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ライアン達の子
ゼインの回想
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【 ゼイン第一王子の視点 】
私が12歳の時、婚約者選定のための茶会の名簿を見ていた。
侍従は二人いて、ベテランのヒックスと18歳のマロンだ。
「ヒックス、バトラーズ公爵家の長女が抜けているぞ」
「ご令嬢は辞退なさいました」
「は?」
「公爵が陛下に直々に、王子妃に向かないことと本人が望んでいないので茶会の不参加をお伝えになりました」
「父上は許したのか」
「はい。以前よりもバトラーズ家の印象がよろしいようで陛下が気にかけておられます。
そして令嬢にはあまりよろしくない噂がありまして、事実はどうあれ今の段階で良くない噂を持つ令嬢は候補には向かないと仰いました」
「噂って?」
「あくまでも噂としてでございます。
貴族令嬢としての振る舞いができない。協調性がない。傲慢。冷たい。怖い。野蛮です」
「野蛮ってなんだ?」
「刺繍や詩歌など貴族令嬢なら嗜むことを公爵令嬢は好みません。剣を握ります」
「剣!?」
「幼いので今はまだ短剣と弓だそうです」
「本格的に習っているということだな」
「はい。バトラーズ公爵家は近衛を何度か輩出しております」
「分かった。剣術のことをのぞいたとしても、妃にするには問題だろう。最初から外れて良かった」
その後、私が4人に絞り、最終的に15歳で婚約者が決まった。
4人のうちから父上と母上が選んだのは近年で更に力を付けているパトローヌ侯爵家の次女ビクトリアだ。
私と同い歳で金髪で青い瞳の令嬢だ。
綺麗だとは思うがそれだけだ。
条件が良かったから私も残した。
父上も母上も家門で選んだのだろう。
交流をするようになり、ビクトリアと定期的に会った。
話題は豊富でそれなりの時間を過ごせた。
入学してバトラーズ公爵家の嫡男と学友になった。
アンベールは控えめな令息だった。
バトラーズ家に産まれたのに偉ぶらず前には出ない。そこが気に入った。妹のことは別に考えることにした。
妹のリリアン嬢は表に一切出なかった。
どこの茶会にも出ない。母上の茶会でさえも。
“娘が悪いとは思っていないが結果的に茶会が荒れる”と欠席理由を添えて欠席の返事を出してきた。
深窓の令嬢。それはそのままの意味ではなく、鉄格子付きの窓のある部屋に閉じ込めないと周りが危険というニュアンスだった。
三年になる時に、そのリリアン嬢が入学するため、学園が荒れると思った。
ただでさえ色恋沙汰で揉める姿が時々見られる学園は混沌とするのではないかと警戒していた。
母上は、自然に排除されるだろうから関わるなと。
父上は違う見解だった。
「リリアン嬢は確かに普通の令嬢ではない。それは報告を受けている。だが、彼女は間違ってはいないし、真っ直ぐな性格だと分かった。怒らせなければ無害だ」
「怒らせなければ?」
「今のバトラーズ公爵一家は刃物と同じだ。
長男以外な。触れ方、扱い方を間違えるとスパッと斬られる。
公爵は夫人を溺愛しているし、その娘も大事にしている。
リリアン嬢を傷付けた公爵令嬢は傷モノになり表から姿を消した。だから入学もしていない」
「傷モノって、」
「正当法だ。訴訟を起こした。
公爵夫妻は謝罪をしたようだが、バトラーズ公爵は受け入れなかった」
「その令嬢は何をしたのですか」
「リリアン嬢に熱い茶をかけた。明らかに故意にかけて周りの令嬢達と一緒に嫌味を言っていたらしい」
「火傷を負ったのですね」
「軽度ではあるし綺麗に治ったが、バトラーズ公爵の怒りは抑えられなかった。
