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六人目の婚約者
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夜会から1週間。
突き返した釣書は8件になっていた。
さすがに文句でも言いたいのだろうか、レティシアの妊娠を知った日からずっと部屋食にしていたが、食堂に来いと呼ばれてしまった。
チラッとカーテンレールを見ると修理が終わっていた。
レティシアはニコニコと機嫌がいい。
「エレノア」
「はい」
「嫁ぎ先が決まった」
「はい?」
「今回は断ることは許されない」
「何故でしょう」
「公爵家からの申し込みだからだ」
「は?」
子爵令嬢で五人から婚約解消されたキズモノにあり得ない。よっぽど難ありなのだろうか。
ふと視界に入っていたレティシアの顔が歪んだことに気が付いた。
「お父様、お姉様が可哀想ですわ!公爵家なんてお姉様が苦労なさいます!」
「レティシア、子爵家はお断り出来る立場にないのだよ」
そうか…レティシアはわざと私の婚約者達を誑かしてきたのね。
レティシアの婚約していた人は男爵家の跡継ぎ。嫁いでも未来の男爵夫人にしかなれないものね。
このまま実家にいれば 自分に甘い両親に守ってもらえるし、未来の子爵夫人だもの。
私の歴代の婚約者の中で、アルフレッドは一番身分が高い。伯爵家より身分が上の婿養子なんて平凡な家門に来てくれるわけがない。
だからアルフレッドに体を許して避妊薬も飲まなかったのね。
伯爵家の後ろ盾を得てケンドル子爵家を継げるから。
レティシアには婚約者がいた。
幼い頃 顔の良い男爵家の令息と結婚したいと言ったレティシアの希望を叶えた婚約だったけど、成長していくにつれて身分が気になり出したのね。
一人目の私の元婚約者がレティシアを好きになったのは偶然だったはず。だけどその時に男の心は自分に靡くことを知ってしまったのだろう。
レティシアは遊び半分で私の婚約者にアプローチして婚約を解消させてきたけど、伯爵令息のアルフレッドと既成事実に踏み切った。
「当主様、その縁談 お引き受けします」
死ぬ前にレティシアの悔しがる顔を見ることができそうだと知った私は 偽ることにした。
「分かった。返事を出そう」
「次の婚約者との顔合わせの時や交流などはレティシアのいない場所でお願いします」
「酷い!」
「人のものを欲しがる強欲な娘ですもの。また手癖の悪さが出ては困りますわ。相手は公爵家、レティシアは姉の元婚約者の子を胎に宿しているのですもの。これ以上はまずいと分かりますわよね?当主様」
「…分かった」
「お父様!!」
「その“当主様”と呼ぶのは止めなさい」
「嫌です。当主としての権限を行使したその時から、お父様ではなく当主様です。
先に申し上げておきますが、もし次の婚約者の前にレティシアが現れた瞬間に私は何をするか分かりません。そのおつもりで。では失礼します」
「お姉様!!」
食堂を出て私室に戻った。
あ…どの公爵家か聞かなかったわ。まあ、いいか。
翌日、王都の法律相談所に来ていた。
「初めまして、ロビン・バトワーズと申します」
「エレノア・ケンドルと申します」
「本日はどのようなご相談で?」
「実は…」
これまでのことを全部話した。
「酷い」
「妹からも慰謝料を取れますか?」
「過去の分は無理ですね。妹さんに非がある証拠がありませんので。ですが今回の分は証拠があり本人達が認めています。それに妹さんは成人していますので請求できますが、あまりお勧めはしません」
「何故ですか」
「かなりの醜聞になる可能性がありますし、ご実家で暮らしている以上、大きな波風は避けた方がよろしいのでは?」
「家族ではないと悟ったので大丈夫です。いざとなったら貴族令嬢をやめればいいだけです。
元婚約者と妹から搾り取れるだけ搾り取ってください。搾り取った慰謝料の6割を先生が成功報酬として受け取ってかまいません」
「本気ですか!?」
「もちろんです。私は裏切りの代償を搾り取って 躾けたいだけなのです。そのためなら悪女と呼ばれようが狂ってると言われようが全くかまいません」
「かしこまりました。お任せください」
屋敷に戻るとお母様から婚姻契約書を交わす日を告げられた。
「ねえ、あれからレティシアがずっと塞ぎ込んでいるの。仲直りできない?」
「それを言う前に、ふしだらな娘を躾け直してはいかがですか」
「エレノア!」
「四人も婚約者を奪って、五人目は寝取って妊娠して跡継ぎの座も奪った狡猾な女と仲良くしなくてはならないのですか?お母様、本気で仰っているのなら正気ではありませんよ?心のお医者様に診ていただいたらいかがですか?」
バチン!
「っ!」
バチン!
