23 / 32
気持ちの変化
しおりを挟む
あれから、掟が変わりつつある。
侍女長は特例だと仰っていた。
まず、私に本格的な予算がついた。
王子の婚約者並みだとこっそり聞いた。
更にブルイヤール伯爵家から援助金が毎月送られるらしい。いや、お金だけではない。
ドレスや宝飾品などから細々とした物まで。
これは正直 遠慮したかったけど日中はドレスを着て過ごすようにと言われた。
前の方が良かった。ドレスは窮屈だし重い。
Tシャツ短パンの部屋着が一番。
まあ、そんな姿は男性の下着姿らしいからワンピースを着ていたのに…髪も結われるし。
二つ目は教師が着いた。
昔の知識と、クロネック邸にいた頃の家庭教師からの教えと自習を合わせると、問題ないようだった。
学力試験を二度した。
一度目は簡単で、何故かリベンジだと難しい問題を持ってきた。
どうやら一度目の試験は学園入学試験だったらしい。
次に持ってきたのは学園卒業試験。
数学、国語、歴史、生物学は合格。及ばなかったのが外国語だ。別途 ダンスを含む淑女教育と言われて “うげっ” と声が漏れてしまった。淑女教育の時間を多くすると言われて気落ちしていたら、カイン様が高位貴族令嬢程度でいいとストップをかけてくださった。
だけど、高位貴族令嬢程度ってどんなだか分からないのだけど。
三つ目はカイン様が同席すれば、マーク兄様やブルイヤール伯爵との面会が許された。食事も出来る。
クロネック子爵家の立て直しは叔父様が手伝ってくださっている。
四つ目はローランド王子殿下やシルビア妃殿下が時々訪ねてみえるようになった。
どちらもカイン様の話ばっかりだけど。
特にローランド王子殿下は弟ラブが強い。
五つ目は刺繍の禁止。
あまりにも指を刺すからカイン様が禁じた。
これは感謝。
六つ目は城の使用人達がすごく優しい。
逆に怖い。
そして……
「ほら、あそこに苗木を植えたんだ。
何年かして上手くいけば実がなる。これはアリサの木だよ」
何年かって……。
苗木の近くには植えた日と、“愛するアリサへ、カイン” と掘られた札が刺してあった。
この人、もしかして本気なの!?
「あそこにも別の苗木を植えた。
俺の後宮の庭園には五つ植えたよ。
収穫時期がズレているから一緒に楽しもう」
「何年ですか」
「三年程のものから10年近くかかるものもある」
見て回ると全て同じ札が地面に刺してあった。
「向こうの王子宮はいくつか場所を開けたよ。記念日になるような大きな出来事があった時に植えられるように」
聞くのが怖い。
きっとお妃様との婚姻記念に植樹する予定なのね。
馬鹿だ。この胸の痛み…私は彼を好きになってしまったんだ。海音のことを忘れてしまうのかな。
「アリサ?」
「素敵ですね」
「楽しみだよ」
嬉しそう。
その日から気持ちが乗らなくなった。授業も食事も。
カイン様と過ごす時は心の仮面を被る。
手を引かれ、腰を引き寄せられ、頬を撫でられ、唇を重ねる。
これは期間限定だと自分に言い聞かせる。
閨のときは心がズタズタだ。
こんな風にお妃様を抱くのだと。
そのための練習だと分かってはいるのだけど、優しくされるほど、丁寧に解されるほど、快楽を与えられるほど鋭い針で胸を刺される痛みを伴うようになった。
時には涙が出てしまう。
カイン様は気持ち良くて涙が出ていると思っている。もちろんそういうときもある。
“アリサ、愛してる” と囁かれても、
これが “ヴィオレット、愛してる” に変わるのだと思うと喉が詰まる。
解雇も辞職も無ければ、後二年半以上この痛みに耐えなくてはならない。
「じゃあ、外国語の試験に通れば卒業資格を貰えるのだな?」
「はい叔父様」
「健康そうだが 元気が無いな」
面会者は勘の鋭いブルイヤール伯爵だ。
この時間はカイン様が学園に通っているので、他の立ち合い人が付くのだけど、今日はローランド王子殿下が立ち会ってくださった。
「問題ございません」
「いや。あるな」
「……」
「虐めでもあるのか」
「もったいないほどに良くしてくださいます」
「アリサ、辛かったらいつでも辞して私の元へ来い」
「…はい」
侍女長は特例だと仰っていた。