もう一つ、茶会を開いた侯爵家も制裁を受けた。
招待しておいて、娘が複数人から攻撃を受けていたのに放置したからだ。
夫人はそれも躾だという意味の弁解をして、更にバトラーズ公爵を怒らせた。
結果、バトラーズ公爵家は絶縁を宣言した。
その上、隣同士の領地で、侯爵領に賊が出やすく、バトラーズ領の私兵が討伐に協力してくれていたのだが、一切助けないと宣言した。
結果、侯爵領は荒れて多くの被害を出した」
「隣で何故そんなに違うのですか」
「王都から向かうと先にバトラーズ領がある。そこは豊かな土地でほぼ平坦。あまり潜む場所がない。だから待ち伏せして通りかかった人を襲うという方法がとりにくい土地だ。
バトラーズ領自体も見通しがいいように整備したからな。
そしてバトラーズ領を抜けた先にあるのが侯爵領で森もあれば鉱山もあり、起伏の激しい場所が多くある。資源はそれなりに豊富だが、代々バトラーズ領に世話になってきた。それはバトラーズ公爵家からよく騎士を輩出していたためバトラーズ家が手を貸してきたのだろう。騎士の善意だろうな。
だが、現当主はそんなものは重要じゃないし、代々続いたことなどどうでもいい。
家族を守ることが大事で、侯爵夫人の物言いは許せなかったのだろう。夫人の方が躾直されたということだ。
もう一人、リリアン嬢を押して怪我をさせた令息がいた。伯爵夫妻は謝罪に行き、訴訟も止めてくれとは言わず、罪を償うと真摯に受け止めていた。
令息も転倒させるつもりはなく、リリアン嬢を心配して声をかけたが、運悪く他の令息も集まってきてしまい、リリアン嬢が拒絶してショックを受けた令息が押してしまったようだ。
その後、改めて令息が一人で謝罪に現れた。
バトラーズ公爵家は伯爵家を許し、訴訟も引き下げた。
ゼイン。バトラーズを敵に回すな。
王族だろうが何だろうが、リリアン嬢に害を成せば報復を受ける」
父上でさえ警戒するバトラーズがよく分からなかった。いつも一緒にいるアンベールを見ているから。
私が12歳の時、婚約者選定のための茶会の名簿を見ていた。
侍従は二人いて、ベテランのヒックスと18歳のマロンだ。
「ヒックス、バトラーズ公爵家の長女が抜けているぞ」
「ご令嬢は辞退なさいました」
「は?」
「公爵が陛下に直々に、王子妃に向かないことと本人が望んでいないので茶会の不参加をお伝えになりました」
「父上は許したのか」
「はい。以前よりもバトラーズ家の印象がよろしいようで陛下が気にかけておられます。
そして令嬢にはあまりよろしくない噂がありまして、事実はどうあれ今の段階で良くない噂を持つ令嬢は候補には向かないと仰いました」
「噂って?」
「あくまでも噂としてでございます。
貴族令嬢としての振る舞いができない。協調性がない。傲慢。冷たい。怖い。野蛮です」
「野蛮ってなんだ?」
「刺繍や詩歌など貴族令嬢なら嗜むことを公爵令嬢は好みません。剣を握ります」
「剣!?」
「幼いので今はまだ短剣と弓だそうです」
「本格的に習っているということだな」
「はい。バトラーズ公爵家は近衛を何度か輩出しております」
「分かった。剣術のことをのぞいたとしても、妃にするには問題だろう。最初から外れて良かった」
その後、私が4人に絞り、最終的に15歳で婚約者が決まった。
4人のうちから父上と母上が選んだのは近年で更に力を付けているパトローヌ侯爵家の次女ビクトリアだ。
私と同い歳で金髪で青い瞳の令嬢だ。
綺麗だとは思うがそれだけだ。
条件が良かったから私も残した。
父上も母上も家門で選んだのだろう。
交流をするようになり、ビクトリアと定期的に会った。
話題は豊富でそれなりの時間を過ごせた。
入学してバトラーズ公爵家の嫡男と学友になった。
