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屋上
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土曜日の午前中は数学と国内の歴史。午後は国外の歴史と淑女教育。
日曜日は午前中は外国語と文化。午後は外出と、戻ってダンスの練習。
初回の日曜日の午後は美術館へ行った。歴代の王妃様のドレスが展示してあった。
「先生、これはこの頃の流行りだったのですか」
「そうみたいだね。こんなに膨らませては場所をとるし、ダンスも馬車の中もクローゼットも不便だったと思うのに、目立つことを優先したんだろうな」
「ふふふっ、確かに邪魔でしかありませんね」
「リリアーナは笑っていた方がいい」
「楽しいことがあれば笑いますわ。何年もご無沙汰していた気がしますが。
平凡な私は興味を持たれませんから、ご無沙汰なのも気が付きませんでした」
「リリアーナ。後ろ向きになっては駄目よ。
私もフランシスも貴女を心配しているわ」
「私達は楽しく過ごそう」
「はい。マリエッタ様、フランシス先生」
月曜の昼休み、また屋上に金髪の令息がいた。
いつも見かけるが食事をしているところを見たことがない。
近寄って聞いてみた。
「すみません。昼食はどうなさっているのですか」
「……食べない」
「余計なお世話かもしれませんが、好きで食べないのなら放っておきますが、もしお困りでしたらお分けしますよ」
「は?」
「あ、すみません。お邪魔しました。あっちで静かにしていますから」
「待て」
怒らせたかな。
「困るってどういう意味」
「不運が重なって食事をとれないようでしたらと」
「つまり金がなくて食えなくて困ってると思ったのか」
「…可能性の一つとして」
「はぁ」
「すみません、失礼しました」
いつもの場所で敷き布を広げて座ると、金髪の令息が隣に座った。
「?」
「早く分けてくれよ。くれるんだろう」
「え、あ…どうぞ」
「手作り」
「まさか。手作りならお分けしません」
「なんで?」
「知らない令嬢の手作りなんて嫌でしょう?料理人の作ったものでないと」
「まぁ、そうだけど」
「私の方が新参者ですよね。すみません。お寛ぎの場所を間借りしてしまって」
「別に俺のじゃないから。まぁ、当たりだけど」
「ご迷惑なら別の場所を探しますから」
「…誰か避けてるのか」
「……」
「静かにしていてくれれば、このままでいい。
名前は?」
「リリアーナ・クロノスです」
「赤いリボンだから1年生だよな。俺のことは知らないんだな?」
「すみません」
「…リュカと呼べ」
「どちらのリュカ様ですか」
「知らなくていい」
「分かりました」
「ちなみに貧乏ではない」
「すみません」
「見せてみろ」
「?」
「問題集」
「もしかして、書き込んでくださったのはリュカ様ですか」
「まぁな」
「とても分かりやすかったです。ありがとうございました」
「…これ、間違ってる」
「え!?」
「ペンを貸せ。ここは……」
時々、昼食を分けてあげると濃いブルーの瞳のリュカ様は勉強を教えてくれるようになった。
緑のタイを締めたリュカ様は2年生だった。
次の日曜は楽団の演奏を聴きに行った。
そして週明けの放課後、帰る支度をして階段を降りるとランドルフ様がいた。
「話がある」
「少しだけでしたら」
裏庭へ行くとランドルフ様が封筒を2つ手渡してきた。
「…招待状ですか」
「来月の茶会2件だ」
「私は行きません。他のご令嬢をお誘いください」
そう言って封筒を返した。
「日曜に男とデートする程時間が余っているのだろう」
「ご自身の目で見てはいませんね?」
「聞いた話だ」
「訂正させていただきます。
確かに日曜は出かけますが授業です。
講師と兄の婚約者の3人で出かけております。
公爵令息様にその様に言われる筋合いはございません」
「ランドルフと呼べ」
「……」
「変わったな」
「今の私も私です。公爵令息様に見せていなかっただけでしょう。身体に痛みが走り、日記を読んで、このままではいけないと切実に思っただけです」
「演奏を聴きに行くのが授業なのか」
「そうです。今までその様な経験はありませんでした。日曜日の午後は社会勉強をしています。社会勉強をせずに社交に出たって話題についていけません」
「…私が連れて行く」
「何故今までなさらなかったのですか」
「それは…」
「私は雇った講師と2人きりだとしても咎められたくありません」
「リリアーナ!」
「もう私は転落前のリリアーナではございません。失礼いたします」
日曜日は午前中は外国語と文化。午後は外出と、戻ってダンスの練習。
初回の日曜日の午後は美術館へ行った。歴代の王妃様のドレスが展示してあった。
「先生、これはこの頃の流行りだったのですか」
「そうみたいだね。こんなに膨らませては場所をとるし、ダンスも馬車の中もクローゼットも不便だったと思うのに、目立つことを優先したんだろうな」
「ふふふっ、確かに邪魔でしかありませんね」
「リリアーナは笑っていた方がいい」
「楽しいことがあれば笑いますわ。何年もご無沙汰していた気がしますが。
平凡な私は興味を持たれませんから、ご無沙汰なのも気が付きませんでした」
「リリアーナ。後ろ向きになっては駄目よ。
私もフランシスも貴女を心配しているわ」
「私達は楽しく過ごそう」
「はい。マリエッタ様、フランシス先生」
月曜の昼休み、また屋上に金髪の令息がいた。
いつも見かけるが食事をしているところを見たことがない。
近寄って聞いてみた。
「すみません。昼食はどうなさっているのですか」
「……食べない」
「余計なお世話かもしれませんが、好きで食べないのなら放っておきますが、もしお困りでしたらお分けしますよ」
「は?」
「あ、すみません。お邪魔しました。あっちで静かにしていますから」
「待て」
怒らせたかな。
「困るってどういう意味」
「不運が重なって食事をとれないようでしたらと」
「つまり金がなくて食えなくて困ってると思ったのか」
「…可能性の一つとして」
「はぁ」
「すみません、失礼しました」
いつもの場所で敷き布を広げて座ると、金髪の令息が隣に座った。
「?」
「早く分けてくれよ。くれるんだろう」
「え、あ…どうぞ」
「手作り」
「まさか。手作りならお分けしません」
「なんで?」
「知らない令嬢の手作りなんて嫌でしょう?料理人の作ったものでないと」
「まぁ、そうだけど」
「私の方が新参者ですよね。すみません。お寛ぎの場所を間借りしてしまって」
「別に俺のじゃないから。まぁ、当たりだけど」
「ご迷惑なら別の場所を探しますから」
「…誰か避けてるのか」
「……」
「静かにしていてくれれば、このままでいい。
名前は?」
「リリアーナ・クロノスです」
「赤いリボンだから1年生だよな。俺のことは知らないんだな?」
「すみません」
「…リュカと呼べ」
「どちらのリュカ様ですか」
「知らなくていい」
「分かりました」
「ちなみに貧乏ではない」
「すみません」
「見せてみろ」
「?」
「問題集」
「もしかして、書き込んでくださったのはリュカ様ですか」
「まぁな」
「とても分かりやすかったです。ありがとうございました」
「…これ、間違ってる」
「え!?」
「ペンを貸せ。ここは……」
時々、昼食を分けてあげると濃いブルーの瞳のリュカ様は勉強を教えてくれるようになった。
緑のタイを締めたリュカ様は2年生だった。
次の日曜は楽団の演奏を聴きに行った。
そして週明けの放課後、帰る支度をして階段を降りるとランドルフ様がいた。
「話がある」
「少しだけでしたら」
裏庭へ行くとランドルフ様が封筒を2つ手渡してきた。
「…招待状ですか」
「来月の茶会2件だ」
「私は行きません。他のご令嬢をお誘いください」
そう言って封筒を返した。
「日曜に男とデートする程時間が余っているのだろう」
「ご自身の目で見てはいませんね?」
「聞いた話だ」
「訂正させていただきます。
確かに日曜は出かけますが授業です。
講師と兄の婚約者の3人で出かけております。
公爵令息様にその様に言われる筋合いはございません」
「ランドルフと呼べ」
「……」
「変わったな」
「今の私も私です。公爵令息様に見せていなかっただけでしょう。身体に痛みが走り、日記を読んで、このままではいけないと切実に思っただけです」
「演奏を聴きに行くのが授業なのか」
「そうです。今までその様な経験はありませんでした。日曜日の午後は社会勉強をしています。社会勉強をせずに社交に出たって話題についていけません」
「…私が連れて行く」
「何故今までなさらなかったのですか」
「それは…」
「私は雇った講師と2人きりだとしても咎められたくありません」
「リリアーナ!」
「もう私は転落前のリリアーナではございません。失礼いたします」
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