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ライアン達の子

エフ先生の過去

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【 リリアンの視点 】


お皿に前菜をと取って口に入れた。

「デュークと何かあったんだろう?」

「見ていたんですか」

「遠くて口の動きまで読めなかったが。
デュークが何かしたのか?」

「違います。デューク様の奥様が、ちょっと牽制をなさっただけです。私が不躾でした」

「そうか」

「エフ先生はダンスがお上手ですね。意外です」

「何で意外なんだ?」

「面倒くさいと嫌がりそうで」

「私は他国の生まれだ。この国から少し遠い小国の富豪の隠し子だった。

父は正妻も3人の妾もいたが、なかなか男児に恵まれなかった。そんな中で父はある女性と恋に落ちた。それが母だ。

母を第二夫人に迎えようとしたが、正妻が男児を産んでしまったために、これ以上娶ることは不可能だった。だから愛人として外で囲うことになった。

母は既に妊娠していて、産んだのは私だった。

父は細心の注意を払って母を愛し続けた。
私のことも。

父は何でも買い与えると同時に、様々な教師も雇った。母国語、外国語、数学、ダンス、剣術、体術、乗馬、貴族令息としての振る舞い。教師が就かないと駄目なもの以外は自習にした。

その中で剣術や体術が優れていた。教師曰く神童だと。

だけど父が学園への入学を手配して、私の存在が正妻にバレた。

ある日帰ると、母と妹は殺されていた。
物陰に隠れていた刺客が襲ってきたが、剣を奪って刺し殺した。一人は急所を外して依頼主を吐かせた。二人は父の屋敷で雇われている私兵で、正妻が寄越したことが分かった。

そいつらの首を斬り落とし、頭部を布で包み、夜、正妻の住む屋敷に放り込んだ。
メッセージカードには、“当主の愛人殺しの正妻へ”と書いておいた。

母と妹をベッドに寝かせて、金目の物と着替えと日持ちのする食べ物を背負い鞄に詰め込んで家を出た。

途中、憲兵に通報した。
“正妻が送った殺し屋に母と妹が殺された。刺客は返り討ちにして頭部を依頼主に返してある” と。
信じてもらえたのは、日頃町で奉仕活動をしていたからだ。週に一度、憲兵と自治体の有志による防犯活動に参加していたし、孤児達に勉強も教えていた。
確認ができるまで拘束するのが普通だが、信用があったんだ。

母と妹を埋葬したかったが、庭に埋めても家が売却されたら母達の亡骸は掘り返されて捨てられてしまう。
だから通報した。被害者なら墓地に埋葬してもらえるからだ。

旅に出て、国を渡り、この国に入国した。
そこで影の活動に居合わせてしまった。
私を殺しに向かってきたが応戦した。
私が子供ではなかったら最初から本気で殺しにきただろう。一般的な剣術の私は死んでいたはずだ。

最初の一撃を剣で受け止めた後、影は少し考え込んで確かめるように剣を振ってきた。

そしてスカウトされた。
影と移動しながら身の上を話したら、“最初の外国活動は正妻の始末にしてやろう”  そう言われた。
適性者と認められるまで養成所で鍛錬をした。
時には実践方式もあった。

容姿で少し意見が割れたが、適性者となった。

ちゃんと監督者のような先輩がついてきて、屋敷に忍び込み、寝ている正妻の口に身動きが取れなくなる毒草のエキスを垂らした。体も動かせず声も出ないが意識ははっきりしていて痛みは感じていた。
 
アイスピックで刺してみたり、爪を剥がしたり、ナイフで皮を削いでみたり、指を折ったりした。

その後は痛みを麻痺させる薬を飲ませてドレッサーの前に座らせて椅子に縛った。

前歯を全部抜いて、耳を削いで、鼻を削いで止血した。
手足の関節を外し捻った。関節をはめても元のようには動けなくした。

そして頭部に純度の高いアルコールを馴染ませて火を付けた。一瞬で炎が上がり、髪は燃え尽きた。
すぐ消火して、頭部によく効く塗り薬を塗っておいた。眉毛も同じようにしたよ。

殺すのは簡単だ。
私が生きて苦しむ分、あの女も苦しんで欲しかった。

だからいくら治療しても醜いままになるようにした。先輩は私が殺さないと分かると忘却の草から搾り取ったエキスを少し飲ませた。

その後、あの女がどうなったかは知らない。
歩けないだろうし腕もまともに動かない。指は全部折った。前歯もない。自害は大変だろう。


……リリアンの声は、妹のベッカの声に似ている」

「私がですか?」

「似てるなとは思っていたが成長したらそっくりだ」

エフ先生は私の指に指輪をはめた。

「妹に贈るはずだった指輪だ。当時、強請られて誕生日に買ってやると約束していた。買いに行って戻ったら殺されていた。
リリアンに貰って欲しい」

「ベッカ様は襲われるまでは幸せだったはずです。
エフ先生のようなお兄様が側に居てくれたのですから」

「そうだといいな」

「間違いありません。私だってエフ先生が大好きなのはご存知でしょう?」

「リリアン」

ダンスの途中なのに、エフ先生は私をギュウギュウと抱きしめた。

優しく撫でるその手はいつも温かい。

指輪に付いた宝石を覗き込むとマークのようなものが見えた。

「先生、これ、何のマークですか?」

「大物にはそれを見せれば効果がある」

「大物? 何の効果ですか?」

「リリアンを助けることができるかもしれない指輪だ」

「私もエフ先生が幸せになれるよう祈っています」

「可愛いリリアン」

「大好きです」  



その後はゼイン殿下が私の手を取った。

「何で抱き合っていたのかな?」

「師弟愛を確かめ合っていました」

「恋愛じゃないよね?」

「兄と妹のようなものです。私達の絆は純粋なものです。穢さないでください」

「ごめんね、嫉妬深くて。
自分は婚約しているのに図々しいのは分かっているけど…」

そんな顔をされても困る。

「指輪まで貰って」

「これは絆です!」

「何の?」

「兄と妹の」

「そこからは外れたりしない?
彼は中性的な美しさを持っているからね」

「足、踏みますよ。 あっ!」

「穴が空いても構わないよ」

腰を引き寄せられて耳元で囁かれた。

「痛っ 本当に踏まれた」

「変なことするからです!」

「変なことって?」

「エロジジイを目指しておられます?」

「誰だ?リリアンにエロジジイなんて言葉を教えたのは」

「教わったのではありません。小耳にはさんだのです」

「パーティがいつもこんなに楽しければな」

「楽しいですか?」

「リリアンと過ごせて楽しいよ」


その後も、踊り、精魂尽きた。
マルセル様と踊り終えて当主ストップがかかった。

「リリアン。もうその足では無理だ。帰ろう」

「はい、お父様」


控え室で待っている間に珍しい人が現れた。



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