「きゃあっ!」
頬を叩かれたので叩き返した。
「あ、あなた、母親の私になんてことを!」
「やられたから やり返しただけです。
暴力を振るうような偽淑女には、同じことをしないと」
「お、お父様に、」
「どうぞ。公爵家との顔合わせは明日の昼。
私はあなたから叩かれて赤くなった頬と、これからあなたの告げ口によって当主様から殴られて腫れた顔のまま、公爵家の皆様にお会いしますわ。
これまでの仕打ちを事細かに説明させていただきます」
「し、仕打ちだなんて…」
「いいですか?公爵家の跡継ぎと婚約するということは、私は未来の公爵夫人です。あなた方は?」
「っ!」
「立場を弁えてくださいね」
そう言ってお母様を部屋から追い出した。
突き返した釣書は8件になっていた。
さすがに文句でも言いたいのだろうか、レティシアの妊娠を知った日からずっと部屋食にしていたが、食堂に来いと呼ばれてしまった。
チラッとカーテンレールを見ると修理が終わっていた。
レティシアはニコニコと機嫌がいい。
「エレノア」
「はい」
「嫁ぎ先が決まった」
「はい?」
「今回は断ることは許されない」
「何故でしょう」
「公爵家からの申し込みだからだ」
「は?」
子爵令嬢で五人から婚約解消されたキズモノにあり得ない。よっぽど難ありなのだろうか。
ふと視界に入っていたレティシアの顔が歪んだことに気が付いた。
「お父様、お姉様が可哀想ですわ!公爵家なんてお姉様が苦労なさいます!」
「レティシア、子爵家はお断り出来る立場にないのだよ」
そうか…レティシアはわざと私の婚約者達を誑かしてきたのね。
レティシアの婚約していた人は男爵家の跡継ぎ。嫁いでも未来の男爵夫人にしかなれないものね。
このまま実家にいれば 自分に甘い両親に守ってもらえるし、未来の子爵夫人だもの。
私の歴代の婚約者の中で、アルフレッドは一番身分が高い。伯爵家より身分が上の婿養子なんて平凡な家門に来てくれるわけがない。
だからアルフレッドに体を許して避妊薬も飲まなかったのね。
伯爵家の後ろ盾を得てケンドル子爵家を継げるから。
レティシアには婚約者がいた。
幼い頃 顔の良い男爵家の令息と結婚したいと言ったレティシアの希望を叶えた婚約だったけど、成長していくにつれて身分が気になり出したのね。
一人目の私の元婚約者がレティシアを好きになったのは偶然だったはず。だけどその時に男の心は自分に靡くことを知ってしまったのだろう。
レティシアは遊び半分で私の婚約者にアプローチして婚約を解消させてきたけど、伯爵令息のアルフレッドと既成事実に踏み切った。
「当主様、その縁談 お引き受けします」
死ぬ前にレティシアの悔しがる顔を見ることができそうだと知った私は 偽ることにした。
「分かった。返事を出そう」
「次の婚約者との顔合わせの時や交流などはレティシアのいない場所でお願いします」
「酷い!」
「人のものを欲しがる強欲な娘ですもの。また手癖の悪さが出ては困りますわ。相手は公爵家、レティシアは姉の元婚約者の子を胎に宿しているのですもの。これ以上はまずいと分かりますわよね?当主様」
「…分かった」
「お父様!!」
「その“当主様”と呼ぶのは止めなさい」
「嫌です。当主としての権限を行使したその時から、お父様ではなく当主様です。
先に申し上げておきますが、もし次の婚約者の前にレティシアが現れた瞬間に私は何をするか分かりません。そのおつもりで。では失礼します」
「お姉様!!」
食堂を出て私室に戻った。
あ…どの公爵家か聞かなかったわ。まあ、いいか。
翌日、王都の法律相談所に来ていた。
「初めまして、ロビン・バトワーズと申します」
「エレノア・ケンドルと申します」
「本日はどのようなご相談で?」
「実は…」
これまでのことを全部話した。
「酷い」
「妹からも慰謝料を取れますか?」
「過去の分は無理ですね。妹さんに非がある証拠がありませんので。ですが今回の分は証拠があり本人達が認めています。それに妹さんは成人していますので請求できますが、あまりお勧めはしません」
「何故ですか」
「かなりの醜聞になる可能性がありますし、ご実家で暮らしている以上、大きな波風は避けた方がよろしいのでは?」
「家族ではないと悟ったので大丈夫です。いざとなったら貴族令嬢をやめればいいだけです。
元婚約者と妹から搾り取れるだけ搾り取ってください。搾り取った慰謝料の6割を先生が成功報酬として受け取ってかまいません」
「本気ですか!?」
「もちろんです。私は裏切りの代償を搾り取って 躾けたいだけなのです。そのためなら悪女と呼ばれようが狂ってると言われようが全くかまいません」
「かしこまりました。お任せください」
屋敷に戻るとお母様から婚姻契約書を交わす日を告げられた。
「ねえ、あれからレティシアがずっと塞ぎ込んでいるの。仲直りできない?」
「それを言う前に、ふしだらな娘を躾け直してはいかがですか」
「エレノア!」
「四人も婚約者を奪って、五人目は寝取って妊娠して跡継ぎの座も奪った狡猾な女と仲良くしなくてはならないのですか?お母様、本気で仰っているのなら正気ではありませんよ?心のお医者様に診ていただいたらいかがですか?」
バチン!
「っ!」
バチン!
「きゃあっ!」
頬を叩かれたので叩き返した。
「あ、あなた、母親の私になんてことを!」
「やられたから やり返しただけです。
暴力を振るうような偽淑女には、同じことをしないと」
「お、お父様に、」
「どうぞ。公爵家との顔合わせは明日の昼。
私はあなたから叩かれて赤くなった頬と、これからあなたの告げ口によって当主様から殴られて腫れた顔のまま、公爵家の皆様にお会いしますわ。
これまでの仕打ちを事細かに説明させていただきます」
「し、仕打ちだなんて…」
「いいですか?公爵家の跡継ぎと婚約するということは、私は未来の公爵夫人です。あなた方は?」
「っ!」
「立場を弁えてくださいね」
そう言ってお母様を部屋から追い出した。
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