まず、私に本格的な予算がついた。
王子の婚約者並みだとこっそり聞いた。
更にブルイヤール伯爵家から援助金が毎月送られるらしい。いや、お金だけではない。
ドレスや宝飾品などから細々とした物まで。
これは正直 遠慮したかったけど日中はドレスを着て過ごすようにと言われた。
前の方が良かった。ドレスは窮屈だし重い。
Tシャツ短パンの部屋着が一番。
まあ、そんな姿は男性の下着姿らしいからワンピースを着ていたのに…髪も結われるし。
二つ目は教師が着いた。
昔の知識と、クロネック邸にいた頃の家庭教師からの教えと自習を合わせると、問題ないようだった。
学力試験を二度した。
一度目は簡単で、何故かリベンジだと難しい問題を持ってきた。
どうやら一度目の試験は学園入学試験だったらしい。
次に持ってきたのは学園卒業試験。
数学、国語、歴史、生物学は合格。及ばなかったのが外国語だ。別途 ダンスを含む淑女教育と言われて “うげっ” と声が漏れてしまった。淑女教育の時間を多くすると言われて気落ちしていたら、カイン様が高位貴族令嬢程度でいいとストップをかけてくださった。
だけど、高位貴族令嬢程度ってどんなだか分からないのだけど。
三つ目はカイン様が同席すれば、マーク兄様やブルイヤール伯爵との面会が許された。食事も出来る。
クロネック子爵家の立て直しは叔父様が手伝ってくださっている。
四つ目はローランド王子殿下やシルビア妃殿下が時々訪ねてみえるようになった。
どちらもカイン様の話ばっかりだけど。
特にローランド王子殿下は弟ラブが強い。
五つ目は刺繍の禁止。
あまりにも指を刺すからカイン様が禁じた。
これは感謝。
六つ目は城の使用人達がすごく優しい。
逆に怖い。
そして……
「ほら、あそこに苗木を植えたんだ。
何年かして上手くいけば実がなる。これはアリサの木だよ」
何年かって……。
苗木の近くには植えた日と、“愛するアリサへ、カイン” と掘られた札が刺してあった。
この人、もしかして本気なの!?
「あそこにも別の苗木を植えた。
俺の後宮の庭園には五つ植えたよ。
収穫時期がズレているから一緒に楽しもう」
「何年ですか」
「三年程のものから10年近くかかるものもある」
見て回ると全て同じ札が地面に刺してあった。
「向こうの王子宮はいくつか場所を開けたよ。記念日になるような大きな出来事があった時に植えられるように」
聞くのが怖い。
きっとお妃様との婚姻記念に植樹する予定なのね。
馬鹿だ。この胸の痛み…私は彼を好きになってしまったんだ。海音のことを忘れてしまうのかな。
「アリサ?」
「素敵ですね」
「楽しみだよ」
嬉しそう。
その日から気持ちが乗らなくなった。授業も食事も。
カイン様と過ごす時は心の仮面を被る。
手を引かれ、腰を引き寄せられ、頬を撫でられ、唇を重ねる。
これは期間限定だと自分に言い聞かせる。
閨のときは心がズタズタだ。
こんな風にお妃様を抱くのだと。
そのための練習だと分かってはいるのだけど、優しくされるほど、丁寧に解されるほど、快楽を与えられるほど鋭い針で胸を刺される痛みを伴うようになった。
時には涙が出てしまう。
カイン様は気持ち良くて涙が出ていると思っている。もちろんそういうときもある。
“アリサ、愛してる” と囁かれても、
これが “ヴィオレット、愛してる” に変わるのだと思うと喉が詰まる。
解雇も辞職も無ければ、後二年半以上この痛みに耐えなくてはならない。
「じゃあ、外国語の試験に通れば卒業資格を貰えるのだな?」
「はい叔父様」
「健康そうだが 元気が無いな」
面会者は勘の鋭いブルイヤール伯爵だ。
この時間はカイン様が学園に通っているので、他の立ち合い人が付くのだけど、今日はローランド王子殿下が立ち会ってくださった。
「問題ございません」
「いや。あるな」
「……」
「虐めでもあるのか」
「もったいないほどに良くしてくださいます」
「アリサ、辛かったらいつでも辞して私の元へ来い」
「…はい」
235
お気に入りに追加
815
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる