシュナー家は敵に回したくない。

あの一家には 素直さと誠実さが一番だ。
シルビアちゃんは籠の鳥。そこを忘れるな」

「分かりました」



コーデュロウ公爵家は国内外問わず、薬や薬草を供給する家門で追随を許さないことでも知られている。彼らを敵には絶対に回せない。国から撤退されたら 今までのようには治療は受けられなくなる。
機嫌を損ねれば卸してさえもらえないかもしれない。

そんな家門と縁を繋ぎたいとあらゆる誘いが降り注ぐ。特に縁談。

長男コルトには殺到した。
諸外国の王族や高位貴族、同国の貴族達まで。姉も申し入れたらしいが誰もいい返事を貰えなかった。

彼が選んだのは酪農で有名な領地の娘だった。
政略結婚になる。

そして次男のヘンリー。彼にも国内外の貴族令嬢から縁談が殺到したと聞くが未だ婚約者もいない。

ヘンリーとは同い歳だがあまり話したことはない。
身なりに無頓着で、パーティでさえ髪はボサボサ。前髪で目元が隠れているのに眼鏡までしている。そして少し肉付きがいい。
コーデュロウの人間でなければ令嬢は誰も相手をしないだろう。

その彼が髪を整え眼鏡を外し、シルビアの拙いダンスをリードする。

黒い髪で 瞳はシルバーのように見える。外見では声をかけられることのなかった彼も今夜から声を掛けられることになるだろう。
端正な顔立ちだった。

後で人に聞いたらすごく薄いグレーなのだとか。

男の勘が働く。ヘンリーはシルビアに好感がある。

彼女をしっかりと見つめて ずっと話をしていた。



すっかり遅くなってしまった。
部屋に戻るとシルビアがいない。

「シルビアは?」

「ペッシュナー伯爵令息とお屋敷へ帰られました」

「は?」

「お外をご覧ください」

雨が降っていた。

「荷物は」

「持って行かれました」

「何か言っていたか」

「私どもにお世話になりましたと」

「風呂に入る」

「かしこまりました」


たった一回シルビアの洗料を使っただけなのに、元のものが全て鼻に付く。

たった一泊しただけなのに、シルビアが居ないことへの違和感が強い。

部屋が広く感じるし 殺風景に感じた。

こんなに心も体も支配されるのが恋なのかと眠れぬ夜を過ごした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話

七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。 離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

番と出会ったからって婚約破棄されましたけど、超エリートで美貌の彼から求婚されました。元婚約者から今さら勘違いだったと言われても修羅場です。

藤谷 要
恋愛
【本編完結、番外編連載中です】 ルシアンは挙式二ヶ月前に幼馴染の婚約者から番と出会ったという理由で振られてしまった。 ルシアンの羽翼種は、見かけは人間と変わりはないけど、番という独特の習性を持っている。男は魂の伴侶とも言われるほど同じ種族の一人に心惹かれ求婚するという。一人だけを生涯愛し続け、浮気もせずに添い遂げるので、まさに究極の純愛とも言われている。 その種族の血を元婚約者は四分の一ほどひいていたのだ。 ルシアンは傷心のまま現地調査の仕事に向かうが、その任務中にセラフィムという同じ羽翼種の先輩に突然あなたは私の番だと求婚される。でも、彼が初めてルシアンと出会ったのは、ルシアンが赤ちゃんのときだという。 ルシアンが戸惑う中、ぐいぐいとセラフィムは求愛行動をとってきて!? 「あ、あの、抱きしめてもいいだろうか」 「だ、ダメですっていうか、もう抱きしめていますけど!」 婚約破棄された人見知り女子と、クール?ビューティーでエリートな元王族の彼との恋のお話。 ※全10話 2万字程度の話です。

処理中です...