アンベールは控えめな令息だった。
バトラーズ家に産まれたのに偉ぶらず前には出ない。そこが気に入った。妹のことは別に考えることにした。
妹のリリアン嬢は表に一切出なかった。
どこの茶会にも出ない。母上の茶会でさえも。
“娘が悪いとは思っていないが結果的に茶会が荒れる”と欠席理由を添えて欠席の返事を出してきた。
深窓の令嬢。それはそのままの意味ではなく、鉄格子付きの窓のある部屋に閉じ込めないと周りが危険というニュアンスだった。
三年になる時に、そのリリアン嬢が入学するため、学園が荒れると思った。
ただでさえ色恋沙汰で揉める姿が時々見られる学園は混沌とするのではないかと警戒していた。
母上は、自然に排除されるだろうから関わるなと。
父上は違う見解だった。
「リリアン嬢は確かに普通の令嬢ではない。それは報告を受けている。だが、彼女は間違ってはいないし、真っ直ぐな性格だと分かった。怒らせなければ無害だ」
「怒らせなければ?」
「今のバトラーズ公爵一家は刃物と同じだ。
長男以外な。触れ方、扱い方を間違えるとスパッと斬られる。
公爵は夫人を溺愛しているし、その娘も大事にしている。
リリアン嬢を傷付けた公爵令嬢は傷モノになり表から姿を消した。だから入学もしていない」
「傷モノって、」
「正当法だ。訴訟を起こした。
公爵夫妻は謝罪をしたようだが、バトラーズ公爵は受け入れなかった」
「その令嬢は何をしたのですか」
「リリアン嬢に熱い茶をかけた。明らかに故意にかけて周りの令嬢達と一緒に嫌味を言っていたらしい」
「火傷を負ったのですね」
「軽度ではあるし綺麗に治ったが、バトラーズ公爵の怒りは抑えられなかった。
もう一つ、茶会を開いた侯爵家も制裁を受けた。
招待しておいて、娘が複数人から攻撃を受けていたのに放置したからだ。
夫人はそれも躾だという意味の弁解をして、更にバトラーズ公爵を怒らせた。
結果、バトラーズ公爵家は絶縁を宣言した。
その上、隣同士の領地で、侯爵領に賊が出やすく、バトラーズ領の私兵が討伐に協力してくれていたのだが、一切助けないと宣言した。
結果、侯爵領は荒れて多くの被害を出した」
「隣で何故そんなに違うのですか」
「王都から向かうと先にバトラーズ領がある。そこは豊かな土地でほぼ平坦。あまり潜む場所がない。だから待ち伏せして通りかかった人を襲うという方法がとりにくい土地だ。
バトラーズ領自体も見通しがいいように整備したからな。
そしてバトラーズ領を抜けた先にあるのが侯爵領で森もあれば鉱山もあり、起伏の激しい場所が多くある。資源はそれなりに豊富だが、代々バトラーズ領に世話になってきた。それはバトラーズ公爵家からよく騎士を輩出していたためバトラーズ家が手を貸してきたのだろう。騎士の善意だろうな。
だが、現当主はそんなものは重要じゃないし、代々続いたことなどどうでもいい。
家族を守ることが大事で、侯爵夫人の物言いは許せなかったのだろう。夫人の方が躾直されたということだ。
もう一人、リリアン嬢を押して怪我をさせた令息がいた。伯爵夫妻は謝罪に行き、訴訟も止めてくれとは言わず、罪を償うと真摯に受け止めていた。
令息も転倒させるつもりはなく、リリアン嬢を心配して声をかけたが、運悪く他の令息も集まってきてしまい、リリアン嬢が拒絶してショックを受けた令息が押してしまったようだ。
その後、改めて令息が一人で謝罪に現れた。
バトラーズ公爵家は伯爵家を許し、訴訟も引き下げた。
ゼイン。バトラーズを敵に回すな。
王族だろうが何だろうが、リリアン嬢に害を成せば報復を受ける」
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