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ライアン達の子
ゼインのお気に入り
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【 オルテオ第二王子の視点 】
兄上のリリアンが控え室にいるというので訪ねた。
美人だった。性格も悪くなさそうで変に気取ってもいない。僕に驚いたのは第二王子というだけで、容姿に対してではない。
話してみると新鮮だった。
メイド達のような下心がないし令嬢達のような腹黒さがない。彼女といると空気さえ違う気がしてきた。
リリアンの兄が第一王子に用があって来たらしく
「リリアンも兄上に会いに?」
「馬を見せてもらいに来ました」
「馬?」
「仔馬がいると聞いて」
「好きなの?」
「動物は全般好きですが、馬は乗りたいのです」
「乗馬をするのか。屋敷の馬は?」
「はい、乗りますが外には出してもらえません。疾走するほどの敷地はありませんし」
「結構乗れるんだね。じゃあ、ここで乗って行きなよ。広い場所があるから」
「本当ですか!」
目をキラキラさせて前のめりになった。
…可愛い。兄上と噂になるだけのことはある。
兄上に会いたいわけではない。
ということは、兄上の片思いなのだろう。
そこに兄上がノックも無しにドアを開けた。
僕が居るのが予想外だったらしい。
喜びと焦りの顔を見せる兄上と、何ら変わらないリリアンを見て予想は当たった。
兄上の本命はリリアンで間違いない。だが片思いだ。
リリアンに僕の小さくなった服を渡して待っている間に現れたのはラフな黒い服を着た男だ。
何の気配も無かった。刺客かと思ったが、
「オルテオ殿下。リリアンには手を出さないでもらいたい」
僕に敬語を使わない者は三人しかいない。
この男はそれに含まれていない。
「何者だ」
「一般的に言えば“影”という存在だ」
「何故リリアンを?兄上のお気に入りだからか?」
「ゼイン殿下は関係ない。リリアンが我らのお気に入りだからだ」
「……は?」
「オルテオ殿下が護衛騎士達と何をしているか知っている。リリアンはそんな女達とは違う」
「あの女達と同じには見てないよ」
「リリアンを傷付けたら第二王子とはいえ生きていられる保証はない。我らが手を下さなくてもバトラーズ公爵夫妻が黙っていないだろう」
「側妃の子だから公爵家に劣ると?」
「公爵夫妻とリリアンは適性者だ。
詳しく知りたければ陛下から聞くといい」
そこにリリアンが出てきた。
「エフ先生、何してるんですか?」
「大丈夫かもしれないが何かあってはまずいから、乗馬が一番上手い者を付ける。
先ずは一緒に乗って彼から合格をもらえ」
「エフ先生は?エフ先生がいい」
「可愛いリリアン、お願いだ」
「はい」
“エフ先生”と呼ばれる影は立ち去った。
厩舎に向かう途中、リリアンから聞き出そうとしたが、口を割らない。
「エフ先生って何者が知ってるの?」
「先生は先生です」
「何故王宮で雇われている者と親しいの?」
「先生に聞いてください」
それ以上は聞けなかった。
厩舎に着くと女性騎士が一人と、ガタイの良い兵士がいた。近衛から選ぶのかと思っていた。
「レオナと申します。リリアン様に防具をつけさせていただきます」
肘、膝、胴、頭部にクッションとなる転落時に衝撃を弱める防具を装着していく。
「ありがとうございます、レオナ様」
「レオナで結構です」
「デュークと申します。リリアン様を乗せて走れと言われました。具体的に何をお望みでしょうか」
「デューク様、私は屋敷で乗馬の練習はしているのですが外にはでしてもらえません。ですが敷地内では思いっきり走れないのです」
「なるほど。では前に乗りますか」
「お願いします」
「リリアン、僕が乗せるよ」
「オルテオ殿下、上からは私が乗せるようにと命じられております。
殿下は落ちゆくリリアン様を片腕で引き上げられますか?片方の腕は手綱を握り馬を操りながらです。
失礼ながら騎士でもそこまで出来る者は多くはありません。
馬は生き物ですから、機嫌を損ねたり何かに驚いて暴れることもあります。
命に変えてもリリアン様を守れますか?」
「……任せた」
「ありがとうございます」
僕が乗せようと思っていたのに…。
