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ライアン達の子
自分のせいで
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【 ゼイン第一王子の視点 】
入学してからリリアン嬢の噂は直ぐに流れた。
アンベールは美しい妹を隠していたと揶揄われたり、紹介してくれと言われたり。だがその度に微妙な表情をした。それは迷惑だという意味なのかと思っていた。
時折学生食堂でリリアン嬢を見かけた。そこには常に同じ人物がいた。
三年生の伯爵令息と一年生の令嬢だ。
とても噂のあった傲慢とか協調性がないとかいう言葉が信じられないほど雰囲気がいい。
一度近くに座って話が聞こえてきたが、とても気さくで気遣いのできる女の子だった。
以前、アンベールは妹に嫌われてると溢した。
だからジャノと私は兄妹仲の修復ができればと思った。
令嬢の隣が空いていて隣に座ろうと言った。アンベールは乗り気ではなかったが私も同調すると仕方なくという感じでリリアン嬢に話しかけた。
挨拶はしてくれたが興味無しといった感じで仲間内の話しに戻ってしまう。
近くで彼女の声を聞き、笑顔を見て、惹かれるのに時間はかからなかった。
高位貴族令嬢特有の話などしない。使用人達との話や勉強の話、最近気になった店の話や新聞記事の話など健全で居心地の良い空間だった。
他人の噂話など一切しないし自慢話などもない。
確かにこれでは茶会で他の令嬢と合わないはずだと納得した。
週末にピアーズ伯爵邸に犬を見に行くと約束をしたリリアン嬢の笑顔はとても可愛かった。
その後、アンベールの口から出た“エフ先生”という言葉に衝撃を受けた。
城へ帰り、夜に父上に聞いた。
「バトラーズ公爵家に出入りしている剣術の先生というのは第四ですか」
「誰に聞いた」
「アンベールが口にしたのですが、彼は純粋に外部の先生だと思っていて、私が第四じゃないかと気が付きました。アンベールは第四の存在自体知りません」
「バトラーズ公爵家に出入りしているのはエフだ。
何故そうなったかは言えないが、エフが指導するほど公爵も夫人もリリアン嬢もそっち方面で優秀だということだ。
適性者が同じ時期に同家に三人も現れるなど前代未聞だ」
「リリアン嬢はどの程度なのですか」
「エフが、リリアン嬢が座って物を触って遊ぶことができるようになったら玩具のナイフを与えた。
とにかく的に当てる練習をさせたようだ」
「そんな頃からですか」
「ある程度の年齢になったら体に合わせた弓を特注して練習させた。
成長に応じて武器を特注するほどエフが入れ込んでいる。
今は軽めに作られた中程度の両刃の細めの剣を使って訓練しているようだ。双剣らしい。
体を痛めないか心配するあまり、公爵がエフに口煩く程々にと言うらしいぞ」
「リリアン嬢を第四に?」
「それはない。公爵が黙っていないだろう。
そういえば同時に同家から二人適性者が現れたことがあったな。ライアンという名が才を引き寄せるのか?」
「父上?」
「一人は我らの先祖だ。その方は適性はあったが子供の頃の怪我で本気の打ち合いができなかった。
まあ、最初の一撃で勝負を決めてしまうことが多かったようで、手練れ相手でない限り暗殺はできたろう。だが、美しすぎて潜入や護衛は難しかった。
もう一人も彼女を守るために拒否をした。
詳細はゼインが国王になった時に代々の国王が綴った手記を読めば分かるだろう」
その後も見かければリリアンの側に座って食事をした。
その内、気を使ってリリアンの横は空席が維持されていた。
私はそれを呑気に“公認”という気分を味わっていた。
それはリリアンの抗議により崩れた。
呼び出し?抗議?荒らされる?
私との噂は知っていた。
私が婚約を解消してリリアンに乗り換えるのではないかと。私の願望を露わにした噂を放置していたが、そんなことになっているのは知らなかった。
その後、アンベールから昔の茶会事件からアンベールがリリアンから拒絶されていて公爵にも失望されたという告白を聞いた。
一人だけ毛並みの違うアンベールはさぞ辛い思いをしているだろう。
私は夜、父上に頼んだ。
「バトラーズ公爵家に訪問させてください」
「何故だ」
「私のせいでアンベールがリリアンから叱られました。それに私のせいでリリアンが学園で嫌がらせを受けています。
私は正直に気持ちを伝えて謝罪をしなくてはなりません」
「まさかリリアン嬢を好いてると?」
「はい」
「はぁ…ゼイン」
「婚約者のことは百も承知です。
ですが謝罪とリリアンの現状を知らせるには、原因である私の気持ちを明かさなければ、公爵は正しい状況を掴むことができませんし、誠意がありません。それでは謝罪とは言えません」
「いいだろう。但し、誰か付けさせる。相応しくない言動があれば止めに入らせる」
「ありがとうございます。
それともう一つ、リリアンに第四を付けてください。
令嬢達が複数でリリアンに的外れな抗議をしているようなのです。
内容とメンバーを知りたいのです。
そして机の中の物やカバンの中身が荒らされるようです。犯人を捕らえたいのです」
「死人が出る前に解決させよう。短期間だが第四を二人付ける。私物を見張る者とリリアンを見守る者だ」
「ありがとうございます。
……父上、リリアンの悪い噂は事実ではありません。悪いことなどしていないのにあんまりです」
「根底に妬みがあるのだろう。
バトラーズ公爵家の娘で美人とくれば、不相応にも嫉妬をする者もいる。リリアン嬢には災難だがな」
