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† 十四の罪――咎人たちの慟哭(漆)
しおりを挟む「ずいぶんと上機嫌だね。彼が断わるのも、予想の内だった?」
テーブルに腰かけた茅原が足をブラブラさせながら、象山に声をかける。
「……遠い昔の――夢を視ていた」
足組みしたままソファーから動くことなく、彼は言った。
「またお得意の詩人シリーズかい? 起きてたじゃん」
「フン。元より生きながらにして、覚めない眠りについているようなものだ」
包帯に覆われた腕。数センチだけめくれた切れ端に目を落とし、象山は語る。
「本当に欲しいものとは手に入らないのが運命。その者とかけ離れているゆえ。なればこそ――求めてしまうのが、人の愚かさか」
「人をやめたボクたちがこんな話をするとはねぇ」
煙管を傾けると、紫煙に続いて口に出す彼の盟友。
「他の動物は残らず進化に身を任せるがまま過ごすもの。人間のみが人間であることを捨てようとする――あの時も、そうだった」
象山の言葉に、茅原知盛と称する台湾の武人は、無言で彼を見つめた。
† † † † † † †
(ルシファーの感じるままに様子を探ってきたが、もうすぐアジトか……ここいらで引き返したほうが良さげだな)
いかに人間が進化しようと、本能に従うのが長生きにつながることもあるだろう。しかし、己を狙って待ち構える危険な匂いに、まんまと誘き出されてしまうのもまた、本能なのだろうか。
(……この闘気――まさか、な)
稽古で幾度となく、受けてきた圧力。それが俺に向けられていることも、ルシファーと契約する以前から培われた感覚で嗅ぎ取れた。
そして、一流の戦士が戦闘に際し、気配を表にするときは、一騎討ちを望む場合だけだという。
「まさ……か…………」
降りしきる雨が、不吉な音色で脳内に反響していた。
(ダメだ。これ以上進むと――――)
それでも、好奇心が疲労を凌駕した子どものように、その先にある真実を求め、俺の両足は大地を蹴る。
「違う! 俺はこんなこと……!」
その解答が、あまりに予想通りだと――――
「嘘、だろ…………」
人間とは、次の道を見出せないものだ。
そう――とっくに分かっていた。ただ、受け入れられなかっただけ。辿り着いた坂の上に佇立する異形の巨像が、敬愛する師の成れの果てであると。
「なんであんたが――――」
虫が誘引されると、豹変して喰らいにかかる花が存在すると聞く。
そして、獲物を逃がすことは決してない。
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