リリアンは万歳をして待っていた。
「ククッ、リリアン様はお父上によく抱っこされていたのですね」
「へ?見ていたのですか?」
「小さな子供みたいに待っていたので」
リリアンは赤くなり腕を下げてしまった。
「意地悪を言ったのではありません。可愛いなと思っただけです。ご自分で乗られるのかと思いましたし」
「う…」
リリアンは鞍を掴み鎧に足をかけて羽が生えたようにふわっと馬に跨った。
「お上手ですね、リリアン様。
それでは私も乗りますね」
デュークはサッとリリアンの後ろに跨ると、リリアンの腹に手を回して引き寄せた。
「最初は軽く柵内を走らせて、その後外周へ参りましょう」
リリアンはずっと瞳を輝かせながらデュークに身を預けていた。
「リリアン様、手綱を渡します。支えるのも止めますので軽く回ってください」
リリアンは楽しそうに柵の中を走らせた。
「では、外周へ参りましょう」
後をついて行くと城門の外へ出るようだ。
許可をとっていたらしい。
城壁に沿ってデュークが馬を疾走させた。
二周回り、戻ってくると、デュークがリリアンを馬から下ろした。
「……抱っこしますね。横抱きにしますよ」
レオナに防具を外してもらったリリアンの脚は震えていた。
「明日筋肉痛ですかね」
「かもしれませんね。怖かったですか?」
「楽しかったです」
「またいらしてください」
「いいのでしょうか」
「団長を動かせるリリアン様なら大丈夫ですよ」
「え?団長? お会いしたこともないですけど」
「お着替えの間、廊下でお待ちしております」
「どうして?」
「着替えたらますます危ないですから、また抱っこして馬車まで送ります」
「なんだか迷惑しかかけていませんね」
「こんなに愛らしいお嬢様のお世話をできるなら喜んでいたします。どうか楽しみを奪わないでください」
「本気にしますよ?」
「リリアン様は学園生ですね?では、来週登場予定に入れておきますね」
「でも」
「こういうのは間を開けない方がいいですよ。
もし、一度で満足したということでしたら止めておきますが」
「デューク様にお願いしてもいいですか?」
「喜んで」
何でデュークがリリアンを口説いているんだよ!
しかも次の約束を取り付けたのがデュークだなんて!
まあ、次来るのが分かったならそれでいいだろう。
兄上のリリアンが控え室にいるというので訪ねた。
美人だった。性格も悪くなさそうで変に気取ってもいない。僕に驚いたのは第二王子というだけで、容姿に対してではない。
話してみると新鮮だった。
メイド達のような下心がないし令嬢達のような腹黒さがない。彼女といると空気さえ違う気がしてきた。
リリアンの兄が第一王子に用があって来たらしく
「リリアンも兄上に会いに?」
「馬を見せてもらいに来ました」
「馬?」
「仔馬がいると聞いて」
「好きなの?」
「動物は全般好きですが、馬は乗りたいのです」
「乗馬をするのか。屋敷の馬は?」
「はい、乗りますが外には出してもらえません。疾走するほどの敷地はありませんし」
「結構乗れるんだね。じゃあ、ここで乗って行きなよ。広い場所があるから」
「本当ですか!」
目をキラキラさせて前のめりになった。
…可愛い。兄上と噂になるだけのことはある。
兄上に会いたいわけではない。
ということは、兄上の片思いなのだろう。
そこに兄上がノックも無しにドアを開けた。
僕が居るのが予想外だったらしい。
喜びと焦りの顔を見せる兄上と、何ら変わらないリリアンを見て予想は当たった。
兄上の本命はリリアンで間違いない。だが片思いだ。
リリアンに僕の小さくなった服を渡して待っている間に現れたのはラフな黒い服を着た男だ。
何の気配も無かった。刺客かと思ったが、
「オルテオ殿下。リリアンには手を出さないでもらいたい」
僕に敬語を使わない者は三人しかいない。
この男はそれに含まれていない。
「何者だ」
「一般的に言えば“影”という存在だ」
「何故リリアンを?兄上のお気に入りだからか?」
「ゼイン殿下は関係ない。リリアンが我らのお気に入りだからだ」
「……は?」
「オルテオ殿下が護衛騎士達と何をしているか知っている。リリアンはそんな女達とは違う」
「あの女達と同じには見てないよ」
「リリアンを傷付けたら第二王子とはいえ生きていられる保証はない。我らが手を下さなくてもバトラーズ公爵夫妻が黙っていないだろう」