父上からバトラーズ公爵に手紙を出してもらい、金曜日の放課後に会う約束をもらえた。
入学してからリリアン嬢の噂は直ぐに流れた。
アンベールは美しい妹を隠していたと揶揄われたり、紹介してくれと言われたり。だがその度に微妙な表情をした。それは迷惑だという意味なのかと思っていた。
時折学生食堂でリリアン嬢を見かけた。そこには常に同じ人物がいた。
三年生の伯爵令息と一年生の令嬢だ。
とても噂のあった傲慢とか協調性がないとかいう言葉が信じられないほど雰囲気がいい。
一度近くに座って話が聞こえてきたが、とても気さくで気遣いのできる女の子だった。
以前、アンベールは妹に嫌われてると溢した。
だからジャノと私は兄妹仲の修復ができればと思った。
令嬢の隣が空いていて隣に座ろうと言った。アンベールは乗り気ではなかったが私も同調すると仕方なくという感じでリリアン嬢に話しかけた。
挨拶はしてくれたが興味無しといった感じで仲間内の話しに戻ってしまう。
近くで彼女の声を聞き、笑顔を見て、惹かれるのに時間はかからなかった。
高位貴族令嬢特有の話などしない。使用人達との話や勉強の話、最近気になった店の話や新聞記事の話など健全で居心地の良い空間だった。
他人の噂話など一切しないし自慢話などもない。
確かにこれでは茶会で他の令嬢と合わないはずだと納得した。
週末にピアーズ伯爵邸に犬を見に行くと約束をしたリリアン嬢の笑顔はとても可愛かった。
その後、アンベールの口から出た“エフ先生”という言葉に衝撃を受けた。
城へ帰り、夜に父上に聞いた。
「バトラーズ公爵家に出入りしている剣術の先生というのは第四ですか」
「誰に聞いた」
「アンベールが口にしたのですが、彼は純粋に外部の先生だと思っていて、私が第四じゃないかと気が付きました。アンベールは第四の存在自体知りません」
「バトラーズ公爵家に出入りしているのはエフだ。
何故そうなったかは言えないが、エフが指導するほど公爵も夫人もリリアン嬢もそっち方面で優秀だということだ。
適性者が同じ時期に同家に三人も現れるなど前代未聞だ」
「リリアン嬢はどの程度なのですか」
「エフが、リリアン嬢が座って物を触って遊ぶことができるようになったら玩具のナイフを与えた。
とにかく的に当てる練習をさせたようだ」
「そんな頃からですか」
「ある程度の年齢になったら体に合わせた弓を特注して練習させた。
成長に応じて武器を特注するほどエフが入れ込んでいる。
今は軽めに作られた中程度の両刃の細めの剣を使って訓練しているようだ。双剣らしい。
体を痛めないか心配するあまり、公爵がエフに口煩く程々にと言うらしいぞ」
「リリアン嬢を第四に?」
「それはない。公爵が黙っていないだろう。
そういえば同時に同家から二人適性者が現れたことがあったな。ライアンという名が才を引き寄せるのか?」
「父上?」
「一人は我らの先祖だ。その方は適性はあったが子供の頃の怪我で本気の打ち合いができなかった。
まあ、最初の一撃で勝負を決めてしまうことが多かったようで、手練れ相手でない限り暗殺はできたろう。だが、美しすぎて潜入や護衛は難しかった。
もう一人も彼女を守るために拒否をした。
詳細はゼインが国王になった時に代々の国王が綴った手記を読めば分かるだろう」
その後も見かければリリアンの側に座って食事をした。
その内、気を使ってリリアンの横は空席が維持されていた。
私はそれを呑気に“公認”という気分を味わっていた。
それはリリアンの抗議により崩れた。
呼び出し?抗議?荒らされる?
私との噂は知っていた。
私が婚約を解消してリリアンに乗り換えるのではないかと。私の願望を露わにした噂を放置していたが、そんなことになっているのは知らなかった。
その後、アンベールから昔の茶会事件からアンベールがリリアンから拒絶されていて公爵にも失望されたという告白を聞いた。
一人だけ毛並みの違うアンベールはさぞ辛い思いをしているだろう。
私は夜、父上に頼んだ。
「バトラーズ公爵家に訪問させてください」
「何故だ」
「私のせいでアンベールがリリアンから叱られました。それに私のせいでリリアンが学園で嫌がらせを受けています。
私は正直に気持ちを伝えて謝罪をしなくてはなりません」
「まさかリリアン嬢を好いてると?」
「はい」
「はぁ…ゼイン」
「婚約者のことは百も承知です。
ですが謝罪とリリアンの現状を知らせるには、原因である私の気持ちを明かさなければ、公爵は正しい状況を掴むことができませんし、誠意がありません。それでは謝罪とは言えません」
「いいだろう。但し、誰か付けさせる。相応しくない言動があれば止めに入らせる」
「ありがとうございます。
それともう一つ、リリアンに第四を付けてください。
令嬢達が複数でリリアンに的外れな抗議をしているようなのです。
内容とメンバーを知りたいのです。
そして机の中の物やカバンの中身が荒らされるようです。犯人を捕らえたいのです」
「死人が出る前に解決させよう。短期間だが第四を二人付ける。私物を見張る者とリリアンを見守る者だ」
「ありがとうございます。
……父上、リリアンの悪い噂は事実ではありません。悪いことなどしていないのにあんまりです」
「根底に妬みがあるのだろう。
バトラーズ公爵家の娘で美人とくれば、不相応にも嫉妬をする者もいる。リリアン嬢には災難だがな」
父上からバトラーズ公爵に手紙を出してもらい、金曜日の放課後に会う約束をもらえた。
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