115 / 139
† 十八の罪――地獄元帥(陸)
しおりを挟む走ること数分、いや十数分だろうか? 時間感覚も支配されているかのように、漠然として実感が湧かない。
重ねて不自然なのは、彼女たちとと別れてから、俺は一度も襲撃にあっていなかった。やはり、ヤツの狙いはどうにも俺らしい。
「ああッ! くそっ、まだか……!」
化け物の体内みたいに張り巡らされた回廊を、無我夢中で通り抜けてゆく。
ふと、壁面が脈動するかのようにして、口を開けたと思った刹那――――
「ッ、まぶしっ!」
網膜に刺さるかのような煌めきが俺を迎えた。しかし、どうやら屋外に出たというわけでもないらしい。
その妖しい灯りは、太陽ではなかった。
「……なんだ、ここ……?」
目も眩むほどに、明々と燃える大量の人魂。喩えるのなら、怨念が形を成したような、烈しくも美しく、それでいて哀しい、深紅の浮遊体が至る所に渦巻く。
そこが部屋だということは分かるが、端までの距離感も、外側に何があるのかも全く掴めない。飛び込んだ箇所は、あたかも最初から存在しなかったかのように見当たらなくなっている。
あまりにも突拍子もない一室ではあるが、かねてより脳内で繰り返される、あの日の惨劇に、ここの景色は似ていた。
その主、空間の中心に佇む背中が一つ。
隻眼の男が、悠然と振り向いた。
† † † † † † †
火力の衰えた得物を杖に、桜花が呆然と見つめる先には、進路の隙間を押し潰すようにして迫り来る巨躯。
「まさか、こんなに…………」
三人の部下は成す術もなく喰われ、彼らも燃料と化した。隊長だけあって、粘り続けているものの、打開策を見出せないまま力尽きようとしていることには、彼女も変わりはない。
足の鈍った桜花へと、槍衾さながらに毒針の雨が殺到する。
「だめ……魔術は効かない」
もはや迎撃する手段も、余力も彼女にはなく――――
「魔術が効かないんじゃなくて、使い手が弱いだけに見えるが」
一閃。
桜花が蜂の巣にされようという寸前で、悉く弾幕は叩き落とされた。
「まあ腐蝕でどうにかなるようなたぐいとも思えぬがな――ひとつ聞くが、その炎とやらは人知をこえた高温じゃったのかね?」
怪魔の大群を殲滅し終えたのか、少女の横に小さな相棒が立っている。
「ベルゼブブ!? もうかたづけたんだね」
思いがけない援軍に驚きつつも、彼女は頬を緩ませた。
「……でも大丈夫? 飛べなくなるぐらい魔力が――」
「心配しとるばやいか。そんなもの、あとにせよ」
「いや、あともなにも……もう今のぼくたちじゃ…………」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
colorful〜rainbow stories〜
宮来らいと
恋愛
とある事情で6つの高校が合併した「六郭星学園」に入学した真瀬姉弟。
そんな姉弟たちと出会うクラスメイトたちに立ちはだかる壁を乗り越えていくゲーム風に読む、オムニバス物語です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる