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† 十四の罪――咎人たちの慟哭(参)

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「お姉ちゃんヒーローなの? ならパパをたすけて! ヒーローは強いんだってパパいつも言ってるもん。パパたちがなにも心配しないでお仕事がんばれるの、ヒーローの人たちがいるからなんでしょ……?」
 桜花が父を亡くしたころよりも幼い、少女の涙声が耳に刺さる。
「大丈夫。お姉ちゃんがヒーローの力を見せてあげるよ。そんなよくわかってらっしゃるパパさんを死なせるわけにはいかないからね」
 微動だにしない巨塊。見知らぬ子どもに、何をできない約束をしているのだろう、と頭では理解している……してはいるが、どこの誰とも知れない生命が今、目の前で尽きようとしている、その現実が彼女には受け入れ難かった。
「お姉ちゃん、なんでないてうの? パパたすからないの……?」
 痛いほど視線を背後より感じる。苦しい。体力的にも限界をとうに超えていたが、桜花にとって、この場で起きている悲劇に成す術もないことが、何よりも辛かった。
(……多聞さんに助けられてばかりだったぼくは、一人前の妖屠になって多聞さんを守りたい、そう願って鍛錬を重ねてきた。けど彼は死に、そして今日、踏みにじられる命を見捨てられずに、妖屠であることも捨てた。なのに……もう終わるの? 目の前の一人も救えずに、ぼくはここで終わるの……?)
 噛み締めた双唇より、深紅の血が流れてゆく。
(多聞さんが与えてくれた生きる道。信雄が助けてくれたこの命で、ぼくも多くの人々を助けるって決めたのに――――)
 無力な己に押しつぶされるようにして、項垂れる彼女。
 そのとき――――
「……決めた、の……に……ッ!?」
 手応えに違和感が生じ、我に返る。
「なーに泣いてんですか、ガラでもない」
「人を助けることに理由はいらないって、隊長よく言ってただろ。ほら、いつもみたいにみんなで力を合わせて思いっきりやんぞ」
 聞き慣れた声に驚き、桜花は左右を見回して目を瞠った。
 見覚えのある人影が一つ、二つ、三つ――――
「……解散って言ったのに……きみたちは、どこまでもバカだね…………」
 彼女は呆れたように、苦笑する。
「そりゃそうですよ! 好きでずっとおバカな隊長についてきてたバカですもん」
「今まで、なんて水くさいこと言わないでくださいよ。あの笑顔でありがとうって一回きりじゃもったいないじゃないですかー。これからも、いっぱい聞かせてもらいますからね」
「野暮でいいじゃないですか! 隊長が野暮じゃなかったことが今までありましたか!」
 禍々しい紅蓮の世界に響き渡るのは、希望で満ちあふれた仲間たちの歓呼。
「……そんな隊長に着いてきたんです。ずっと――野暮だって分かった上で、そういう隊長が好きで私たちはついてきてんですよ」
 鈍い音を伴い、瓦礫が身じろいだ。
「さあ隊長、あなたの大義を全うしてください!」


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