92 / 139
† 十五の罪――見えない星(肆)
しおりを挟む「っぶねぇ……ッ!」
間一髪――いずれも直前で燃え尽きたようだ。
「あぶないのは、これからだよ! 第三形態“解放”――鎌!」
今度は双鎌と成した両腕を振りかざし、斬り込んでくる。
「この……ッ、次から次へと……!」
手の内だけではない。もはや、このパワーは妖屠にしても規格外だ。
まともに受けられる威力ではないので、後退する他ない。
離れれば、今度は飛び道具を喰らう。あらゆる距離において、あちらが優位だった。
「なあ、あんた自身はそれでいいのかよ。死んでからも弄ばれた挙句、利用されるだけの存在であり続ける――そういうの、あんたが最も嫌ってただろが。なんだよ……それも忘れちまったのかよ」
「話術でどうにかしようったってそうはいかないよ。死者には肉体だけでなく、精神もない。これは体術とともに復元された最低限の知性から、反射でしゃべってるに過ぎなくてね。歩んできた道も、想いも、とっくにわすれてしまったようだ」
彼の眼光は鋭いが、そこにあるのは圧力だけで、感情はまったく見当たらなかった。
それでも――――
「忘れてしまうかもしれない。それでも……それでも残っている、そんなことで左右されないような奥底に根ざしてるもの――それがきっと、本物のあんただ」
呼吸が苦しい。心臓が、肺が、息もつかせぬ攻防に、悲鳴を上げている。立っているだけでも精一杯だったが、多聞さんの猛攻に、止まることすら許されない。
ドクン――と、乱れた脈とは異なる鼓動が込み上げる。肉体が追い詰められるに従って、心は彼の力に縋ろうとする一方だ。
しかし、ここでルシファーを使うわけにはいかない。
何より――――
(この人は、自分の力で超えたいんだ……!)
今一度、得物の感触を確かめる。
(こっちの手は知り尽くされてる……百回やれば百回あっちが勝つ。千回やっても千回あっちが勝つかもしれない。でも、一万回――一万回なら、万に一つは勝機があるはずだ。この一戦で、その奇跡を掴んでやる――――)
ガードごとはね飛ばされた俺を、射抜くように見据える、色のない瞳。
「短期間にかなり強くはなったけど、ここまでで限界なようだね」
「……まだ剣は折れちゃいねーよ。剣があれば戦える。たとえ折れようと、手持ち無沙汰になった両の拳で殴りゃいい。腕もやられたら蹴りをくれてやる。足もダメなら噛みつくさ。どんな苦境であれ、策と根気の限り食い下がれ。そう教え込んだのは他でもねー、あんただ。その弟子である俺は――俺の心は、誰にも折れない……!」
俺の宣誓を聞き届けると、鉛のような目つきで彼は静かに沈黙を破った。
「ならば――その剣ごと、叩き折ってみせよう」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
colorful〜rainbow stories〜
宮来らいと
恋愛
とある事情で6つの高校が合併した「六郭星学園」に入学した真瀬姉弟。
そんな姉弟たちと出会うクラスメイトたちに立ちはだかる壁を乗り越えていくゲーム風に読む、オムニバス物語です。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
暴虎馮河伝
知己
ファンタジー
神仙と妖が棲まう世界「神州」。だがいつしか神や仙人はその姿を消し、人々は妖怪の驚異に怯えて生きていた。
とある田舎町で目つきと口と態度の悪い青年が、不思議な魅力を持った少女と運命的に出会い、物語が始まる。
————王道中華風バトルファンタジーここに開幕!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる