上 下
103 / 139

† 十七の罪――ともだち(弐)

しおりを挟む

「……で、いい加減にこっちじゃないと思うんだけど」
 まだ疑っているのか。まったく、今更なんで蒸し返すかな……って――――
「なんだここ……野菜の、流通センター?」
 悪魔たちは、巨大な倉庫に面した駐車場で立ち止まっている。
「いやいやいや、さすがにこれはねーだろ」
「ほら言ったじゃんー! なに、てのひら返しですか」
「まあまあ隊長。しかし、完全に野菜をなにかする場所ですね」
 部下たちも困惑を隠せない。
「そうそう、どう見てもおかしいでしょ。だって野菜だよ? ひらがなで、や・さ・い」
 瞬間、異常な寒気が奔った。
「って、思うじゃん?」
 聞き覚えのある声に、振り向くと――――
「ごきげんよう、元三条班の諸君」
 その姿を忘れるはずもない。ミリタリーカラーで身を包んだ男が、煙管を片手に佇んでいた。
「……ち、茅原さ――知盛……っ!」
 三条が後退りしながら、デスペルタルに手を伸ばす。
「よう。林原のおっさんはどうした?」
「俺が今ここにいる。それ以上の答えがあるとでも?」
 相変わらず気に食わねーヤツだ。
「まあガキの相手をする気は無いさ……来てくれて嬉しいぜ。堕天使」
 彼は不敵に嗤って、ルシファーに声をかける。
「フン、往く手の石は蹴り除くがさが故」
「つれないな。せっかく最大限にもてなそうっていうのによ――――」
 大袈裟に嘆息をつくと、魔法陣を足下に具現させる茅原。
「なっ……!?」
 突如として生じたのは、五臓六腑を揺さぶるほどの地鳴り。
「地震だぞ!」
 ベルゼブブが、轟音に後れをとらない大声を上げた。
「言わなくても分かってるっつーの」
 一帯は脈動し、土煙が視界を支配する。
 そして、眼前が晴れ渡ったとき――――

「これは、神殿……?」
 緑黄色野菜の描かれた壁は、誰もが目を疑う、古の城塞さながらに様変わりしていた。
「地下にんなもんを隠してたとは、ずいぶんと手の込んだ計画的犯行じゃねーか」
「ああっ、あれを……!」
 吃驚して、一人が指さす。
「あれだのなんかだの、曖昧な報告で混乱させないよういつも注意してるでしょ――って……ええええッ!? どういうこと、あれ……まさか、ソロモン七十二柱……!?」
 おぞましい影が、全貌を現した巨大な祭壇の至る所に舞い降りていた。
 それも、怪魔の大群みたいに数ばかり寄せ集めた、という訳ではない。そのひとつずつが、神代の絶技を挨拶代わりに出してくるような大物だと、直感で見てとれた。
「……アスモデウス、アシュタロト、エリゴス――そちら……またも人間にくっしおったか!?」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

colorful〜rainbow stories〜

宮来らいと
恋愛
とある事情で6つの高校が合併した「六郭星学園」に入学した真瀬姉弟。 そんな姉弟たちと出会うクラスメイトたちに立ちはだかる壁を乗り越えていくゲーム風に読む、オムニバス物語です。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

暴虎馮河伝

知己
ファンタジー
神仙と妖が棲まう世界「神州」。だがいつしか神や仙人はその姿を消し、人々は妖怪の驚異に怯えて生きていた。    とある田舎町で目つきと口と態度の悪い青年が、不思議な魅力を持った少女と運命的に出会い、物語が始まる。 ————王道中華風バトルファンタジーここに開幕!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...