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再会

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お母様を追い出してから20分過ぎ、お父様が私の部屋に押しかけて頬を打った。

「母親を殴るとは何事だ!!」

「人を殴る時は殴り返される覚悟が必要だと教えただけです」

「エレノア!!」

「あなた達と私は家族ではありません。
当主様、あなたの暴力は必ずお返しいたします」

「勝手にしろ!!」

バタン!!

お父様が退室するとメイドが駆け寄った。

「直ぐに冷やしませんと!ち、血が!!」

鏡を見に行くと頬は赤くなり少し腫れていた。時間が経てばもう少し腫れるだろう。それに唇が切れて血が出ていた。

結構しっかり叩いたわね。

「待って。このままでいいわ」

「ですが!」

「お願い」

「かしこまりました」



翌日、公爵邸に行くために部屋から出て階段を降りた私の顔を見てお父様とお母様は青ざめた。
使用人達も驚いている。

「エレノア…その顔…」

「当主夫人に叩かれた後、当主様からも暴力を受けました。ご存知のはずなのに どうなさいましたか?」

「だ、駄目だ…このまま連れては行けない」

「当主様と当主夫人は正しいと思って暴力を振るったのですよね?でしたら問題ないのでは?
それに、もうお食事会の時間が迫っています。土壇場でキャンセルなど許されますか?
もし私を置いて行っても、公子様が確認にみえるかもしれません。“殴ったから連れて来られなかった”と言わない限り嘘を吐いたことになりますよ?」


結局、ベール付きの帽子を被せられた。
脱ぐに決まっているのに。それに遠くから見れば分からないかもしれないけど 挨拶する近さならベール越しにでも 腫れて色が変わった頬が確認できてしまう。


到着した公爵邸はうちとは全く規模が違った。
小国の宮殿?と言いたくなるくらいで敷地も広い。庭は庭師が不憫に思えるほど整っていた。

「家令のハミルと申します。
アルザフ公爵家ようこそお越しくださいました。
早速ご案内いたします」

応接間に案内されると既に公爵夫妻と公子様がいらした。

「……」

あっ!…何で…何でここにいるの!

「当主のヘンリー・アルザフと申します」

「妻のケリー・アルザフと申します」

「ケンブル嬢に求婚しましたシリル・アルザフと申します。お会いできて…」

公子は気が付いたのだろう。私に歩み寄り側に立つとベールを捲った。

「これはどういうことだ?」

「何てことを!」

「マルクスを連れて来い!」


マルクスとは専属医だった。

「可哀想に…」

薬草を調合した塗り薬を頬に。別の塗り薬を切れた唇に塗ってくれた。

「どういうことか説明してもらいましょうか」

公子が怒りの形相で両親を睨みつけている。

お父様は蒼白で言葉が出て来ないし、お母様に至っては震えていた。

我が家で起きていることと、母に打ち返したことと、父にさらに叩かれたことを私の口から説明した。

「ケンブル子爵、夫人、あなた方は何を考えていらっしゃるの!? 何故問題児を放置して被害者のエレノア嬢に暴力など振るうのです!」

「明らかに問題は妹にある。そして同じぐらい親であるあなた方二人にある!」

「私の婚約者になると分かっていたのに手を上げたのですね?」

「「……」」

「分かりました。直ぐに契約を交わしましょう」

圧に押されながらお父様が署名し、公爵様と公子様が署名した。

「エレノア」

公子様は優しい声で私に署名を促した。
ペンを受け取り署名すると、公子様はお父様とお母様を見るとはっきりと告げた。

「只今をもって、エレノアをアルザフ家で預かります。花嫁修行ということでこの屋敷で生活させます」

「今 署名したばかりではありませんか!」

「仕方ありませんわ。うちのお嫁さんになるエレノア嬢の心身の保護をしなくてはならないのですもの。何度も心を傷付けて、更には身体を傷付けて。これは虐待ですわ」

「そんなことはございません」

「ケンブル子爵夫人。腫れて頬の色が変わって唇が切れている令嬢を見ても否定なさるのですか?」

「わ、私もエレノアに叩かれて…」

「そう?何ともないように見えますわよ?同じくらいになるよう うちの兵士に叩かせましょうか?」

「何を仰るのですかアルザフ公爵夫人!
妻に危害を加えると脅すなどあんまりです!」

「子爵。そなたの娘はその危害を加えられているではないか。無理矢理応じさせることもできるが、このまま彼女を王妃陛下に会わせてもいいのだぞ」

「なっ!」

「私達はエレノアを愛しています!」

早く終わらせたくなった私ははっきり告げた。

「私は当主様にも当主夫人にも盗み癖のなおらないレティシアのことも愛しておりません。寧ろ嫌いです」

「エレノア!」

「酷いわ!」

「あなた達が可愛いのはレティシアだけなのでしょう?仲良く歪な家族ごっこを続ければよろしいではありませんか。そのために私を餌にして甚振るのは止めてください。
もしまた破棄や解消といったことになっても、二度とケンブル家には帰りません。三人で…お腹の子とあの男を加えると五人でしたね。仲良くなさってください」

「用は済んだので帰ってもらおうか」

公爵様が合図を送ると使用人や私兵がお父様達を退室させた。

「エレノア!」

「エレノア!後悔するわよ!」

バタン


扉が閉められると私は深く膝を折り感謝を伝えた。

「アルザフ公爵様、公爵夫人、公子様。ありがとうございました。
ですが、ケンブルと縁繋ぎになっても良いことはございません。早めに解消してください」

「何を言っているの。もうケンブル家のことは忘れてお食事をしましょう」

「そうだぞ。食堂へ行こう」

「エレノア」

「はい」

「(ベッドから抜け出して私を置き去りにして帰るなんて、後でお仕置きだぞ)」

「っ!!」

ハデス様改め、シリル・アルザフ公子は私の耳元で囁いた。



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