上 下
25 / 73
ライアン達の子

ゼインのお気に入り

しおりを挟む
【 オルテオ第二王子の視点 】



兄上のリリアンが控え室にいるというので訪ねた。

美人だった。性格も悪くなさそうで変に気取ってもいない。僕に驚いたのは第二王子というだけで、容姿に対してではない。

話してみると新鮮だった。
メイド達のような下心がないし令嬢達のような腹黒さがない。彼女といると空気さえ違う気がしてきた。

リリアンの兄が第一王子に用があって来たらしく

「リリアンも兄上に会いに?」

「馬を見せてもらいに来ました」

「馬?」

「仔馬がいると聞いて」

「好きなの?」

「動物は全般好きですが、馬は乗りたいのです」

「乗馬をするのか。屋敷の馬は?」

「はい、乗りますが外には出してもらえません。疾走するほどの敷地はありませんし」

「結構乗れるんだね。じゃあ、ここで乗って行きなよ。広い場所があるから」

「本当ですか!」

目をキラキラさせて前のめりになった。

…可愛い。兄上と噂になるだけのことはある。
兄上に会いたいわけではない。
ということは、兄上の片思いなのだろう。

そこに兄上がノックも無しにドアを開けた。
僕が居るのが予想外だったらしい。

喜びと焦りの顔を見せる兄上と、何ら変わらないリリアンを見て予想は当たった。
兄上の本命はリリアンで間違いない。だが片思いだ。


リリアンに僕の小さくなった服を渡して待っている間に現れたのはラフな黒い服を着た男だ。

何の気配も無かった。刺客かと思ったが、

「オルテオ殿下。リリアンには手を出さないでもらいたい」

僕に敬語を使わない者は三人しかいない。
この男はそれに含まれていない。

「何者だ」

「一般的に言えば“影”という存在だ」

「何故リリアンを?兄上のお気に入りだからか?」

「ゼイン殿下は関係ない。リリアンが我らのお気に入りだからだ」

「……は?」

「オルテオ殿下が護衛騎士達と何をしているか知っている。リリアンはそんな女達とは違う」

「あの女達と同じには見てないよ」

「リリアンを傷付けたら第二王子とはいえ生きていられる保証はない。我らが手を下さなくてもバトラーズ公爵夫妻が黙っていないだろう」

「側妃の子だから公爵家に劣ると?」

「公爵夫妻とリリアンは適性者だ。
詳しく知りたければ陛下から聞くといい」

そこにリリアンが出てきた。

「エフ先生、何してるんですか?」

「大丈夫かもしれないが何かあってはまずいから、乗馬が一番上手い者を付ける。
先ずは一緒に乗って彼から合格をもらえ」

「エフ先生は?エフ先生がいい」

「可愛いリリアン、お願いだ」

「はい」

“エフ先生”と呼ばれる影は立ち去った。


厩舎に向かう途中、リリアンから聞き出そうとしたが、口を割らない。

「エフ先生って何者が知ってるの?」

「先生は先生です」

「何故王宮で雇われている者と親しいの?」

「先生に聞いてください」

それ以上は聞けなかった。


厩舎に着くと女性騎士が一人と、ガタイの良い兵士がいた。近衛から選ぶのかと思っていた。

「レオナと申します。リリアン様に防具をつけさせていただきます」

肘、膝、胴、頭部にクッションとなる転落時に衝撃を弱める防具を装着していく。

「ありがとうございます、レオナ様」

「レオナで結構です」

「デュークと申します。リリアン様を乗せて走れと言われました。具体的に何をお望みでしょうか」

「デューク様、私は屋敷で乗馬の練習はしているのですが外にはでしてもらえません。ですが敷地内では思いっきり走れないのです」

「なるほど。では前に乗りますか」

「お願いします」

「リリアン、僕が乗せるよ」

「オルテオ殿下、上からは私が乗せるようにと命じられております。
殿下は落ちゆくリリアン様を片腕で引き上げられますか?片方の腕は手綱を握り馬を操りながらです。
失礼ながら騎士でもそこまで出来る者は多くはありません。

馬は生き物ですから、機嫌を損ねたり何かに驚いて暴れることもあります。
命に変えてもリリアン様を守れますか?」

「……任せた」

「ありがとうございます」

僕が乗せようと思っていたのに…。


リリアンは万歳をして待っていた。

「ククッ、リリアン様はお父上によく抱っこされていたのですね」

「へ?見ていたのですか?」

「小さな子供みたいに待っていたので」

リリアンは赤くなり腕を下げてしまった。

「意地悪を言ったのではありません。可愛いなと思っただけです。ご自分で乗られるのかと思いましたし」

「う…」

リリアンは鞍を掴み鎧に足をかけて羽が生えたようにふわっと馬に跨った。

「お上手ですね、リリアン様。
それでは私も乗りますね」

デュークはサッとリリアンの後ろに跨ると、リリアンの腹に手を回して引き寄せた。

「最初は軽く柵内を走らせて、その後外周へ参りましょう」


リリアンはずっと瞳を輝かせながらデュークに身を預けていた。

「リリアン様、手綱を渡します。支えるのも止めますので軽く回ってください」

リリアンは楽しそうに柵の中を走らせた。

「では、外周へ参りましょう」

後をついて行くと城門の外へ出るようだ。
許可をとっていたらしい。

城壁に沿ってデュークが馬を疾走させた。

二周回り、戻ってくると、デュークがリリアンを馬から下ろした。

「……抱っこしますね。横抱きにしますよ」

レオナに防具を外してもらったリリアンの脚は震えていた。

「明日筋肉痛ですかね」

「かもしれませんね。怖かったですか?」

「楽しかったです」

「またいらしてください」

「いいのでしょうか」

「団長を動かせるリリアン様なら大丈夫ですよ」

「え?団長? お会いしたこともないですけど」

「お着替えの間、廊下でお待ちしております」

「どうして?」

「着替えたらますます危ないですから、また抱っこして馬車まで送ります」

「なんだか迷惑しかかけていませんね」

「こんなに愛らしいお嬢様のお世話をできるなら喜んでいたします。どうか楽しみを奪わないでください」

「本気にしますよ?」

「リリアン様は学園生ですね?では、来週登場予定に入れておきますね」

「でも」

「こういうのは間を開けない方がいいですよ。
もし、一度で満足したということでしたら止めておきますが」

「デューク様にお願いしてもいいですか?」

「喜んで」


何でデュークがリリアンを口説いているんだよ!
しかも次の約束を取り付けたのがデュークだなんて!

まあ、次来るのが分かったならそれでいいだろう。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

え?後悔している?それで?

みおな
恋愛
 婚約者(私)がいながら、浮気をする婚約者。  姉(私)の婚約者にちょっかいを出す妹。  娘(私)に躾と称して虐げてくる母親。  後悔先に立たずという言葉をご存知かしら?

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...