「側妃の子だから公爵家に劣ると?」
「公爵夫妻とリリアンは適性者だ。
詳しく知りたければ陛下から聞くといい」
そこにリリアンが出てきた。
「エフ先生、何してるんですか?」
「大丈夫かもしれないが何かあってはまずいから、乗馬が一番上手い者を付ける。
先ずは一緒に乗って彼から合格をもらえ」
「エフ先生は?エフ先生がいい」
「可愛いリリアン、お願いだ」
「はい」
“エフ先生”と呼ばれる影は立ち去った。
厩舎に向かう途中、リリアンから聞き出そうとしたが、口を割らない。
「エフ先生って何者が知ってるの?」
「先生は先生です」
「何故王宮で雇われている者と親しいの?」
「先生に聞いてください」
それ以上は聞けなかった。
厩舎に着くと女性騎士が一人と、ガタイの良い兵士がいた。近衛から選ぶのかと思っていた。
「レオナと申します。リリアン様に防具をつけさせていただきます」
肘、膝、胴、頭部にクッションとなる転落時に衝撃を弱める防具を装着していく。
「ありがとうございます、レオナ様」
「レオナで結構です」
「デュークと申します。リリアン様を乗せて走れと言われました。具体的に何をお望みでしょうか」
「デューク様、私は屋敷で乗馬の練習はしているのですが外にはでしてもらえません。ですが敷地内では思いっきり走れないのです」
「なるほど。では前に乗りますか」
「お願いします」
「リリアン、僕が乗せるよ」
「オルテオ殿下、上からは私が乗せるようにと命じられております。
殿下は落ちゆくリリアン様を片腕で引き上げられますか?片方の腕は手綱を握り馬を操りながらです。
失礼ながら騎士でもそこまで出来る者は多くはありません。
馬は生き物ですから、機嫌を損ねたり何かに驚いて暴れることもあります。
命に変えてもリリアン様を守れますか?」
「……任せた」
「ありがとうございます」
僕が乗せようと思っていたのに…。
リリアンは万歳をして待っていた。
「ククッ、リリアン様はお父上によく抱っこされていたのですね」
「へ?見ていたのですか?」
「小さな子供みたいに待っていたので」
リリアンは赤くなり腕を下げてしまった。
「意地悪を言ったのではありません。可愛いなと思っただけです。ご自分で乗られるのかと思いましたし」
「う…」
リリアンは鞍を掴み鎧に足をかけて羽が生えたようにふわっと馬に跨った。
「お上手ですね、リリアン様。
それでは私も乗りますね」
デュークはサッとリリアンの後ろに跨ると、リリアンの腹に手を回して引き寄せた。
「最初は軽く柵内を走らせて、その後外周へ参りましょう」
リリアンはずっと瞳を輝かせながらデュークに身を預けていた。
「リリアン様、手綱を渡します。支えるのも止めますので軽く回ってください」
リリアンは楽しそうに柵の中を走らせた。
「では、外周へ参りましょう」
後をついて行くと城門の外へ出るようだ。
許可をとっていたらしい。
城壁に沿ってデュークが馬を疾走させた。
二周回り、戻ってくると、デュークがリリアンを馬から下ろした。
「……抱っこしますね。横抱きにしますよ」
レオナに防具を外してもらったリリアンの脚は震えていた。
「明日筋肉痛ですかね」
「かもしれませんね。怖かったですか?」
「楽しかったです」
「またいらしてください」
「いいのでしょうか」
「団長を動かせるリリアン様なら大丈夫ですよ」
「え?団長? お会いしたこともないですけど」
「お着替えの間、廊下でお待ちしております」
「どうして?」
「着替えたらますます危ないですから、また抱っこして馬車まで送ります」
「なんだか迷惑しかかけていませんね」
「こんなに愛らしいお嬢様のお世話をできるなら喜んでいたします。どうか楽しみを奪わないでください」
「本気にしますよ?」
「リリアン様は学園生ですね?では、来週登場予定に入れておきますね」
「でも」
「こういうのは間を開けない方がいいですよ。
もし、一度で満足したということでしたら止めておきますが」
「デューク様にお願いしてもいいですか?」
「喜んで」
何でデュークがリリアンを口説いているんだよ!
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